差止・損害額の推定・無効の抗弁と主張の制限(36条・38条・38条の2・39条)さしとめそんがいがくのすいていむこうのこうべんとしゅちょうのせいげん
差止・損害額の推定・無効の抗弁と主張の制限とは、商標権者又は専用使用権者が侵害する者に対して侵害の停止又は予防を請求できる36条、損害の額を譲渡数量・侵害者の利益・使用料相当額などで算定できる38条、侵害訴訟の終局判決が確定した後に無効審決等が確定してもその確定を再審で主張できないとする38条の2、過失の推定や無効の抗弁などの特許法の規定を準用する39条をまとめた、商標権の民事上の救済の仕組みです。
偽物を売られた商標権者が裁判所でできることは、二つに分かれます。一つは、これ以上売るなという差止めで、36条が商標権者と専用使用権者に認めています。もう一つは損害賠償ですが、商標の場合は偽物のせいで自分の売上げがいくら減ったのかを証明するのが難しいので、38条が侵害者の譲渡数量や利益、使用料相当額から損害の額を出せるようにしています。さらに、商標法には特許法のような詳しい訴訟手続の規定を自前で持たず、39条で特許法の過失の推定や無効の抗弁などを準用しています。どこまで準用しているかが、この語の中心です。

差止請求ができるのは商標権者と専用使用権者だけで、地域団体商標の構成員や通常使用権者にはありません
36条1項は、商標権者又は専用使用権者が、自己の商標権又は専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求できると定めます。侵害するおそれの段階から請求できるので、実際に売られる前でも止められます。2項では、侵害の行為を組成した物の廃棄や設備の除却など侵害の予防に必要な行為も併せて請求できます。差止めは物権的な請求なので、故意や過失は要りません。請求できる主体は条文に書かれた二者に限られ、通常使用権者には差止請求権がありません。地域団体商標に係る商標権を有する組合等の構成員も、31条の2第1項で組合等の定めるところにより登録商標を使用する権利を持つだけです。そこで、構成員が「当該地域団体商標に係る商標権に基づき差止請求権を行使することができる」という枝は誤りです(36条1項の請求権者は商標権者又は専用使用権者だからです)。
38条は損害の額を譲渡数量・侵害者の利益・使用料相当額で算定でき、3項の使用料相当額では損害の発生を立証しなくてよい一方、侵害者が損害の発生があり得ないことを立証すれば免れます
商標権の侵害は不法行為なので、本来は損害の発生と額を商標権者が立証しなければなりませんが、偽物のせいで減った売上げを証明するのは難しいので、38条が算定の仕方を用意しています。1項は侵害者が譲渡した商品の数量に商標権者の単位数量当たりの利益の額を乗じた額(使用の能力に応じた数量を超える部分などは使用料相当額で補えます)、2項は侵害者が侵害の行為により受けた利益の額を損害の額と推定するもの、3項は登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額を損害の額として請求できるものです。3項は損害の発生を擬制する規定ではなく、損害の額の最低限を定めた規定です。そこで、使用料相当額の請求では「損害の発生について主張立証する必要はなく、権利侵害の事実と通常受けるべき金銭の額を主張立証すれば足りる」という枝は正しく、侵害者の側が損害の発生があり得ないことを抗弁として主張立証すれば責めを免れます。最高裁は小僧寿し事件(最判平成9年3月11日)で、登録商標に顧客吸引力が全く認められず、類似する標章の使用が侵害者の売上げに全く寄与していないことが明らかなときは使用料相当額の損害も生じないとしました。「得べかりし利益としての使用料相当額の損害が生じないと判断される場合がある」という枝は正しいです。一方、商標権者が自分で登録商標を使っていないことは、それだけでは損害の発生があり得ないことにはなりません。被告が、原告が登録商標「を使用していないことを抗弁として主張立証すれば、損害賠償の責めを免れることができる」という枝は誤りです(侵害者が立証すべきなのは、顧客吸引力が全く無いなど損害の発生があり得ないことだからです)。4項は令和元年改正で入った規定で、使用料相当額を認定するときに、侵害があったことを前提として合意するとしたならば得られる対価を考慮できます。6項により、3項・5項の額を超える損害の賠償も請求でき、侵害者に故意又は重大な過失がなかったときは裁判所が額を定めるについて参酌できます。

