実用新案技術評価書と権利行使(実12条・13条・29条の2・29条の3・27条・28条)じつようしんあんぎじゅつひょうかしょとけんりこうし
実用新案技術評価書とは、実用新案登録出願に係る考案又は登録実用新案について、3条1項3号及び同号に係る2項、3条の2並びに7条1項から3項まで及び6項に関する技術的な評価を、何人かの請求により審査官が作成する報告書です。実用新案権者又は専用実施権者は、この評価書を提示して警告をした後でなければ侵害者等に権利を行使できず、権利行使の後に無効審決が確定したときは相手方の損害を賠償する責任を負います。
実用新案は新規性や進歩性を審査せずに登録されるので、登録された権利が本当に有効かどうかは誰にもわかりません。そのまま「侵害だ」と警告されては、相手は無効な権利に振り回されかねません。そこで実用新案法は、審査官が先行技術との関係を評価した実用新案技術評価書を何人でも請求できるようにし、権利者はこれを提示して警告した後でなければ権利を行使できないと定めました。さらに、行使の後で登録が無効にされたときは、権利者が相手方の損害を賠償する責任を負い、権利の有効性を確かめずに行使することの重みを権利者の側に負わせています。

実用新案技術評価は何人も請求でき、対象は刊行物等による新規性・進歩性と3条の2・7条に限られ、請求項ごとに請求できます
実用新案登録出願又は実用新案登録については、何人も、特許庁長官に実用新案技術評価を請求することができ、二以上の請求項に係るものは請求項ごとに請求できます(12条1項)。評価の対象は、3条1項3号(頒布された刊行物に記載された考案・電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった考案)、同号に掲げる考案に係る3条2項の進歩性、3条の2の拡大先願、7条1項から3項まで及び6項の先願に係るものに限られます。審査官が文献で確かめられる範囲に絞っているからです。公然知られた考案(1号)や公然実施をされた考案(2号)に基づく評価は対象外なので、権利者が「公然知られた考案に基づく同法第3条第2項の規定」に係る評価を請求できるという枝は誤りです。請求があると長官は審査官に評価書を作成させ(12条4項)、謄本を請求人に、請求人が出願人・権利者でないときは請求人と出願人・権利者に送達します(13条3項)。請求があった旨は実用新案公報に掲載され(13条1項)、出願人・権利者でない者からの請求があったことは出願人・権利者に通知されます(13条2項)。
- 請求できる者何人もです。共有者全員で請求すべき旨の規定はなく、権利者でない第三者も請求できます
- 対象3条1項3号、同号に係る3条2項、3条の2、7条1項から3項まで及び6項です。公然知られた考案・公然実施をされた考案に基づく新規性・進歩性は入りません
- 単位二以上の請求項に係るときは請求項ごとに請求できます
- 送達謄本は請求人に、請求人が出願人・権利者でないときは請求人と出願人・権利者に送達します(13条3項)。評価書の記載事項を公報に掲載する規定はありません
登録前でも権利消滅後でも請求できますが、無効にされた後と実用新案登録に基づく特許出願の後は請求できず、請求は取り下げられません
評価は実用新案登録出願の段階から請求でき、実用新案権の消滅後にも請求できます(12条2項本文)。権利が消えた後も、過去の侵害をめぐる争いでは権利の有効性が問題になるからです。「その実用新案権の消滅後、請求項ごとに実用新案技術評価を請求することはできない」という枝は誤りです。ただし、実用新案登録無効審判により無効にされた後は請求できず(12条2項ただし書)、その実用新案登録に基づいて特許法46条の2第1項の特許出願がされた後も請求できません(12条3項)。基礎とした実用新案権は特許出願の時に放棄されるので、評価する実益がなくなるからです。特許出願がされ「その実用新案権が放棄された後であっても、することができる場合がある」という枝と、「その特許出願をした後に、実用新案技術評価を請求することができる」という枝は、いずれも誤りです。一度した請求は、請求人が誰であっても取り下げることができません(12条6項)。公報に請求があった旨が掲載され第三者も結果を待つからです。「権利者自身による実用新案技術評価の請求は取り下げることができる」という枝と、「一部の請求項に係る実用新案技術評価の請求を取り下げることができる」という枝は、いずれも誤りです。評価の請求があっても出願そのものの取下げを禁じる規定はないので、出願人は出願を取り下げられます。

出願人・権利者でない者の請求の後に実用新案登録に基づく特許出願がされると、その請求はされなかったものとみなされます
