商標法の目的と商標の機能(1条)しょうひょうほうのもくてきとしょうひょうのきのう
商標法の目的とは、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することです(1条)。商標の機能とは、商標が取引の中で果たす出所表示・品質保証・広告の働きで、その中核は自他商品・役務の識別です。
同じ「○○堂」の札が付いた菓子なら、どの店で買ってもあの店の味だと信じて手に取ります。その信頼は長く同じ商標を使い続けた店が積み上げた業務上の信用で、他人が同じ札をまねれば店の信用も客の信頼も崩れます。商標法1条は、商標を保護することで使用をする者の業務上の信用の維持を図り、産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護すると定めています。発明の保護と利用を掲げる特許法と違い、取引の相手である需要者の側まで目的に書くのが商標法の特徴です。

1条は商標を保護することにより業務上の信用の維持を図り、産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護すると定めており、一語でも入れ替えた文は条文と一致しません
1条の文は「商標を保護することにより」「商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り」「もつて産業の発達に寄与し」「あわせて需要者の利益を保護する」の四つの部分でできています。短答では、このうち一か所だけを別の語に置き換えた文を並べて、条文どおりの一つを選ばせます。「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り」から「あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」まで一字一句同じ枝は正しいです。結びを「あわせて需要者を保護することを目的とする」とする枝は誤りです(守るのは需要者そのものではなく「需要者の利益」だからです)。「あわせて取引者を保護することを目的とする」という枝も誤りです(条文に「取引者」の語は無く、取引者は需要者に含めて読むからです)。冒頭を「商標の保護及び利用を図ることにより」とする枝は誤りです(「保護及び利用」は発明を社会に公開させて使わせる特許法1条の言い回しで、商標法は信用の器である商標そのものを保護すれば足りるので「利用」を掲げないからです)。
- 商標を保護することにより手段です。特許法1条の「発明の保護及び利用を図ることにより」と違い、「利用」を掲げません
- 商標の使用をする者の業務上の信用の維持直接の目的です。信用は商標そのものではなく、商標を使い続けた者の業務に積み上がります
- もつて産業の発達に寄与四法に共通する究極の目的です
- あわせて需要者の利益を保護商標法だけが掲げる目的です。「需要者」や「取引者」に入れ替えた文は条文と一致しません
商標を保護するとは、一定の商標が付いた商品や役務が必ず一定の出所から一定の品質で提供されることを守ることで、品質が優れていることまでは保証しません
商標が働く場面を分けると、その商品が誰の業務に係るものかを示す出所表示機能、同じ商標の商品なら同じ品質だと期待させる品質保証機能、商標を見せて需要者を引きつける広告機能の三つになります。三つとも、商標が自分の商品や役務を他人のものと区別できることが土台なので、商標は自他商品・役務の識別を本質的機能としています。2条1項の定義は業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をする標章だと言うだけで識別力を要件にしていませんが、「商標は自他商品・役務の識別をその本質的機能としている」という枝は正しいです(1条、2条1項、3条の趣旨を総合すれば、識別できない標章を保護しても信用は化体しないからです)。品質保証機能は、同じ商標の商品が同じ出所から同じ品質で出てくることへの信頼を指すので、1条の「商標を保護すること」が「当該商品の品質又は当該役務の質が優れたものであることまでをも確保する意味ではない」という枝は正しいです(商標法が守るのは出所と品質の同一性であって、品質の高さそのものではないからです)。