- 1項 譲渡数量による算定侵害者が譲渡した商品の数量のうち商標権者の使用の能力に応じた数量に、商標権者の単位数量当たりの利益の額を乗じます。超える部分は使用料相当額で補えます
- 2項 侵害者の利益侵害者がその侵害の行為により受けた利益の額を、商標権者が受けた損害の額と推定します
- 3項 使用料相当額登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額を損害の額として請求できます。損害の発生の立証は要りませんが、損害の発生があり得ないことを侵害者が立証すれば免れます
- 5項 取得維持費用相当額指定商品又は指定役務についての登録商標の使用による侵害に限り、商標権の取得及び維持に通常要する費用に相当する額を損害の額とできます
5項の取得及び維持に通常要する費用に相当する額は、指定商品又は指定役務についての登録商標の使用による侵害に限られます
38条5項は、侵害が指定商品又は指定役務についての登録商標(社会通念上同一と認められる商標を含みます)の使用によるものであるときに、商標権の取得及び維持に通常要する費用に相当する額を損害の額とできると定めます。登録商標そのものを指定商品に使われた場合には、少なくとも出願や更新にかけた費用分の損害は確実にあると見られるからです。そこで、指定商品についての登録商標の使用による侵害で取得及び維持の費用相当額を「商標権者が受けた損害の額とすることができる場合はない」という枝は誤りです(5項がまさにその場合を定めているからです)。反対に、類似範囲の使用は37条1号で侵害とみなされる行為であって、5項の対象ではありません。侵害が「指定商品に類似する商品についての登録商標の使用によるものであるときは」取得及び維持の費用相当額を損害の額とできるという枝は誤りです。なお、この項は令和元年改正前は4項にあったので、以前の枝では4項として出ています。
39条が準用する特許法の規定は列挙されていて、過失の推定と具体的態様の明示義務は入りますが、査証は入りません
39条は、特許法103条(過失の推定)、104条の2(具体的態様の明示義務)、104条の3第1項及び2項(権利行使の制限)、105条(書類の提出等)、105条の2の12から105条の6まで(損害計算のための鑑定、相当な損害額の認定、秘密保持命令など)、106条(信用回復の措置)を商標権又は専用使用権の侵害に準用します。103条の準用により、商標権を侵害した者には過失があったものと推定されますが、これは推定なので反証で覆せます。損害賠償請求を受けた者が「その行為に過失がなかったことを立証することにより、損害賠償の責任を免れることができる」という枝は正しいです。この推定は37条や67条で侵害とみなされる行為にも働きます。104条の2も準用されているので、原告が主張する物の具体的態様を被告が否認するときは、相当の理由がない限り自己の行為の具体的態様を明らかにしなければなりません。「いわゆる具体的態様の明示義務を被告に課す」規定が商標法では準用されていないという枝は誤りです。一方、特許法105条の2以下の査証制度と105条の2の11の第三者意見募集は、39条の列挙に入っていません。商標の侵害は商品や広告を見れば分かることが多く、工場に立ち入って調べる仕組みまでは要らないからです。そこで、商標権の侵害に係る訴訟で「査証人に対し、査証を命ずることができる場合はない」という枝は正しいです。

無効の抗弁は無効審判を経ずに侵害訴訟の中で主張できますが、除斥期間を過ぎた無効理由では許されない場合があります
