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差止・損害賠償と侵害訴訟の特則(100条・102〜106条・104条の2・105条〜105条の7)さしとめそんがいばいしょうとしんがいそしょうのとくそく

特許・実用新案 第6章 侵害と救済 短答で30枝

差止・損害賠償と侵害訴訟の特則とは、特許権者又は専用実施権者が侵害者に対して持つ侵害の停止又は予防の請求権(100条)と損害賠償請求権、そしてその行使を助けるために特許法が置く損害額の推定(102条)・過失の推定(103条)・生産方法の推定(104条)・具体的態様の明示義務(104条の2)・書類の提出や査証・秘密保持命令などの訴訟上の仕組み(105条〜105条の7)・信用回復の措置(106条)をまとめた呼び方です。

自分の特許発明をまねた製品が売られているのを見つけた特許権者は、まず売るのをやめさせ、次に失った利益を取り戻したいと考えます。前者が100条の差止請求で、後者が民法709条の損害賠償請求です。ところが発明は目に見えない技術なので、相手の工場で何が行われ、どれだけ損をしたのかを外から証明するのは困難です。そこで特許法は、損害額・過失・生産方法の推定や、具体的態様の明示義務、書類の提出命令や査証、営業秘密を守る秘密保持命令といった訴訟上の特則を置いています。

裁判所の法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判官」)で法壇に座る。原告席に特許権者の男性(札「特許権者」)が「特許発明の製品」と書かれた箱を抱えて立ち、吹き出し「相手の工場で何がどれだけ作られたのか、私には外から分からない」。被告席に侵害者の

100条の差止請求は故意・過失を要件とせず、侵害するおそれがある者にも請求でき、廃棄や設備の除却も併せて請求できます

100条1項は、特許権者又は専用実施権者が、自己の特許権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、侵害の停止又は予防を請求できると定めます。特許権は独占権なので、侵害が続いている状態そのものを止めることに意味があり、相手の主観は問いません。侵害の停止を求める訴訟で「被告が自己に過失がないことを主張立証すれば、原告の請求は棄却される」という枝は誤りです(過失は損害賠償の要件であって、差止の要件ではないからです)。2項は、差止請求をするに際し、「侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる」と定めており、この枝は正しいです。廃棄と除却は並んで認められているので、物を生産する方法の発明の特許権者は物の廃棄を求めることができるが「その侵害の行為に供した設備の除却を求めることはできない」という枝は誤りです。物を生産する方法の特許発明では、侵害の行為により生じた物も組成した物に含まれます(100条2項かっこ書)。廃棄や除却の請求は差止請求をするに際して行う付随的な請求なので、差止請求と切り離して廃棄だけを求めることはできません。

102条は損害額の立証を助けるために、1項の逸失利益、2項の利益額の推定、3項の実施料相当額の三つの計算を置いています

損害賠償の根拠は民法709条で、特許法は損害の額の立証を助ける規定だけを置きます。1項は、侵害者が譲渡した物の数量に特許権者の単位数量当たりの利益の額を乗じた額を損害の額とできる逸失利益の規定で、特許権者の実施の能力に応じた数量を超えない部分に限られ、販売することができないとする事情に相当する数量(特定数量)は控除されます。令和元年改正で1項に2号が加わり、実施相応数量を超える数量や特定数量についても、特許権者が実施許諾をし得たと認められる場合には実施料相当額を併せて損害の額にできるようになりました。そのため、特定数量に応じた額については「特許権者自らが販売することができないとする事情に相当する数量に応じた額については、同条項に基づく損害の額とすることができない」という枝は誤りです。2項は、侵害者がその侵害の行為により利益を受けているときは「その利益の額は、特許権者が受けた損害の額と推定する」という規定で、この枝は正しいです。3項は、特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額を損害の額として請求できる規定です。

三つの段に分かれた図。上段に札「102条1項:逸失利益」と、横に並んだ製品の箱の列があり、左側の箱の束に札「実施相応数量まで:単位数量当たりの利益の額×数量」、右側の残りの箱に札「超えた分・特定数量:2号で実施料相当額」。中段に札「102条
  • 102条1項(逸失利益)侵害品の譲渡数量×特許権者の単位数量当たりの利益の額です。実施相応数量を超えない部分に限り、特定数量を控除します。超えた分と特定数量には2号で実施料相当額を併せられます
  • 102条2項(利益額の推定)侵害者が侵害の行為により受けた利益の額を特許権者の損害の額と推定します
  • 102条3項(実施料相当額)特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額を損害の額として請求できます。4項で、侵害があったことを前提として合意するとしたならば得られる対価を考慮できます
  • 102条5項3項の額を超える損害の賠償の請求を妨げません。侵害者に故意又は重大な過失がなかったときは裁判所が賠償の額を定めるについて参酌できますが、3項の額を下回ることはできません

