引用・転載と報道・演説・裁判手続での利用(32条・39〜41条の2・48条)いんようてんさいとほうどうえんぜつさいばんてつづきでのりよう
引用とは、公表された著作物を、公正な慣行に合致し、かつ報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で、自分の著作物の中に取り込んで利用することを認める32条1項の権利制限です。これと並んで、時事問題に関する論説の転載(39条)、公開の演説等の利用(40条)、時事の事件の報道のための利用(41条)、裁判手続等における複製等(41条の2)があり、いずれも48条の出所の明示の規律に服します。
他人の論文を批評する文章を書くとき、相手の文章を一言も引けなければ、何を批評しているのか読者に伝わりません。報道や研究も、先行する著作物を示しながら進めるものです。そこで32条1項は、公表された著作物を、公正な慣行に合致し、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内であれば、著作権者の許諾なく引用して利用できると定めました。著作権は表現を守る権利であって、その表現を踏まえた言論や報道まで止めるものではないからです。

引用できるのは公表された著作物に限られ、公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲内で行う必要があります
32条1項の要件は、対象が公表された著作物であること、引用が公正な慣行に合致すること、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われることの三つです。公表されたものとは、発行されるか、権利者又はその許諾を得た者によって公衆に提示されたものです(4条1項)。政治家が家族に宛てた私信で名宛人以外の者が読んだことのないものは未公表なので、「公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲内で行われるものであったとしても」適法な引用に当たらないという枝は正しいです。引用の目的に批評が明記されているとおり、批判の激しさは問われません。他人の論文の一部を引用して激しく批判しても、漫画によって表現された思想を批判する目的でその一コマを複製して批判を記した書籍を出版しても、引用の要件を満たす限り著作権の侵害にはならず、漫画家が出版を差し止めることもできません。
- 対象公表された著作物です。未公表の私信や原稿は引用できません
- 公正な慣行引用する側とされる側が明瞭に区別でき、引用する側が主で引用される側が従であることなど、その分野で受け入れられている引用の仕方です
- 目的と範囲報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内です。批判の激しさや営利目的の有無では切れません
- 方法いずれの方法でもよく、複製だけでなく口述や演奏による引用もできます
引用は複製以外の方法でもでき、出所の明示は複製なら常に必要ですが、複製以外の方法では慣行があるときに限られます
32条1項は「引用して利用することができる」と定めているだけで、利用の方法を複製に限っていません。講演会で有名な小説の一部を読み上げて批評する行為は、「その部分が当該小説の一部であることが聴衆に明らかであり、かつ、批評に必要な範囲である場合には」口述権の侵害とならないという枝は正しいです。出所の明示は48条が定めており、32条により著作物を複製する場合は常に明示しなければならず(1項1号)、複製以外の方法により利用する場合はその出所を明示する慣行があるときに限られます(1項3号)。小説を引用して「複製以外の方法により利用する際に」出所を明示しなくてよい場合があるという枝は正しく、講演会で歌謡曲の一部を歌唱して解説する引用について「常に、その出所の明示をしなくてはならない」という枝は誤りです。出所を明示するときは、著作物に表示されている著作者名も示さなければなりません(48条2項)。

適法な引用であっても、著作権の制限は著作者人格権に影響しないので、意に反する改変や著作者名の不表示は人格権の侵害になり得ます
32条は著作権を制限する規定であり、50条はこの款の規定を著作者人格権に影響を及ぼすものと解釈してはならないと定めています。したがって、「適法引用の要件を満たした引用であれば、同一性保持権侵害となることはない」という枝は誤りです。漫画を批評する書籍で引用する際に「漫画の創作的表現を構成するコマ割りについて無断で変更した場合」、著作者の同一性保持権を侵害するという枝は正しいです(20条2項4号のやむを得ない改変に当たらない限り、意に反する改変だからです)。氏名表示権(19条1項)も同じで、論文の中で他人の論文から同一の文章を2回引用するときに「1回目の引用箇所に対して著作者氏名を表示しないことは」、離れたページの2回目で正しく表示しても氏名表示権の侵害となり得るという枝は正しいです。1回目の引用箇所を読む読者には誰の文章か分からないからです。

