無効の抗弁と訂正の再抗弁、侵害訴訟と審判の関係(104条の3・104条の4・168条)むこうのこうべんとていせいのさいこうべんしんがいそしょうとしんぱんのかんけい
無効の抗弁とは、特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により(又は延長登録が延長登録無効審判により)無効にされるべきものと認められるときは特許権者等は相手方にその権利を行使することができないとする104条の3の主張です。訂正の再抗弁とは、無効の抗弁に対して特許権者が、訂正により無効理由が解消され、訂正後の特許請求の範囲でも相手方の製品が技術的範囲に属すると反論する主張で、侵害訴訟と審判の関係は104条の4と168条が定めます。
特許権侵害で訴えられた相手方が「そもそもこの特許は新規性がなく、無効審判を請求すれば無効になるはずだ」と言いたい場面があります。特許を無効にする権限は特許庁の無効審判にしかありませんが、審決の確定を待っていては訴訟が長引き、無効になるはずの特許で差止めや賠償が認められてしまいます。最高裁は平成12年のキルビー事件で、無効理由が明らかな特許に基づく権利行使を権利の濫用としました。これを受けて平成16年改正で104条の3が置かれ、無効にされるべきものと認められるときは権利を行使できないと定められました。

104条の3は、無効にされるべきものと認められるときに権利行使を認めず、延長登録の無効も含み、無効審判の請求は要りません
104条の3第1項は、特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により又は当該特許権の存続期間の延長登録が延長登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は相手方にその権利を行使することができないと定めます。裁判所が特許を無効にするのではなく、その訴訟の中で無効と判断されるべきかを判断して権利行使を認めないだけなので、特許権自体は残ります。平成23年改正で延長登録の無効が加わったので、「延長登録無効審判により無効にされるべきものであるとの防御の方法を提出することはできない」という枝は誤りです。無効審判を実際に請求していることは要件ではありません。訂正審判が請求できる場合のように、無効理由を訂正で解消できる見込みがあるかどうかは、次の訂正の再抗弁の問題になります。
無効の抗弁は無効審判を請求できる者以外も主張でき、判断の効力はその訴訟の当事者間に限られ、特許原簿にも登録されません
平成26年改正で特許無効審判の請求人は利害関係人に限られましたが(123条2項)、104条の3第3項は、無効審判を請求することができる者以外の者が1項の攻撃又は防御の方法を提出することを妨げないと定めます。侵害訴訟の被告は自分が訴えられている以上、無効を主張する利益があるからです。無効の抗弁を提出できる者は123条2項「に規定する利害関係人に限られない」という枝は正しく、「特許無効審判を請求することができる者に限り主張することができる」という枝は誤りです。侵害訴訟の判決で無効にされるべきものと認められても、それは当事者間でその権利を行使できないという判断にとどまり、「他の当事者に対する他の訴訟においても効力を有する」という枝は誤りです。特許を対世的に無効にするのは無効審決だけなので、侵害訴訟の判決の内容が特許原簿に登録されることもありません。

審理を不当に遅延させる目的の攻撃防御方法は、時機に後れていなくても申立て又は職権で却下でき、却下の決定に独立の不服申立てはありません
104条の3第2項は、1項の攻撃又は防御の方法が審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは、裁判所は申立てにより又は職権で却下の決定をすることができると定めます。民事訴訟法の時機に後れた攻撃防御方法の却下とは別の規定なので、時機に後れたことは要件ではありません。「時機に後れたものでなくとも、審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる」という枝は正しく、「その主張が時機に後れたものでなくとも、裁判所は、職権で却下の決定をすることができる」という枝も正しいです。却下は裁量なので、認められるときは却下しなければならないという枝は誤りになります。この却下の決定について独立に不服を申し立てる規定はなく、終局判決に対する上訴の中で争います。却下の決定がされたときに「その決定に対して、即時抗告をすることができる」という枝は誤りです。
