訴訟手続の特則(6条〜13条、秘密保持命令)そしょうてつづきのとくそく
訴訟手続の特則とは、不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟について、不正競争防止法6条から13条までが民事訴訟法に上乗せして定める手続のことです。具体的態様の明示義務(6条)、書類の提出命令(7条)、損害計算のための鑑定(8条)、相当な損害額の認定(9条)、秘密保持命令とその取消し(10条・11条)、訴訟記録の閲覧等の請求の通知(12条)、当事者尋問等の公開停止(13条)が並び、特許法104条の2から105条の7までと同じ型です。
営業秘密の侵害を訴えると、法廷でその営業秘密そのものを説明しなければならず、相手方や傍聴人に秘密が知れ渡るおそれがあります。相手方の製造方法を証明する書類は相手方の手元にあり、原告は見ることができません。民事訴訟法だけではこの訴訟は勝ちにくいので、不正競争防止法6条から13条までが、相手方の具体的態様の明示、書類の提出命令、秘密保持命令、尋問の公開停止などを上乗せしました。特許法104条の2から105条の7までと同じ型なので、特許法で覚えた仕組みを営業秘密の訴訟に写せば足ります。

相手方は否認するときに自己の行為の具体的態様を明らかにしなければなりませんが、明らかにできない相当の理由があればこの限りではありません
6条は、営業上の利益を侵害されたと主張する者が侵害の行為を組成したものとして主張する物又は方法の具体的態様を相手方が否認するときは、相手方は自己の行為の具体的態様を明らかにしなければならないと定めています。単に「違う」と言うだけでは原告の立証が進まないからです。ただし書で、相手方において明らかにすることができない相当の理由があるときは義務を負いません。相手方の生産方法に自己の重要な営業秘密が含まれるときは、この相当の理由に当たり得ます。相手方は「自己の重要な営業秘密が含まれているときには自らの実施する生産方法の具体的態様を明らかにする義務を負わない」という枝は正しいです。
裁判所は当事者の申立てにより書類の提出を命じることができ、営業秘密を含む書類も対象になり、提示を受けて正当な理由を判断します
7条1項は、裁判所が当事者の申立てにより、侵害行為の立証又は損害の計算のため必要な書類又は電磁的記録の提出を命じることができると定め、所持者に提出を拒む正当な理由があるときだけ例外とします。営業秘密が含まれることだけで直ちに正当な理由になるわけではないので、「侵害行為の立証のため必要な書類に営業秘密が含まれている場合でも、当該書類は裁判所による提出命令の対象となりうる」という枝は正しいです。2項は、該当性や正当な理由の判断のため必要があるときに所持者に書類を提示させる手続(インカメラ手続)を置き、提示された書類の開示は何人も求められません。3項は、開示して意見を聴くことが必要と認めるときに、当事者等、訴訟代理人又は補佐人に開示できるとしています。「当事者、訴訟代理人又は補佐人に対して当該書類を開示することができる」という枝は正しいです。8条は損害計算のための鑑定で、当事者は鑑定人に必要な事項を説明しなければなりません。9条は、損害額を立証するために必要な事実の立証が極めて困難なときに相当な損害額を認定できる規定で、「口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる」という枝は正しく、「当該損害の性質上その額を立証することが極めて困難な場合に限られる」という枝は誤りです(民事訴訟法248条より要件が緩いからです)。

秘密保持命令は訴訟の追行の目的以外での使用と命令を受けた者以外への開示の両方を禁じ、却下した裁判には即時抗告ができます
10条1項は、裁判所が当事者の申立てにより、決定で、当事者等、訴訟代理人又は補佐人に対し、営業秘密を当該訴訟の追行の目的以外の目的で使用し、又は命令を受けた者以外の者に開示してはならない旨を命じることができると定めています。要件は、準備書面や証拠に当事者の営業秘密が含まれること(1号)と、目的外使用や開示により事業活動に支障を生ずるおそれがあり制限の必要があること(2号)で、申立人がいずれも疎明します。命じるのは目的外使用の禁止と開示の禁止の両方なので、秘密保持命令は「命令を受けた者以外の者に当該営業秘密を開示してはならない旨を命ずるものに限られる」という枝は誤りです。禁じられるのは訴訟の追行の目的以外の使用なので、命令を受けた者が営業秘密を「当該訴訟を追行する目的で使用することができる」という枝は正しいです。命令は電子決定書の送達の時から効力を生じ、「秘密保持命令の申立てを却下した裁判に対しては、即時抗告をすることができる」という枝は正しいです(10条5項)。

