共同著作物と共有著作権の行使(2条1項12号・64条・65条・117条)きょうどうちょさくぶつときょうゆうちょさくけんのこうし
共同著作物とは、二人以上の者が共同して創作した著作物であって、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないものです(2条1項12号)。共有著作権の行使とは、共同著作物の著作権その他共有に係る著作権を共有者全員の合意によって行使する仕組み(65条)で、著作者人格権は64条、侵害への請求は117条が定めます。
二人で一つの論文を書き、どの段落も二人の議論から生まれたとします。どこからどこまでが誰の分か切り分けられないこの論文が共同著作物です。一方、作詞家と作曲家が作った歌は、歌詞だけを詩集に載せ、曲だけを演奏することができます。切り分けて使えるものは共同著作物ではなく、別々の著作物が結び付いただけです。共同著作物では権利が一体で、一人が勝手に使うと他の人の取り分を害するので、著作権法は行使に全員の合意を求めつつ、合意を理由なく妨げられないようにし、侵害への対応だけは一人でもできるようにしています。

共同著作物は二人以上が共同して創作し、各人の寄与を分離して個別的に利用することができないものに限られ、分離できる歌詞と楽曲や小説と挿絵は結合著作物です
2条1項12号は、共同著作物を二人以上の者が共同して創作した著作物であって、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないものと定めます。要件は共同の創作行為と寄与の分離不可能性の二つです。小説と挿絵はそれぞれ切り離して単独で利用できるので、「完成した挿絵付き小説は、小説家とイラストレーターの共同著作物とはならない」という枝は正しいです。一枚のキャンバスに複数の画家が描いても、共同して創作する関係がなかったり各人の絵を分離して利用できたりすれば共同著作物になりません。「一枚のキャンバスに絵を描いても、共同著作物になるとは限らない」という枝は正しいです。創作的な寄与のない者は共同著作者になりません。動画の音声をそのまま文字に起こす行為は既存の表現を置き換えるだけなので、文字起こしした文章が「甲と乙の共同著作物となる」という枝は誤りです。共同著作者は自然人に限らず、甲社と乙社の従業者が共同で創作し、それぞれに職務著作(15条)が成立すれば両社が共同著作者になり得ます。「甲社と乙社とがその著作物の共同著作者となることはない」という枝は誤りです。

共有著作権は共有者全員の合意によらなければ行使できず、持分の譲渡と質権の設定には他の共有者の同意が要りますが、正当な理由がなければ拒めません
65条2項は、共有著作権を共有者全員の合意によらなければ行使することができないと定めます。利用の許諾も行使なので、共有者の一人だけの許諾では足りません。「共有著作権は、その共有者全員の合意によらなければ、行使することができない」という枝は正しいです。65条1項により、各共有者は他の共有者の同意を得なければ持分を譲渡し、又は質権の目的とすることができません。同意が要るのは譲渡と質権設定であって、相続や合併による一般承継の移転には要らないので、乙の持分が移転される場合に「常に甲の同意が必要となる」という枝は誤りです。合意や同意を盾に他の共有者を縛り続けることはできず、65条3項により各共有者は正当な理由がない限り同意を拒み、又は合意の成立を妨げることができません。裏返せば、正当な理由があれば妨げることができます。
- 持分の譲渡・質権設定(65条1項)他の共有者の同意が要ります。一般承継による移転には要りません
- 著作権の行使(65条2項)利用許諾を含め、共有者全員の合意が要ります
- 拒否の限界(65条3項)正当な理由がない限り、同意を拒み、合意の成立を妨げることができません
- 代表者(65条4項・64条3項準用)共有著作権を代表して行使する者を定めることができます
共同著作物の著作者人格権も著作者全員の合意で行使しますが、代表して行使する者を定めることができ、信義に反して合意を妨げることはできません
64条1項は、共同著作物の著作者人格権を著作者全員の合意によらなければ行使することができないと定めます。ただし3項により、著作者はそのうちからその著作者人格権を代表して行使する者を定めることができます。「著作者のうちの一人を、著作者人格権を行使する代表者と定めることができる」という枝は正しく、全員の合意を必要とし「権利を代表して行使する者を定めることもできない」という枝は後半が条文に反するので誤りです。2項により、各著作者は信義に反して合意の成立を妨げることができません。「合意の成立を、嫌がらせのために妨げることは許されない」という枝は正しいです。著作者人格権の方は「信義に反して」、共有著作権の方は「正当な理由がない限り」と、妨害を許さない基準の言葉が違います。