3項の実施料相当額は賠償の最低限で、5項の軽過失の参酌があっても下回れず、「通常受けるべき」の語は平成10年改正で削られています

3項の金額は、特許権者が自ら実施していなくても請求できる賠償の最低限です。5項前段は3項の額を超える請求を妨げないと定め、後段は侵害者に故意又は重大な過失がなかったときに裁判所が賠償の額を定めるについてこれを参酌できると定めますが、参酌できるのは3項の額を超える部分についてです。侵害者に故意又は重大な過失がなかったとき「実施料相当額より少ない額を損害の賠償の額として認定することができる」という枝は誤りです。また、3項の文言は平成10年改正前は「通常受けるべき金銭の額」でしたが、通常の実施料率に縛られて賠償が低くなる問題から「通常」が削られました。102条3項が「その特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の金銭」を請求できる旨を規定するという枝は誤りです。令和元年改正で加わった4項は、侵害があったことを前提として合意するとしたならば得られる対価を考慮できると定め、事後的な交渉を前提とする分だけ通常の実施料より高くなり得ることを明らかにしました。

103条の過失の推定と104条の生産方法の推定は、特許権者が証明しにくい事実の立証責任を侵害者側に移します

103条は、他人の特許権又は専用実施権を侵害した者はその侵害の行為について過失があったものと推定すると定めます。特許の内容は特許掲載公報で公示されており、事業者には調査が期待できるからです。「他人の専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があったものと推定する」という枝は正しいです。みなすのではなく推定なので、侵害者は無過失を立証して覆すことができます。104条は、物を生産する方法の発明について、「その物が特許出願前に日本国内において公然知られた物でないときは、その物と同一の物は、その方法により生産したものと推定する」と定めており、この枝は正しいです。相手の工場の中でどの方法が使われているかは特許権者には分からないので、新しい物については方法の使用を推定して立証責任を転換する趣旨です。要件は日本国内において公然知られた物でないことで、外国で公然知られていたかどうかは問いません。これも推定なので、侵害者は別の方法で生産したことを立証して覆せます。実用新案法には27条に差止請求権、29条に損害の額の推定があり、30条で104条の2から105条まで、105条の2の11から106条までを準用しますが、方法の考案はないので104条の生産方法の推定はありません。

工場の門の前の場面。先生が特許権者役(札「特許権者」)で立ち、手に「特許:物Pを生産する方法」と書かれた特許証を持つ。工場の門は閉まっており、門には「立入禁止」の札、門の中から「物P」と書かれた箱が運び出されている。工場主の男性(札「侵害者

侵害訴訟の特則として、具体的態様の明示義務、書類の提出命令、査証、相当な損害額の認定、秘密保持命令、信用回復の措置があります

104条の2は、特許権者が侵害の行為を組成したものとして主張する物又は方法の具体的態様を相手方が否認するときは、相手方は自己の行為の具体的態様を明らかにしなければならないと定めます。ただし明らかにすることができない相当の理由があるときは除かれ、明らかにしない場合の制裁も定められていません。相当な理由がないのに明らかにしないときは「その物又は方法の具体的態様に関する原告の主張を真実と認めなければならない」という枝は誤りです。105条1項の書類の提出命令は、当事者の申立てにより、当該侵害行為について立証するため、又は当該侵害の行為による損害の計算をするため必要な書類又は電磁的記録の提出を命ずるものです。損害の計算用に限られ「当該侵害行為について立証するため必要な書類の提出を命ずることはできない」という枝は誤りです(平成11年改正で侵害行為の立証用も対象になりました)。令和元年改正で入った105条の2の査証は、裁判所が相手方の意見を聴いて中立の査証人に相手方の工場などで書類等の確認・作動・計測・実験をさせる制度です。「侵害が疑われる物の所持者である相手方に対しては、意見を聴くことなく査証を命じることができる」という枝は誤りです。105条の3は、損害が生じたことが認められる場合に損害額を立証する事実の立証が性質上極めて困難であるときは裁判所が相当な損害額を認定できると定め、「損害が生じたことが認められる場合、相当な損害額を認定することができる」という枝は正しいです。105条の4の秘密保持命令は、特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟で、当事者の申立てにより営業秘密の使用・開示を制限する決定です。侵害に係る訴訟に限られるので、特許無効審判の審決に対する取消訴訟で「裁判所は、当事者の申立てにより、特許法上の秘密保持命令を発することができる」という枝は誤りです。命令に違反すると200条の3で処罰され、告訴がなければ公訴を提起できず、日本国外で犯した者にも適用されます。106条の信用回復の措置は、故意又は過失により侵害して業務上の信用を害した者に対し、損害の賠償に代え、又は損害の賠償とともに命じられます。損害の賠償に代えて命ずることはできるが「損害の賠償とともに当該措置を命ずることはできない」という枝は誤りです。

