罰則(侵害罪・詐欺行為・虚偽表示・偽証・秘密漏示・両罰 196〜202条、187・188条)ばっそく
罰則とは、特許法第11章(196条〜204条)が定める刑罰と過料の規定で、侵害の罪(196条・196条の2)、詐欺の行為の罪(197条)、虚偽表示の罪(198条)、偽証等の罪(199条)、秘密を漏らした罪(200条・200条の2)、秘密保持命令違反の罪(200条の3)、両罰規定(201条)、過料(202条〜204条)からなります。虚偽表示の罪が罰する行為は188条が定め、187条は特許表示を付する努力義務です。
特許権を侵害した人には、差止めや損害賠償といった民事の責任のほかに、刑罰という国家の制裁もあります。特許権は国が審査して与えた権利で、その侵害や、審査官を欺いて特許を取る行為、特許でない物に特許表示を付ける行為は、権利者だけでなく特許制度への信頼そのものを傷つけるからです。特許法は第11章にこれらの罪と、審判で嘘の証言をする偽証等の罪、職員や査証人の秘密漏示、秘密保持命令違反を並べ、法人の業務として行われたときに法人にも罰金を科す両罰規定を置いています。

侵害の罪(196条)は告訴がなくても起訴できる非親告罪で、みなし侵害は196条の2で軽く定められ、現行の刑は懲役ではなく拘禁刑です
196条は、特許権又は専用実施権を侵害した者を10年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科すると定めます。侵害の罪は平成10年改正で親告罪から非親告罪になったので、「特許権の侵害の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない」という枝は誤りです(平成10年改正前の古い枝では親告罪として出ています)。101条のみなし侵害を行った者は196条のかっこ書で除かれ、196条の2で5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又はその併科と別に定められています。侵害した者の刑の上限が101条の「侵害する行為とみなされる行為を行った者に対する懲役刑及び罰金額の上限と同じである」という枝は誤りです。刑の種類は、令和4年の刑法改正で懲役と禁錮が拘禁刑に一本化されたのに合わせて拘禁刑になっており、令和7年度以前の枝にある懲役は現行では拘禁刑と読み替えます。
詐欺の行為の罪(197条)と虚偽表示の罪(198条)はどちらも刑罰で、両罰規定(201条)により法人には行為者より重い罰金刑が科されます
197条は、詐欺の行為により特許、特許権の存続期間の延長登録、特許異議の申立てについての決定又は審決を受けた者を3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金に処します。審査官や審判官を欺いて特許や審決を得る行為で、国家の審査・審判作用を害する罪なので、相手方の告訴は要りません。無効審判で審判官を欺いて審決を受けた「甲の詐欺の行為の罪については、乙の告訴がなければ公訴を提起することができない」という枝は誤りです。除斥の決定など、197条に列挙されていない処分を受けても詐欺の行為の罪にはなりません。198条は188条の虚偽表示の禁止に違反した者を3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金に処する刑罰で、過料ではありません。特許に係る物以外の物又はその包装に「特許表示を付した者は、過料に処せられる」という枝は誤りです。201条の両罰規定は、法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者がその法人又は人の業務に関し違反行為をしたときに、行為者を罰するほか、その法人に対して各号で定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科すと定めます。法人の罰金刑は、侵害の罪・みなし侵害の罪・秘密保持命令違反の罪が3億円以下、詐欺の行為の罪・虚偽表示の罪が1億円以下です。従業者が審査官を欺いて特許を受けた場合に「法人に対しては両罰規定により」300万円以下の罰金刑が科されるという枝は誤りです(法人には1億円以下の罰金刑だからです)。業務主が自然人のときも各本条の罰金刑が科されるので、「甲が自然人であるときは甲に対して罰金刑が科されることはない」という枝は誤りです。

- 侵害の罪(196条)10年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金又は併科です。非親告罪で、101条のみなし侵害は除きます
- みなし侵害の罪(196条の2)5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又は併科です
