適用除外(19条)てきようじょがい
適用除外とは、不正競争に当たる行為のうち不正競争防止法19条1項各号に定める行為について、差止請求(3条)から消滅時効(15条)までの民事の規定と罰則(21条・22条)を適用しないとする仕組みです。普通名称等の普通に用いられる方法での使用、自己の氏名の不正の目的でない使用、周知・著名になる前からの先使用、形態模倣の3年経過と善意の譲受人、営業秘密・限定提供データの善意取得者、技術的制限手段の試験研究などが各号に並びます。
「佐藤」という姓の人が自分の店に「佐藤商店」と掲げたら、同じ名前で有名な他店があるというだけで不正競争として止められてしまうのでは、商売ができません。「りんご」という普通名称を果物に使うのも同じです。不正競争の各号は形式的には広く当てはまるので、19条1項は、当てはまっても差止めや損害賠償を認めるべきでない行為を10の号に書き出し、3条から15条までと21条・22条を適用しないことにしました。行為が不正競争でなくなるのではなく、救済と罰則が及ばなくなる仕組みです。

19条1項は各号の行為に3条から15条までと21条・22条を適用しないので、不正競争でなくなるのではなく差止め・損害賠償・罰則が及ばなくなります
19条1項の柱書は「第三条から第十五条まで、第二十一条及び第二十二条の規定は、次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為については、適用しない」と定めています。各号はまずどの不正競争についてか(区分)を示し、次にどの行為を除外するかを書く形です。たとえば自己の氏名の使用(2号)は2条1項1号・2号・22号の不正競争についてだけ除外されるので、同じ行為でもドメイン名に係る不正競争(19号)には除外が及びません。号ごとに区分を押さえることが、この条文の読み方の中心です。号番号は改正のたびに繰り下がっており、令和5年改正(令和6年4月1日施行)で3号が加わる前の枝では先使用が3号、形態模倣が5号、営業秘密の善意取得者が6号、限定提供データの善意取得者が8号と書かれています。さらに平成30年改正前は技術的制限手段の試験研究が8号でした。
- 1号(1号・2号・20号・22号)普通名称等を普通に用いられる方法で使用・表示する行為です。ぶどうを原料又は材料とする物の原産地の名称は除かれます
- 2号(1号・2号・22号)自己の氏名を不正の目的でなく使用する行為です
- 3号(1号・2号)商標法4条4項(他人の承諾による登録)や8条のただし書で併存して登録された結果、類似の登録商標が別の商標権者に属することになった場合に、不正の目的でなく登録商標を使用する行為です。令和5年改正で加わりました
- 4号(1号)他人の表示が需要者の間に広く認識される前から同一・類似の表示を使用する者とその業務の承継者が、不正の目的でなく使用する行為です
- 5号(2号)他人の表示が著名になる前から使用する者とその業務の承継者が、不正の目的でなく使用する行為です
- 6号(3号)日本国内で最初に販売された日から3年を経過した商品の形態模倣品の譲渡等(イ)と、譲り受けた時に善意かつ無重過失の譲受人による譲渡等(ロ)です
- 7号(4号〜9号)取引によって営業秘密を取得した時に善意かつ無重過失の者が、その権原の範囲内で使用・開示する行為です
- 8号(10号)15条で差止請求権が時効消滅した後の営業秘密の使用により生じた物の譲渡等です
- 9号(11号〜16号)取引によって限定提供データを取得した時に善意の者が権原の範囲内で開示する行為(イ)と、無償で公衆に利用可能となっている情報と同一の限定提供データの取得・使用・開示(ロ)です
- 10号(17号・18号)技術的制限手段の試験又は研究のために用いられる装置等の譲渡等と役務の提供です
普通名称等を普通に用いられる方法で使用する行為は除外されますが、ぶどうの原産地の名称は普通名称になっても除外されません
1号は、商品若しくは営業の普通名称、又は同一若しくは類似の商品若しくは営業について慣用されている商品等表示を、普通に用いられる方法で使用・表示する行為を、2条1項1号・2号・20号・22号の不正競争から除外します。誰もが使う名前を独占させないためです。ただし括弧書で、ぶどうを原料又は材料とする物の原産地の名称であって普通名称となったものは除かれています。シャンパンのような名称は、日本で普通名称のように使われていても除外を受けないので、甲州産の発泡性ぶどう酒に甲州産シャンパンと表示することは誤認惹起の「適用除外となる」という枝は誤りです。また除外されるのは「普通に用いられる方法」での使用に限られます。周知の表示Aが菓子の普通名称であっても、乙が「表示Aに特殊な独自のデザインを施し」て使えば普通に用いられる方法ではないので、乙の行為が「不正競争となることはない」という枝は誤りです。

自己の氏名の使用は不正の目的でないことが条件で、1号・2号・22号の不正競争についてだけ除外され、ドメイン名には及びません
