公表権(18条・4条)こうひょうけん
公表権とは、著作者が、その著作物でまだ公表されていないもの(同意を得ないで公表されたものを含む)を公衆に提供し、又は提示する権利です。その著作物を原著作物とする二次的著作物についても同様です。
書き上げた小説を机にしまっておくか、いつ、どの出版社から世に出すかは、作者が決めることです。まだ公表されていない著作物を誰かが勝手に世に出せば、作者が練っていた発表の計画も、未完成のまま人目に触れさせたくないという思いも壊れてしまいます。そこで18条は、未公表の著作物を公衆に提供し、又は提示するかどうかを決める権利を著作者人格権の一つとして著作者に与え、作者の人格的な利益を守っています。

公表権は、まだ公表されていない著作物を公衆に提供し、又は提示するかどうかに加えて、その時期と方法を決める権利です
18条1項は、著作者は「その著作物でまだ公表されていないもの」を「公衆に提供し、又は提示する権利を有する」と定めます。公表するかどうかだけでなく、いつ、どのような方法で公表するかを決めることも公表権の内容と解されています。そのため、公表自体には同意があっても、「著作者が指定した公表時期と異なる時期に著作物を公表する行為」は同意の範囲を外れた公表であり、これが公表権の侵害とならないという枝は誤りです。同じ理由で、未公表の楽曲の演奏権を譲り受けた者が演奏ではなく出版という別の方法で公表すれば、やはり公表権を侵害します。18条1項のかっこ書は、「その同意を得ないで公表された著作物を含む」と定めるので、何者かに無断で公表されても、公表権との関係ではなお未公表の著作物として扱われます。無断で公表されてしまった場合に「当該著作物は公表されたものとみなされる」という枝は誤りです。
公表されたかどうかは4条で決まり、著作者の同意のない公表や1人への提供では公表されたことになりません
4条1項は、著作物が発行され、又は上演・演奏・上映・公衆送信・口述・展示の権利を有する者若しくはその許諾を得た者によってこれらの方法で公衆に提示された場合に「公表されたものとする」と定めます。公衆には特定かつ多数の者も含まれますが(2条5項)、特定の1人への提供は公衆への提供ではありません。作曲した楽曲の録音データを「1人の芸能リポーターに、その人の感想を聞くためその限りとして提供していた場合であっても」公表されたことになるという枝は誤りで、リポーターが無断でテレビ番組で放送すれば公表権の侵害になります。同じく、著作者が「未公表の美術の著作物の複製物を 1 人の友人に譲渡した場合」に、その複製物により公衆に展示する行為は公表権の侵害となるという枝は正しいです。反対に、著作者自身が一度公表した著作物については公表権の問題は生じません。写真の著作物を「芸術写真の専門誌で公表した後に」他人が意に反して一般の書籍でその写真を公表した場合に公表権の侵害となるという枝は誤りです。二次的著作物である翻訳物が原著作者の許諾を得た者によって公衆に提示されたときは、その原著作物も公表されたものとみなされます(4条3項)。そのため、詩が無断で公表されたとしても、その前に「当該詩の翻訳物がその詩の著作者の許諾を得て広く公表されていたとしても」公表権の侵害となるという枝は誤りです。

- 公表されたものとする場合(4条1項)発行された場合と、22条から25条までの権利を有する者又はその許諾を得た者等によって上演・演奏・上映・公衆送信・口述・展示の方法で公衆に提示された場合です
- 公表されたものとみなす場合(4条2項〜4項)権利者等による送信可能化、翻訳物の公衆への提示(原著作物が公表されたものとみなされる)、45条1項の者による原作品の展示です
- 公表されたことにならない場合著作者の同意を得ない公表(18条1項かっこ書)と、公衆に当たらない特定の少数の者への提供・提示です
公衆への提供・提示の方法は問わず、上映や公衆送信でも公表権の侵害となり、未公表の著作物を原著作物とする二次的著作物の公表にも及びます