実用新案登録出願人又は実用新案権者でない者から評価の請求があった後に、その実用新案登録に基づいて特許法46条の2第1項の特許出願がされたときは、その請求はされなかったものとみなされ、長官はその旨を請求人に通知します(12条7項)。権利者が特許出願に切り替えた以上、実用新案としての評価を続ける意味がないからです。特許出願がされた後に長官が「審査官にその請求に係る実用新案技術評価書を作成させなければならない」という枝は誤りで、最初の通知から30日を経過する前に「適法に当該実用新案登録に基づく特許出願がされた場合であっても、実用新案技術評価書が作成される」という枝も誤りです。権利者の側から見ると、他人の請求があった旨の13条2項の最初の通知を受けた日から30日を経過した後は、原則として実用新案登録に基づく特許出願ができなくなります(特許法46条の2第1項3号)。評価書の作成が無駄になる特許出願は、通知後30日の間だけ認めるという仕組みです。
権利行使は評価書を提示して警告した後でなければできませんが、警告から期間を置く必要はなく、評価書は他人の請求によるものでもかまいません
実用新案権者又は専用実施権者は、その登録実用新案に係る実用新案技術評価書を提示して警告をした後でなければ、侵害者等に対して権利を行使することができません(29条の2)。差止請求(27条)も損害賠償請求も、この警告の後に初めてできます。条文が求めるのは評価書を提示した警告が行使に先立つことだけなので、警告の後に一定の期間を置く定めはありません。「警告をした時から30日を経過するまでの間は」権利を行使できないという枝は誤りです。評価書は誰の請求によるものかを問わないので、「自らの請求によるものではない実用新案技術評価書を提示して警告し」権利を行使できるという枝は正しいです。特許法71条の判定は26条で準用され、判定の請求に評価書の提示は要りません。相手に権利を行使する場面でだけ、評価書が条件になります。

権利行使や警告の後に無効審決が確定すると権利者は無過失でも損害を賠償し、登録性を否定しない評価書に基づく行使か相当の注意があれば免れます
実用新案権者又は専用実施権者が権利を行使し、又は警告をした後に、実用新案登録を無効にすべき旨の審決(37条1項6号の冒認・共同出願違反によるものを除きます)が確定したときは、その行使又は警告により相手方に与えた損害を賠償する責めに任じます(29条の3第1項本文)。過失の有無を問わない責任で、審査を経ない権利を行使するリスクを権利者に負わせる趣旨です。ただし、評価書の評価(登録をすることができない旨の評価を受けたものを除きます)に基づいて行使・警告したとき、その他相当の注意をもって行使・警告したときは責任を負いません(同項ただし書)。刊行物記載の考案を理由に無効審決が確定した場面で、甲は「相当の注意をもって権利を行使したことを立証しない限り」損害を賠償する責任を負うという枝は正しいです。この責任の規定は実用新案法にだけあり、特許法にはないので、特許法にも「その権利の行使により相手方に与えた損害を賠償しなければならない旨の規定があり」という枝は誤りです。反対に、侵害者の側の過失については、実用新案法30条が特許法103条を準用していないので推定されません。侵害者は「その侵害の行為について過失があったものと推定される」という枝は誤りで、損害賠償を求める権利者が故意又は過失を立証します。訂正により設定登録時の請求の範囲から外れた考案について行使・警告した場合にも、同じ責任が準用されます(29条の3第2項)。

侵害とみなす行為には譲渡・貸渡し・輸出のための所持が含まれ、侵害の罪は評価書の有無を問いません
28条は、登録実用新案に係る物品の製造にのみ用いる物の生産・譲渡等・輸入・譲渡等の申出(1号)、課題の解決に不可欠な物を知りながら業として生産等する行為(2号)、登録実用新案に係る物品を業としての譲渡、貸渡し又は輸出のために所持する行為(3号)を侵害とみなします。1号・2号の「物」にはプログラム等が含まれます。侵害の罪(56条)は「実用新案権又は専用実施権を侵害した者」を5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金に処し、特許法196条のようにみなし侵害を除く括弧書がないので、28条の行為をした者も処罰の対象になります。みなし侵害の行為者には「刑事罰が課されることはない」という枝は誤りです。評価書の提示は権利者が民事上の権利を行使するための要件であって、罪の成立要件ではないので、「実用新案技術評価書が作成されていないことを理由として、刑事罰を逃れることはできない」という枝は正しいです。侵害の罪は親告罪ではなく、法人の従業者が犯せば両罰規定(61条)で行為者と法人の双方が罰せられます。