39条が準用する特許法104条の3第1項により、商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、商標権者等は相手方に権利を行使できません。被告は、別に無効審判を請求しなくても、侵害訴訟の中で無効理由を主張立証して差止めや損害賠償を免れることができます。原告の登録商標が4条1項19号に当たる場合に「別途無効審判を提起するまでもなく、当該訴訟で、その無効の理由を主張立証することにより」抗弁を主張できるという枝は正しいです。2項により、この抗弁が審理を不当に遅延させることを目的として提出されたと認められるときは、裁判所が却下の決定をすることができます。特許法104条の3第3項(無効審判を請求できる者以外の者も抗弁を出せるとする規定)は準用されていません。商標登録の無効審判は46条2項で利害関係人が請求でき、冒認のような請求人を限る無効理由が商標法には無いので、準用の必要がないからです。無効にされるべきものと認められることが前提なので、47条1項の除斥期間が経過した無効理由は抗弁にも使えません。4条1項11号違反は設定登録の日から5年を経過すると無効審判を請求できなくなるので、遅延目的でなくても「当該無効の抗弁を主張することが許されない場合がある」という枝は正しいです。同じ理由で、不使用取消審判で取り消されるべきことは無効理由ではないので、104条の3の抗弁の事由にはなりません。
38条の2は、終局判決が確定した後に無効審決又は取消決定が確定しても再審でその確定を主張できないと定め、取消審判の審決は含みません
侵害訴訟で負けて支払った後に商標登録が無効になれば、本来はその判決を再審で覆せそうですが、それでは紛争がいつまでも終わりません。38条の2は、商標権若しくは専用使用権の侵害又は13条の2第1項の金銭の支払の請求に係る訴訟の終局判決が確定した後に、当該商標登録を無効にすべき旨の審決(1号)又は当該商標登録を取り消すべき旨の決定(2号)が確定したときは、当該訴訟の当事者であった者はその終局判決に対する再審の訴えにおいて審決又は決定が確定したことを主張できないと定めます。侵害訴訟の当事者は104条の3の無効の抗弁を訴訟の中で出せたのだから、判決確定後に蒸し返すことは認めないという趣旨です。そこで、無効審決の確定を「当該終局判決に対する再審の訴えにおいて、当該審決が確定したことを主張することができる」という枝は誤りです。再審の訴えには、当該訴訟を本案とする仮差押命令事件の債権者に対する損害賠償の請求を目的とする訴えと、仮処分命令事件の債権者に対する損害賠償及び不当利得返還の請求を目的とする訴えが含まれます。「仮差押命令事件の債権者に対する損害賠償の請求を目的とする訴えにおいて、当該審決が確定したことを主張することができない」という枝は正しいです。対象となる訴訟には設定登録前の金銭的請求権の訴訟も含まれるので、13条の2第1項の金銭の支払の請求に係る訴訟について「仮処分命令事件の債権者に対する損害賠償の請求を目的とする訴えにおいて」審決の確定を主張できないという枝も正しいです。2号の決定は登録異議の申立てについての取消決定で、50条などの取消審判の審決は掲げられていません。「当該商標登録を取り消すべき旨の審決が確定したときは」再審で主張できないと規定されているという枝は誤りです(取消審判の審決は将来に向かって商標権を消滅させるもので、無効審決のように初めから無かったことにはならないからです)。

商標法36条1項商標権者又は専用使用権者は、自己の商標権又は専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
商標法38条3項商標権者又は専用使用権者は、故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対し、その登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。
商標法38条の2商標権若しくは専用使用権の侵害又は第十三条の二第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)に規定する金銭の支払の請求に係る訴訟の終局判決が確定した後に、次に掲げる審決又は決定が確定したときは、当該訴訟の当事者であつた者は、当該終局判決に対する再審の訴え(当該訴訟を本案とする仮差押命令事件の債権者に対する損害賠償の請求を目的とする訴え並びに当該訴訟を本案とする仮処分命令事件の債権者に対する損害賠償及び不当利得返還の請求を目的とする訴えを含む。)においては、当該審決又は決定が確定したことを主張することができない。
一 当該商標登録を無効にすべき旨の審決
二 当該商標登録を取り消すべき旨の決定