- 命じる相手当事者等(当事者、その代理人、使用人その他の従業者)、訴訟代理人又は補佐人です。訴訟代理人に限られません
- 命じる内容当該訴訟の追行の目的以外の目的での使用の禁止と、命令を受けた者以外の者への開示の禁止の両方です
- 要件準備書面・証拠に営業秘密が含まれること、目的外使用や開示で事業活動に支障を生ずるおそれがあり制限の必要があることを、申立人が疎明します。申立ての時までに別の方法で取得・保有していた者には命じられません
- 不服却下の裁判には即時抗告(10条5項)、発せられた命令には取消しの申立て(11条1項)です
秘密保持命令は要件を欠くに至っても取消しの裁判が確定するまで効力を保ち、違反は親告罪で国外犯も処罰されます
11条1項は、申立てをした者又は命令を受けた者が、要件を欠くこと又は欠くに至ったことを理由に秘密保持命令の取消しを申し立てることができると定め、4項は取り消す裁判は確定しなければ効力を生じないとしています。命令が自動的に失効すると、受けた者が勝手に「もう営業秘密ではない」と判断して開示する危険があるからです。情報が営業秘密の要件を満たさなくなった場合に「当該秘密保持命令は無効となる」という枝は誤りです。12条は、秘密保持命令が発せられた訴訟の記録について、命令を受けていない者から秘密記載部分の閲覧等の請求があったときに、裁判所書記官が申立てをした当事者に直ちに通知し、請求の日から2週間は閲覧等をさせないと定めています。命令に違反すると21条3項6号により5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又は併科の対象になります。「秘密保持命令に違反して、その対象となった営業秘密を使用する行為は、刑事罰の対象となる」という枝は正しいです。この罪は告訴がなければ公訴を提起できない親告罪で(21条7項)、日本国外で犯した者にも適用されます(21条9項)。「告訴がなくても公訴を提起することができる」という枝は誤りです。令和4年度のこの枝は当時の21条5項で問われていますが、現行法では7項に移っています。
当事者尋問等の公開停止は営業秘密に当たる事項の尋問に限って裁判官の全員一致で決定でき、尋問全体を非公開にはできません
憲法82条は裁判の公開を原則にしているので、13条1項は公開停止の要件を厳しく絞っています。対象は侵害の有無の判断の基礎となる事項であって当事者の保有する営業秘密に該当するものに限られ、公開の法廷で陳述すると事業活動に著しい支障を生ずることが明らかであるため十分な陳述ができず、かつ、その陳述を欠くと他の証拠のみでは適正な裁判ができないと認めるときに、裁判官の全員一致により決定で「当該事項の尋問」を公開しないで行えます。支障が明らかというだけで「当該当事者本人の尋問の全体が終了するまで公衆を入廷させない措置をとることができる」という枝は誤りです。決定の前には当事者等の意見を聴き、公衆を退廷させる前に理由とともに言い渡し、その事項の尋問が終われば再び公衆を入廷させなければなりません。

不正競争防止法10条1項裁判所は、不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟において、その当事者が保有する営業秘密について、次に掲げる事由のいずれにも該当することにつき疎明があった場合には、当事者の申立てにより、決定で、当事者等、訴訟代理人又は補佐人に対し、当該営業秘密を当該訴訟の追行の目的以外の目的で使用し、又は当該営業秘密に係るこの項の規定による命令を受けた者以外の者に開示してはならない旨を命ずることができる。ただし、その申立ての時までに当事者等、訴訟代理人又は補佐人が第一号に規定する準備書面の閲読又は同号に規定する証拠の取調べ若しくは開示以外の方法により当該営業秘密を取得し、又は保有していた場合は、この限りでない。
不正競争防止法11条4項秘密保持命令を取り消す裁判は、確定しなければその効力を生じない。
不正競争防止法7条1項裁判所は、不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟においては、当事者の申立てにより、当事者に対し、当該侵害行為について立証するため、又は当該侵害の行為による損害の計算をするため必要な書類又は電磁的記録の提出を命ずることができる。ただし、その書類の所持者又はその電磁的記録を利用する権限を有する者においてその提出を拒むことについて正当な理由があるときは、この限りでない。
試験ではこう問われる
- 具体的態様の明示義務(6条)には「明らかにすることができない相当の理由」の例外がある。自己の重要な営業秘密が含まれるときは義務を負わないという枝は正しい
- 営業秘密を含む書類も提出命令の対象になり得る(7条)。インカメラ手続で提示された書類は、意見を聴く必要があれば当事者・訴訟代理人・補佐人に開示できる
- 9条は損害額の立証に必要な事実の立証が極めて困難なとき。「損害の性質上」に限るという枝は誤り
- 秘密保持命令は目的外使用の禁止と開示の禁止の両方。「開示してはならない旨を命ずるものに限られる」という枝は誤り。訴訟の追行目的の使用はできる
- 却下の裁判には即時抗告(10条5項)。発令に対しては取消しの申立て(11条)
- 要件を欠くに至っても取消しの裁判が確定するまで有効。「当該秘密保持命令は無効となる」という枝は誤り
- 違反は刑事罰(21条3項6号)で親告罪(7項)。「告訴がなくても公訴を提起することができる」という枝は誤り。国外犯も処罰(9項)
- 公開停止(13条)は営業秘密に当たる事項の尋問だけ。「尋問の全体が終了するまで」非公開にできるという枝は誤り
この用語が問われた枝
不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟において、物を生産する方法についての営業秘密の保有者が、当該営業秘密が相手方によって使用されていると主張する場合、当該相手方は、自己の重要な営業秘密が含まれているときには自らの実施する生産方法の具体的態様を明らかにする義務を負わない。
不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟において、侵害行為の立証のため必要な書類に営業秘密が含まれている場合でも、当該書類は裁判所による提出命令の対象となりうる。
書類提出命令において、インカメラ審理手続に提示された書類の内容について、裁判所が当事者の意見を聴く必要があると判断した場合には、当事者、訴訟代理人又は補佐人に対して当該書類を開示することができる。
不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟において、裁判所が相当な損害額を認定することができるのは、損害が生じたことが認められるものの当該損害の性質上その額を立証することが極めて困難な場合に限られる。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。