- 詐欺の行為の罪(197条)特許・延長登録・特許異議の申立てについての決定・審決を詐欺の行為により受けた者に3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金です
- 虚偽表示の罪(198条)188条に違反した者に3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金です
- 偽証等の罪(199条)宣誓した証人・鑑定人・通訳人の虚偽の陳述・鑑定・通訳に3月以上10年以下の拘禁刑です。罰金刑はなく、判定の謄本の送達又は決定・審決の確定前の自白で減軽・免除できます
- 秘密を漏らした罪(200条・200条の2)特許庁の職員(元職員を含む)、査証人(元査証人を含む)が職務・査証で知った秘密を漏らし又は盗用したときに1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です
- 秘密保持命令違反の罪(200条の3)5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又は併科です。親告罪で、国外犯にも適用します
- 両罰規定(201条)法人には侵害・みなし侵害・秘密保持命令違反が3億円以下、詐欺・虚偽表示が1億円以下の罰金刑です。人(自然人の業務主)には各本条の罰金刑です
- 過料(202条〜204条)宣誓した当事者本人等の虚偽の陳述、正当な理由のない不出頭・証言拒否等、書類の不提出等に10万円以下の過料です
偽証等の罪(199条)は宣誓した証人・鑑定人・通訳人を拘禁刑だけで罰し、確定前の自白で減免でき、当事者本人の虚偽の陳述は過料にとどまります
199条1項は、この法律の規定により宣誓した証人、鑑定人又は通訳人が特許庁又はその嘱託を受けた裁判所に対し虚偽の陳述、鑑定又は通訳をしたときに3月以上10年以下の拘禁刑に処すると定め、罰金刑を置いていません。宣誓した証人が「虚偽の陳述をしたときでも、罰金刑に処されることはない」という枝は正しいです。虚偽の陳述とは自己の記憶に反する陳述をいうので、たまたま客観的真実に合っていても罪は成立し得ます。記憶に反するが「客観的真実に合致するならば、当該陳述について偽証等の罪が成立することはない」という枝は誤りです。判定にも71条3項で151条の証人尋問の規定が準用されるので、判定の手続で「証人として宣誓の上で虚偽の陳述をしたときは、偽証の罪に当たる」という枝は正しいです。2項は、事件の判定の謄本が送達され、又は特許異議の申立てについての決定若しくは審決が確定する前に自白したときは刑を減軽し、又は免除することができると定め、「当該審判の審決が確定する前に自白したときは、懲役刑を減軽し、又は免除することができる」という枝は正しいです(枝の懲役刑は現行では拘禁刑です)。宣誓した当事者本人や法定代理人の虚偽の陳述は刑罰ではなく202条の10万円以下の過料で、呼出しを受けた者が正当な理由なく「宣誓、陳述、証言、鑑定若しくは通訳を拒んだときは、過料に処せられる」という枝も正しいです(203条)。

秘密を漏らした罪は特許庁の職員と査証人を対象にし、秘密保持命令違反の罪だけが親告罪で、国外で犯した者にも適用されます
200条は特許庁の職員又はその職にあった者が職務に関して知得した特許出願中の発明に関する秘密を漏らし又は盗用した場合、200条の2は査証人又は査証人であった者が査証に関して知得した秘密を漏らし又は盗用した場合を、いずれも1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処します。これらに自白による減免の定めはありません。200条の3の秘密保持命令違反の罪は5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又はその併科で、2項が告訴がなければ公訴を提起することができないと定めるので、特許法の罰則の中で唯一の親告罪です。営業秘密の保護は権利者の意思に委ねるのがふさわしいからです。「秘密保持命令違反の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない」という枝は正しいです。3項は日本国外において罪を犯した者にも適用すると定めるので、「これを日本国外において犯した者には適用されない」という枝は誤りです。令和元年改正で200条の2(査証人の秘密漏示)が加わり、それまで200条の2だった秘密保持命令違反の罪は200条の3に繰り下がりました。

実用新案法の罰則は法定刑が軽く、侵害の罪にみなし侵害を除くかっこ書がなく、詐欺の行為の罪もあります