商標法39条特許法第百三条(過失の推定)、第百四条の二(具体的態様の明示義務)、第百四条の三第一項及び第二項(特許権者等の権利行使の制限)、第百五条(書類の提出等)、第百五条の二の十二から第百五条の六まで(損害計算のための鑑定、相当な損害額の認定、秘密保持命令、秘密保持命令の取消し及び訴訟記録の閲覧等の請求の通知等)並びに第百六条(信用回復の措置)の規定は、商標権又は専用使用権の侵害に準用する。
試験ではこう問われる
- 差止請求権者は商標権者又は専用使用権者(36条1項)。地域団体商標の構成員が「当該地域団体商標に係る商標権に基づき差止請求権を行使することができる」という枝は誤り
- 38条3項の使用料相当額は「損害の発生について主張立証する必要はなく」権利侵害の事実と受けるべき金銭の額で足りる。侵害者が損害の発生があり得ないことを立証すれば免れる
- 顧客吸引力が全く無く売上げに全く寄与していないことが明らかなときは「使用料相当額の損害が生じないと判断される場合がある」(小僧寿し事件)。原告の不使用の立証だけで「損害賠償の責めを免れることができる」という枝は誤り
- 取得及び維持の費用相当額(38条5項)は指定商品又は指定役務についての登録商標の使用による侵害に限る。「損害の額とすることができる場合はない」という枝は誤り、「指定商品に類似する商品についての登録商標の使用によるものであるときは」できるという枝も誤り
- 過失の推定(39条・特許法103条)は反証で覆せるので、「過失がなかったことを立証することにより、損害賠償の責任を免れることができる」という枝は正しい。みなし侵害にも推定は働く
- 具体的態様の明示義務(特許法104条の2)は準用されており、「商標法では準用されていない」という枝は誤り。査証(特許法105条の2)は準用されず、「査証を命ずることができる場合はない」という枝は正しい
- 無効の抗弁(特許法104条の3第1項)は「別途無効審判を提起するまでもなく」訴訟内で主張できる。11号違反は除斥期間5年を過ぎると「当該無効の抗弁を主張することが許されない場合がある」
- 38条の2で再審の主張が制限されるのは無効審決と取消決定。「主張することができる」という枝は誤り、「取り消すべき旨の審決が確定したときは」という枝は誤り。仮差押・仮処分命令事件の債権者への損害賠償の訴えも含む。13条の2第1項の金銭的請求訴訟も対象
この用語が問われた枝
地域団体商標に係る商標権を有する組合等の構成員は、当該商標権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対して、当該地域団体商標に係る商標権に基づき差止請求権を行使することができる。
商標権者は、故意又は過失により自己の商標権を侵害した者に対し、その登録商標の使用に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を賠償請求する場合、損害の発生について主張立証する必要はなく、権利侵害の事実と通常受けるべき金銭の額を主張立証すれば足りる。それに対し、侵害者は、損害の発生があり得ないことを抗弁として主張立証しそれが認められれば、損害賠償の責めを免れることができる。
商標権侵害訴訟において、商標権者である原告が、故意又は過失により自己の商標権を侵害した者に対し、その登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償の請求をする場合、原告が権利侵害の事実とその登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額を主張立証したときは、被告は、原告が登録商標(当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。)を使用していないことを抗弁として主張立証すれば、損害賠償の責めを免れることができる。
商標権侵害訴訟において、登録商標に類似する標章を被告がその製造販売する商品につき商標として使用したが、当該登録商標に顧客吸引力が全く認められず、登録商標に類似する標章を使用することが被告の商品の売上げに全く寄与していないことが明らかなときは、得べかりし利益としての使用料相当額の損害が生じないと判断される場合がある。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。