差止・損害賠償・名誉回復(112条・114条・115条・117条・118条)さしとめそんがいばいしょうめいよかいふく
差止・損害賠償・名誉回復とは、著作権法の侵害に対する民事上の救済で、112条の差止請求(侵害の停止又は予防の請求と、それに際しての廃棄等の請求)、民法709条の損害賠償請求とその損害の額の推定(114条)、著作者人格権・実演家人格権の侵害に対する名誉回復等の措置(115条)を指します。共同著作物・共有著作権の各権利者が単独で請求できること(117条)と、無名又は変名の著作物の発行者が自己の名で請求できること(118条)も同じ章にあります。
自分の小説が無断で印刷されて売られているとき、著作権者がしたいのは「売るのをやめさせること」と「売られた分の損失を取り戻すこと」です。やめさせる方が112条の差止請求、取り戻す方が民法709条の損害賠償請求です。差止めは今起きている侵害を止める手当てなので相手の故意や過失を問わず、損害賠償は過去の行為の責任を金銭で負わせる仕組みなので故意又は過失が要ります。人格権を傷つけられた著作者には名誉回復等の措置(115条)もあり、立証しにくい損害の額には114条の推定が働きます。

差止めを請求できるのは著作者・著作権者・出版権者・実演家・著作隣接権者に限られ、利用の許諾を受けた者は含まれません
112条1項は、著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者が、その著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、侵害の停止又は予防を請求できると定めます。「侵害するおそれがある者」も相手になるので、まだ発売前でも予防を請求できますし、相手の故意や過失は要件になっていません。請求できる主体は条文に列挙された者だけで、63条の利用の許諾を受けた者は入っていません。許諾による利用権は著作権者に対して「許諾の範囲内で利用できる」という債権的な地位にとどまり、第三者を排除する権利ではないからです。「利用の許諾を受けた者は誰でも」差止めを請求できるという枝は誤りです。著作者人格権も112条の対象なので、著作者は人格権の侵害行為に対して「差止請求や損害賠償請求を行うことができ」、刑事罰の適用もあり得るという枝は正しいです。
- 請求できる者著作者、著作権者、出版権者、実演家、著作隣接権者です。利用の許諾を受けた者(63条)は入りません
- 相手権利を侵害する者又は侵害するおそれがある者です。故意・過失は要りません
- 内容侵害の停止又は予防の請求です。これをするに際し、廃棄その他の侵害の停止又は予防に必要な措置を請求できます(2項)
廃棄その他の措置は差止請求をするに際して請求するものなので、存続期間が満了した後に廃棄だけを請求することはできません
112条2項は、1項の請求を「するに際し」、侵害の行為を組成した物、侵害の行為によって作成された物、又は専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具の廃棄その他の侵害の停止又は予防に必要な措置を請求できると定めます。廃棄等は差止めに付随する措置なので、差止請求ができなくなれば単独では請求できません。著作権の存続期間が満了して差止請求ができなくなった場合に、侵害により作成された小説の印刷物が残っていても「その廃棄を請求することはできない」という枝は正しいです。機械や器具については「専ら」侵害の行為に供されたものに限られ、他の用途にも使われる物は廃棄の対象になりにくい一方、条文は「その他の侵害の停止又は予防に必要な措置」も認めているので、必要性があれば廃棄以外の措置も請求できます。生演奏のあるレストランに置かれたピアノについて、本来は管理著作物以外の楽曲の演奏にも使えるものの、現実の使用態様が主として管理著作物の無断演奏に供され、その状態が今後も続くおそれがある場合には、その撤去を求めることが演奏権の侵害を停止又は予防するために必要な行為に当たるとして撤去を命じた裁判例があります(デサフィナード事件、大阪高判平成20年9月17日)。同じ事件で、ライブの出演者が持ち込むことも多く貸切営業でも使われるドラムやギターなどの楽器と音響装置については、専ら侵害の行為に供された機械又は器具とまでは認められないとして、撤去は命じられませんでした。

損害賠償は民法709条によるので故意又は過失が必要で、114条が損害の額の推定を三つの形で置きます
