間接侵害(101条)かんせつしんがい
間接侵害とは、特許発明の実施そのものではないものの、その物の生産にのみ用いる物の譲渡等や、課題の解決に不可欠なものの譲渡等、譲渡等又は輸出のための所持のように、直接侵害を誘発する蓋然性が高い行為を、特許法101条が特許権又は専用実施権を侵害するものとみなす仕組みです。条文の見出しは「侵害とみなす行為」で、みなし侵害とも呼びます。
特許された掃除機を完成させるために、その掃除機にしか使えない専用の部品を売っている業者がいるとします。部品は掃除機そのものではないので、部品を売る行為は特許発明の実施(2条3項)には当たらず、本来なら特許権の侵害にはなりません。しかし、その部品を買った人が掃除機を組み立てれば直接侵害が起き、特許権者が組み立てた一人ひとりを追いかけるのは現実的ではありません。そこで101条は、直接侵害を誘発する蓋然性が特に高い行為を六つ選び、特許権又は専用実施権を侵害するものとみなしています。これが間接侵害です。

101条は、物の発明について三つ、方法の発明について三つの行為を侵害とみなします
101条1号から3号までは特許が物の発明についてされている場合、4号から6号までは方法の発明についてされている場合の規定です。1号と4号は「にのみ用いる物」の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出、2号と5号は「課題の解決に不可欠なもの」の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出、3号と6号は業としての譲渡等又は輸出のための所持を対象にします。譲渡等は2条3項1号のとおり譲渡及び貸渡しをいい、譲渡等の申出には譲渡等のための展示を含みます。1号・2号・4号・5号は「業として」行う行為に限られ、3号・6号も「業としての」譲渡等又は輸出のための所持に限られます。6号は物を生産する方法の発明について、その方法により生産した物の所持を対象にする点で3号と違います。
- 1号(物の発明)業として、その物の生産にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為です
- 2号(物の発明)その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く)であって課題の解決に不可欠なものにつき、特許発明であること及び実施に用いられることを知りながら、業として、生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為です
- 3号(物の発明)その物を業としての譲渡等又は輸出のために所持する行為です
- 4号(方法の発明)業として、その方法の使用にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為です
- 5号(方法の発明)その方法の使用に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く)であって課題の解決に不可欠なものにつき、特許発明であること及び実施に用いられることを知りながら、業として、生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為です
- 6号(物を生産する方法の発明)その方法により生産した物を業としての譲渡等又は輸出のために所持する行為です
1号・4号の「にのみ用いる物」は、行為者が特許発明を知っていたかを問わず、広く一般に流通しているものを除く定めもありません
1号と4号は、その物の生産や方法の使用にしか使い道がない物を対象にします。他の用途がない物を業として扱う以上、それが特許発明の実施に使われることは物の性質から明らかなので、行為者の主観を要件にしていません。また、他の用途がない物が日本国内において広く一般に流通していることは考えにくいので、2号・5号にある流通品の除外もありません。物の発明について「その物の生産にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」は特許権を侵害するものとみなされるという枝は正しいです。方法の発明について、その方法の使用にのみ用いる物の生産が「その物が日本国内において広く一般に流通しているものであれば、当該特許権を侵害するものとはみなされない」という枝は誤りです(流通品の除外は5号の要件で、4号にはないからです)。みなし侵害も侵害なので、100条の差止請求の対象になります。物を生産する方法の発明も方法の発明に含まれ、4号の譲渡等の申出には貸渡しの申出も入るので、その方法の使用にのみ用いる物の貸渡しの申出の停止も請求できます。

2号・5号の「課題の解決に不可欠なもの」は、特許発明であること及び実施に用いられることを知りながら行うことが要件で、過失では成立せず、推定規定もありません
2号と5号は、他の用途もあり得る物まで対象を広げる代わりに、二つの絞りを掛けています。一つは客観面で、課題の解決に不可欠なものに限り、日本国内において広く一般に流通しているもの(ねじや汎用の部材など)を除くことです。もう一つは主観面で、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることの両方を知りながら行うことです。どちらかを知らなかった場合は、たとえ過失があっても間接侵害にはなりません。不可欠なものにつき「過失により知らずに、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」が特許権を侵害するものとみなされるという枝は誤りです。知りながら行えばみなし侵害になるが「過失により知らなかった場合であっても、特許権を侵害するものとみなされる」という枝も誤りです。103条の過失の推定は損害賠償の場面で侵害者の過失を推定する規定であり、2号の「知りながら」を推定する規定は特許法にありません。販売者が「その発明が特許発明であることを知っていた場合」には実施に用いられることを知っていたと推定されるという枝は誤りです。課題の解決に不可欠なものは、請求項に記載された発明特定事項と同じ概念ではありません。不可欠なものとは「請求項に記載された発明の構成要素とは異なる概念であり」、構成要素以外の道具や原料も含まれ得るという枝は正しいです。

