意匠権の移転・共有・冒認の移転請求(22条・26条の2・29条の3・36条準用 特73条・98条)いしょうけんのいてんきょうゆうぼうにんのいてんせいきゅう
意匠権の移転・共有・冒認の移転請求とは、意匠権を契約や一般承継で他人に移し、又は複数人で持つときの決まりと、意匠登録を受ける権利を有しない者の出願(冒認出願)や共同出願違反に対して登録を受けた意匠権が真の権利者に移転を請求される制度です(22条・26条の2・29条の3・36条で準用する特許法73条・98条)。
椅子の意匠権を持つメーカーが会社ごと買われたり、意匠権だけを売ったり、二社で共同開発して権利を分け合ったりすることがあります。意匠権は財産なので移転も共有もできますが、誰が権利者かは意匠原簿で公示されるため、契約による移転は登録しなければ効力を生じません。また、互いに類似する基礎意匠と関連意匠が別々の人に渡ると同じ範囲の権利が二人に分かれるので、分離して移転することは禁じられます。さらに、他人の意匠を勝手に出願して登録を受けた冒認者から、真の権利者が意匠権を取り戻す移転請求の制度があります。

契約による意匠権の移転は登録が効力要件ですが、相続その他の一般承継は登録なしに移り、遅滞なく届け出るだけです
36条が準用する特許法98条1項1号は、意匠権の移転(相続その他の一般承継によるものを除く)、信託による変更、放棄による消滅又は処分の制限は登録しなければその効力を生じないと定め、同条2項は、一般承継の場合は遅滞なくその旨を特許庁長官に届け出なければならないと定めます。合併による承継は一般承継なので、甲株式会社と乙株式会社の合併で丙株式会社が新設される場合、甲の意匠権は移転登録をしなくても丙に帰属します。相続人がいないときは、意匠権は民法952条2項の期間内に相続人である権利を主張する者がないときに消滅します(36条で準用する特許法76条)。国際登録を基礎とした意匠権の移転は、意匠原簿ではなく国際登録簿に登録されたところによります(60条の19第2項)。
基礎意匠と関連意匠の意匠権は分離して移転できず、基礎意匠が消滅した後も関連意匠どうしは分離できず、組物の意匠権も構成物品ごとには分けられません
22条1項は、基礎意匠及びその関連意匠の意匠権は分離して移転することができないと定めます。関連意匠は基礎意匠に類似する意匠なので、別人に帰属すると同じ範囲を二人が専有することになり、権利関係が混乱するからです。関連意匠ロの登録を受けた場合でも「意匠イに係る意匠権と意匠ロに係る意匠権を分離して移転することができる場合がある」という枝は誤りで、相続その他の一般承継による場合も分離して移転することはできません。2項は、基礎意匠の意匠権が登録料の不納で消滅したとき、無効審決が確定したとき、又は放棄されたときは、その基礎意匠に係る関連意匠の意匠権は分離して移転できないと定めます。基礎意匠が消滅しても関連意匠どうしは互いに類似する関係に残るからです。基礎意匠の意匠権が放棄されたとき「当該基礎意匠に係る複数の関連意匠の意匠権を、分離して移転することができる」という枝は誤りで、本意匠の無効審決の確定により「当該本意匠に係る複数の関連意匠の意匠権は、分離して移転することができる」という枝も誤りです。この枝は令和元年改正前の「本意匠」の語で出ていますが、現行法の「基礎意匠」でも結論は同じです。関連意匠にのみ類似する意匠も関連意匠として登録でき(10条4項)、基礎意匠に連鎖する段階的な関連意匠も22条の対象なので、中間の関連意匠ロを放棄しても「意匠イに係る意匠権と意匠ハに係る意匠権を分離して移転することはできない」という枝は正しいです。組物の意匠は全体で一つの意匠として登録され一つの意匠権になるので、組物に係る意匠権を構成物品の意匠ごとに分けて移転することもできません。

- 基礎意匠と関連意匠分離して移転できません。一般承継でも同じです(22条1項)
- 基礎意匠の消滅後関連意匠どうしも分離して移転できません(22条2項)。登録料の不納・無効審決の確定・放棄のいずれでも同じです
- 組物の意匠一つの意匠権なので構成物品ごとに分けて移転できません
- 専用実施権の設定同じ理由で、基礎意匠と全ての関連意匠について同一の者に同時に設定する場合に限られます(27条1項ただし書)
