国際公表の効果と補償金請求権(60条の12)こくさいこうひょうのこうかとほしょうきんせいきゅうけん
国際公表の効果とは、国際意匠登録出願の出願人が、国際公表があった後に意匠を記載した書面を提示して警告したときに、警告後意匠権の設定の登録前に業としてその意匠又はこれに類似する意匠を実施した者に対し、実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の補償金の支払を請求できることです(60条の12)。補償金請求権とは、この設定登録前の実施に対する金銭の請求権で、意匠法では国際意匠登録出願だけに認められています。
特許では出願から1年6月で出願公開され、公開後に発明を真似された出願人は、登録後に補償金を請求できます。意匠には出願公開の制度が無く、登録されるまで図面は公報に載らないので、国内の意匠登録出願に補償金請求権はありません。ところが、ハーグ協定の国際出願は国際事務局が国際登録の後に国際公表するので、日本で設定登録される前に意匠が世の中に出てしまいます。そこで60条の12は、国際意匠登録出願に限って、特許法65条にならった補償金請求権を認めています。

国内の意匠登録出願には出願公開が無いので、設定登録前の実施に対する補償金請求権もありません
意匠は20条3項により設定登録の後に初めて意匠公報に掲載され、特許法64条のような出願公開はありません。したがって特許法65条の補償金請求権に当たる規定も、国内出願にはありません。意匠登録出願の後かつ登録前の製造について「意匠登録前の業としての製造について補償金の支払いを請求できることがある」という枝は誤りです。秘密意匠の出願人についても同じで、特許庁長官の証明を受けた書面による警告は37条3項の差止請求の要件にすぎません。秘密意匠の出願人が証明を受けた書面で警告し、「その警告後、意匠権の設定の登録前に業としてその意匠に類似する意匠を実施した第三者に対し」設定登録後に補償金を請求できるという枝は誤りです。
国際意匠登録出願だけ、国際公表後に意匠を記載した書面を提示して警告した後の設定登録前の実施に対し、実施料相当額の補償金を請求できます
60条の12第1項は、国際意匠登録出願の出願人が国際公表があった後に国際意匠登録出願に係る意匠を記載した書面を提示して警告をしたときは、警告後意匠権の設定の登録前に業としてその意匠又はこれに類似する意匠を実施した者に対し、その意匠が登録意匠である場合にその登録意匠又はこれに類似する意匠の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の補償金の支払を請求できるとしています。警告をしない場合でも、国際公表がされた国際意匠登録出願に係る意匠であることを知って実施した者には同様に請求できます。額は実施料相当額であって、商標法13条の2の「業務上の損失に相当する額」ではないので、登録意匠又はこれに類似する意匠の「実施により生じた業務上の損失に相当する額の金銭の支払を請求することができる」という枝は誤りです。警告の書面は意匠を記載したものであれば足り、37条3項のような特許庁長官の証明は要りません。

補償金請求権は設定登録後に行使し、意匠権の行使を妨げず、拒絶や無効の確定で初めから生じなかったものとみなされ、移転請求で移転すれば初めから移転先に帰属します
60条の12第2項は特許法65条2項から6項までを準用します。請求権は意匠権の設定の登録があった後でなければ行使できず(65条2項)、その行使は意匠権の行使を妨げません(4項)。国際公表後に出願が放棄・取下げ・却下されたとき、拒絶査定又は拒絶審決が確定したとき、無効審決が確定したときは、請求権は初めから生じなかったものとみなされます(5項)。6項の準用で、38条の侵害とみなす行為、41条で準用する具体的態様の明示義務や損害計算の規定、民法719条・724条が補償金請求権の行使にも及びます。冒認や共同出願違反を理由とする26条の2の移転請求に基づき意匠権の移転の登録があったときは、意匠権は初めから登録を受けた者に帰属していたものとみなされ、60条の12第1項の補償金請求権も同様です(26条の2第3項)。国際登録を基礎とした意匠権でも同じなので、補償金請求権が「当該移転が国際登録簿に登録された時から当該登録を受けた者に帰属していたものとみなされる」という枝は誤りです。
秘密意匠の警告(37条3項)は差止請求の要件で、補償金請求権の警告とは制度も効果も別です