公表権が及ぶのは、公衆に提供し、又は提示する行為のすべてです。方法が演奏か上映か公衆送信かは問いません。未公表の音楽の著作物の譜面をインターネット上に掲載する行為は公衆送信権の侵害となるが、「その音楽が公に演奏されない限り、公表権の侵害とならない」という枝は誤りです。未公表の写真の著作物を企業の宣伝の目的で「繁華街のビルの壁面に映写する行為は、上映権及び公表権の侵害となる」が展示権の侵害とならないという枝は正しく、映写は原作品による展示ではないので展示権(25条)には触れないものの、公衆への提示として公表権には触れます。また、18条1項後段により、未公表の小説を原著作物とする漫画について「原著作者である小説家の同意なく公表する行為は、当該小説家の公表権の侵害となる」という枝は正しいです。漫画を公表すれば、その中に取り込まれた小説の表現も公衆の目に触れるからです。
未公表の著作物の著作権や原作品を譲渡すると公表への同意が推定され、行政機関等に提供すると同意したものとみなされます
18条2項は、著作者が未公表の著作物の著作権を譲渡した場合はその著作権の行使による公衆への提供・提示について、未公表の美術の著作物又は写真の著作物の原作品を譲渡した場合はその原作品による展示の方法での公衆への提示について、29条により映画の著作物の著作権が映画製作者に帰属した場合はその著作権の行使による公衆への提供・提示について、それぞれ「同意したものと推定する」と定めます。譲り受けた者が権利を使えなければ譲渡の意味がないからです。未公表の著作物の著作権を譲渡した場合に「その著作権の行使により公衆に提供・提示することにつき、同意したものと推定される」という枝は正しいです。推定される範囲は譲渡した著作権の行使に限られるので、演奏権だけを譲り受けた歌手が楽譜をウェブサイトに掲載した場合に「当該ウェブサイトへの掲載についての乙の同意が推定される」という枝は誤りです。楽譜の掲載は公衆送信権の対象であり、演奏権の行使ではないからです。2号の対象は原作品の譲渡に限られ、複製物の譲渡は含みません。また「推定」なので反対の事情があれば覆り、原作品の譲渡に際して公衆に提示しない旨の特約が付されていれば、展覧会への出品は公表権の侵害になります。これに対して18条3項は、未公表の著作物を行政機関、独立行政法人等、地方公共団体等に提供した場合について、情報公開法令による公衆への提供・提示に「同意したものとみなす」と定め、推定ではなくみなしです。ただし、開示する旨の決定の時までに別段の意思表示をした場合は除かれます。設計図を地方公共団体に提出した建築事業者が「公衆への開示を拒絶する旨の通知をあわせて提出していた場合であっても」公表権の侵害とはならないという枝は誤りです。

同意の推定(18条2項)と同意のみなし(18条3項)
| 18条2項 | 18条3項 | |
|---|---|---|
| 場面 | 未公表の著作物の著作権の譲渡、美術・写真の著作物の原作品の譲渡、29条による映画製作者への帰属 | 未公表の著作物を行政機関・独立行政法人等・地方公共団体等・国立公文書館等に提供 |
| 効果 | 同意したものと推定する(特約や反対の事情で覆る) | 同意したものとみなす(覆らない) |
| 範囲 | 譲渡した著作権の行使、原作品による展示、映画の著作権の行使に限る | 情報公開法令や公文書管理法令による公衆への提供・提示に限る |
| 除外 | 推定を覆す事情(公衆に提示しない旨の特約など) | 開示する旨の決定の時までに別段の意思表示をした場合 |
実演家に公表権はなく、著作者の死後は著作権者の同意があっても60条で公表できません
公表権は著作者人格権であり、実演家人格権として定められているのは氏名表示権(90条の2)と同一性保持権(90条の3)の二つだけです。「未公表の歌唱を無断でインターネット上にアップロードする行為」が歌手の公表権を侵害するという枝は誤りで、実演家の録音権や送信可能化権の問題にはなっても、公表権の問題にはなりません。また、著作者人格権は著作者の死亡で消滅しますが、60条は、著作者が存しなくなった後においても、著作物を公衆に提供し、又は提示する者は、著作者が存しているとしたならば著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならないと定めます。公表しないとしていた未完の小説を「甲の死後に、その著作権者の同意を得れば、公表することができる」という枝は誤りです。著作権と著作者人格権は別の権利であり、著作権者の同意は著作者の人格的利益を解除する力を持たないからです。
