他人の特許権等・著作権との抵触と満了後の使用権(29条・33条の2・33条の3)たにんのとっきょけんとうちょさくけんとのていしょくとまんりょうごのしようけん
他人の特許権等・著作権との抵触とは、指定商品・指定役務についての登録商標の使用がその態様により、商標登録出願の日前の出願に係る他人の特許権・実用新案権・意匠権や、出願の日前に生じた他人の著作権・著作隣接権と抵触するときに、抵触する部分についてその態様では登録商標を使用できないとする29条の調整です。満了後の使用権とは、抵触していた特許権等の存続期間が満了したときに、原特許権者等が原権利の範囲内で登録商標等を使用できる33条の2・33条の3の権利です。
ボトルの形を立体商標として登録したら、その形について他人が先に特許権や意匠権を持っていた、歌の一節を音商標にしたら作曲家の著作権があった、ということは珍しくありません。商標法は登録の段階ではこれを拒絶理由にせず、権利が重なったときに誰が使えるかを29条で調整します。先に生まれた特許権等や著作権を尊重し、商標権者はその態様では使えないとする一方で、特許権等の期間が満了したあとは、それまで権利を持っていた側が引き続き使えるように33条の2・33条の3で使用権を与えました。

29条は、商標登録出願の日前の出願に係る他人の特許権・実用新案権・意匠権や出願の日前に生じた他人の著作権・著作隣接権と抵触する態様では登録商標を使用できないとします
29条は、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者が、指定商品・指定役務についての登録商標の使用がその使用の態様により、その商標登録出願の日前の出願に係る他人の特許権、実用新案権若しくは意匠権又はその商標登録出願の日前に生じた他人の著作権若しくは著作隣接権と抵触するときは、指定商品・指定役務のうち抵触する部分についてその態様により登録商標の使用をすることができないと定めます。制限されるのは使用の態様であって、商標登録そのものは妨げられません。他人の特許権の対象である商品の形状であっても、識別力があり4条1項18号に当たらなければ立体商標として登録され得るので、「立体商標として商標登録される場合はない」という枝は誤りです。市販のコンパクトディスクに収録された歌唱の一部を複製した音商標は、楽曲の著作権と歌手等の著作隣接権の双方と抵触するので、著作隣接権者からも許諾を受けなければ「その登録商標を自由に使用することはできない」という枝は正しいです。作曲家に作ってもらった楽曲を複製した音商標でも、作曲家の著作権は出願の日前に生じているので、商標登録を受けても「商標の使用が制限される場合はない」という枝は誤りです。著作権法と商標法の目的が違っても、著作物が同時に識別標識として商標法で保護されることはあり、29条はそれを前提に調整しているので、「商標法によって保護されることはない」という枝は誤りです。
29条の制限は混同防止表示を付しても解けず、相手の特許出願が商標登録出願より後なら29条の制限は受けません
29条には、32条2項のような混同防止表示の仕組みはありません。先に生じた他人の権利の範囲に入る使用を、表示を付けただけで許すわけにはいかないからです。他人の意匠権と抵触するときでも、混同防止表示をすれば登録商標の使用をすることができるわけではありません。29条が対象にするのは商標登録出願の日前の出願に係る特許権等だけです。特許出願の方が後であれば商標権者は29条の制限を受けず、後願の特許権者の側が特許法72条で実施を制限されます。特許権に係る出願日が後の場合に「抵触する部分は商標権者及び特許権者の双方とも互いに使用できなくなる」という枝は誤りです(この枝は商標権者が禁止権の範囲について使用許諾できるとも書いていますが、禁止権の範囲には使用権を設定できません)。

抵触していた特許権等の存続期間が満了すると、原特許権者は不正競争の目的でない限り原権利の範囲内で登録商標等を使用でき、商標権者に対価を受ける権利はありません
商標登録出願の日前又は同日の特許出願に係る特許権が商標権と抵触する場合において、その特許権の存続期間が満了したときは、原特許権者は、原特許権の範囲内において、指定商品・指定役務又はこれらに類似する商品・役務について登録商標又はこれに類似する商標の使用をする権利を有します(33条の2第1項本文)。特許の期間中は商標権者が使えなかった態様を、満了したとたんに特許権者から取り上げるのは不合理だからです。使用が不正競争の目的でされない場合に限られます(同項ただし書)。33条の2第2項が準用するのは32条2項の混同防止表示の請求だけで、中用権の33条2項のような対価の規定は準用されません。商標権者は「当該原特許権者から相当の対価を受ける権利を有する」という枝は誤りです。実用新案権・意匠権が抵触していた場合にも準用されるので(33条の2第3項)、意匠権の存続期間の満了後は、原意匠権者が原意匠権の範囲内において登録商標又はこれに類似する商標の使用をする権利を有します。満了の際に現にその特許権について専用実施権や通常実施権を有していた者にも、原権利の範囲内で不正競争の目的でない限り使用をする権利があります(33条の3第1項)。ただし33条の3第2項は32条2項に加えて33条2項も準用するので、この場合の商標権者は混同防止表示の請求に加えて、その使用をする権利を有する者から相当の対価を受ける権利を有します。対価の定めがないのは原特許権者の33条の2の場合だけです。

