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先使用権・中用権と再審回復後の使用権(32条・32条の2・33条・33条の3・59条・60条)せんしようけんちゅうようけんとさいしんかいふくごのしようけん

商標 第5章 商標権の効力・存続・移転・使用権 短答で11枝

先使用権とは、他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなく商標を使用していた結果、出願の際現にその商標が自己の業務に係る商品・役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている者が、継続してその商標を使用する権利です(32条)。中用権とは、無効審判の請求の登録前に無効理由を知らないで登録商標を使用し周知になっていた原商標権者等が継続して使用する権利で(33条)、再審で回復した商標権についても同様の継続使用権があります(60条)。

長年その土地で評判を築いてきた店の屋号を、よそから来た人が先に商標登録してしまうことがあります。登録した人が商標権者ですが、すでに需要者に知られている商標を使い続ける人まで侵害者にすると、需要者が混乱し、積み上げた信用も失われます。そこで32条は、出願の際に周知になっていた先使用者に継続使用を認めました。無効になった登録を信じて使い続けた人の中用権(33条)、再審で商標権が復活したときに善意で使っていた人の継続使用権(60条)も同じ考えです。

商店街の店先の場面。先生が弁理士役(札「弁理士」)で、古い暖簾に「山田屋」と書かれた老舗の前に立ち、店主の男性(札「先使用者」)と話している。店の壁に「創業から当地で評判」と書かれた額。向かいから別の男性(札「商標権者」)が「登録商標:山田

先使用権は他人の出願前から不正競争の目的でなく使用し、出願の際に周知であることが要件で、特許法の先使用権と違って周知性が要ります

32条1項は、他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなく、その出願に係る指定商品・指定役務又はこれらに類似する商品・役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた結果、その商標登録出願の際現にその商標が自己の業務に係る商品・役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、その者は継続してその商品・役務についてその商標の使用をする権利を有すると定めます。特許法79条の先使用権は発明の実施の事業の準備で足りますが、商標の先使用権は出願の際の周知性が要件で、周知になっていない商標には先使用権がありません。不正競争の目的でなく使用していたことも要件なので、出願の際に周知であり継続して使用していても「その商標の使用をする権利を有さない場合がある」という枝は正しいです(不正競争の目的で使用していた場合だからです)。出願が補正により手続補正書を提出した時にしたものとみなされたときは、もとの出願の際又は補正書を提出した際で周知性を見ます。

先使用権の範囲は使用していた商品・役務と商標に限られ、業務を承継した者だけに承継され、質権は設定できません

先使用権は、継続して「その商品又は役務についてその商標の使用をする」権利です。出願の際に使用していた商品と類似する商品に広げる権利ではなく、使用していた登録商標と同一の商標であっても、その使用に係る商品に類似する商品には先使用権の行使として使用をすることができません。32条1項後段は、当該業務を承継した者についても同様とすると定めます。業務と結びついた権利なので、先使用権だけを切り離して譲ることはできず、この権利が「当該業務を承継していない者に承継される場合はない」という枝は正しいです。質権の目的になるのは商標権・専用使用権・通常使用権だけなので(34条1項)、先使用権は業務を承継した者に移転できるが「質権を設定することはできない」という枝は正しいです。商標権者又は専用使用権者は、先使用権者に対し、混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求できます(32条2項)。対価の規定はありません。

図の中央に二つの枠を並べた図式。左の枠は「特許法79条の先使用権」と題し、中に「出願の際に実施の事業をしている、又は準備をしている」「周知性は要らない」の札。右の枠は「商標法32条の先使用権」と題し、中に「出願前から不正競争の目的でなく使用

地域団体商標に対する先使用権(32条の2)は周知性が要件ではありません

地域団体商標は地域の名称と商品名の組合せなので、その地域で以前から同じ名称を使っていた事業者は多くいます。32条の2第1項は、他人の地域団体商標の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた者は、継続してその商品・役務についてその商標の使用をする権利を有するとし、周知性を要件にしていません。「その商標が周知となっていなくても、その商標を使用する権利」を有するという枝は正しく、「いわゆる周知であることを要件として」先使用権を有するという枝は誤りです。この場合も商標権者は混同防止表示を請求できます(32条の2第2項)。