時事問題に関する論説は学術的なものを除き転載禁止の表示がなければ転載でき、公開の政治上の演説は同一の著作者のものを編集する場合を除いて自由に利用できます
39条1項は、新聞紙又は雑誌に掲載して発行された政治上、経済上又は社会上の時事問題に関する論説を、他の新聞紙や雑誌に転載し、放送等することを認めますが、学術的な性質を有するものを除き、利用を禁止する旨の表示がある場合も除きます。大学教授が寄稿した「時事問題についての学術的な論説A」を他の新聞社が転載する行為は、転載禁止の表示がなくても著作権の侵害となるので、侵害とならないという枝は誤りです。40条1項は、公開して行われた政治上の演説又は陳述と、裁判手続及び行政審判手続における公開の陳述を、同一の著作者のものを編集して利用する場合を除き、いずれの方法によるかを問わず利用できるとします。政治上の演説は広く知られてこそ意味があり、ただし一人の演説を集めた演説集はその著作者自身の利益に関わるからです。「ある一人の政治家の政治上の公開演説を集めた書籍」を出版する行為は著作権の侵害となるという枝は正しいです。なお32条2項の国等の周知目的資料の転載も、禁止する旨の表示があれば認められません。引用そのものは禁止の表示があっても妨げられない点と区別してください。
転載・演説・引用と禁止表示
| 規定 | 対象 | 禁止表示の効果 |
|---|---|---|
| 32条1項 引用 | 公表された著作物 | 表示があっても引用できます |
| 32条2項 周知目的資料の転載 | 国等の周知目的資料 | 表示があれば転載できません |
| 39条1項 時事問題の論説の転載 | 新聞紙・雑誌の時事問題の論説(学術的なものを除く) | 表示があれば転載できません |
| 40条1項 公開の演説等 | 公開の政治上の演説・陳述、裁判手続等の公開の陳述 | 同一の著作者のものを編集する場合だけ除かれます |
時事の事件の報道では事件を構成し又は事件の過程で見聞きされる著作物だけ利用でき、裁判手続のための複製は必要な限度に限られます
41条は、写真、映画、放送その他の方法で時事の事件を報道する場合に、当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ若しくは聞かれる著作物を、報道の目的上正当な範囲内で複製し、報道に伴って利用することを認めます。絵画の盗難事件を報道するためにその絵画の画像をテレビで放送することは、絵画が事件を構成する著作物なので、著作権の侵害になりません。これに対し、オリンピックの競技結果を報道する番組の冒頭で「公認テーマ曲を当該番組の冒頭で流す行為」は、テーマ曲が事件を構成するわけでも事件の過程で聞かれるわけでもないので、許諾を得る必要はないという枝は誤りです。41条の2第1項は、裁判手続及び行政審判手続のために必要と認められる場合に、必要と認められる限度で複製することを認め、令和5年改正で加わった同条2項は、電磁的記録を用いて行う裁判手続等のために必要な限度で公衆送信と公の伝達も認めました。「訴訟当事者が多数に上る場合であっても、著作物の公衆送信を行うことはできない」という枝は、出題当時の旧42条1項が複製しか認めていなかったので正しいとされましたが、現行法では41条の2第2項により一定の裁判手続のための公衆送信ができます。

著作権法32条1項公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
著作権法39条1項新聞紙又は雑誌に掲載して発行された政治上、経済上又は社会上の時事問題に関する論説(学術的な性質を有するものを除く。)は、他の新聞紙若しくは雑誌に転載し、又は放送し、有線放送し、地域限定特定入力型自動公衆送信を行い、若しくは放送同時配信等を行うことができる。ただし、これらの利用を禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。
著作権法41条写真、映画、放送その他の方法によつて時事の事件を報道する場合には、当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物は、報道の目的上正当な範囲内において、複製し、及び当該事件の報道に伴つて利用することができる。
著作権法48条1項3号第三十二条若しくは第四十二条の規定により著作物を複製以外の方法により利用する場合又は第三十五条第一項、第三十六条第一項、第三十八条第一項、第四十一条、第四十一条の二第二項、第四十二条の二第二項、第四十六条若しくは第四十七条の五第一項の規定により著作物を利用する場合において、その出所を明示する慣行があるとき。
試験ではこう問われる
- 引用できるのは公表された著作物だけ。名宛人しか読んでいない私信は「正当な範囲内で行われるものであったとしても」適法な引用に当たらないという枝は正しい
- 批判の激しさは問わない。一部を引用して激しく批判しても、批判目的で漫画の一コマを複製しても、引用の要件を満たせば侵害にならない
- 引用は口述など複製以外の方法でもできる。講演会での読み上げが「批評に必要な範囲である場合には」口述権の侵害とならないという枝は正しい
- 出所の明示は複製なら常に(48条1項1号)、複製以外では慣行があるときに限る(1項3号)。歌唱による引用に「常に、その出所の明示をしなくてはならない」という枝は誤り
- 権利制限は著作者人格権に影響しない(50条)。「適法引用の要件を満たした引用であれば、同一性保持権侵害となることはない」という枝は誤りで、コマ割りの無断変更は同一性保持権の侵害になる。1回目の引用で著作者名を表示しなければ氏名表示権の侵害となり得る
- 39条の転載は学術的な論説を除く。「時事問題についての学術的な論説A」の転載は禁止表示がなくても侵害になる。禁止表示で止まるのは39条と32条2項で、引用は止まらない
- 公開の政治上の演説は同一の著作者のものを編集する場合を除き自由(40条1項)。「一人の政治家の政治上の公開演説を集めた書籍」の出版は侵害になるという枝は正しい
- 41条で使えるのは事件を構成し又は事件の過程で見聞きされる著作物だけ。盗難にあった絵画の放送は適法だが、競技結果の報道で「公認テーマ曲を当該番組の冒頭で流す行為」は許諾が要る。裁判手続のための公衆送信は現行41条の2第2項で可能(旧42条は複製のみ)
この用語が問われた枝
政治家が家族に宛てた私信であって名宛人以外の者が読んだことのないものを、報道の中で引用することは、その引用が公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲内で行われるものであったとしても、著作権法上の適法な引用に当たらない。
講演会において、歌謡曲の一部を歌唱し、当該歌謡曲について解説することは、当該歌謡曲の著作権者の許諾を得ずとも、引用として行い得るが、その場合、常に、その出所の明示をしなくてはならない。
著作権法に規定する適法引用の要件を満たした引用であれば、同一性保持権侵害となることはない。
ある漫画を批評する書籍において、当該漫画を引用する際に、漫画の創作的表現を構成するコマ割りについて無断で変更した場合、当該漫画の著作者が有する同一性保持権を侵害する。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。