共有の意匠権は、持分の譲渡・質権の設定と専用実施権の設定・通常実施権の許諾に他の共有者の同意が要りますが、実施と差止請求は単独でできます
36条が準用する特許法73条は、意匠権が共有に係るときは、各共有者は他の共有者の同意を得なければ持分を譲渡し又は持分を目的として質権を設定することができず(1項)、契約で別段の定めをした場合を除き他の共有者の同意を得ないで実施をすることができ(2項)、他の共有者の同意を得なければ専用実施権を設定し又は他人に通常実施権を許諾することができない(3項)と定めます。意匠は誰が実施しても権利の価値が変わりにくい一方、誰に実施させるかは他の共有者の利害に直結するからです。共有の意匠権では、専用実施権の設定だけでなく通常実施権の許諾にも他の共有者の同意が要ります。差止請求は権利を保全する行為で各共有者が単独で行えるので、丙と意匠権を共有する甲は「単独で乙物品の製造販売についての差止めを求める訴えを提起することができる」という枝は正しく、他の共有者の同意がなくても訴えは却下されません。冒認の移転請求で共有持分を移転するときは、73条1項の同意は要りません(26条の2第4項)。
共有に係る審判は共有者の全員で請求し全員を被請求人としますが、無効審決の取消訴訟は共有者の一人が単独で提起できます
52条が準用する特許法132条2項は、共有に係る意匠権について意匠権者に対し審判を請求するときは共有者の全員を被請求人として請求しなければならないと定め、3項は、意匠権又は意匠登録を受ける権利の共有者がその共有に係る権利について審判を請求するときは共有者の全員が共同して請求しなければならないと定めます。共有の意匠権に対する無効審判は「共有者全員を被請求人としなければならない」という枝は正しく、意匠登録を受ける権利が共有の場合に「共有者の一部の者が拒絶査定不服審判を請求しても、審決をもって却下される」という枝も正しいです。これに対し、無効審決や取消決定に対する取消訴訟は、権利の消滅を防ぐ保存行為に当たるとして共有者の一人が単独で提起できると判例が認めています(商標の無効審決について最判平成14年2月22日、特許の取消決定について最判平成14年3月25日)。無効審決に対する「審決取消訴訟を共有者の1人が単独で提起することはできない」という枝は誤りです。
共有の意匠権で単独でできること・できないこと
| 行為 | 他の共有者の同意 | 根拠 |
|---|---|---|
| 持分の譲渡・持分への質権設定 | 要ります | 特許法73条1項の準用 |
| 登録意匠の実施 | 要りません(契約で別段の定めがあれば別です) | 特許法73条2項の準用 |
| 専用実施権の設定・通常実施権の許諾 | 要ります | 特許法73条3項の準用 |
| 差止請求 | 要りません(単独でできます) | 37条1項 |
| 審判の請求・被請求 | 全員で請求し、全員を被請求人にします | 特許法132条2項・3項の準用 |
| 無効審決の取消訴訟 | 単独で提起できます | 最判平成14年2月22日・最判平成14年3月25日 |
冒認出願や共同出願違反の意匠登録は、真の権利者が意匠権の移転を請求でき、移転の登録で初めから帰属していたものとみなされますが、基礎意匠・関連意匠のいずれかが消滅した後は請求できません
26条の2第1項は、意匠登録が48条1項1号の共同出願違反(15条1項で準用する特許法38条の違反)又は48条1項3号の冒認出願に該当するときは、その意匠について意匠登録を受ける権利を有する者は意匠権者に対し意匠権の移転を請求することができると定めます。無効にして出願し直すだけでは、真の権利者は冒認者の出願の後に公知になった意匠について登録を受けられないので、平成23年改正で特許法74条と同時に設けられた制度です。3項は、移転の登録があったときはその意匠権は初めから登録を受けた者に帰属していたものとみなし、国際意匠登録出願の補償金請求権(60条の12第1項)も同様とします。国際登録を基礎とした意匠権の補償金請求権が「当該移転が国際登録簿に登録された時から当該登録を受けた者に帰属していたものとみなされる」という枝は誤りです。2項は、基礎意匠又は関連意匠の意匠権についての移転請求は、いずれかの意匠権の消滅後は、その消滅した意匠権が無効審決で初めから存在しなかったものとみなされたときを除き、することができないと定めます。