同一性保持権と適用除外(20条・50条)どういつせいほじけんとてきようじょがい
同一性保持権とは、著作者が、その著作物及びその題号の同一性を保持し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けない権利です。適用除外とは、教科用図書等での用字用語の変更、建築物の増築・改築・修繕・模様替え、プログラムの改変、やむを得ない改変の4つについて同一性保持権が及ばないとする20条2項の定めです。
買った絵に持ち主が筆を入れて色を塗り替えたら、作者は自分の作品が別物にされたと感じます。小説の結末を出版社が勝手に書き換えても同じです。作品は作者の思想や感情の表れであり、その表現を他人が変えることは作者の人格を傷つけます。そこで20条1項は、著作物とその題号について、著作者の意に反する変更・切除その他の改変を受けない権利を定めました。ただ、学校教育や建築物の修繕のように改変を認めないと社会が困る場面もあるので、2項が4つの適用除外を置いています。

同一性保持権は、著作物と題号について意に反する変更、切除その他の改変を受けない権利で、表現そのものに手を加えない行為は改変ではありません
20条1項は、著作者は「その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けない」と定めます。改変とは著作物の表現そのものに手を加えることなので、表現を変えずに複製や利用の仕方を変えるだけでは改変になりません。「ベストセラーとなった短編小説を拡大コピーし、多数の者に配布する行為」は複製権と譲渡権の侵害になるが同一性保持権の侵害とならないという枝は正しく、大きさを変えても文章の表現は同じだからです。紙で発行された小説を電子書籍として出版するときに「出版の媒体を変更することは、当該小説の著作者が有する同一性保持権を侵害する」という枝は誤りです。演奏会で「練習不足のために、不完全な演奏になった場合」に同一性保持権の侵害にあたるという枝も誤りで、演奏の巧拙は楽曲の表現を変更する行為ではありません。原作品の所有者が絵画を「それをわざと焼失させたとしても」同一性保持権を侵害しないという枝は正しいです。焼失は著作物を別の表現として存続させるものではなく、有体物としての原作品を滅失させる所有権の行使にすぎないからです。

改変は著作者の意に反すれば足り、評価が高まっても、変更した部分だけでは著作物性がなくても侵害になりますが、本質的な特徴を感得させない要約は侵害になりません
要件は「その意に反して」であり、改変で作品の評価が上がるか下がるかは問いません。彫刻の原作品を購入した所有者が手を加えて改変した場合に「それによって当該彫刻の評価が高まったとしても」同一性保持権を侵害するという枝は正しいです。原作品の所有権を得ても著作者人格権は著作者に残るからです。変更された箇所がそれ単体で著作物性を持つことも要件ではないので、小説の登場人物の年齢や身長など「それぞれ単体では著作物性が認められない部分を変更したとしても」侵害にならないという枝は誤りです。一方、判例は、同一性保持権の侵害を、著作物の表現形式上の本質的な特徴を維持しつつ外面的な表現形式に改変を加える行為と捉えます(雑誌「諸君!」事件、最判平成10年7月17日)。50頁の短編小説を「要約サービス会社が3行に要約した場合」に同一性保持権を侵害しないという枝が正しいのは、3行の要約は原作の表現上の本質的な特徴を感得させず、原作の表現に改変を加えたとはいえないからです。
20条2項の適用除外は、教科用図書等での用字用語の変更、建築物の増築・改築・修繕・模様替え、プログラムの改変、やむを得ない改変の4つです
1号は、33条1項(教科用図書への掲載)、33条の2第1項、33条の3第1項、34条1項(学校教育番組の放送等)により著作物を利用する場合の用字又は用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められるものです。小説を教科用図書に掲載する際に差別用語を直すことが「学校教育の目的上やむを得ない場合であっても」同一性保持権の侵害となるという枝は誤りです。2号は建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変で、建築物は人が住み使う実用品なので、実用上の必要に基づく改変を認めたものです。耐震補強や避難路の設置に伴う改変は2号や4号に当たり得るので必ずしも侵害になりません。しかし所有者の好みによる意匠の変更は実用上の必要に基づかないので、美術館の所有者が好みに合わないとして「当該螺旋階段を異なる趣向のデザインに変更すること」は同一性保持権の侵害にあたり得るという枝は正しいです。3号は、特定の電子計算機で実行し得ないプログラムを実行し得るようにするため、又はプログラムをより効果的に実行し得るようにするために必要な改変です。効率化のための改変も入るので、プログラムを効率的に作動するように改変する行為は「その改変がプログラムの使用のために不可欠なものでない限り」侵害となるという枝は誤りです。4号は、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変です。