著作権法には損害賠償請求権を作り出す条文はなく、故意又は過失により権利を侵害した者に対する民法709条の不法行為責任が根拠です。差止めと違って故意又は過失が要る点が違います。立証の難しい損害の額については114条が助けます。1項は、侵害者が侵害作成物を譲渡し又は侵害組成公衆送信を行ったときに、譲渡等数量のうち販売等相応数量を超えない部分に権利者の単位数量当たりの利益の額を乗じた額(1号)と、それを超える数量などについての使用料相当額(2号)の合計を損害の額とできるとします。2項は侵害者が侵害により受けた利益の額を損害の額と推定し、3項は権利の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を損害の額として請求できるとします。114条が使えるのは著作権、出版権又は著作隣接権の侵害で、著作者人格権の侵害による慰謝料には使いません。特許法102条や不正競争防止法5条と同じ組立てです。
- 114条1項譲渡等数量(販売等相応数量まで)× 権利者の単位数量当たりの利益の額(1号)と、超える数量等の使用料相当額(2号)の合計です
- 114条2項侵害者がその侵害の行為により受けた利益の額を、権利者の損害の額と推定します
- 114条3項著作権等の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を損害の額として請求できます。4項で著作権等管理事業者の使用料規程による算出も認められます
- 114条6項3項を超える損害の賠償も請求でき、侵害者に故意又は重大な過失がなければ裁判所は額を定めるについて参酌できます
著作者又は実演家は、人格権を侵害した者に対し、損害賠償に代えて又はとともに名誉回復等の措置を請求できます
115条は、著作者又は実演家が、故意又は過失によりその著作者人格権又は実演家人格権を侵害した者に対し、損害の賠償に代えて、又は損害の賠償とともに、著作者又は実演家であることを確保し、又は訂正その他著作者若しくは実演家の名誉若しくは声望を回復するために適当な措置を請求できると定めます。謝罪広告の掲載がその典型です。請求できるのは著作者と実演家で、著作権者や著作隣接権者は含まれませんし、人格権の侵害に限られるので著作権の侵害では使えません。損害賠償と同じく故意又は過失が要件です。ここでいう名誉又は声望は、著作者がその創作物について社会から受ける客観的な評価、つまり社会的声望名誉を指し、人が自分に対して持つ主観的な名誉感情は含まないとされています(パロディ・モンタージュ写真事件、最判昭和61年5月30日)。社会的評価が下がっていなければ、人格権が侵害されていても謝罪広告までは認められません。意に反する改変により名誉感情を害された著作者は、「社会から受ける客観的な評価が低下しない場合でも」謝罪広告の掲載を請求できるという枝は誤りです。
共同著作物や共有著作権の侵害に対しては、各著作者・各著作権者が他の同意を得ないで差止めと自己の持分の損害賠償を請求できます
64条1項と65条2項は、共同著作物の著作者人格権と共有著作権の行使に全員の合意を求めます。しかし侵害に対する救済まで全員の合意を待たせると、一人でも反対すれば侵害を止められなくなります。そこで117条1項は、共同著作物の各著作者又は各著作権者が、他の著作者又は他の著作権者の同意を得ないで、112条の請求、著作権の侵害に係る自己の持分に対する損害賠償の請求、自己の持分に応じた不当利得の返還の請求をできると定め、2項で共有に係る著作権又は著作隣接権の侵害に準用します。共有著作権の侵害に対して「各共有者は、単独で差止請求をすることができる」という枝は正しいです。共同著作物の著作者人格権が侵害された場合も同じで、他の共同著作者と共同しなくても、また全員の合意がなくても、各著作者が単独で差止めを請求できます。損害賠償については、共有著作権は他の著作権者の同意を得ないで「著作権侵害に係る自己の持分に対する損害賠償請求をすることができる」という枝が正しいです。117条1項が明文で単独の請求を認めている損害賠償は「著作権の侵害に係る自己の持分」についてで、著作者人格権の侵害に係る損害賠償を単独で請求できるかについては明文の規定がありません。もっとも、著作者人格権は各著作者の一身に専属し、その侵害による損害も各著作者に別々に生じるので、共同著作者の一人が氏名を故意に掲載しなかった場合に甲は単独で乙に対して「氏名表示権侵害に係る損害賠償請求をすることができる」という枝は正しいです。

無名又は変名の著作物では発行者が自己の名で請求し、著作者の死後は遺族が請求します
