専用実施権と通常実施権(77条・78条・94〜99条、仮専用実施権・仮通常実施権 34条の2〜34条の5)せんようじっしけんとつうじょうじっしけん
専用実施権とは、特許権者が設定する権利で、専用実施権者が設定行為で定めた範囲内において業として特許発明の実施をする権利を専有するものです(77条)。通常実施権とは、特許権者の許諾又は法律の規定により、設定行為で定めた範囲内で業として特許発明の実施をする権利で、独占はしないものです(78条)。
特許権者が自分で製品を作らず、他社に作らせて実施料を受け取ることはよくあります。そのとき「この範囲はあなただけに任せる」と約束するのが専用実施権で、設定した範囲では特許権者自身も実施できなくなるほど強いので、登録しなければ効力が生じません。一方、「使ってよい」と許すだけで、他社にも同じ許しを出せるのが通常実施権です。通常実施権は弱い権利ですが、特許権が他人に売られたときに実施を止められては困るので、登録がなくても新しい特許権者に対抗できることにしています。

専用実施権は設定行為で定めた範囲内で実施を専有する権利で、設定も移転も登録しなければ効力を生じません
特許権者はその特許権について専用実施権を設定することができ(77条1項)、専用実施権者は設定行為で定めた範囲内において業として特許発明の実施をする権利を専有します(77条2項)。範囲は期間・地域・内容で区切ることができ、設定した範囲では特許権者も実施できません(68条ただし書)。同じ範囲に二つの専用実施権を設定することはできませんが、範囲が重ならなければ別の者に専用実施権を設定することはできます。専用実施権の設定、移転(相続その他の一般承継によるものを除きます)、変更、消滅(混同又は特許権の消滅によるものを除きます)又は処分の制限は、登録しなければ効力を生じません(98条1項2号)。独占的な権利の帰属を第三者に見えるようにしておく必要があるからです。したがって、実施の事業とともに専用実施権を譲渡しても、乙から丙への移転は「当該移転についての登録がされなくても効力を生じる」という枝は誤りです。専用実施権には73条が準用されるので(77条5項)、共有の専用実施権の持分の譲渡や質権の設定には他の共有者の同意が要ります。
専用実施権の移転は事業とともにする場合・特許権者の承諾・一般承継の3つに限られ、質権の設定と通常実施権の許諾には特許権者の承諾だけが要ります
専用実施権は、実施の事業とともにする場合、特許権者の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合に限り移転できます(77条3項)。特許権者が信頼して任せた相手が勝手に変わらないようにするためで、事業ごと移る場合と一般承継は実態が変わらないので許されています。そのため、「実施の事業とともにする場合又は甲の承諾を得た場合に限り移転することができる」という枝は、一般承継の場合を落としているので誤りです。また、専用実施権者は「特許権者の承諾を得ない限り、専用実施権を移転することができない」という枝も、事業とともにする場合と一般承継では承諾が要らないので誤りです(特許権者が特許権を移転するのに専用実施権者の承諾が要らないという前半は正しいです)。専用実施権者は、特許権者の承諾を得た場合に限り、その専用実施権について質権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができます(77条4項)。要るのは特許権者の承諾だけなので、先に通常実施権の許諾を受けていた者がいても、その者の承諾は要りません。「甲及び乙の両者の承諾を得た場合に限り」専用実施権に質権を設定できるという枝は誤りです。

通常実施権は登録なしで、その発生後に特許権や専用実施権を取得した者にも対抗できます
特許権者はその特許権について他人に通常実施権を許諾することができ(78条1項)、通常実施権者は法律の規定により又は設定行為で定めた範囲内において業として特許発明の実施をする権利を有します(78条2項)。通常実施権は、その発生後にその特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権を取得した者に対しても効力を有します(99条)。以前は登録しなければ対抗できませんでしたが、平成23年改正で登録制度がなくなり、登録なしで当然に対抗できるようになりました。したがって、通常実施権は「登録その他何らの要件を備えなくても」特許権を取得した者に効力を有するという枝は正しく、それより前の年度の登録で対抗するという枝は現行法では誤りになります。通常実施権の移転は、実施の事業とともにする場合、特許権者(専用実施権についての通常実施権では特許権者及び専用実施権者)の承諾を得た場合及び一般承継の場合に限られます(94条1項)。