実用新案法12条1項実用新案登録出願又は実用新案登録については、何人も、特許庁長官に、その実用新案登録出願に係る考案又は登録実用新案に関する技術的な評価であつて、第三条第一項第三号及び第二項(同号に掲げる考案に係るものに限る。)、第三条の二並びに第七条第一項から第三項まで及び第六項の規定に係るもの(以下「実用新案技術評価」という。)を請求することができる。この場合において、二以上の請求項に係る実用新案登録出願又は実用新案登録については、請求項ごとに請求することができる。
実用新案法12条7項実用新案登録出願人又は実用新案権者でない者から第一項の規定による請求があつた後に、その請求に係る実用新案登録(実用新案登録出願について同項の規定による請求があつた場合におけるその実用新案登録出願に係る実用新案登録を含む。)に基づいて特許法第四十六条の二第一項の規定による特許出願がされたときは、その請求は、されなかつたものとみなす。この場合において、特許庁長官は、その旨を請求人に通知しなければならない。
実用新案法29条の2実用新案権者又は専用実施権者は、その登録実用新案に係る実用新案技術評価書を提示して警告をした後でなければ、自己の実用新案権又は専用実施権の侵害者等に対し、その権利を行使することができない。
実用新案法29条の3第1項実用新案権者又は専用実施権者が侵害者等に対しその権利を行使し、又はその警告をした場合において、実用新案登録を無効にすべき旨の審決(第三十七条第一項第六号に掲げる理由によるものを除く。)が確定したときは、その者は、その権利の行使又はその警告により相手方に与えた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、実用新案技術評価書の実用新案技術評価(当該実用新案登録出願に係る考案又は登録実用新案が第三条第一項第三号及び第二項(同号に掲げる考案に係るものに限る。)、第三条の二並びに第七条第一項から第三項まで及び第六項の規定により実用新案登録をすることができない旨の評価を受けたものを除く。)に基づきその権利を行使し、又はその警告をしたとき、その他相当の注意をもつてその権利を行使し、又はその警告をしたときは、この限りでない。
試験ではこう問われる
- 評価の対象は3条1項3号・同号に係る2項・3条の2・7条。「公然知られた考案に基づく同法第3条第2項の規定」に係る評価を請求できるという枝は誤り
- 何人も、請求項ごとに、権利消滅後も請求できる。「その実用新案権の消滅後、請求項ごとに実用新案技術評価を請求することはできない」という枝は誤り
- 無効にされた後と実用新案登録に基づく特許出願の後は請求できない(12条2項ただし書・3項)。「その特許出願をした後に、実用新案技術評価を請求することができる」という枝は誤り
- 請求は誰のものでも、一部の請求項だけでも取り下げられない(12条6項)。出願自体の取下げは禁じられていない
- 他人の請求後に実用新案登録に基づく特許出願がされれば請求はされなかったものとみなす(12条7項)。「実用新案技術評価書が作成される」という枝は誤り
- 権利行使は評価書を提示して警告した後。「警告をした時から30日を経過するまでの間は」行使できないという枝は誤りで、他人の請求に係る評価書でもよい。判定の請求に評価書は要らない
- 無効審決確定後の賠償責任は実用新案法だけ(29条の3)。「相当の注意をもって権利を行使したことを立証しない限り」責任を負うという枝は正しい。特許法にも同じ規定があるという枝は誤り
- 侵害者の過失は推定されない(30条は103条を準用しない)。みなし侵害(28条)は所持を含み56条の罪の対象で、評価書が未作成でも刑事罰を免れない
この用語が問われた枝
実用新案技術評価は、実用新案登録出願人又は実用新案権者でない者も請求することができ、実用新案権者又は専用実施権者は、侵害する者に対し、自らの請求によるものではない実用新案技術評価書を提示して警告し、自己の実用新案権又は専用実施権を行使することができる。
実用新案権者は、その登録実用新案に係る実用新案技術評価書を提示して警告をした時から30日を経過するまでの間は、自己の実用新案権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その権利を行使することができない。
実用新案権者は、自己の登録実用新案に関し、実用新案法第3条第1項第1号に掲げる公然知られた考案に基づく同法第3条第2項の規定(いわゆる進歩性)に係る実用新案技術評価を請求することができる。
2以上の請求項に係る実用新案登録について、その実用新案権の消滅後、請求項ごとに実用新案技術評価を請求することはできない。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。