- 1号(教育)33条1項・33条の2第1項・33条の3第1項・34条1項による利用での用字又は用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められるものです
- 2号(建築物)建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変です。実用上の必要に基づく改変が対象で、所有者の好みによる意匠の変更は含まれません
- 3号(プログラム)特定の電子計算機で実行し得ないプログラムを実行し得るようにするため、又はより効果的に実行し得るようにするために必要な改変です。バグの修正も効率化も入ります
- 4号(一般)著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変です
著作権の制限規定は著作者人格権に影響を及ぼさないので(50条)、適法な引用や試験問題としての利用であっても意に反する改変は侵害になります
50条は、権利制限の款の規定は「著作者人格権に影響を及ぼすものと解釈してはならない」と定めます。30条以下の制限規定は著作権(財産権)を制限するだけで、著作者人格権はそのまま残るからです。したがって、「適法引用の要件を満たした引用であれば、同一性保持権侵害となることはない」という枝は誤りです。漫画を批評する書籍で引用する際に「漫画の創作的表現を構成するコマ割りについて無断で変更した場合」に同一性保持権を侵害するという枝は正しいです。試験問題も同じで、海外で出版されている小説の一部を翻訳及び翻案の上「高校の入学試験問題として必要な範囲で使用する場合」に著作権の侵害とならず同一性保持権の侵害となることもないという枝は誤りです。36条1項の試験問題としての複製に伴って許されるのは翻訳だけで(47条の6第1項2号)、翻案すれば翻案権の侵害になり、さらに意に反する改変として同一性保持権の侵害にもなり得ます。私的使用のための複製(30条)でも同じで、家庭内で原作品に加筆すれば同一性保持権の侵害です。
名誉又は声望を害する方法による利用はみなし侵害であり、実演家の同一性保持権は名誉又は声望を害する改変に限られます
113条11項は、著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為を、著作者人格権を侵害する行為とみなします。改変がなくても、芸術作品を風俗店の広告に使うような利用がこれに当たります。ただし「その著作物を利用する行為」が要件なので、他人の論文について「著作者名とタイトルのみを挙げて批判をした結果」名誉又は声望を害した場合に著作者人格権の侵害とみなされるという枝は誤りです。論文という著作物を利用していないからです。このみなし侵害は119条2項1号の刑事罰の対象にもなります(同号が除くのは113条8項のみなし侵害だけです)。実演家にも同一性保持権がありますが、90条の3第1項は「自己の名誉又は声望を害する」実演の変更、切除その他の改変を受けない権利と定めており、意に反する改変を広く対象とする著作者の20条1項より範囲が狭いです。俳優のせりふの音声を外国語に吹き替える行為が「実演家の名誉声望を害さない態様であっても」同一性保持権の侵害となるという枝は誤りです。
著作権法20条1項著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
著作権法20条2項前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。
一 第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項、第三十三条の三第一項又は第三十四条第一項の規定により著作物を利用する場合における用字又は用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められるもの
二 建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変
三 特定の電子計算機においては実行し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において実行し得るようにするため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に実行し得るようにするために必要な改変
四 前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変
著作権法50条この款の規定は、著作者人格権に影響を及ぼすものと解釈してはならない。
試験ではこう問われる
- 改変は表現そのものへの変更・切除。拡大コピー、電子書籍化(「出版の媒体を変更すること」)、「練習不足のために、不完全な演奏になった場合」、原作品の焼失は改変でなく侵害にならない
- 意に反すれば足りる。「当該彫刻の評価が高まったとしても」侵害で、年齢や身長など「単体では著作物性が認められない部分を変更したとしても」侵害になり得る
- 本質的な特徴を感得させない3行の要約は侵害でない(雑誌「諸君!」事件)
- 1号は教科用図書等での用字用語の変更で「学校教育の目的上やむを得ない場合」は適用除外。2号は建築物の増改築・修繕・模様替えで、耐震補強や避難路は当たり得るが、所有者の好みによる螺旋階段のデザイン変更は侵害にあたり得る
- 3号はプログラムの実行・効率化に必要な改変。「使用のために不可欠なものでない限り」侵害とする枝は誤り
- 制限規定は著作者人格権に影響しない(50条)。「適法引用の要件を満たした引用であれば」侵害にならないという枝は誤りで、引用でのコマ割りの変更、試験問題での翻案は侵害
- 名誉声望を害する方法による利用はみなし侵害(113条11項)だが「著作物を利用する行為」が要る。著作者名とタイトルを挙げた批判は利用でない。刑事罰の対象にもなる
- 実演家の同一性保持権(90条の3)は名誉又は声望を害する改変に限られ、「名誉声望を害さない態様」の吹き替えは侵害でない
この用語が問われた枝
ベストセラーとなった短編小説を拡大コピーし、多数の者に配布する行為は、複製権及び譲渡権の侵害となるが、同一性保持権の侵害とならない。
紙媒体による出版物として発行された小説について、その著作権を譲り受けた者が電子書籍として出版する場合、出版の媒体を変更することは、当該小説の著作者が有する同一性保持権を侵害する。
演奏会において、練習不足のために、不完全な演奏になった場合、音楽の著作物の同一性保持権の侵害にあたる。
ある絵画の原作品を購入した所有者が、それをわざと焼失させたとしても、当該絵画の著作者が有する同一性保持権を侵害しない。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。