事業とともにする移転にはだれの承諾も要らないので、専用実施権についての通常実施権を事業とともに譲渡するには「特許権者の承諾を得る必要はないが、専用実施権者の承諾を得なければならない」という枝は誤りです。裁定による通常実施権は94条1項から除かれ、83条2項・93条2項の裁定実施権は事業とともにする場合に限り移転でき(94条3項)、92条3項の裁定実施権は特許権等が事業とともに移転したときに従って移転し、事業と分離して移転又は消滅すれば消滅します(94条4項)。そのため、「すべての通常実施権は、特許権者の承諾があれば移転することができる」という枝は誤りです。通常実施権に質権を設定するときも特許権者(及び専用実施権者)の承諾が要りますが(94条2項)、裁定実施権には設定できません。

質権者は特許発明を実施できず、実施料には差押えの上で質権を行うことができ、権利の放棄には専用実施権者や質権者の承諾が要ります
特許権、専用実施権又は通常実施権を目的として質権を設定したときは、質権者は契約で別段の定めをした場合を除き、その特許発明の実施をすることができません(95条)。質権は担保であって実施のための権利ではないからです。「質権者は、契約で別段の定をした場合を除き、当該特許発明の実施をすることができない」という枝は正しいです。その代わり、質権は特許権等の対価や特許発明の実施に対し特許権者等が受けるべき金銭その他の物に対しても行うことができますが、払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければなりません(96条)。実施料について「差押をしたうえで質権を行うことができる」という枝は正しいです。特許権者は、専用実施権者又は質権者があるときは、これらの者の承諾を得た場合に限り特許権を放棄できます(97条1項)。放棄で消える権利を持つ者を守るためで、以前は35条1項・77条4項・78条1項の通常実施権者の承諾も要りましたが、令和3年改正で通常実施権者は外れました。そのため、「その通常実施権者の承諾を得た場合に限り、特許権を放棄することができる」という枝は誤りです。専用実施権者は、質権者又は77条4項の通常実施権者があるときはこれらの者の承諾を得た場合に限り専用実施権を放棄でき(97条2項)、特許権者の承諾は要りません。「その者の承諾を得なければならないが、特許権者の承諾を得る必要はない」という枝は正しいです。
- 特許権の放棄専用実施権者・質権者の承諾が要ります(97条1項)。通常実施権者の承諾は令和3年改正で不要になりました
- 専用実施権の放棄質権者・77条4項の通常実施権者の承諾が要ります(97条2項)。特許権者の承諾は要りません
- 通常実施権の放棄質権者の承諾が要ります(97条3項)
- 登録が効力要件のもの特許権の移転(一般承継を除く)・放棄による消滅、専用実施権の設定・移転・変更・消滅、特許権又は専用実施権を目的とする質権の設定等です(98条1項)。通常実施権と通常実施権を目的とする質権は登録しません
仮専用実施権・仮通常実施権は出願段階のライセンスで、設定の登録があれば専用実施権・通常実施権になり、分割出願にも承継されます
特許を受ける権利を有する者は、取得すべき特許権について、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内で、仮専用実施権を設定し(34条の2第1項)、又は仮通常実施権を許諾することができます(34条の3第1項)。特許権の設定の登録があったときは、設定行為で定めた範囲内で専用実施権が設定され、又は通常実施権が許諾されたものとみなされます(34条の2第2項・34条の3第2項)。出願中から事業の準備を進めるライセンシーを守るための制度です。仮専用実施権に係る特許出願が分割されたときは、設定行為に別段の定めがない限り、新たな特許出願についても設定行為で定めた範囲内で仮専用実施権が設定されたものとみなされます(34条の2第5項)。「新たに仮専用実施権の設定がされない限り、仮専用実施権は生じない」という枝は誤りです。仮通常実施権も分割・変更・国内優先権の後の出願に同じように承継されます(34条の3第5項〜第9項)。仮専用実施権者が仮通常実施権を許諾するには特許を受ける権利を有する者の承諾が要るので(34条の2第4項)、「特許を受ける権利を有する者の承諾を得た場合に限り」許諾できるという枝は正しいです。仮専用実施権の設定・移転(一般承継を除きます)等は登録が効力要件ですが(34条の4第1項)、仮通常実施権には登録制度がなく、許諾後に特許を受ける権利等を取得した者にも効力を有します(34条の5)。「仮通常実施権の移転は登録せずともその効力を生じる」という枝は正しいです。特許出願の放棄・取下げに承諾が要るのは仮専用実施権者だけなので(38条の5)、仮通常実施権者が「その承諾を得ていない場合であっても、その特許出願を取り下げることができる」という枝は正しいです。

