差止請求と廃棄除却・請求権者・消滅時効(3条・15条)さしとめせいきゅうとはいきじょきゃくせいきゅうけんしゃしょうめつじこう
差止請求とは、不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者が、その侵害する者又は侵害するおそれがある者に対して侵害の停止又は予防を請求できる不正競争防止法3条1項の仕組みです。その請求をするに際しては侵害の行為を組成した物の廃棄や侵害の行為に供した設備の除却も請求でき(3条2項)、営業秘密・限定提供データを使用する行為に対する差止請求権は15条の消滅時効にかかります。
甲の有名なロゴを乙が無断で商品に付けて売っているとき、甲がまず望むのは「売るのをやめてほしい」ことです。損害賠償は過去の損害を金銭で埋めるだけなので、侵害が続く限り損害は増え続けます。そこで不正競争防止法3条は、不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者に、侵害の停止又は予防を請求する権利を与えました。相手の故意や過失は要りません。不正競争という行為そのものを止めることが目的だからです。ただし営業秘密と限定提供データの使用に対する差止請求権だけは、15条で時効消滅します。

差止めを請求できるのは不正競争によって営業上の利益を侵害され又は侵害されるおそれがある者で、相手方の故意・過失や不正の目的は要りません
3条1項の請求権者は「不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」です。侵害の「おそれ」で足りるので、実際の損害が出る前でも予防を請求できます。相手方について条文が求めるのは不正競争をしていること、又はするおそれがあることだけで、故意・過失(4条の損害賠償の要件)や不正の目的は差止めの要件になっていません。裁判所は「当該他人が不正競争の目的又は不正の目的を有している場合に限り、当該請求を認容することができる」という枝は誤りです(3条にそのような限定はないからです)。「営業上の利益」の営業は営利事業に限られず、経済上の収支計算の上に立って行われる事業を広く含むと解されています。そのため「非営利事業を行う者であっても、他人の不正競争行為によりその信用を害された場合には、当該行為の差止めを請求することができる」という枝は正しく、「地方公共団体や国は、不正競争に対する差止めの請求権者となることができない」という枝と「特定非営利活動法人は、非営利事業を行っているので、差止請求の請求権者となることができない」という枝はいずれも誤りです。反対に、品質を誤認して商品を買った一般消費者は営業上の利益を害された者ではなく、不正競争防止法には適格消費者団体による請求の制度もないので、消費者は「適格消費者団体を通じることにより、甲に対し、不正競争防止法に基づく差止請求及び損害賠償請求を行うことができる」という枝は誤りです。条文は表示の主体本人に限っていないので、周知表示の使用許諾を受けた者もその表示を用いた営業上の利益を害されれば請求権者になり得ます。請求できる者に「その商品等表示に係る使用許諾を受けた者が含まれることはない」という枝は誤りです。

- 請求権者になる国・地方公共団体、非営利事業者、特定非営利活動法人、周知表示の使用許諾を受けた者など、不正競争によって営業上の利益を侵害され又はそのおそれがある者です
- 請求権者にならない品質を誤認して買った一般消費者や適格消費者団体です。不正競争防止法に消費者団体訴訟の制度はありません
- 相手方の主観故意・過失も不正の目的も要りません。損害賠償(4条)には故意又は過失が要ります
差止請求をするに際しては、侵害の行為を組成した物の廃棄や設備の除却など侵害の停止又は予防に必要な行為を請求できますが、単独では請求できません
使用をやめさせても、模倣品の在庫や模倣に使う装置が残っていれば侵害が再開されます。そこで3条2項は、1項の請求をするに際して、侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含みます)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止又は予防に必要な行為を請求できると定めました。営業秘密を用いて製造された製品は侵害の行為により生じた物に当たるので、営業秘密保有者は侵害の停止又は予防を請求するに際し「当該営業秘密を用いて製造された製品の廃棄を請求できる」という枝は正しいです。条文が「前項の規定による請求をするに際し」としているので、廃棄や除却だけを単独で請求することはできません。商品形態を模倣された事業者は「模倣商品の販売の差止請求とともに請求する場合に限り、当該商品形態を模倣するために使用した装置の廃棄を請求することができる」という枝は正しいです。ドメイン名に係る不正競争(2条1項19号)では、ドメイン名の使用禁止だけでなく、侵害の予防に必要な行為として登録の抹消を求めることができると解されています。「そのドメイン名の登録抹消を請求することができる」という枝は正しいです。一方、ドメイン名の登録を自分に移すことを認める明文の規定はないので、「そのドメイン名の移転登録を請求することはできない」という枝も正しいです。