中用権は無効審判の請求の登録前に無効理由を知らないで使用し周知になっていた原商標権者等の継続使用権で、商標権者は相当の対価を請求できます

33条1項は、同一・類似の指定商品・指定役務について使用をする同一・類似の商標についての2以上の商標登録のうちその1つを無効にした場合の原商標権者(1号)、商標登録を無効にして正当権利者に商標登録をした場合の原商標権者(2号)、これらの場合に無効審判の請求の登録の際現にその商標権について専用使用権又は31条4項の効力を有する通常使用権を有する者(3号)が、46条1項の審判の請求の登録前に商標登録が無効理由に該当することを知らないで日本国内において登録商標等の使用をし、その商標が周知になっていたときは、継続してその商品・役務についてその商標の使用をする権利を有すると定めます。業務を承継した者も同様です。登録を信じて使ってきた者を守る制度なので、無効理由を知らなかったことが要件です。防護標章と抵触することを知っていた甲について「いかなる場合も甲は継続してその商品についてその商標の使用をすることができる」という枝は誤りです。先使用権と違い、商標権者又は専用使用権者は中用権者から相当の対価を受ける権利を有します(33条2項)。商標権者は「相当の対価を受ける権利を有することはない」という枝は誤りです。32条2項も準用されるので、商標権者が中用権者に「混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求することができる」という枝は正しいです。中用権は無効審判の場合の制度で、登録異議の申立てによる取消決定が確定した場合には置かれていません。「商標登録を取り消すべき旨の決定が確定した場合」に原商標権者が継続使用権を有するという枝は誤りです。

特許庁の審判廷の場面。先生が審判官役(札「審判官」)で壇上に座り、「無効審決:甲の商標登録を無効とする」と書かれた紙を手にしている。請求人席に男性(札「乙(商標権者)」)、被請求人席に男性(札「甲(原商標権者)」)が座る。甲の吹き出し「無効

先使用権と中用権

主体他人の出願前から使用していた者と業務承継人です無効になった登録の原商標権者、その専用使用権者・登録通常使用権者と業務承継人です
要件不正競争の目的でないこと、出願の際の周知性です無効理由を知らないこと、請求の登録前の使用と周知性です
商標権者の請求混同防止表示の請求だけです(32条2項)相当の対価の請求(33条2項)と混同防止表示の請求(33条3項)です
移転・質権業務とともにのみ承継され、質権は設定できません業務とともにのみ承継され、質権は設定できません

再審で回復した商標権の効力は善意の使用には及ばず、善意の使用で周知になった者には継続使用権があります

取り消し又は無効にした商標登録に係る商標権が再審により回復したときは、取消決定・審決が確定した後再審の請求の登録前における指定商品・指定役務についての登録商標の善意の使用と、善意にした37条各号の行為には、商標権の効力が及びません(59条)。及ばないのは善意の使用に限られるので、回復した商標権の効力が審決確定後再審の請求の登録前の「当該登録商標の使用に及ぶ場合がある」という枝は正しいです(善意でない使用には及ぶからです)。さらに60条1項は、その期間に善意に日本国内で登録商標等の使用をした結果、「再審の請求の登録の際現にその商標が自己の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは」、継続してその商標の使用をする権利を有すると定め、この枝は正しいです。拒絶審決があった出願について再審で設定登録があった場合も同じです。商標権者は混同防止表示を請求できます(60条2項)。これに対し、更新登録の申請を怠って消滅したものとみなされた商標権が21条で回復した場合には、22条で効力が制限されるだけで継続使用権の規定はなく、その間に周知になっても「その商品についてその商標の使用をする権利を有する」という枝は誤りです。

