特許無効審判(123条・125条・125条の2・125条の3・131条の2・132条・134条・164条の2・167条)とっきょむこうしんぱん
特許無効審判とは、特許が123条1項各号のいずれかに該当するときに、利害関係人が、その特許を無効にすることについて請求する審判です。無効にすべき旨の審決が確定すると、特許権は初めから存在しなかったものとみなされます。
ある製品を作っている会社が、競合の特許権者から警告状を受けたとします。調べてみると、その特許の発明は出願より前に学会で発表されていました。本来は特許されるべきでなかった権利を、特許庁の審判で消してもらう手続が特許無効審判です。審査を一度通った特許をいつでも消せると権利が不安定になるので、理由は123条1項各号に限り、請求できる人も利害関係人に限って、請求人と特許権者が審判官の合議体の前で争う形にしています。

無効理由は123条1項各号に限られ、拒絶理由のうち単一性や補正の要件の違反は含まれません
123条1項は、特許を無効にできる理由を1号から8号までに列挙しています。49条の拒絶理由とほぼ重なりますが、37条の発明の単一性、17条の2第4項(シフト補正の禁止)、36条4項2号の先行技術文献の開示、36条6項4号の経済産業省令で定める記載のような手続的な要件の違反は、特許が成立した後に権利を消すほどの瑕疵ではないので無効理由になりません。37条と17条の2第4項の要件について「規定される要件を満たしていないときが含まれる」という枝は正しいです。1号の新規事項追加の補正は外国語書面出願を除いているので(原文新規事項は5号で受けます)、外国語書面出願について「当該要件を満たしていないことを理由として特許無効審判を請求することはできない」という枝は正しいです。この除外は184条の18の読替えで外国語特許出願にも及びます。反対に、38条の共同出願違反と冒認(6号)は無効理由であって特許異議の申立ての理由ではないので、「特許異議の申立ては同条違反を申立理由とすることができない」という枝は正しいです。
- 1号17条の2第3項(新規事項の追加)に違反する補正をした出願に対してされたことです。外国語書面出願は除かれます
- 2号25条、29条、29条の2、32条、38条又は39条1項から4項までに違反してされたことです。38条違反は74条1項の移転の登録があったときを除きます
- 3号条約に違反してされたことです
- 4号36条4項1号又は6項(4号を除く)の記載要件を満たしていない出願に対してされたことです
- 5号外国語書面出願の明細書等が外国語書面の範囲内にないことです
- 6号特許を受ける権利を有しない者の出願に対してされたこと(冒認)です。74条1項の移転の登録があったときを除きます
- 7号特許の後に権利を享有できない者になったこと、又は条約に違反することとなったこと(後発的無効理由)です
- 8号訂正が126条1項ただし書・5項から7項まで、120条の5第2項ただし書又は134条の2第1項ただし書に違反してされたことです。訂正要件違反は無効審判でしか争えません
請求できるのは利害関係人で、冒認と共同出願違反は特許を受ける権利を有する者に限られ、特許権の消滅後も請求できます
123条2項は、特許無効審判は利害関係人に限り請求できると定めています。以前は何人も請求できましたが、特許異議の申立てが復活した平成26年改正で、何人もできる手続は異議に任せて無効審判は利害関係人に絞られました。平成26年より前の枝は「何人も」の前提で出ているので注意が必要です。利害関係人には、その特許の有効性で立場が変わる人が広く入るので、79条の先使用による「通常実施権を有する者であっても、請求することができる」という枝も、83条2項の裁定による通常実施権に基づいて「特許発明を実施する者も、請求することができる」という枝も正しいです。2号のうち38条違反と6号の冒認については、特許を受ける権利を有する者だけが請求できます(本来の権利者が74条の移転請求を選ぶこともできるからです)。同条3項により特許権の消滅後も請求できるので、「特許権の存続期間満了後においても、請求することができる」という枝は正しいです(過去の侵害の損害賠償を争う実益が残るからです)。特許異議の申立てをした人が同じ理由で無効審判を請求することは一事不再理に当たりませんが、利害関係がなければ不適法として135条により審決で却下されるので、「当該特許無効審判の請求は審決をもって却下されることがある」という枝は正しいです。150条2項により、審判の請求前は利害関係人の申立てで証拠保全ができ、この規定は120条で特許異議の申立てにも準用されるので、異議では「特許異議の申立ての前に証拠保全を申し立てることができない」という枝は誤りです。