2号は、自己の氏名を不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的)でなく使用する行為を除外します。自分の名前で商売をする自由を守るためで、他人の表示として周知であることは除外を妨げません。「不正の目的なく自己の氏名を商品等表示として使用する行為は、その氏名が他人の商品等表示として周知性を獲得している場合であっても」1号の適用除外となるという枝は正しいです。反対に、不正の目的があれば除外を受けないので、自己の氏名の使用は「どのような目的で使用するかにかかわらず」規制の対象とならないという枝は誤りです。区分は2条1項1号・2号・22号に限られ、ドメイン名に係る不正競争(19号)は入っていません。特定商品等表示には人の氏名も含まれるので、図利加害目的で著名人と同じ自己の氏名のドメイン名を取得すれば19号に当たり得ます。自己の氏名からなるドメイン名の取得は「ドメイン名に係る不正競争に該当することはない」という枝は誤りです。
先使用は他人の表示が周知・著名になる前から不正の目的でなく使う者と業務の承継者に認められ、先使用者自身の表示が周知である必要はありません
4号は、他人の商品等表示が需要者の間に広く認識される前からこれと同一又は類似の商品等表示を使用する者、又はその商品等表示に係る業務を承継した者が、不正の目的でなく使用する行為を2条1項1号の不正競争から除外します。5号は著名表示(2号)について、著名になる前からの使用者に同じ除外を定めます。先に使っていた者の地位を、後から周知になった他人のために奪わないためです。「他人の商品等表示が周知性を獲得する以前から、その商品等表示と同一の商品等表示を使用していた場合」に不正の目的なく使用する行為は適用除外となるという枝は正しいです。条文は先使用者自身の表示の周知性を求めていないので、先使用者の表示が「他人の商品等表示が需要者の間で周知になる前から需要者の間で周知になっている必要がある」という枝は誤りです(この枝は令和5年改正前の3号で問われていますが、現行の4号も同じ内容です)。業務の承継者も除外を受けるので、周知前からの使用者乙から業務を承継した丙に対して、甲は「その商品等表示の使用の差止めを請求することはできないが、混同防止表示付加請求は認められる」という枝は正しいです。19条2項は、2号から4号までの行為によって営業上の利益を侵害され又は侵害されるおそれがある者に、自己の商品又は営業との混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求する権利を与えています。先使用により1号の適用が除外される場合に「自己の商品との混同を防ぐのに適当な表示を付すよう請求できる」という枝は正しいです。

形態模倣は日本国内で最初に販売された日から3年を経過すれば除外され、善意かつ無重過失の譲受人は譲り受けた時を基準に除外されます
6号イは、日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過した商品について、その形態を模倣した商品を譲渡等する行為を2条1項3号の不正競争から除外します。形態模倣の保護は先行者の投資回収のための短期のものだからです。「日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過した商品については」模倣品の譲渡も適用除外となるという枝は正しいです。起算点はその形態を具備した最初の商品の販売日なので、「若干の変更を加えた後続商品の販売日から3年を経過していなくても」規制の対象とならないという枝は正しいです。6号ロは、他人の商品の形態を模倣した商品を譲り受けた者が、譲り受けた時に模倣商品であることを知らず、かつ知らないことにつき重大な過失がない場合に、その商品を譲渡等する行為を除外します。善意かどうかは「譲り受けた時」で判断するので、後から模倣品と知って売っても責任を負いません。丁が「Bを販売する時点で、BがAの模倣品であることを知っていた場合は、不正競争防止法上の責任を負う」という枝は誤りです。

営業秘密・限定提供データを取引で善意取得した者は権原の範囲内なら後に知っても除外され、無償公開情報と同一のデータや技術的制限手段の試験研究も除外されます
7号は、取引によって営業秘密を取得した者で、取得した時に不正開示行為であること、又は不正取得行為・不正開示行為の介在を知らず、かつ知らないことにつき重大な過失がない者が、その取引によって取得した権原の範囲内で使用・開示する行為を除外します。取引で正当に得た者の信頼を守るためで、2条1項6号・9号は後から知って使えば不正競争に当たるとしますが、19条1項7号が権原の範囲内に限って救済を外します。契約で取得した第三者が後に不正取得の介在を知った場合に「当該契約に基づく権原の範囲内での使用であっても」差止請求の対象となり得るという枝は誤りです。9号イは限定提供データの取引による取得者について同じ除外を置きます(こちらは「知らない者」で、重過失の要件がありません)。9号ロは、相当量蓄積されている情報が無償で公衆に利用可能となっている情報と同一の限定提供データの取得・使用・開示を除外します。「無償で公衆に利用可能となっている情報と同一であれば」その取得が規制の対象とならないという枝は正しいです。10号は、技術的制限手段の試験又は研究のために用いられる装置等の譲渡等と役務の提供を除外します。研究のために無効化装置を譲渡した甲について、「甲に過失があったとしても、丙は、甲に対して不正競争を理由として損害賠償を請求することはできない」という枝は正しいです(4条も適用されないからです)。