商標法32条

他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた結果、その商標登録出願の際(第九条の四の規定により、又は第十七条の二第一項若しくは第五十五条の二第三項(第六十条の二第二項において準用する場合を含む。)において準用する意匠法第十七条の三第一項の規定により、その商標登録出願が手続補正書を提出した時にしたものとみなされたときは、もとの商標登録出願の際又は手続補正書を提出した際)現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、その者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。
2 当該商標権者又は専用使用権者は、前項の規定により商標の使用をする権利を有する者に対し、その者の業務に係る商品又は役務と自己の業務に係る商品又は役務との混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求することができる。

商標法33条

次の各号のいずれかに該当する者が第四十六条第一項の審判の請求の登録前に商標登録が同項各号のいずれかに該当することを知らないで日本国内において指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について当該登録商標又はこれに類似する商標の使用をし、その商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたときは、その者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。
一 同一又は類似の指定商品又は指定役務について使用をする同一又は類似の商標についての二以上の商標登録のうち、その一を無効にした場合における原商標権者
二 商標登録を無効にして同一又は類似の指定商品又は指定役務について使用をする同一又は類似の商標について正当権利者に商標登録をした場合における原商標権者
三 前二号に掲げる場合において、第四十六条第一項の審判の請求の登録の際現にその無効にした商標登録に係る商標権についての専用使用権又はその商標権若しくは専用使用権についての第三十一条第四項の効力を有する通常使用権を有する者
2 当該商標権者又は専用使用権者は、前項の規定により商標の使用をする権利を有する者から相当の対価を受ける権利を有する。
3 第三十二条第二項の規定は、第一項の場合に準用する。

試験ではこう問われる

  1. 先使用権は出願の際の周知性と不正競争の目的がないことが要件。要件を並べた枝でも不正競争の目的があれば「使用をする権利を有さない場合がある」
  2. 範囲は使用していた商品・役務と商標で、使用していた商品と類似する商品には先使用権の行使として使用できない
  3. 先使用権は業務を承継した者だけに承継され、「承継していない者に承継される場合はない」。質権は設定できない。商標権者は混同防止表示を請求できるが対価は請求できない
  4. 地域団体商標の先使用権(32条の2)は「周知となっていなくても」認められ、周知性を要件とする枝は誤り
  5. 中用権は無効理由を知らないで使用し周知であることが要件。知っていた者に「いかなる場合も」継続使用を認める枝は誤り
  6. 中用権では商標権者が相当の対価を請求でき(33条2項)、「対価を受ける権利を有することはない」という枝は誤り。混同防止表示も請求できる
  7. 中用権は無効審判の制度で、「取り消すべき旨の決定が確定した場合」にはない
  8. 再審で回復した商標権の効力は善意の使用に及ばず(59条)、善意でない使用には「及ぶ場合がある」。善意で使用し再審の請求の登録の際に周知なら継続使用権(60条)。更新を怠った後の21条の回復には継続使用権の規定がない

この用語が問われた枝

令和2年度 問36 枝ハ正しい

他人の商標登録出願前から日本国内においてその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた結果、その商標登録出願の際現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されており、その者が、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をしていても、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有さない場合がある。

平成29年度 問38 枝ハ正しい

他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品についてその商標の使用をしていた結果、その商標登録出願の際、現にその商標が自己の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているとき、その者は、継続してその商品についてその商標の使用をする場合には、その商品についてその商標の使用をする権利を有する。この権利が、当該業務を承継していない者に承継される場合はない。

平成28年度 問36 枝ロ正しい

他人の登録商標について、先使用による商標の使用をする権利を有する者は、その業務を承継した者に対して当該使用をする権利を移転することができるが、当該使用をする権利を目的として質権を設定することはできない。

令和6年度 問35 枝ロ正しい

同一の指定商品について使用をする同一の商標についての2つの商標登録のうち、その1つを無効にした場合における原商標権者が商標登録の無効の審判の請求の登録前に自己の商標登録が無効理由のいずれかに該当することを知らないで日本国内において指定商品について当該登録商標の使用をし、その商標が自己の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたときは、その者は、継続してその商品についてその商標の使用をする場合は、その商品についてその商標の使用をする権利を有し、商標権者は、その者に対し、その者の業務に係る商品と自己の業務に係る商品との混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求することができる。

枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。

商標を肢別演習で解く

この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。

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