満了後の使用権があるのは特許権・実用新案権・意匠権の場合だけで、著作権の存続期間が満了しても原著作権者に使用権はありません
33条の2・33条の3は特許権、実用新案権、意匠権の存続期間の満了だけを対象にします。29条は著作権・著作隣接権との抵触も扱いますが、著作権の保護期間が満了した後に原著作権者へ使用権を与える規定はありません。著作権の存続期間が満了したときに原著作権者が「当該商標の使用をする権利を有する」という枝は誤りです。
29条と33条の2の対比
| 対象の権利 | 出願日前の出願に係る特許権・実用新案権・意匠権と、出願日前に生じた著作権・著作隣接権です | 出願日前又は同日の出願に係る特許権・実用新案権・意匠権です。著作権は対象外です |
|---|---|---|
| 制限・権利の主体 | 商標権者・専用使用権者・通常使用権者が抵触する態様で使用できません | 原特許権者等(33条の2)と満了の際の専用実施権者・通常実施権者(33条の3)が使用できます |
| 範囲 | 指定商品・指定役務のうち抵触する部分の、その態様による使用です | 原権利の範囲内で、指定商品・指定役務とこれらに類似する商品・役務について登録商標・類似商標の使用です |
| 商標権者の請求 | 混同防止表示の請求はできません | 混同防止表示の請求ができます(32条2項の準用)。対価は原特許権者(33条の2)には請求できず、満了の際の実施権者(33条の3)に対しては33条2項の準用により相当の対価を受ける権利があります |
商標法29条商標権者、専用使用権者又は通常使用権者は、指定商品又は指定役務についての登録商標の使用がその使用の態様によりその商標登録出願の日前の出願に係る他人の特許権、実用新案権若しくは意匠権又はその商標登録出願の日前に生じた他人の著作権若しくは著作隣接権と抵触するときは、指定商品又は指定役務のうち抵触する部分についてその態様により登録商標の使用をすることができない。
商標法33条の2商標登録出願の日前又はこれと同日の特許出願に係る特許権がその商標登録出願に係る商標権と抵触する場合において、その特許権の存続期間が満了したときは、その原特許権者は、原特許権の範囲内において、その商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその登録商標又はこれに類似する商標の使用をする権利を有する。ただし、その使用が不正競争の目的でされない場合に限る。
2 第三十二条第二項の規定は、前項の場合に準用する。
3 前二項の規定は、商標登録出願の日前又はこれと同日の出願に係る実用新案権又は意匠権がその商標登録出願に係る商標権と抵触する場合において、その実用新案権又は意匠権の存続期間が満了したときに準用する。
試験ではこう問われる
- 29条は使用の態様を制限するだけで登録は妨げない。他人の特許権の対象の形状でも「立体商標として商標登録される場合はない」という枝は誤り
- 出願日前に生じた著作権・著作隣接権との抵触も29条の対象。市販CDの歌唱を複製した音商標は著作隣接権者の許諾がなければ「自由に使用することはできない」。作曲してもらった楽曲でも「制限される場合はない」という枝は誤り
- 29条に混同防止表示の仕組みはなく、混同防止表示をしても抵触する態様での登録商標の使用はできない
- 29条は出願日前の出願に係る特許権等だけ。特許出願が後なら商標権者は制限されず、「双方とも互いに使用できなくなる」という枝は誤り
- 満了後の使用権(33条の2)は不正競争の目的でないことが要件で、原権利の範囲内。商標権者は混同防止表示を請求できるが「相当の対価を受ける権利を有する」という枝は誤り
- 実用新案権・意匠権にも準用され、満了の際の専用実施権者・通常実施権者にも使用をする権利がある(33条の3)。この場合だけ商標権者は33条2項の準用により相当の対価を受ける権利を持つ
- 著作権の満了後に原著作権者が「当該商標の使用をする権利を有する」という枝は誤り(33条の2は特許権・実用新案権・意匠権だけ)
この用語が問われた枝
商品の形状自体についての発明が現に有効な他人の特許権の対象となっているとき、その商品自体の形状は、立体商標として商標登録される場合はない。
販売されているコンパクトディスクに収録されたある歌手が歌唱する楽曲の一部を複製した音からなる商標について商標登録出願をした者は、その商標登録を受けても、当該楽曲の著作権者だけではなく、当該歌手等の著作隣接権者から許諾を受けなければ、その指定商品又は指定役務についてその登録商標を自由に使用することはできない。
新商品のコマーシャルに使用するための楽曲を作曲家に作曲してもらった者が、当該楽曲を複製した音からなる商標について、当該新商品を指定商品とする商標登録出願をしてその商標登録を受けたときは、当該商標登録に係る商標の使用が制限される場合はない。
商標法が産業の発達に寄与することを目的の1つとしているのに対し、著作権法は文化の発展に寄与することを目的としている。このような目的の相違があるので、著作権法により保護される著作物が、同時に、商品及び役務の識別標識として商標法によって保護されることはない。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。