明細書・特許請求の範囲の記載要件と外国語書面出願(36条・36条の2・37条・17条の3)めいさいしょとっきょせいきゅうのはんいのきさいようけんとがいこくごしょめんしゅつがん
明細書・特許請求の範囲の記載要件とは、36条4項が発明の詳細な説明に、同条6項が特許請求の範囲に求める記載の要件で、37条の発明の単一性とともに拒絶理由になります。外国語書面出願とは、明細書等に代えて外国語書面と外国語要約書面を願書に添付してする特許出願で、出願の日から1年4月以内に日本語による翻訳文を提出します。
特許は、発明の中身を世の中に公開する代わりに独占を認める制度です。だから願書に添付する明細書には、同じ分野の技術者が読めばその発明を実施できる程度に書き、特許請求の範囲には、明細書に書いた発明を明確かつ簡潔に書かなければなりません。これが36条の記載要件で、守られていなければ審査官は拒絶します。発明を英語などで書いた書面のまま出願して、あとから日本語の翻訳文を出す道も用意されています。これが36条の2の外国語書面出願で、出願日を早く確保するための仕組みです。

発明の詳細な説明は当業者が実施できる程度に書き、特許請求の範囲は詳細な説明に記載した発明を明確かつ簡潔に書かなければなりません
36条4項1号は、発明の詳細な説明を、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載することを求めます。同項2号は、出願人が出願の時に知っている文献公知発明の情報の所在を書くことを求めます。36条6項は特許請求の範囲について、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること(1号)、発明が明確であること(2号)、請求項ごとの記載が簡潔であること(3号)、その他経済産業省令で定めるところにより記載されていること(4号)を求めます。37条は、二以上の発明を一の願書で出願できるのは、経済産業省令で定める技術的関係を有することにより発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するときだけだと定めます。単一性は請求項の数ではなく発明どうしの技術的関係で判断するので、一の請求項に二以上の発明が択一的に記載されていればその間でも問題になります。そのため「請求項を1つのみ記載した出願であれば」単一性の要件は満たされるという枝は誤りです。
- 36条4項1号発明の詳細な説明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載することです。実施可能要件と呼ばれます
- 36条4項2号出願の時に知っている文献公知発明の刊行物の名称などの情報の所在を記載することです。先行技術文献開示要件と呼ばれます
- 36条6項1号特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることです。サポート要件と呼ばれます
- 36条6項2号・3号発明が明確であること、請求項ごとの記載が簡潔であることです
- 36条6項4号その他経済産業省令で定めるところにより記載されていることです。委任省令要件と呼ばれます
- 37条二以上の発明は、発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するときに限り一の願書で出願できます
36条4項1号と6項1号から3号までの違反は拒絶理由であり無効理由にもなりますが、4項2号・6項4号・37条の違反は拒絶理由にとどまります
49条4号は36条4項1号・6項・37条の違反を、同条5号は48条の7の通知をしても36条4項2号を満たさないときを拒絶理由にします。一方、123条1項4号が無効理由にするのは36条4項1号又は6項(4号を除く)の違反だけです。先行技術文献の開示、委任省令の形式、単一性は、審査を効率よく進めるための要件であって、いったん成立した特許を第三者が無効にしてまで守らせるべき発明の実体の問題ではないからです。「特許無効審判を請求することができる理由ではないものには」37条と17条の2第4項の違反が含まれるという枝は正しいです。これに対し、無効理由になるものは委任省令要件・単一性・17条の2第4項の「違反以外の理由のすべてである」という枝は誤りです(36条4項2号の違反も拒絶理由だけで無効理由ではないからです)。外国語書面出願では、翻訳文を基準とする17条の2第3項の新規事項の追加は無効理由から外され(123条1項1号かっこ書)、代わりに外国語書面に記載した事項の範囲内にないことが無効理由になります(同項5号)。そのため、外国語書面出願について「当該要件を満たしていないことを理由として特許無効審判を請求することはできない」という枝は正しいです。

拒絶理由と無効理由の対応
| 要件 | 拒絶理由(49条) | 無効理由(123条1項) |
|---|---|---|
| 36条4項1号(実施可能) | 4号で拒絶理由です | 4号で無効理由です |
| 36条6項1〜3号(サポート・明確性・簡潔) | 4号で拒絶理由です | 4号で無効理由です |