移転すれば基礎意匠と関連意匠の分離が生じるからです。基礎意匠の意匠権Aが登録料の不納で消滅した後に、関連意匠ロの真の権利者乙が「意匠権Aを無効にすることなく、甲に対し、意匠ロの意匠権Bの移転を請求することができる」という枝は誤りです。無効審判は何人も請求できますが、冒認と共同出願違反を理由とするものは意匠登録を受ける権利を有する者に限られ(48条2項)、移転の登録があった後はその理由では無効にできません(48条1項1号・3号のかっこ書)。29条の3は、移転の登録の際に意匠権・専用実施権・通常実施権を持っていた者が、移転の登録前に冒認等であることを知らないで日本国内で事業又はその準備をしていたときは、その意匠及び事業の目的の範囲内で通常実施権を有し、意匠権者は相当の対価を受ける権利を持つと定めます。

意匠法22条1項基礎意匠及びその関連意匠の意匠権は、分離して移転することができない。
意匠法22条2項基礎意匠の意匠権が第四十四条第四項の規定により消滅したとき、無効にすべき旨の審決が確定したとき、又は放棄されたときは、当該基礎意匠に係る関連意匠の意匠権は、分離して移転することができない。
意匠法26条の2第1項意匠登録が第四十八条第一項第一号に規定する要件に該当するとき(その意匠登録が第十五条第一項において準用する特許法第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は第四十八条第一項第三号に規定する要件に該当するときは、当該意匠登録に係る意匠について意匠登録を受ける権利を有する者は、経済産業省令で定めるところにより、その意匠権者に対し、当該意匠権の移転を請求することができる。
特許法73条3項(意匠法36条で準用)特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許権について専用実施権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができない。
試験ではこう問われる
- 契約による意匠権の移転は登録が効力要件。合併などの一般承継は登録なしに移る(特許法98条の準用)
- 基礎意匠と関連意匠の意匠権は分離して移転できず、一般承継でも同じ(22条1項)。「分離して移転することができる場合がある」の枝は誤り
- 基礎意匠が登録料不納・無効審決・放棄で消滅した後も、関連意匠どうしは分離して移転できない(22条2項)。中間の関連意匠を放棄しても基礎意匠と連鎖する関連意匠は分離できない。旧法の枝は「本意匠」の語で出る
- 組物の意匠権は一つの権利で、構成物品ごとに分けて移転できない
- 共有では持分の譲渡・質権設定と専用実施権の設定・通常実施権の許諾に他の共有者の同意が要る。実施と差止請求は単独で可
- 共有の審判は全員で請求・全員を被請求人(特許法132条2項・3項の準用)。無効審決の取消訴訟は共有者の一人が単独で提起できる(判例)
- 冒認・共同出願違反の意匠登録は真の権利者が移転を請求でき、移転の登録で「初めから」帰属していたものとみなす(26条の2第3項)。国際登録簿に登録された時からとする枝は誤り
- 基礎意匠・関連意匠のいずれかの意匠権が消滅した後は、無効審決で初めから存在しなかったものとみなされたときを除き移転請求はできない(26条の2第2項)。移転の登録前の善意の実施者は対価付きの通常実施権(29条の3)
この用語が問われた枝
意匠イを本意匠とする関連意匠として意匠ロについて意匠登録を受けた場合であっても、意匠イに係る意匠権と意匠ロに係る意匠権を分離して移転することができる場合がある。
甲は、意匠ロについて、意匠イを本意匠とする関連意匠として意匠登録を受けるとともに、意匠ハについて、意匠ロを本意匠とする関連意匠として意匠登録を受けた。意匠ロに係る意匠権を放棄した場合であっても、意匠イに係る意匠権と意匠ハに係る意匠権を分離して移転することはできない。
基礎意匠の意匠権が放棄されたときは、当該基礎意匠に係る複数の関連意匠の意匠権を、分離して移転することができる。
甲が第三者である丙と意匠イの意匠権を共有している場合、甲は、単独で乙物品の製造販売についての差止めを求める訴えを提起することができる。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。