冒認出願と特許権の移転請求(74条・123条1項6号・49条7号)ぼうにんしゅつがんととっきょけんのいてんせいきゅう
冒認出願とは、その発明について特許を受ける権利を有しない者がした特許出願をいい、拒絶理由(49条7号)であり、特許がされれば無効理由(123条1項6号)になります。特許権の移転請求とは、冒認出願又は共同出願違反の出願に対して特許がされた場合に、特許を受ける権利を有する者がその特許権者に対して特許権の移転を請求できる74条の仕組みで、移転の登録があれば特許権は初めから登録を受けた者に帰属していたものとみなされます。
自分の発明を他人に勝手に出願され、しかも特許まで取られてしまったとします。以前は、その特許を無効にした上で自分で出願し直すしかなく、冒認出願の公開で新規性を失っていればもう特許は取れませんでした。そこで平成23年改正は、真の権利者が特許権者に特許権そのものの移転を請求でき、移転の登録があれば特許権は初めから自分のものだったとみなす74条を設けました。冒認出願が拒絶理由・無効理由であることと、この移転請求を組み合わせて、真の権利者を守る仕組みになっています。

冒認出願は特許を受ける権利を有しない者の出願で、拒絶理由と無効理由になりますが、無効審判を請求できるのは特許を受ける権利を有する者に限られ、特許異議の申立ての理由にはなりません
特許出願人がその発明について特許を受ける権利を有していないときは49条7号の拒絶理由であり、特許がされたときは123条1項6号の無効理由です。冒認を理由とする無効審判は利害関係人なら誰でも請求できるものではなく、特許を受ける権利を有する者に限り請求できます(123条2項)。真の権利者が特許権を取り戻すか無効にするかを選べるようにするためで、発明者から特許を受ける権利を承継した者も含まれるので、「その発明をした発明者でなければ、当該特許を無効にすることについて特許無効審判を請求することができない」という枝は誤りです。侵害訴訟での無効の抗弁は、無効審判を請求できる者以外の者も提出できます(104条の3第3項)。特許異議の申立ての理由を列挙する113条各号には冒認が入っていないので、「そのことを理由として特許異議の申立てをすることができる」という枝は誤りです(異議は何人も申し立てられる公益的な手続で、誰に権利が帰属するかの争いになじまないからです)。
- 拒絶理由49条7号です。出願人が特許を受ける権利を有していないときです
- 無効理由123条1項6号です。請求できるのは特許を受ける権利を有する者だけです(123条2項)。共同出願違反(123条1項2号・38条)も同じ扱いです
- 特許異議の申立て113条各号に冒認も共同出願違反もなく、理由になりません
- 無効の抗弁104条の3第3項により、無効審判を請求できる者以外も主張できます
特許を受ける権利を有する者は、その特許権者に特許権の移転を請求でき、移転の登録があれば特許権と補償金請求権は初めから登録を受けた者に帰属していたものとみなされます
74条1項は、特許が冒認出願(123条1項6号)又は共同出願違反(同項2号のうち38条違反)に当たるときに、特許を受ける権利を有する者が経済産業省令で定めるところにより、その特許権者に対して特許権の移転を請求できると定めます。移転の登録があったときは、特許権は初めから登録を受けた者に帰属していたものとみなされ、65条1項の補償金請求権も同様です(2項)。「当該補償金請求権の発生時から当該登録を受けた者に帰属していたものとみなされる」という枝と、補償金請求権は「初めから当該登録を受けた者に帰属していたものとみなされる」という枝はいずれも正しいです。請求の相手方は「その特許権者」であって冒認者そのものではないので、特許権が第三者にすべて譲渡されていれば現在の特許権者である第三者に請求することになり、「当該真の権利者は当該冒認者に対して当該特許権の移転を請求することができる」という枝は誤りです。共有の持分についても請求でき、持分の移転の登録があれば「その特許権の持分は初めから甲に帰属していたものとみなされる」という枝は正しいです。この持分の移転には73条1項を適用しないので(74条3項)、「甲は乙の同意を得なければならない」という枝は誤りです。

移転の登録があれば冒認と共同出願違反の無効理由は消え、登録前から善意で実施していた者には通常実施権が残ります
74条1項の請求に基づく移転の登録があったときは、123条1項6号と2号のかっこ書により、冒認と共同出願違反は無効理由に該当しなくなります。真の権利者が特許権を取り戻した後まで出願の瑕疵を残す理由がないからです。冒認出願に対する特許であっても123条1項6号の「無効理由に該当しないことがある」という枝は正しく、共同出願違反の特許について移転の登録で「共有者全員が当該特許権を共有することとなったときには、共同出願違反の無効理由には該当しない」という枝も正しいです。一方、移転の登録の際に現にその特許権、専用実施権又は通常実施権を有していた者で、登録前に冒認や共同出願違反であることを知らないで国内で発明の実施である事業をし又はその準備をしていた者は、その発明及び事業の目的の範囲内で通常実施権を持ち、特許権者は相当の対価を受ける権利を持ちます(79条の2)。移転の登録前に冒認であることを「知らないで、日本国内においてその発明の実施である事業をしていた」丙が通常実施権を持つという枝は正しいです。訂正審判の請求に承諾を要するのは専用実施権者と質権者だけで(127条)、79条の2の通常実施権者は含まれていないので、「その者の承諾がなければ当該特許の特許権者は訂正審判を請求することはできない」という枝は誤りです(この枝が出た当時は35条1項などの通常実施権者の承諾も要りましたが、令和3年改正で通常実施権者は127条から外れました)。