訂正の再抗弁は、無効の抗弁に対して特許権者が訂正で無効理由が消えると反論する主張で、条文ではなく判例で認められています
無効の抗弁が出されたとき、特許権者は、訂正審判(126条)又は無効審判での訂正の請求(134条の2)によって特許請求の範囲を減縮すれば無効理由が解消され、しかも訂正後の特許請求の範囲でも相手方の製品が技術的範囲に属すると反論できます。これが訂正の再抗弁で、特許法に明文はなく、裁判例で認められてきた主張です。主張するには、訂正が訂正要件(126条1項・5項〜7項)を満たすこと、訂正により無効理由が解消すること、訂正後の特許請求の範囲に相手方の製品が属することの三つを特許権者が示します。最高裁は平成29年7月10日の判決で、事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなかった特許権者が、その後に訂正審決等が確定したことを理由に事実審の判断を争うことは、主張しなかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情がない限り、104条の3及び104条の4の趣旨に照らして許されないとしました。あわせて、訂正の再抗弁を主張するために訂正審判の請求又は訂正の請求を現にしている必要はないとしています。訂正の再抗弁が認められれば、無効の抗弁は退けられ、訂正後の特許請求の範囲を基準に侵害の成否が判断されます。

104条の4は判決の確定後に無効審決や訂正審決が確定しても再審で主張できないとし、168条は審判と訴訟の中止と通知で両者をつなぎます
侵害訴訟の判決が確定した後に無効審決が確定すると、特許は初めから存在しなかったものとみなされるので(125条)、敗訴した侵害者は本来なら再審の訴えで判決を覆せそうです。しかし、侵害訴訟の中で無効の抗弁を主張して争う機会があった以上、紛争の蒸し返しを認める必要はありません。そこで平成23年改正の104条の4は、侵害又は補償金の支払の請求に係る訴訟の終局判決が確定した後に、特許を取り消すべき旨の決定若しくは無効にすべき旨の審決、延長登録を無効にすべき旨の審決、又は政令で定める訂正をすべき旨の決定若しくは審決が確定したときは、当事者であった者は再審の訴えでその確定を主張できないと定めます。損害賠償金を支払った後に無効審決が確定しても「当該終局判決に対する再審の訴えにおいて、当該審決が確定したことを主張することができない」という枝は正しく、「当該終局判決Aに対する再審の訴えにおいて、当該審決Bが確定したことを主張することができる」という枝は誤りです。再審の訴えには、その訴訟を本案とする仮差押命令事件の債権者に対する損害賠償の訴えと、仮処分命令事件の債権者に対する損害賠償及び不当利得返還の訴えが含まれるので、「仮処分命令事件の債権者に対する損害賠償請求訴訟においても、当該無効審決が確定したことを主張することができない」という枝は正しいです。訂正審決については政令で定めるものに限られるので、訂正審決の確定を「当該審決が確定したことを主張することができる場合はない」という枝は誤りです。168条1項は審判の側で、2項は裁判所の側で、それぞれ相手の手続の確定まで自分の手続を中止することができると定めますが、いずれも「できる」であって義務ではありません。無効理由の存否が明白でないときでも、審決が確定するまで訴訟手続を中止する義務はありません。実用新案法40条も同じ定めなので、実用新案権侵害訴訟で被告が中止を申し立てても、裁判所が必ず中止しなければならないわけではありません。168条3項から6項は、侵害に関する訴えの提起と審判の請求の有無を裁判所と特許庁長官が相互に通知し、無効の抗弁の書面が提出されたことも通知する仕組みで、審判と訴訟の判断の食い違いを減らすために平成23年改正で加わりました。

- 104条の3(権利行使の制限)無効にされるべきものと認められるときは権利行使不可です。延長登録の無効も含み、無効審判の請求は不要、請求できる者以外も主張でき、不当遅延目的なら申立て又は職権で却下できます
- 訂正の再抗弁訂正要件を満たす訂正で無効理由が解消し、訂正後も相手方の製品が技術的範囲に属することを特許権者が示します。明文はなく判例で認められています
- 104条の4(主張の制限)終局判決の確定後に取消決定・無効審決・延長登録無効審決・政令で定める訂正審決等が確定しても、再審の訴え(仮差押・仮処分の債権者に対する損害賠償等の訴えを含む)で主張できません
