差止請求と秘密意匠の警告(37条)さしとめせいきゅうとひみついしょうのけいこく
差止請求とは、意匠権者又は専用実施権者が、自己の意匠権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求できる37条1項の仕組みです。秘密意匠の警告とは、秘密にすることを請求した意匠については、20条3項各号の事項を記載し特許庁長官の証明を受けた書面を提示して警告した後でなければ差止請求ができないとする37条3項の制限です。
自分の登録意匠とそっくりな容器が店先に並んでいたら、意匠権者はまず売るのをやめさせたいと考えます。損害賠償は過去の損失を金銭で埋める手段で、今続いている侵害を止める力はありません。そこで37条1項は、意匠権者又は専用実施権者が侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、侵害の停止又は予防を請求できると定め、相手の故意や過失は問いません。ただし秘密意匠は公報に図面が載らないので、証明を受けた書面で警告した後でなければ差止請求ができません。

37条1項の差止請求は意匠権者又は専用実施権者が侵害する者又は侵害するおそれがある者に対してでき、相手の故意・過失は要りません
差止請求の主体は意匠権者又は専用実施権者で、相手は現に侵害する者と侵害するおそれがある者です。請求できる内容は侵害の停止又は予防です。条文に故意・過失の要件は無いので、「故意又は過失があることは要件とされていない」という枝は正しいです。故意・過失は民法709条の損害賠償請求の要件にとどまります。専用実施権を設定した意匠権者も差止請求権を失いません。特許法100条1項について判例(最判平成17年6月17日)が、文言上制限の根拠が無く、実施料収入の確保などの利益もあるとして特許権者の差止請求権を認めており、同旨の37条1項も主体を意匠権者又は専用実施権者と並べているからです。そこで、「実施の範囲や地域に制限を設けずに、乙に専用実施権を設定した場合」でも甲が差止請求権を行使できるという枝は正しいです。意匠権が共有のときも、36条が準用する特許法73条が他の共有者の同意を求めるのは持分の譲渡・質権の設定と実施権の設定・許諾だけなので、各共有者は「単独で乙物品の製造販売についての差止めを求める訴えを提起することができる」という枝は正しいです。通常実施権者には差止請求権がありません。
- 請求できる者意匠権者又は専用実施権者です。通常実施権者は含まれません
- 相手方自己の意匠権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者です
- 請求の内容侵害の停止又は予防です。故意・過失は要りません
- 付随する請求(2項)侵害の行為を組成した物品・建築物・画像・一般画像記録媒体等・プログラム等記録媒体等の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為です
- 秘密意匠の制限(3項)20条3項各号の事項を記載し特許庁長官の証明を受けた書面を提示して警告した後でなければ、1項の請求ができません
2項の廃棄・除却は1項の請求をするに際して請求できる付随的な請求で、必ず併せてするものではありません
37条2項は、意匠権者又は専用実施権者が「前項の規定による請求をするに際し」、侵害の行為を組成した物品、建築物若しくは画像又はプログラム等記録媒体等の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求できると定めています。侵害品や金型が残ったままでは差止めの実効性が無いので、差止請求に付随させて認めた請求です。差止請求に付随するものなので、1項の「その侵害の停止又は予防の請求をしなくとも」廃棄や除却を請求できるという枝は誤りで、「物品Xの販売の差止めを請求することなく」倉庫の物品Xの廃棄と損害賠償のみを請求できるという枝も誤りです。反対に、請求するかどうかは権利者に委ねられているので、1項の請求をするときは「同条第2項の規定に基づく請求もしなければならない」という枝は誤りです。損害賠償請求は民法709条に基づく独立の請求なので、「製品bの製造販売の差止請求をする場合でなければ」損害賠償を請求できないという枝も誤りです。対象には令和元年改正でプログラム等やその記録媒体が加わり、差止請求をするに際し「工作機用制御プログラムを記録した記録媒体の廃棄を併せて請求する」と認容されることがあるという枝と、製造販売の停止とともに「侵害行為を組成したプログラムを記録した記録媒体の廃棄を請求することができる」という枝はいずれも正しいです。2条1項のかっこ書は、画像を操作画像と表示画像に限る限定から37条2項を除いているので、廃棄の対象となる画像は「機器の操作の用に供される画像又は機器がその機能を発揮した結果として表示される画像に限られる」という枝は誤りです。