専用実施権と通常実施権
| 専用実施権 | 通常実施権 | |
|---|---|---|
| 効力 | 設定行為で定めた範囲で実施を専有します(77条2項) | 設定行為又は法律の規定の範囲で実施できます(78条2項) |
| 発生の要件 | 登録が効力要件です(98条1項2号) | 許諾だけで発生し、登録制度はありません |
| 第三者への対抗 | 登録によります | 登録なしで当然に対抗できます(99条) |
| 移転 | 事業とともに・特許権者の承諾・一般承継です(77条3項) | 事業とともに・特許権者(及び専用実施権者)の承諾・一般承継です(94条1項)。裁定実施権は別です |
| 質権の設定・再許諾 | 特許権者の承諾で質権設定と通常実施権の許諾ができます(77条4項) | 特許権者(及び専用実施権者)の承諾で質権を設定できます(94条2項) |
| 放棄 | 質権者・77条4項の通常実施権者の承諾が要ります(97条2項) | 質権者の承諾が要ります(97条3項) |
特許法77条2項専用実施権者は、設定行為で定めた範囲内において、業としてその特許発明の実施をする権利を専有する。
特許法77条3項専用実施権は、実施の事業とともにする場合、特許権者の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合に限り、移転することができる。
特許法99条通常実施権は、その発生後にその特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権を取得した者に対しても、その効力を有する。
特許法97条1項特許権者は、専用実施権者又は質権者があるときは、これらの者の承諾を得た場合に限り、その特許権を放棄することができる。
試験ではこう問われる
- 専用実施権の設定・移転は登録が効力要件(98条1項2号)。事業とともに譲渡しても「当該移転についての登録がされなくても効力を生じる」という枝は誤り
- 専用実施権の移転は事業とともに・特許権者の承諾・一般承継の3つ(77条3項)。二つに限る枝、承諾がない限り移転できないという枝はいずれも誤り
- 専用実施権の質権設定・通常実施権の許諾は特許権者の承諾だけ(77条4項)。先にいる通常実施権者の承諾は要らない
- 通常実施権は「登録その他何らの要件を備えなくても」特許権の譲受人に対抗できる(99条、平成23年改正)。旧法の登録対抗の枝は現行法では誤り
- 通常実施権の移転は事業とともに・承諾・一般承継(94条1項)。事業とともにする移転にはだれの承諾も要らない。裁定実施権は承諾では移転できず、質権も設定できない
- 質権者は特許発明を実施できず(95条)、実施料には払渡し前に差押えをして質権を行う(96条)
- 特許権の放棄に要るのは専用実施権者・質権者の承諾だけ(97条1項、令和3年改正)。専用実施権の放棄には質権者・通常実施権者の承諾が要り、特許権者の承諾は不要
- 仮専用実施権は設定登録で専用実施権とみなされ、分割出願にも承継される。仮通常実施権の許諾には特許を受ける権利を有する者の承諾が要る。出願の取下げに承諾が要るのは仮専用実施権者だけ。仮専用実施権の移転は登録が効力要件、仮通常実施権は登録不要
この用語が問われた枝
特許権者甲はその特許権Aについて乙に専用実施権を設定し、当該設定は登録された。その後、乙は、実施の事業とともに丙に当該専用実施権を譲渡した。この場合、特許権Aについての専用実施権の乙から丙への移転は、当該移転についての登録がされなくても効力を生じる。
甲が自己の特許権について、乙に専用実施権を設定し、その登録がされている場合、乙の専用実施権は、実施の事業とともにする場合又は甲の承諾を得た場合に限り移転することができる。
特許権について専用実施権が設定され、その登録がされている場合、特許権者は、専用実施権者の承諾を得なくとも特許権を移転することができるが、専用実施権者は、特許権者の承諾を得ない限り、専用実施権を移転することができない。
特許権者甲は、乙に対してその特許権に関して設定行為で実施の範囲を制限することなく通常実施権を許諾し、その後、丙に対してその特許権に関して設定行為で実施の範囲を制限して専用実施権を設定し、その登録がされたとき、丙は、甲及び乙の両者の承諾を得た場合に限り、その専用実施権について質権を設定することができる。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。