需要者の利益を目的に書くのは四法で商標法だけで、業務上の信用の維持は不正競争防止法と共通しますが、商標法は商標権の設定登録という行政処分を媒介します
特許法・実用新案法・意匠法の1条は、いずれも発明・考案・意匠の保護及び利用を図って産業の発達に寄与することだけを掲げます。これに対し商標法1条は「あわせて需要者の利益を保護する」と書くので、四法の目的規定の中で需要者の利益「について規定しているのは商標法のみである」という枝は正しいです。紛らわしい商標を使って混同を生じさせる不正な競業者の行為を抑える法律としては、商標法のほかに不正競争防止法があり、商標を使用する者の「業務上の信用を維持するという目的は、不正競争防止法も商標法も共通のものである」という枝は正しいです。二つの法律の違いは守り方にあります。不正競争防止法は周知性や混同のおそれといった事実を裁判所が個別に認定して行為を止めるのに対し、商標法は出願と審査を経て特許庁が商標権を設定するという国の行政処分を媒介し、商標権は設定の登録により発生します(18条1項)。したがって「商標権の設定の登録があった後でなければ、商標権による保護を受けることができない」という枝は正しいです。目的規定が違っても保護対象が重なることはあり、絵画やキャラクターのような著作物を識別標識として商標登録することは妨げられません。29条が登録商標の使用と出願日前に生じた他人の著作権との抵触を調整しているのは、著作物が同時に商標として登録されることを前提にしているからです。産業の発達と文化の発展という目的の相違を理由に、著作物が「商品及び役務の識別標識として商標法によって保護されることはない」という枝は誤りです。
商標法と不正競争防止法の守り方
| 目的 | 商標法は業務上の信用の維持と需要者の利益の保護です | 不正競争防止法も事業者の営業上の利益と業務上の信用の維持が共通します |
|---|---|---|
| 保護の仕組み | 特許庁の審査を経た商標権の設定登録という行政処分を媒介します | 登録を要さず、周知性・混同のおそれなどを裁判所が個別に判断します |
| 保護の始まり | 設定の登録により商標権が発生します(18条1項) | 使用の事実と周知性等が備わった時から保護されます |
目的規定から個別の要件や効果を直接導くことはできず、使用の開始・譲渡の自由・取消しの要件はそれぞれの条文で決まります
業務上の信用の維持や需要者の利益の保護を理由にして、条文に無い要件や効果を導く枝は、一つずつ根拠条文で確かめると崩れます。3条1項柱書は自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標に登録を認めるので、出願の時点で使用の意思があれば足り、「商標登録出願に係る商標の使用を査定時までに開始していない者は商標登録を受けることはできない」という枝は誤りです(信用の維持を目的としていても、登録の要件は使用の事実ではなく使用の意思だからです)。商標権は財産権として自由に移転でき、24条の2第1項は指定商品又は指定役務ごとに分割して移転することまで認めるので、商標権を「商標に係る事業と分離して譲渡することができる場合はない」という枝は誤りです(事業とともにでなければ移転できないのは、24条の2第3項の公益事業者の商標権のような例外だけだからです)。一方で、出願から設定登録までの間の信用を守る制度は13条の2の金銭的請求権として実際にあるので、「商標登録出願から商標権の設定登録までの間に商標に化体した業務上の信用を保護する制度を設けている」という枝は正しいです。防護標章登録(64条1項)は、著名な登録商標と同一の標章について、指定商品に類似しない商品又は役務にまで保護を広げる制度であって、類似しない商標には広げないので、「当該登録商標と類似しない商標の使用にまで商標権の効力を及ぼす制度を設けている」という枝は誤りです。51条1項の取消審判は商標権者が故意に登録商標に類似する商標を使い、又は類似する商品・役務に使って品質の誤認や混同を生じさせたときの制度なので、「商標権者が故意に品質を劣悪にした指定商品に係る商品について登録商標を使用している場合」に取り消されるときがあるという枝は誤りです(指定商品に登録商標そのものを使う行為は、品質が劣悪でも51条の対象にならないからです)。

商標法1条この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。
商標法3条1項柱書自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
商標法18条1項商標権は、設定の登録により発生する。
試験ではこう問われる
- 1条の四つの部分を一語ずつ入れ替えた枝が並ぶ。「あわせて需要者を保護することを目的とする」「あわせて取引者を保護することを目的とする」「商標の保護及び利用を図ることにより」はいずれも誤り。正しいのは「あわせて需要者の利益を保護する」と「商標を保護することにより」
- 「商標を保護すること」は出所と品質の同一性を守る意味で、「当該商品の品質又は当該役務の質が優れたものであることまでをも確保する意味ではない」という枝は正しい
- 定義(2条1項)に識別力は無いが、1条・2条1項・3条の趣旨を総合して「商標は自他商品・役務の識別をその本質的機能としている」という枝は正しい
- 四法の目的規定で需要者の利益「について規定しているのは商標法のみである」という枝は正しい
- 業務上の信用の維持は不正競争防止法と共通の目的で、商標法は設定登録という行政処分を媒介する。「商標権の設定の登録があった後でなければ、商標権による保護を受けることができない」という枝は正しい
- 目的が違っても著作物は商標として保護され得る(29条で抵触を調整する)。「商品及び役務の識別標識として商標法によって保護されることはない」という枝は誤り
- 目的から要件を導く枝は誤り。査定時までの使用の開始は不要(3条1項柱書は使用の意思で足りる)、商標権は事業と分離して譲渡できる(24条の2)、指定商品への登録商標の使用は品質が劣悪でも51条の取消事由ではない
- 防護標章登録(64条)が広げるのは類似しない商品・役務への保護で、類似しない商標には及ばない。出願から設定登録までの信用を守る制度は13条の2の金銭的請求権として存在する
この用語が問われた枝
この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者を保護することを目的とする。
この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて取引者を保護することを目的とする。
この法律は、商標の保護及び利用を図ることにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。
この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。