著作権法18条1項著作者は、その著作物でまだ公表されていないもの(その同意を得ないで公表された著作物を含む。以下この条において同じ。)を公衆に提供し、又は提示する権利を有する。当該著作物を原著作物とする二次的著作物についても、同様とする。
著作権法18条2項著作者は、次の各号に掲げる場合には、当該各号に掲げる行為について同意したものと推定する。
一 その著作物でまだ公表されていないものの著作権を譲渡した場合 当該著作物をその著作権の行使により公衆に提供し、又は提示すること。
二 その美術の著作物又は写真の著作物でまだ公表されていないものの原作品を譲渡した場合 これらの著作物をその原作品による展示の方法で公衆に提示すること。
三 第二十九条の規定によりその映画の著作物の著作権が映画製作者に帰属した場合 当該著作物をその著作権の行使により公衆に提供し、又は提示すること。
著作権法60条著作物を公衆に提供し、又は提示する者は、その著作物の著作者が存しなくなつた後においても、著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならない。ただし、その行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他によりその行為が当該著作者の意を害しないと認められる場合は、この限りでない。
試験ではこう問われる
- 公表の時期・方法を決めることも公表権の内容。「著作者が指定した公表時期と異なる時期に著作物を公表する行為」が、公表自体に同意があれば侵害とならないという枝は誤り
- 同意を得ないで公表された著作物は未公表として扱う(18条1項かっこ書)。無断公表で「当該著作物は公表されたものとみなされる」という枝は誤り
- 公衆への提供・提示でなければ公表されない。「1人の芸能リポーターに、その人の感想を聞くためその限りとして提供していた場合であっても」公表されたことになるという枝は誤り。複製物を「1 人の友人に譲渡した場合」も未公表のまま
- 著作者自身が公表した著作物に公表権の問題はない。「芸術写真の専門誌で公表した後に」別の書籍に載せても公表権の侵害とならない。翻訳物が許諾を得て公表されていれば原著作物も公表されたものとみなす(4条3項)
- 方法は問わない。譜面のインターネット掲載は公衆送信権と公表権の双方を侵害し、壁面への映写は上映権と公表権を侵害する(展示権は原作品によらないので侵害しない)
- 同意の推定(18条2項)は、著作権の譲渡・原作品の譲渡・29条による帰属の3つだけで、譲渡した権利の行使の範囲に限る。演奏権だけ譲り受けた者のウェブサイト掲載に「乙の同意が推定される」という枝は誤り。複製物の譲渡は含まず、公衆に提示しない旨の特約があれば推定は覆る
- 行政機関等への提供は「同意したものとみなす」(18条3項)だが、開示決定の時までの別段の意思表示があれば除かれる。「公衆への開示を拒絶する旨の通知をあわせて提出していた場合であっても」侵害とならないという枝は誤り
- 実演家に公表権はない(実演家人格権は氏名表示権と同一性保持権のみ)。著作者の死後に「その著作権者の同意を得れば、公表することができる」という枝は60条により誤り
この用語が問われた枝
著作者が指定した公表時期と異なる時期に著作物を公表する行為は、当該著作者が当該著作物の公表自体に同意している場合には、公表権の侵害とならない。
著作者は、その著作物でまだ公表されていないものを公衆に提供し、又は提示する権利を有するが、何者かによって未公表の著作物が無断で公表されてしまった場合、当該著作物は公表されたものとみなされる。
著作者が、写真の著作物を芸術写真の専門誌で公表した後に、その著作者の意に反して他人が一般の書籍でその写真を公表した場合、公表権の侵害となる。
著作物である詩をその著作者の許諾なく公表した場合、その公表より前に当該詩の翻訳物がその詩の著作者の許諾を得て広く公表されていたとしても、その詩の著作者の有する公表権の侵害となる。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。