裁判所の一室の場面。先生が裁判官役(札「裁判官」)で机に座り、机の上に「査証命令」と書かれた決定書を置いている。右に査証人の男性(札「査証人」)が計測器を持って立ち、左に相手方の男性(札「相手方」)が立って吹き出し「私の工場に入られる前に、
  • 104条の2(具体的態様の明示義務)相手方が否認するときは自己の行為の具体的態様を明らかにする義務です。相当の理由があれば免れ、違反への制裁規定はありません
  • 105条(書類の提出等)当事者の申立てで、侵害の立証用・損害計算用の書類又は電磁的記録の提出を命じます。正当な理由があれば拒め、裁判所はその判断のため所持者に提示させることができます(105条2項)。5項で検証の目的の提示に準用します
  • 105条の2〜105条の2の10(査証)当事者の申立てで、相手方の意見を聴いて査証人に査証を命じます。侵害を疑うに足りる相当な理由と、他の手段では証拠収集ができない見込みが要件で、決定には即時抗告ができます
  • 105条の2の12(損害計算のための鑑定)裁判所が鑑定を命じたとき、当事者は鑑定人に必要な事項を説明しなければなりません
  • 105条の3(相当な損害額の認定)損害の発生は認められるが額の立証が極めて困難なとき、裁判所が相当な損害額を認定できます
  • 105条の4〜105条の6(秘密保持命令)侵害に係る訴訟で、当事者の申立てにより決定で営業秘密の使用・開示を禁じます。効力は電子決定書の送達時から生じ、違反は200条の3の親告罪で国外犯も処罰されます
  • 106条(信用回復の措置)故意又は過失による侵害で業務上の信用を害した者に、損害の賠償に代え又はとともに命じます
特許法100条

特許権者又は専用実施権者は、自己の特許権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 特許権者又は専用実施権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(物を生産する方法の特許発明にあつては、侵害の行為により生じた物を含む。第百二条第一項において同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。

特許法102条3項・5項

3 特許権者又は専用実施権者は、故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対し、その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。
5 第三項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、特許権又は専用実施権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。

特許法104条

物を生産する方法の発明について特許がされている場合において、その物が特許出願前に日本国内において公然知られた物でないときは、その物と同一の物は、その方法により生産したものと推定する。

試験ではこう問われる

  1. 差止(100条)に故意・過失は不要。「被告が自己に過失がないことを主張立証すれば、原告の請求は棄却される」という枝は誤り。廃棄と設備の除却の両方を請求できる
  2. 102条1項は特定数量を控除するが、令和元年改正の2号で特定数量にも実施料相当額を併せられる。「損害の額とすることができない」という枝は誤り
  3. 102条2項は侵害者の利益の額を損害の額と推定する。3項は「受けるべき金銭の額」で、「通常受けるべき」は平成10年改正で削除済み
  4. 102条5項の軽過失の参酌は3項の額を超える部分だけ。「実施料相当額より少ない額を損害の賠償の額として認定することができる」という枝は誤り
  5. 103条は過失の推定(みなしではない)。104条は日本国内において公然知られた物でないことが要件で、外国で知られていても推定される。実用新案法に104条の準用はない
  6. 104条の2の明示義務に制裁規定はなく、「原告の主張を真実と認めなければならない」という枝は誤り。105条の提出命令は侵害の立証用の書類も対象
  7. 査証は相手方の意見を聴いてから命じる。「意見を聴くことなく査証を命じることができる」という枝は誤り。105条の3は損害の発生が認められるときに相当な損害額を認定できる
  8. 秘密保持命令は侵害に係る訴訟に限られ、審決取消訴訟では発せられない。違反は親告罪で国外犯も処罰。106条の信用回復の措置は損害の賠償に代え又はとともに命じられる

この用語が問われた枝

令和4年度 問4 枝イ正しい

特許権者は、自己の特許権を侵害する者に対し、その侵害の停止又は予防を求める際に、侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。

令和6年度 問15 枝イ誤り

物を生産する方法の発明の特許権者は、自己の特許権を侵害する者に対し、侵害の行為により生じた物の廃棄を求めることができるが、その侵害の行為に供した設備の除却を求めることはできない。

令和4年度 問12 枝イ誤り

特許権を侵害する者を被告として侵害の停止を求める訴訟において、被告が自己に過失がないことを主張立証すれば、原告の請求は棄却される。

令和3年度 問2 枝イ誤り

特許権者が、特許法第102条第1項の規定に基づいて、自己の特許権を侵害した者に対し、その侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合、特許権を侵害した者が譲渡した物の数量のうち、特許権者自らが販売することができないとする事情に相当する数量に応じた額については、同条項に基づく損害の額とすることができない。

枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。

特許・実用新案を肢別演習で解く

この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。

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