- 168条(訴訟との関係)審判と訴訟は相互に中止することができます(義務ではありません)。侵害訴訟の提起と審判請求の有無、無効の抗弁の書面の提出を裁判所と特許庁長官が相互に通知します
特許法104条の3第1項〜3項特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により又は当該特許権の存続期間の延長登録が延長登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。
2 前項の規定による攻撃又は防御の方法については、これが審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。
3 第百二十三条第二項の規定は、当該特許に係る発明について特許無効審判を請求することができる者以外の者が第一項の規定による攻撃又は防御の方法を提出することを妨げない。
特許法104条の4特許権若しくは専用実施権の侵害又は第六十五条第一項若しくは第百八十四条の十第一項に規定する補償金の支払の請求に係る訴訟の終局判決が確定した後に、次に掲げる決定又は審決が確定したときは、当該訴訟の当事者であつた者は、当該終局判決に対する再審の訴え(当該訴訟を本案とする仮差押命令事件の債権者に対する損害賠償の請求を目的とする訴え並びに当該訴訟を本案とする仮処分命令事件の債権者に対する損害賠償及び不当利得返還の請求を目的とする訴えを含む。)において、当該決定又は審決が確定したことを主張することができない。
一 当該特許を取り消すべき旨の決定又は無効にすべき旨の審決
二 当該特許権の存続期間の延長登録を無効にすべき旨の審決
三 当該特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすべき旨の決定又は審決であつて政令で定めるもの
特許法168条1項・2項審判において必要があると認めるときは、特許異議の申立てについての決定若しくは他の審判の審決が確定し、又は訴訟手続が完結するまでその手続を中止することができる。
2 訴えの提起又は仮差押命令若しくは仮処分命令の申立てがあつた場合において、必要があると認めるときは、裁判所は、審決が確定するまでその訴訟手続を中止することができる。
試験ではこう問われる
- 無効の抗弁は無効審判を現に請求していなくても主張できる。延長登録の無効も104条の3第1項に含まれる
- 無効審判を請求できる者(利害関係人)以外も主張できる(104条の3第3項)。「請求することができる者に限り主張することができる」という枝は誤り
- 判断の効力はその訴訟の当事者間に限られ、他の訴訟に効力を持たず、特許原簿にも登録されない
- 不当遅延目的の攻撃防御方法は、時機に後れていなくても申立て又は職権で却下できる(義務ではない)。却下決定に「即時抗告をすることができる」という枝は誤り
- 判決確定後に無効審決が確定しても、再審の訴えでその確定を主張できない(104条の4)。仮処分・仮差押の債権者に対する損害賠償等の訴えも同じ
- 再審で主張できない訂正審決は政令で定めるものに限られる。「主張することができる場合はない」という枝は誤り
- 168条の中止は審判側も裁判所側も「できる」であって義務ではなく、実用新案法40条も同じ
この用語が問われた枝
被告は、当該特許権の存続期間の延長登録が延長登録無効審判により無効にされるべきものであるとの防御の方法を提出することはできない。
特許権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものであるとの攻撃又は防御の方法を提出することができる者は、特許法第 123 条第2項に規定する利害関係人に限られない。
特許権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものとの攻撃又は防御の方法は、当該特許に係る発明について特許無効審判を請求することができる者に限り主張することができる。
特許権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められると判断する判決が確定したときは、その判断は、他の当事者に対する他の訴訟においても効力を有する。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。