| 36条4項2号(先行技術文献開示) | 48条の7の通知後も満たさなければ5号で拒絶理由です | 無効理由ではありません |
| 36条6項4号(委任省令) | 4号で拒絶理由です | 無効理由ではありません |
| 37条(単一性) | 4号で拒絶理由です | 無効理由ではありません |
| 17条の2第3項(新規事項) | 1号で拒絶理由です | 1号で無効理由ですが外国語書面出願は除かれ、5号の原文新規事項が無効理由です |
外国語書面出願の翻訳文は出願の日から1年4月以内に提出し、通知後の省令期間内に出した翻訳文はもとの期間の満了時に提出されたものとみなされます
外国語書面出願の出願人は、その特許出願の日(優先権の主張を伴うときは先の出願の日や最先の日)から1年4月以内に外国語書面及び外国語要約書面の日本語による翻訳文を特許庁長官に提出しなければなりません(36条の2第2項)。期間内に提出が無いと長官がその旨を通知し、通知を受けた者は経済産業省令で定める期間内に限り翻訳文を提出できます(同条3項・4項)。この期間内に出した翻訳文は、2項本文の期間が満了する時に提出されたものとみなされます(同条7項)。出願日が動くわけではないので、「翻訳文を提出した時にされたものとみなす」という枝は誤りです。省令期間内にも図面を除く外国語書面の翻訳文の提出が無いときは、2項本文の期間の経過の時に出願が取り下げられたものとみなされます(同条5項)。取下げ擬制の対象は外国語書面の翻訳文だけなので、外国語要約書面の翻訳文を出さなくても「当該外国語書面出願は取り下げられたものとはみなされない」という枝は正しいです。取り下げられたものとみなされた出願人も、故意に提出しなかったと認められる場合を除き、省令期間内に翻訳文を提出できます(同条6項)。以前は「正当な理由」が要件でしたが、令和3年改正で「故意でない」ことに緩められました。「故意に当該翻訳文を提出しなかったと認められる場合でなければ」翻訳文を提出できるときがあるという枝は正しいです。なお、翻訳文の提出前でも出願審査の請求はできます(48条の3第1項に提出を前提とする定めは無く、「出願審査の請求をすることはできない」という枝は誤りです)が、出願公開の請求はできません(64条の2第1項3号)。

外国語書面そのものは補正できず、翻訳文が明細書等とみなされ、誤訳の訂正は誤訳訂正書を出して外国語書面の範囲内でします
翻訳文は願書に添付して提出した明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書とみなされます(36条の2第8項)。出願の内容を確定する原文は外国語書面なので、外国語書面と外国語要約書面は時期を問わず補正できません(17条2項)。したがって、最初の拒絶理由通知の指定期間内であっても「外国語書面について補正をすることができる場合がある」という枝は誤りです。補正は翻訳文に対してし、通常の手続補正書による補正は翻訳文に記載した事項の範囲内でしなければなりません(17条の2第3項)。翻訳の誤りを原文に合わせて直したいときは、理由を記載した誤訳訂正書を提出し(同条2項)、外国語書面に記載した事項の範囲内で補正します。誤訳訂正書によるからといって何でも入るわけではなく、誤訳の訂正を目的としない補正が含まれていれば翻訳文に対する新規事項として拒絶理由になります。「誤訳訂正を目的としない補正が含まれていることを理由として」拒絶の理由が通知される場合があるという枝は正しいです。明細書等に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内にないときは、49条6号の拒絶理由であり、123条1項5号の無効理由にもなります。

分割出願や実用新案登録に基づく特許出願は外国語書面出願にできますが、先の出願を参照する方法では外国語書面出願はできません
外国語書面出願にできる出願の種類に制限はなく、分割出願、変更出願、実用新案登録に基づく特許出願も外国語書面出願にできます。この場合、もとの出願の日から1年4月を過ぎていても、分割などの日から2月以内に限り翻訳文を提出できます(36条の2第2項ただし書)。「当該新たな特許出願を外国語書面出願とすることができる」という枝は正しく、もとの出願が日本語でも制限はありません。一方、38条の3の先の特許出願を参照すべき旨を主張する方法による出願は、外国語書面出願をする場合には使えません(同条1項)。参照する先の出願の明細書の内容を確定する必要があるのに、外国語書面を参照先にすると原文と翻訳文の二重の確認が生じるからです。外国語書面出願で外国の出願を参照すべき旨を主張して「願書に明細書及び必要な図面を添付せずに、特許出願をすることができる」という枝は誤りです。
要約書は経済産業省令で定める期間内に限り補正でき、特許庁長官は公報に掲載するときに自ら作成した事項に差し替えられます