どちらも「警告」という語を使うので枝で混同させられますが、37条3項の警告は、秘密意匠の意匠権者又は専用実施権者が設定登録後に差止請求をするための要件で、20条3項各号の事項を記載し特許庁長官の証明を受けた書面を提示します。60条の12の警告は、国際意匠登録出願の出願人が設定登録前の実施に対する補償金を得るための要件で、意匠を記載した書面を提示すれば足ります。秘密意匠について「差止請求を行わずに損害賠償請求のみ行う場合であっても」証明を受けた書面の警告が要件になっているという枝は誤りで、37条3項の警告は損害賠償請求の要件でもなく、補償金を生じさせるものでもありません。国際意匠登録出願には秘密意匠の請求自体ができないので(60条の9)、一つの出願で両方の警告が問題になることはありません。
意匠法60条の12第1項国際意匠登録出願の出願人は、国際公表があつた後に国際意匠登録出願に係る意匠を記載した書面を提示して警告をしたときは、その警告後意匠権の設定の登録前に業としてその国際意匠登録出願に係る意匠又はこれに類似する意匠を実施した者に対し、その国際意匠登録出願に係る意匠が登録意匠である場合にその登録意匠又はこれに類似する意匠の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の補償金の支払を請求することができる。当該警告をしない場合においても、国際公表がされた国際意匠登録出願に係る意匠であることを知つて意匠権の設定の登録前に業としてその国際公表がされた国際意匠登録出願に係る意匠又はこれに類似する意匠を実施した者に対しては、同様とする。
意匠法26条の2第3項第一項の規定による請求に基づく意匠権の移転の登録があつたときは、その意匠権は、初めから当該登録を受けた者に帰属していたものとみなす。当該意匠権に係る意匠についての第六十条の十二第一項の規定による請求権についても、同様とする。
試験ではこう問われる
- 意匠法に出願公開は無く、国内出願に補償金請求権は無い。「意匠登録前の業としての製造について補償金の支払いを請求できることがある」という枝は誤り
- 秘密意匠の出願人が証明を受けた書面で警告しても補償金請求権は生じない。その警告は37条3項の差止請求の要件にすぎない
- 国際意匠登録出願だけ、国際公表後に意匠を記載した書面で警告した後の設定登録前の実施に対し、実施料相当額の補償金を請求できる(60条の12第1項)。悪意の実施者には警告不要
- 額は「実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」で、商標法の「業務上の損失に相当する額」ではない
- 行使は設定登録後(特65条2項準用)。意匠権の行使と並行でき、拒絶・無効の確定で初めから生じなかったものとみなす(5項)
- 移転請求で意匠権が移転すれば補償金請求権も初めから移転先に帰属(26条の2第3項)。国際登録簿への登録時からではない
この用語が問われた枝
甲の意匠イの意匠登録出願後かつ登録前に、乙が、意匠イと同一の意匠の「蓋つきシャンプー容器」を業として製造した。この場合、甲は、乙に対して、意匠登録前の業としての製造について補償金の支払いを請求できることがある。
意匠を秘密にすることを請求した意匠登録出願の出願人は、その意匠に関し意匠法第20 条第3項各号に掲げる事項を記載した書面であって特許庁長官の証明を受けたものを提示して警告することにより、その警告後、意匠権の設定の登録前に業としてその意匠に類似する意匠を実施した第三者に対し、その意匠権の設定の登録の後、その意匠が登録意匠である場合にその実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の補償金の支払を請求することができる。
国際意匠登録出願の出願人は、国際公表があった後に国際意匠登録出願に係る意匠を記載した書面を提示して警告をしたときは、その警告後意匠権の設定の登録前に業としてその国際意匠登録出願に係る意匠又はこれに類似する意匠を実施した者に対し、その国際意匠登録出願に係る意匠が登録意匠である場合にその登録意匠又はこれに類似する意匠の実施により生じた業務上の損失に相当する額の金銭の支払を請求することができる。
国際登録を基礎とした意匠権について、意匠法第 26 条の2第1項の規定による請求に基づく意匠権の移転の登録があった場合、当該意匠権に係る補償金請求権は、当該移転が国際登録簿に登録された時から当該登録を受けた者に帰属していたものとみなされる。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。