不正競争防止法19条1項柱書第三条から第十五条まで、第二十一条及び第二十二条の規定は、次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為については、適用しない。
不正競争防止法19条1項2号第二条第一項第一号、第二号及び第二十二号に掲げる不正競争自己の氏名を不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)でなく使用し、又は自己の氏名を不正の目的でなく使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為(同号に掲げる不正競争の場合にあっては、自己の氏名を不正の目的でなく使用して役務を提供する行為を含む。)
不正競争防止法19条1項4号第二条第一項第一号に掲げる不正競争他人の商品等表示が需要者の間に広く認識される前からその商品等表示と同一若しくは類似の商品等表示を使用する者又はその商品等表示に係る業務を承継した者がその商品等表示を不正の目的でなく使用し、又はその商品等表示を不正の目的でなく使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為
不正競争防止法19条2項前項第二号から第四号までに定める行為によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、次の各号に掲げる行為の区分に応じて当該各号に定める者に対し、自己の商品又は営業との混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求することができる。
試験ではこう問われる
- 普通名称でもぶどうの原産地の名称は除外されない。甲州産シャンパンの表示が「適用除外となる」という枝は誤り。普通名称でも「特殊な独自のデザインを施し」て使えば普通に用いられる方法でなく、除外されない
- 自己の氏名は不正の目的でないことが条件。他人の表示として周知でも除外されるという枝は正しく、「どのような目的で使用するかにかかわらず」規制されないという枝は誤り
- 自己の氏名の除外は1号・2号・22号だけ。著名人と同じ自己の氏名のドメイン名の取得は「ドメイン名に係る不正競争に該当することはない」という枝は誤り
- 先使用(4号・5号)は周知・著名になる前から不正の目的でなく使う者と業務の承継者。先使用者自身の表示が「周知になっている必要がある」という枝は誤り
- 先使用者・承継者・自己の氏名の使用者に対しては、混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求できる(19条2項)。差止めはできない
- 形態模倣は日本国内で最初に販売された日から3年で除外。起算点は形態を具備した最初の商品で、「若干の変更を加えた後続商品の販売日」ではない
- 模倣品の譲受人の善意・無重過失は譲り受けた時で判断する。販売時に「知っていた場合は、不正競争防止法上の責任を負う」という枝は誤り
- 営業秘密の取引による善意無重過失の取得者は、後に知っても権原の範囲内の使用は除外される。無償公開情報と同一の限定提供データの取得、技術的制限手段の試験研究用の装置の譲渡も除外され、過失があっても損害賠償を負わない
この用語が問われた枝
山梨県の甲州市で製造される発泡性ぶどう酒に、甲州産シャンパンという表示を付して販売することは、甲州産と記載されている以上、需要者はその発泡性ぶどう酒がシャンパーニュ産であると誤認しないので、不正競争防止法第2条第1項第14号の適用除外となる。
表示Aは、甲が販売する菓子の商品等表示として、広島県内の需要者の間で周知である。乙は、同県内で、表示Aに特殊な独自のデザインを施し、自己の販売する菓子に使用している。両表示に類似性が認められる場合でも、表示Aが、乙の販売している菓子の普通名称である場合には、乙の行為が不正競争となることはない。
不正の目的なく自己の氏名を商品等表示として使用する行為は、その氏名が他人の商品等表示として周知性を獲得している場合であっても、不正競争防止法第2条第1項第1号の適用除外となる。
自己の氏名を使用する行為は、どのような目的で使用するかにかかわらず、商品等表示に係る不正競争防止法上の規制の対象となることはない。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。