要約書には明細書等に記載した発明の概要その他経済産業省令で定める事項を記載します(36条7項)。要約書は技術情報の検索のための書面で権利の内容を決めるものではないので、補正は経済産業省令で定める期間内に限られ(17条の3)、その期間は出願の日から1年4月で、出願公開の請求があった後の期間は除かれます。「出願公開の請求があった後は補正をすることができない」という枝は正しいです。以前の省令では1年3月だったので、古い枝には1年3月で出ているものがあります。この期間は4条の延長の対象ではないので、遠隔又は交通不便の地にある者のため「願書に添付した要約書について補正をすることができる期間を延長することができる」という枝は誤りです。要約書の記載が36条7項に適合しないときその他必要があると認めるときは、特許庁長官は出願公開の公報に要約書に代えて自ら作成した事項を掲載でき(64条3項)、出願公開がされていない出願の特許掲載公報にも準用されます(66条4項)。「自ら作成した事項を特許公報に掲載することができる」という枝は正しいです。
特許法36条4項1号前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。
特許法36条6項第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。
二 特許を受けようとする発明が明確であること。
三 請求項ごとの記載が簡潔であること。
四 その他経済産業省令で定めるところにより記載されていること。
特許法36条の2第5項前項に規定する期間内に外国語書面(図面を除く。)の第二項に規定する翻訳文の提出がなかつたときは、その特許出願は、同項本文に規定する期間の経過の時に取り下げられたものとみなす。
特許法17条2項第三十六条の二第二項の外国語書面出願の出願人は、前項本文の規定にかかわらず、同条第一項の外国語書面及び外国語要約書面について補正をすることができない。
特許法123条1項4号その特許が第三十六条第四項第一号又は第六項(第四号を除く。)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたとき。
試験ではこう問われる
- 36条4項1号(実施可能)と6項1〜3号(サポート・明確性・簡潔)は拒絶理由かつ無効理由。「特許無効審判を請求することができる理由ではないものには」37条と17条の2第4項が含まれるという枝は正しい
- 36条4項2号(先行技術文献開示)・6項4号(委任省令)・37条(単一性)は拒絶理由だけ。これら以外の拒絶理由が無効理由の「すべてである」という枝は誤り(4項2号も無効理由ではない)
- 単一性は技術的関係で判断する。「請求項を1つのみ記載した出願であれば」満たされるという枝は誤り
- 翻訳文は出願の日から1年4月以内。通知後の省令期間内に出した翻訳文は期間満了時に提出されたものとみなす(36条の2第7項)。「翻訳文を提出した時にされたものとみなす」という枝は誤り
- 取下げ擬制は図面を除く外国語書面の翻訳文が無いときだけ。外国語要約書面の翻訳文が無くても「取り下げられたものとはみなされない」。擬制後も故意でなければ省令期間内に提出できる(令和3年改正で正当な理由から緩和)
- 外国語書面と外国語要約書面は補正できない(17条2項)。誤訳の訂正は誤訳訂正書で外国語書面の範囲内。誤訳訂正を目的としない補正が含まれれば拒絶理由
- 翻訳文の提出前でも出願審査の請求はできるが、出願公開の請求はできない(64条の2第1項3号)。17条の2第3項の違反は外国語書面出願では無効理由にならず、原文新規事項(123条1項5号)が無効理由
- 分割出願・変更出願・実用新案登録に基づく特許出願は外国語書面出願にでき、翻訳文はその日から2月以内。先の出願を参照する方法では外国語書面出願はできない。要約書の補正は省令期間(1年4月、公開請求後は不可)だけで、4条の延長の対象ではない
この用語が問われた枝
特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない理由のうち、特許無効審判を請求することができる理由ではないものには、特許法第 37 条(発明の単一性)及び特許法第 17 条の2第4項(補正の要件)に規定される要件を満たしていないときが含まれる。
特許出願について拒絶をすべき旨の査定となる理由のうち、特許を無効にする理由となるものは、特許法第36条第6項第4号に規定する要件(いわゆる特許請求の範囲の記載に関する委任省令要件)違反、特許法第37条に規定する発明の単一性の要件違反及び特許法第17条の2第4項に規定する要件(いわゆる技術的特徴の異なる別発明への補正の禁止)違反以外の理由のすべてである。
特許法第 17 条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした外国語書面出願に対して特許がされたとき、当該要件を満たしていないことを理由として特許無効審判を請求することはできない。
特許請求の範囲に請求項を1つのみ記載した出願であれば、特許法第37条に規定する「発明の単一性の要件」は満たされる。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。