侵害に対しては117条により各著作者・各著作権者が単独で差止請求と自己の持分に対する損害賠償請求ができます
全員の合意を待っていては侵害を止められないので、117条1項は共同著作物の各著作者又は各著作権者が他の同意を得ないで112条の差止請求、著作権侵害に係る自己の持分に対する損害賠償請求、持分に応じた不当利得返還請求をすることができると定め、2項で共有に係る著作権・著作隣接権に準用します。「各共有者は、単独で差止請求をすることができる」という枝は正しく、「他の著作権者の同意を得ないで、著作権侵害に係る自己の持分に対する損害賠償請求をすることができる」という枝も正しいです。著作者人格権の侵害による慰謝料は各著作者に個別に生じるので、共同著作者の乙が出版に際して甲の氏名を故意に載せなかった場合に、甲が「単独で乙に対して、氏名表示権侵害に係る損害賠償請求をすることができる」という枝は正しいです。64条1項が全員の合意を求めるのは公表などの積極的な行使の場面だからです。なお共同著作物の保護期間は最終に死亡した著作者の死後70年です(51条2項)。
著作権法2条1項12号共同著作物 二人以上の者が共同して創作した著作物であつて、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないものをいう。
著作権法64条1項〜3項共同著作物の著作者人格権は、著作者全員の合意によらなければ、行使することができない。
2 共同著作物の各著作者は、信義に反して前項の合意の成立を妨げることができない。
3 共同著作物の著作者は、そのうちからその著作者人格権を代表して行使する者を定めることができる。
著作権法65条1項〜3項共同著作物の著作権その他共有に係る著作権(以下この条において「共有著作権」という。)については、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡し、又は質権の目的とすることができない。
2 共有著作権は、その共有者全員の合意によらなければ、行使することができない。
3 前二項の場合において、各共有者は、正当な理由がない限り、第一項の同意を拒み、又は前項の合意の成立を妨げることができない。
著作権法117条1項共同著作物の各著作者又は各著作権者は、他の著作者又は他の著作権者の同意を得ないで、第百十二条の規定による請求又はその著作権の侵害に係る自己の持分に対する損害の賠償の請求若しくは自己の持分に応じた不当利得の返還の請求をすることができる。
試験ではこう問われる
- 分離して利用できるものは共同著作物でない。挿絵付き小説は「小説家とイラストレーターの共同著作物とはならない」という枝は正しい。歌詞と楽曲、小説と脚本も同じ
- 一枚のキャンバスに複数の画家が描いても共同著作物になるとは限らない。音声の文字起こしは創作的寄与がなく共同著作物にならない
- 甲社と乙社の従業者が共同創作し、それぞれ職務著作が成立すれば両社が共同著作者になり得る。「共同著作者となることはない」という枝は誤り
- 共有著作権の行使は全員の合意(65条2項)。許諾が困難でも一人の許諾では足りない。正当な理由がない限り合意の成立を妨げられない(正当な理由があれば妨げられる)
- 持分の譲渡・質権設定には他の共有者の同意(65条1項)。相続などの一般承継には要らないので「常に甲の同意が必要となる」という枝は誤り
- 著作者人格権も全員の合意だが、代表して行使する者を定められる(64条3項)。信義に反して合意を妨げられない(64条2項)
- 差止請求と自己の持分の損害賠償請求は単独でできる(117条)。共同著作者による氏名表示権侵害の損害賠償も単独で請求できる
この用語が問われた枝
小説家が小説を創作し、イラストレーターがその挿絵を創作した場合、完成した挿絵付き小説は、小説家とイラストレーターの共同著作物とはならない。
複数の画家が、一枚のキャンバスに絵を描いても、共同著作物になるとは限らない。
甲の創作した動画について、乙がその音声の文字起こしを行った場合、当該文字起こしされた文章が著作物に該当するならば、それは甲と乙の共同著作物となる。
甲社の従業者と乙社の従業者とが共同で著作物を創作した場合であっても、甲社と乙社とがその著作物の共同著作者となることはない。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。