営業秘密・限定提供データを使用する行為に対する差止請求権は、継続中に事実と行為者を知った時から3年、行為の開始から20年で時効消滅します
周知表示の使用などの差止請求権には時効の定めがありませんが、営業秘密の使用だけは別です。不正に取得した営業秘密を使って長年事業を続けている者に対して、いつまでも差止めができるとすると、その事業に投じた設備や雇用が無駄になり、取引の安定を害します。そこで15条1項は、2条1項4号から9号までの不正競争のうち営業秘密を使用する行為に対する差止請求権について、その行為を行う者が行為を継続する場合に、営業秘密保有者がその事実及びその行為を行う者を知った時から3年間行わないとき(1号)、又はその行為の開始の時から20年を経過したとき(2号)に時効によって消滅すると定めています。15条2項は、2条1項11号から16号までの不正競争のうち限定提供データを使用する行為にこれを準用します。差止請求権の消滅時効は明文にあるので、「差止請求権は時効によって消滅しない」という枝は誤りです。限定提供データについて「その行為の開始時から 10 年を経過したときは、時効によって消滅する」という枝は誤りです(準用される期間は20年だからです)。対象は「使用する行為」に限られるので、「不正取得行為や不正開示行為については、行為の継続性がないため消滅時効の対象とならない」という枝は正しいです。時効は「その行為を行う者」ごとに進行するので、「ある不正使用者に対する差止請求権が消滅すれば、他の不正使用者に対する差止請求権も消滅する」という枝は誤りです。この枝が出た平成27年度の当時は2号の期間が10年でしたが、平成27年改正で20年になりました。損害賠償請求権の時効は不正競争防止法に定めがなく、民法724条によります。

- 対象営業秘密を使用する行為(2条1項4〜9号)と、限定提供データを使用する行為(2条1項11〜16号)に対する差止請求権です。不正取得・不正開示には時効の定めがありません
- 短期行為が継続する場合に、保有者がその事実及び行為を行う者を知った時から3年間行わないときです
- 長期行為の開始の時から20年を経過したときです。平成27年改正前は10年でした
- 進行の単位行為を行う者ごとに進行します。一人に対する請求権の消滅は他の者に及びません
差止請求権が時効消滅した後の使用による損害は賠償責任を負わず、その使用により生じた物の譲渡は適用除外になります
差止めができなくなった後も損害賠償だけは請求できるとすると、使用の継続を認めた意味がなくなります。そこで4条ただし書は、15条により差止請求権が消滅した後に「その営業秘密又は限定提供データを使用する行為」によって生じた損害については賠償責任を負わないとしています。免責の対象は営業秘密に限られないので、「営業秘密を使用する行為に限り、その差止請求権が時効により消滅した後の使用行為によって生じた損害について、その責任を負わない」という枝は誤りです。さらに19条1項8号は、時効消滅後に営業秘密を使用する行為により生じた物を譲渡し、引き渡し、輸出入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為を、2条1項10号の不正競争から除外しています。差止めも損害賠償もできない使用の成果物を売ることまで不正競争とするのは筋が通らないからです。
不正競争防止法3条1項不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
不正競争防止法3条2項不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含む。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止又は予防に必要な行為を請求することができる。
不正競争防止法15条1項第二条第一項第四号から第九号までに掲げる不正競争のうち、営業秘密を使用する行為に対する第三条第一項の規定による侵害の停止又は予防を請求する権利は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 その行為を行う者がその行為を継続する場合において、その行為により営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある営業秘密保有者がその事実及びその行為を行う者を知った時から三年間行わないとき。
二 その行為の開始の時から二十年を経過したとき。
試験ではこう問われる
- 差止めに相手方の故意・過失や不正の目的は要らない。「不正競争の目的又は不正の目的を有している場合に限り、当該請求を認容することができる」という枝は誤り
- 営業は営利事業に限らない。「非営利事業を行う者であっても」差止めを請求できるという枝は正しく、「地方公共団体や国は」請求権者になれない、「特定非営利活動法人は」請求権者になれないという枝は誤り
- 一般消費者や適格消費者団体は営業上の利益を害された者ではなく、請求権者にならない
- 周知表示の使用許諾を受けた者も営業上の利益を害されれば請求できる。「使用許諾を受けた者が含まれることはない」という枝は誤り
- 廃棄・除却は差止請求をするに際してだけ請求できる。「差止請求とともに請求する場合に限り」装置の廃棄を請求できるという枝は正しい。営業秘密を用いて製造された製品は侵害の行為により生じた物として廃棄を請求できる
- ドメイン名の登録抹消は侵害の予防に必要な行為として請求できるが、移転登録は請求できない
- 営業秘密・限定提供データの使用に対する差止請求権は、知った時から3年・開始から20年で時効消滅する(15条)。「差止請求権は時効によって消滅しない」という枝、限定提供データは「開始時から 10 年」という枝は誤り。不正取得・不正開示には時効の定めがない
- 時効消滅後の使用による損害は営業秘密も限定提供データも賠償責任を負わない(4条ただし書)。「営業秘密を使用する行為に限り」免責されるという枝は誤り。その使用により生じた物の譲渡は19条1項8号で適用除外
この用語が問われた枝
他人の不正競争により営業上の利益を侵害されるおそれがある者が、当該他人に対して、侵害の予防のみならず、侵害の予防に必要な行為を請求した訴訟において、裁判所は、当該他人が不正競争の目的又は不正の目的を有している場合に限り、当該請求を認容することができる。
非営利事業を行う者であっても、他人の不正競争行為によりその信用を害された場合には、当該行為の差止めを請求することができる。
地方公共団体や国は、不正競争に対する差止めの請求権者となることができない。
特定非営利活動法人は、非営利事業を行っているので、差止請求の請求権者となることができない。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。