平成23年改正で旧39条6項が削除されて冒認出願も先願の地位を持ち、拡大先願の発明者同一・出願人同一は願書の記載と後願の出願時で判断します
以前は39条6項が、特許を受ける権利を有しない者の出願は先願の地位を持たないと定めていました。平成23年改正で74条の移転請求を設けるのと引き換えにこの項は削除され、現行法では冒認出願も39条の先願の地位を持ちます。真の権利者には移転請求という救済があり、冒認出願の後に出願した第三者まで特許を受けられるようにする必要がないからです。冒認出願Aが「特許出願Bに対して特許法第39条の先願の地位を有することはない」という枝は誤りです(この改正前の枝では先願の地位を有しないが正解でした)。29条の2の適用除外も同じで、発明者同一は願書の発明者の記載で、出願人同一は後願の出願時で判断するので、冒認出願Aの願書の発明者欄が冒認者の名前なら、真の発明者乙の後願Bは発明者同一の除外に当たらず、「出願Aがいわゆる拡大された範囲の先願であることを理由として、出願Bが拒絶されることはない」という枝は誤りです。真の権利者は、出願Aが特許される前なら自ら出願した上で出願Aの拒絶を待つのではなく、出願Aが特許された後に74条で移転を請求するのが確実な救済になります。
特許法74条特許が第百二十三条第一項第二号に規定する要件に該当するとき(その特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に規定する要件に該当するときは、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、経済産業省令で定めるところにより、その特許権者に対し、当該特許権の移転を請求することができる。
2 前項の規定による請求に基づく特許権の移転の登録があつたときは、その特許権は、初めから当該登録を受けた者に帰属していたものとみなす。当該特許権に係る発明についての第六十五条第一項又は第百八十四条の十第一項の規定による請求権についても、同様とする。
3 共有に係る特許権について第一項の規定による請求に基づきその持分を移転する場合においては、前条第一項の規定は、適用しない。
特許法123条2項特許無効審判は、利害関係人(前項第二号(特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に該当することを理由として特許無効審判を請求する場合にあつては、特許を受ける権利を有する者)に限り請求することができる。
特許法79条の2第1項第七十四条第一項の規定による請求に基づく特許権の移転の登録の際現にその特許権、その特許権についての専用実施権又はその特許権若しくは専用実施権についての通常実施権を有していた者であつて、その特許権の移転の登録前に、特許が第百二十三条第一項第二号に規定する要件に該当すること(その特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に規定する要件に該当することを知らないで、日本国内において当該発明の実施である事業をしているもの又はその事業の準備をしているものは、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許権について通常実施権を有する。
試験ではこう問われる
- 冒認は拒絶理由(49条7号)・無効理由(123条1項6号)だが、異議理由ではない。「特許異議の申立てをすることができる」という枝は誤り
- 冒認を理由とする無効審判は特許を受ける権利を有する者に限る(123条2項)。承継人も含むので「発明者でなければ」請求できないという枝は誤り
- 移転請求の相手方は「その特許権者」。第三者に譲渡済みなら「冒認者に対して」請求できるという枝は誤り
- 移転の登録で特許権と65条1項の補償金請求権は初めから登録を受けた者に帰属したものとみなす(74条2項)
- 持分の移転請求に他の共有者の同意は不要(74条3項)。「乙の同意を得なければならない」という枝は誤り
- 移転の登録があれば無効理由に該当しなくなる(123条1項2号・6号かっこ書)。善意の実施者は79条の2の通常実施権を持ち、特許権者は相当の対価を受ける
- 訂正審判の承諾権者(127条)は専用実施権者と質権者だけで、79条の2の通常実施権者は含まれない(令和3年改正で通常実施権者は全て外れた)
- 平成23年改正で旧39条6項は削除され、冒認出願も先願の地位を持つ。29条の2の発明者同一は願書の記載で判断するので、冒認出願でも後願を拒絶し得る
この用語が問われた枝
特許がその発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたときは、そのことを理由として特許異議の申立てをすることができる。
特許がその発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされた場合、その発明をした発明者でなければ、当該特許を無効にすることについて特許無効審判を請求することができない。
特許がその発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされた場合、その特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、経済産業省令で定めるところにより、その特許権者に対し、当該特許権の移転を請求することができる。当該請求に基づく特許権の移転の登録があったときは、当該特許権に係る発明についての特許法第 65 条第1項の規定による補償金請求権は、当該補償金請求権の発生時から当該登録を受けた者に帰属していたものとみなされる。
特許がその発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされた場合、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、経済産業省令で定めるところにより、その特許権者に対し、当該特許権の移転を請求することができ、当該請求に基づく特許権の移転の登録があったときは、当該特許権に係る発明についての特許法第65条第1項の規定による補償金請求権は、初めから当該登録を受けた者に帰属していたものとみなされる。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。