秘密意匠は特許庁長官の証明を受けた書面を提示して警告した後でなければ差止請求ができませんが、損害賠償請求に警告は要りません
14条1項により秘密にすることを請求した意匠は、設定登録後も指定した期間(設定登録の日から3年以内)は意匠公報に願書・図面の内容が載りません(20条4項)。第三者は登録意匠の内容を確かめようが無いので、37条3項は、意匠権者又は専用実施権者が20条3項各号に掲げる事項を記載した書面であって特許庁長官の証明を受けたものを提示して警告した後でなければ、1項の請求ができないとしています。証明を受けない書面や意匠公報の提示では足りません。この制限は1項の差止請求だけにかかります。損害賠償請求は民法709条の請求で、37条3項の要件ではないので、「差止請求を行わずに損害賠償請求のみ行う場合であっても」証明を受けた書面の警告が意匠法上の要件になっているという枝は誤りで、警告した後でなければ「損害賠償を請求することができない旨が意匠法に規定されている」という枝も誤りです。秘密意匠では40条ただし書により過失の推定が働きませんが、権利者が過失を立証すれば賠償を請求できるので、警告をしなくても「損害の賠償を請求することができる場合がある」という枝は正しいです。証明を受けた書面を提示して警告し、「その後も乙が乙物品の製造販売を継続するときは」差止めと損害賠償の両方を請求できるという枝も正しいです。警告後に続ける相手には故意・過失が認められるからです。

差止請求は意匠権が存続している間だけでき、消滅後は存続中の侵害についての損害賠償請求だけが残ります
差止請求は現に存続する意匠権の侵害の停止又は予防を求めるものなので、存続期間の満了や登録料の不納で意匠権が消滅した後は請求できません。一方、存続中にされた侵害による損害の賠償は、消滅後も民法709条により請求できます。したがって、意匠権が「存続期間満了により消滅した後は」「差止と損害賠償のいずれも請求することができない」という枝は誤りです。国際意匠登録出願には設定登録前の実施に対する補償金請求権(60条の12)がありますが、これは警告の方式も効果も37条3項と別の仕組みです。
意匠法37条1項意匠権者又は専用実施権者は、自己の意匠権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
意匠法37条2項意匠権者又は専用実施権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物品、建築物若しくは画像(その画像を表示する機能を有するプログラム等を含む。第六十四条及び第六十五条第一号を除き、以下同じ。)若しくは画像を記録した記録媒体若しくは内蔵する機器(以下「一般画像記録媒体等」という。)又はプログラム等(画像を表示する機能を有するプログラム等を除く。以下同じ。)若しくはプログラム等を記録した記録媒体若しくは記憶した機器(以下「プログラム等記録媒体等」という。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。
意匠法37条3項第十四条第一項の規定により秘密にすることを請求した意匠に係る意匠権者又は専用実施権者は、その意匠に関し第二十条第三項各号に掲げる事項を記載した書面であつて特許庁長官の証明を受けたものを提示して警告した後でなければ、第一項の規定による請求をすることができない。
試験ではこう問われる
- 差止請求に故意・過失は要らない。「故意又は過失があることは要件とされていない」という枝は正しい。故意・過失は損害賠償(民法709条)の要件にとどまる
- 専用実施権を設定した意匠権者も差止請求できる(最判平成17年6月17日の趣旨)。共有者は単独で差止請求の訴えを提起できる(36条準用 特73条は差止請求を制限していない)。通常実施権者には差止請求権が無い
- 廃棄・除却は差止請求を「するに際し」請求できる付随的な請求。「その侵害の停止又は予防の請求をしなくとも」請求できるという枝、「物品Xの販売の差止めを請求することなく」廃棄と損害賠償のみ請求できるという枝は誤り
- 付随的な請求であって義務ではない。1項の請求をするときは「同条第2項の規定に基づく請求もしなければならない」という枝は誤り。損害賠償は独立の請求で、差止請求をしなくても請求できる
- 廃棄の対象にはプログラム等記録媒体等が含まれ、画像は操作画像・表示画像に限られない(2条1項かっこ書が37条2項を除外)
- 秘密意匠は20条3項各号の事項を記載し特許庁長官の証明を受けた書面を提示して警告した後でなければ差止請求できない。公報の提示や証明の無い書面では足りない
- 警告が要件なのは差止請求だけ。「差止請求を行わずに損害賠償請求のみ行う場合であっても」警告が要件という枝、警告後でなければ「損害賠償を請求することができない旨が意匠法に規定されている」という枝は誤り。過失を立証すれば警告なしでも賠償請求できる
- 意匠権の消滅後は差止請求できないが、存続中の侵害の損害賠償は請求できる。「差止と損害賠償のいずれも請求することができない」という枝は誤り
この用語が問われた枝
甲の差止請求が認められるためには、乙に、意匠イに係る意匠権の侵害行為について故意又は過失があることは要件とされていない。
登録意匠イの意匠権者である甲は、登録意匠イについて、実施の範囲や地域に制限を設けずに、乙に専用実施権を設定した場合、丙による登録意匠イの意匠権の侵害行為に対して、差止請求権を行使することができる。
甲が第三者である丙と意匠イの意匠権を共有している場合、甲は、単独で乙物品の製造販売についての差止めを求める訴えを提起することができる。
甲が乙に対して意匠法第 37 条第1項に基づき侵害の停止及び予防を請求する場合には、同条第2項の規定に基づく請求もしなければならない。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。