請求の理由の要旨を変更する補正は、請求書の副本の送達後に審判長が許可したときに限り認められます
審判長は、請求があったときは請求書の副本を被請求人に送達し、相当の期間を指定して答弁書を提出する機会を与えます(134条1項)。請求書の補正は要旨を変更してはなりませんが、特許無効審判では、補正が審理を不当に遅延させるおそれがないことが明らかで、かつ訂正の請求により補正の必要が生じたこと又は請求時に書かなかったことに合理的な理由があり被請求人が同意したことのいずれかがあると認めるときに、審判長が決定で許可できます(131条の2第2項)。許可するのは合議体ではなく審判長で、各号の事由も要るので、「当該補正が審理を不当に遅延させるおそれがないことが明らかであると認めるときは、当該補正を許可することがある」という枝は誤りです。許可は手続補正書が副本の送達の前に提出されたときはできないので(同条3項)、送達前の補正が「許可されることがある」という枝は誤りです(送達前なら請求書を取り下げて出し直せば足りるからです)。許可するときは手続補正書の副本を被請求人に送達して答弁書の機会を与えますが、機会を与える必要がない特別の事情があるときは不要なので(134条2項ただし書)、補正後も請求に理由がないときであっても「答弁書を提出する機会を与えなければならない」という枝は誤りです。

審決の予告があったときは被請求人が訂正を請求する期間が指定され、審理の終結の通知を経て審決されます
特許無効審判の審理は口頭審理が原則です(145条1項)。審判長は、事件が審決をするのに熟した場合に請求に理由があると認めるときなどは、当事者及び参加人に審決の予告をしなければなりません(164条の2第1項)。審決の予告をするときは、被請求人に明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正を請求するための相当の期間を指定します(同条2項)。指定するのは訂正を請求するための期間であって意見書の提出期間ではないので、「相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない」という枝は誤りです。審決の予告は特許無効審判だけにあり、延長登録無効審判や実用新案登録無効審判にはありません。審決の予告をしないとき、又は指定期間内に訂正の請求も補正もないときは、審判長は審理の終結を通知し(156条2項)、審決をします。審判は職権で進められるので、民事訴訟の請求の認諾や放棄に当たる制度はなく、「請求の認諾によっても終了する」という枝は誤りです。請求の取下げは審決が確定するまでできますが、答弁書の提出後は相手方の承諾が要ります(155条)。
無効審決が確定すると特許権は初めから存在しなかったものとみなされ、審決は請求項ごと又は一群の請求項ごとに確定し、一事不再理が生じます
特許を無効にすべき旨の審決が確定すると、特許権は初めから存在しなかったものとみなされます(125条本文)。ただし7号の後発的無効理由で無効になったときは、その事由に該当するに至った時から存在しなかったものとみなされます(同条ただし書)。この場合、該当する時より前の期間については別の無効理由で争う実益が残るので、全請求項の無効審決の確定後に「新たに特許無効審判を請求できる場合はない」という枝は誤りです。審決は審判事件ごとに確定しますが、請求項ごとに請求されたときは請求項ごとに、一群の請求項ごとに訂正の請求がされたときはその一群ごとに確定します(167条の2)。したがって「審決は常に当該請求項ごとに確定する」という枝は誤りです。審決が確定すると、当事者及び参加人は同一の事実及び同一の証拠に基づいて同じ審判を請求できません(167条)。平成23年改正までは第三者にも及んでいましたが、現行法では当事者と参加人に限られます。延長登録無効審判(125条の2・125条の3)も利害関係人が請求し、延長された期間が延長可能期間を超えるときはその超える期間だけ無効にされます。共有に係る特許権に対する請求は共有者の全員を被請求人とし(132条2項)、当事者の一方が同一なら請求項が違っても審理を併合できます(154条1項)。実用新案登録無効審判(実用新案法37条)、意匠登録無効審判(意匠法48条)、商標登録無効審判(商標法46条)も同じ構造ですが、商標法には除斥期間(商標法47条)があり、意匠法と実用新案法には審決の予告がありません。