実用新案法56条の侵害の罪は5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又はその併科で、特許法196条のようにみなし侵害を除くかっこ書がないので、28条のみなし侵害も同じ条で処罰されます。57条の詐欺の行為の罪は詐欺の行為により実用新案登録又は審決を受けた者を1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処します。無審査登録であっても方式や基礎的要件の審査を欺く余地はあるので、実用新案法には「詐欺の行為により実用新案登録を受けた者を、懲役や罰金に処する旨の規定はない」という枝は誤りです。61条の両罰規定は、法人に対して侵害・秘密保持命令違反が3億円以下、詐欺・虚偽表示が3000万円以下の罰金刑を科しますが、行為者自身も罰せられます。法人の代理人が業務に関し実用新案権を侵害した場合に「その法人のその代理人は、罰金刑を科されることはない」という枝は誤りです。59条の偽証等の罪と60条の2の秘密保持命令違反の罪(親告罪・国外犯処罰)は特許法と同じ構造です。
特許法196条・196条の2特許権又は専用実施権を侵害した者(第百一条の規定により特許権又は専用実施権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者を除く。)は、十年以下の拘禁刑若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第百九十六条の二 第百一条の規定により特許権又は専用実施権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者は、五年以下の拘禁刑若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
特許法199条この法律の規定により宣誓した証人、鑑定人又は通訳人が特許庁又はその嘱託を受けた裁判所に対し虚偽の陳述、鑑定又は通訳をしたときは、三月以上十年以下の拘禁刑に処する。
2 前項の罪を犯した者が事件の判定の謄本が送達され、又は特許異議の申立てについての決定若しくは審決が確定する前に自白したときは、その刑を減軽し、又は免除することができる。
特許法200条の3秘密保持命令に違反した者は、五年以下の拘禁刑若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
3 第一項の罪は、日本国外において同項の罪を犯した者にも適用する。
特許法201条1項法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号で定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
一 第百九十六条、第百九十六条の二又は前条第一項 三億円以下の罰金刑
二 第百九十七条又は第百九十八条 一億円以下の罰金刑
試験ではこう問われる
- 侵害の罪は非親告罪(平成10年改正)。「告訴がなければ公訴を提起することができない」という枝は誤り。旧法の枝は親告罪で出ている
- 直接侵害は196条(10年以下・1000万円以下)、みなし侵害は196条の2(5年以下・500万円以下)で上限が違う。現行は懲役でなく拘禁刑
- 詐欺の行為の罪は特許・延長登録・異議の決定・審決を受けた者。告訴は不要。実用新案法57条にもある
- 虚偽表示(188条違反)は198条の刑罰で過料ではない。「過料に処せられる」という枝は誤り
- 両罰規定の法人の罰金は侵害・秘密保持命令違反が3億円以下、詐欺・虚偽表示が1億円以下。行為者も罰せられ、業務主が自然人でも各本条の罰金刑
- 偽証等の罪は宣誓した証人・鑑定人・通訳人で拘禁刑のみ(罰金なし)。記憶に反すれば客観的真実に合っても成立。判定の証人も対象。確定前の自白で減免。当事者本人の虚偽陳述は過料
- 秘密保持命令違反の罪は親告罪で国外犯も処罰(200条の3)。職員・査証人の秘密漏示(200条・200条の2)は非親告罪
この用語が問われた枝
特許権の侵害の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
特許権又は専用実施権を侵害した者に対する懲役刑及び罰金額の上限は、特許法第101 条の規定により特許権又は専用実施権を侵害する行為とみなされる行為を行った者に対する懲役刑及び罰金額の上限と同じである。
特許権者甲が、乙が請求した特許無効審判において、審判官を欺いて虚偽の資料を提出し、審判の請求は成り立たない旨の審決を受けた場合、甲の詐欺の行為の罪については、乙の告訴がなければ公訴を提起することができない。
特許に係る物以外の物又はその物の包装に、特許表示を付した者は、過料に処せられる。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。