著作者が名前を出していない著作物では、著作者が自ら訴えに出れば身元が明らかになってしまいます。そこで118条1項は、無名又は変名の著作物の発行者が、その著作物の著作者又は著作権者のために、自己の名をもって、112条、115条若しくは116条1項の請求又は著作者人格権若しくは著作権の侵害に係る損害賠償の請求若しくは不当利得の返還の請求をできると定めます。著作者の変名がその者のものとして周知の場合と、75条1項の実名の登録があった場合は、著作者が誰か分かるので発行者は請求できません。2項は、複製物に発行者名として通常の方法により表示されている者を発行者と推定します。著作者の死後については116条1項が、遺族(配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹)に、60条に違反する行為をする者に対する112条の請求と、故意又は過失による侵害行為等をした者に対する115条の請求を認めます。法人が著作者の著作物で法人が解散した後は、遺族に当たる者も遺言で指定された者もいないので、法人の意に反する改変をして頒布する者に対して「差止請求がされることはないが」、60条違反の罪は告訴がなくても公訴を提起できるという枝は正しいです。
著作権法112条1項著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、その著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
著作権法112条2項著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物、侵害の行為によつて作成された物又は専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具の廃棄その他の侵害の停止又は予防に必要な措置を請求することができる。
著作権法115条著作者又は実演家は、故意又は過失によりその著作者人格権又は実演家人格権を侵害した者に対し、損害の賠償に代えて、又は損害の賠償とともに、著作者又は実演家であることを確保し、又は訂正その他著作者若しくは実演家の名誉若しくは声望を回復するために適当な措置を請求することができる。
著作権法117条1項共同著作物の各著作者又は各著作権者は、他の著作者又は他の著作権者の同意を得ないで、第百十二条の規定による請求又はその著作権の侵害に係る自己の持分に対する損害の賠償の請求若しくは自己の持分に応じた不当利得の返還の請求をすることができる。
試験ではこう問われる
- 差止めを請求できるのは著作者・著作権者・出版権者・実演家・著作隣接権者だけ。「利用の許諾を受けた者は誰でも」差止めを請求できるという枝は誤り(112条1項に列挙されていない)
- 差止めに故意・過失は不要で、侵害するおそれがある者にも予防を請求できる。損害賠償(民法709条)と名誉回復等の措置(115条)には故意又は過失が必要
- 廃棄等は差止請求を「するに際し」請求するもの。存続期間が満了して差止請求ができなくなれば、印刷物が残っていても「その廃棄を請求することはできない」という枝は正しい(112条2項)
- 114条の推定は1項(譲渡等数量×単位数量当たりの利益の額+使用料相当額)、2項(侵害者の利益の額)、3項(使用料相当額)。著作権・出版権・著作隣接権の侵害に使い、著作者人格権の侵害には使わない
- 名誉回復等の措置を請求できるのは著作者又は実演家で、名誉又は声望は社会的・客観的な評価を指し名誉感情を含まない(パロディ・モンタージュ写真事件)
- 共有著作権の侵害に対して「各共有者は、単独で差止請求をすることができる」という枝は正しい。著作者人格権の侵害でも、他の著作者と共同しなくても各著作者が単独で差止めを請求できる(117条1項・2項)
- 117条1項が単独の請求を明文で認める損害賠償は「著作権の侵害に係る自己の持分」。著作者人格権の侵害の損害賠償については明文の規定がないが、氏名表示権侵害の損害賠償は各著作者が単独で請求できる
- 無名又は変名の著作物は発行者が自己の名で請求できる(118条)。著作者の死後は遺族が112条・115条の請求をし(116条)、解散した法人には請求者がいないので「差止請求がされることはないが」刑事罰は告訴なしに公訴提起できるという枝は正しい
この用語が問われた枝
著作権の存続期間が満了して差止請求ができなくなった場合、その著作権侵害により作成された小説の印刷物が残っていたとしても、その廃棄を請求することはできない。
共有著作権は、その共有者全員の合意によらなければ、行使することができないが、各著作権者は、他の著作権者の同意を得ないで、著作権侵害に係る自己の持分に対する損害賠償請求をすることができる。
共有に係る著作権の侵害に対して、各共有者は、単独で差止請求をすることができる。
甲と乙が共同で創作した共同著作物について、その出版にあたり乙が甲の氏名を故意に掲載しなかった場合、甲は単独で乙に対して、氏名表示権侵害に係る損害賠償請求をすることができる。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。