特許法123条2項・3項特許無効審判は、利害関係人(前項第二号(特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に該当することを理由として特許無効審判を請求する場合にあつては、特許を受ける権利を有する者)に限り請求することができる。
特許無効審判は、特許権の消滅後においても、請求することができる。
特許法125条特許を無効にすべき旨の審決が確定したときは、特許権は、初めから存在しなかつたものとみなす。ただし、特許が第百二十三条第一項第七号に該当する場合において、その特許を無効にすべき旨の審決が確定したときは、特許権は、その特許が同号に該当するに至つた時から存在しなかつたものとみなす。
特許法164条の2第1項・2項審判長は、特許無効審判の事件が審決をするのに熟した場合において、審判の請求に理由があると認めるときその他の経済産業省令で定めるときは、審決の予告を当事者及び参加人にしなければならない。
審判長は、前項の審決の予告をするときは、被請求人に対し、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正を請求するための相当の期間を指定しなければならない。
特許法167条特許無効審判又は延長登録無効審判の審決が確定したときは、当事者及び参加人は、同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない。
試験ではこう問われる
- 無効理由は123条1項各号。単一性(37条)・シフト補正(17条の2第4項)・先行技術文献開示(36条4項2号)・36条6項4号の省令記載要件は拒絶理由だけで無効理由ではない(簡潔性(36条6項3号)は無効理由に入る)。訂正要件違反(8号)は無効理由だけ
- 1号の新規事項追加は外国語書面出願を除く(原文新規事項は5号)。184条の18で外国語特許出願も同じ
- 請求人は利害関係人(平成26年改正。以前は何人も)。先使用権者や裁定による通常実施権者も請求できる。冒認・共同出願違反は特許を受ける権利を有する者だけ
- 特許権の消滅後(存続期間満了後)も請求できる。異議申立人が同じ理由で請求することは妨げられないが、利害関係がなければ審決で却下されることがある
- 請求の理由の要旨変更は審判長の許可が要り、不当遅延のおそれがないことに加えて131条の2第2項各号の事由が要る。副本の送達前の補正は許可できない。許可時の答弁書の機会は特別の事情があれば不要
- 審決の予告では被請求人に訂正を請求するための期間を指定する(意見書の機会ではない)。審決の予告は特許無効審判だけ
- 無効審決の確定で特許権は初めから存在しなかったものとみなされるが、後発的無効理由(7号)は該当時から。審決は請求項ごと、一群の請求項ごとに訂正の請求があればその一群ごとに確定する
- 一事不再理は当事者及び参加人に生じる。請求の認諾による終了はない
この用語が問われた枝
特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない理由のうち、特許無効審判を請求することができる理由ではないものには、特許法第 37 条(発明の単一性)及び特許法第 17 条の2第4項(補正の要件)に規定される要件を満たしていないときが含まれる。
特許法第 17 条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした外国語書面出願に対して特許がされたとき、当該要件を満たしていないことを理由として特許無効審判を請求することはできない。
特許無効審判は特許法第 38 条(共同出願)違反を無効理由とすることができるのに対し、特許異議の申立ては同条違反を申立理由とすることができない。
特許無効審判は、特許権について特許法第79条(先使用による通常実施権)の規定に基づき通常実施権を有する者であっても、請求することができる。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。