3号・6号の所持は譲渡等又は輸出のための所持に限られ、使用のための所持は含みません
3号と6号は平成18年改正で加わった規定で、侵害品を売る直前の段階、つまり業としての譲渡等又は輸出のために所持する行為を捉えます。譲渡の申出や輸出に至る前に差止めができるようにする趣旨なので、所持の時点で成立します。「いまだその譲渡の申出がされていなくても、特許権を侵害するものとみなされる」という枝は正しいです。物を生産する方法の発明について、その方法により生産した物を「実際にその物を輸出する前であっても、当該特許権を侵害するものとみなされる」という枝も正しいです。譲渡等には貸渡しが含まれるので、生産した物を「業としての貸渡しのために所持する行為は、特許権を侵害する行為とみなされる」という枝は正しいです。反対に、使用のための所持は条文に書かれていないので、物の発明について「その物を業としての使用のために所持する行為は、当該特許権を侵害するものとみなされる」という枝は誤りです(使用そのものは2条3項1号の実施として直接侵害になりますが、使用のための所持は101条のどの号にも当たらないからです)。1号の行為と3号の行為を一つの枝で並べ、専用品の譲渡等が侵害とみなされ「その物を業としての譲渡又は輸出のために所持する行為についても、当該特許権を侵害するものとみなされる」という枝は正しいです。

みなし侵害の罰則は196条の2で直接侵害より軽く、実用新案法にも28条に同じ仕組みがあります
101条の行為は民事上は特許権の侵害と同じに扱われ、差止請求(100条)と損害賠償請求の対象になります。刑事上も処罰されますが、直接侵害の侵害の罪(196条)は10年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金又はその併科であるのに対し、みなし侵害は196条の2で5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又はその併科と、別の条文で軽く定められています。101条の行為を行った者に科される法定刑の上限が「特許権を侵害した者に科される法定刑の上限と同じである」という枝は誤りです。貸渡しのために所持する行為が「差止請求や損害賠償請求の対象とされることはあっても、処罰の対象になることはない」という枝も誤りです。令和4年の刑法改正前の枝では懲役と書かれていますが、現行法は拘禁刑です。実用新案法28条は、登録実用新案に係る物品の製造にのみ用いる物(1号)、課題の解決に不可欠なもの(2号)、物品の譲渡、貸渡し又は輸出のための所持(3号)の三つを定め、方法の考案がないので号は三つだけです。登録実用新案に係る物品を業としての「譲渡、貸渡し又は輸出のために所持する行為は、当該実用新案権を侵害するものとみなされる」という枝は正しいです。意匠法38条と商標法37条にも侵害とみなす行為の規定がありますが、商標法37条は登録商標に類似する商標の使用など類型が広く、特許法の2号・5号のような主観要件はありません。
特許法101条次に掲げる行為は、当該特許権又は専用実施権を侵害するものとみなす。
一 特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
二 特許が物の発明についてされている場合において、その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
三 特許が物の発明についてされている場合において、その物を業としての譲渡等又は輸出のために所持する行為
四 特許が方法の発明についてされている場合において、業として、その方法の使用にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
五 特許が方法の発明についてされている場合において、その方法の使用に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
六 特許が物を生産する方法の発明についてされている場合において、その方法により生産した物を業としての譲渡等又は輸出のために所持する行為
特許法196条の2第百一条の規定により特許権又は専用実施権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者は、五年以下の拘禁刑若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
試験ではこう問われる
- 1号・4号の「にのみ用いる物」は主観不要で、流通品の除外もない。方法の使用にのみ用いる物の生産が「その物が日本国内において広く一般に流通しているものであれば、当該特許権を侵害するものとはみなされない」という枝は誤り
- 2号・5号は「知りながら」が要件。「過失により知らずに」生産・譲渡等をする行為や「過失により知らなかった場合であっても」みなされるという枝は誤り
- 「知りながら」を推定する規定はない。特許発明であることを知っていた場合に実施に用いられることを「知っていたと推定される」という枝は誤り(103条の過失の推定とは別)
- 課題の解決に不可欠なものは発明の構成要素と別の概念で、道具・原料も含まれ得る
- 3号・6号の所持は譲渡等(貸渡しを含む)又は輸出のための所持。譲渡の申出前でも輸出前でもみなし侵害になる。「使用のために所持する行為」がみなされるという枝は誤り
- みなし侵害の法定刑は196条の2(5年以下の拘禁刑・500万円以下の罰金)で、196条の直接侵害(10年以下・1000万円以下)より軽い。「法定刑の上限と同じである」「処罰の対象になることはない」という枝はいずれも誤り
- 実用新案法28条は物品の製造にのみ用いる物・不可欠なもの・譲渡、貸渡し又は輸出のための所持の3号だけ。方法の考案はない
この用語が問われた枝
特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為は、当該特許に係る特許権を侵害するものとみなされる。
特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産にのみ用いる物の生産、譲渡若しくは輸入又は譲渡の申出をする行為は、当該特許権を侵害するものとみなされ、また、その物を業としての譲渡又は輸出のために所持する行為についても、当該特許権を侵害するものとみなされる。
特許が方法の発明についてされている場合において、業として、その方法の使用にのみ用いる物の生産をする行為は、その物が日本国内において広く一般に流通しているものであれば、当該特許権を侵害するものとはみなされない。
特許法第101条第2号(侵害とみなす行為)に規定する「発明による課題の解決に不可欠なもの」とは、請求項に記載された発明の構成要素とは異なる概念であり、発明の構成要素以外にも、物の生産や方法の使用に用いられる道具、原料なども含まれ得る。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。