秘密意匠(14条・20条4項・37条3項・40条)ひみついしょう
秘密意匠とは、意匠登録出願人が意匠権の設定の登録の日から3年以内の期間を指定して、その期間その意匠を秘密にすることを請求できる14条の制度です。請求は出願と同時又は第1年分の登録料の納付と同時に行い、秘密の期間中は願書・図面等の内容が意匠公報に掲載されず、その代わりに差止請求の前の警告と過失の推定に制限がかかります。
来年の春に発売する靴の意匠を今のうちに登録しておきたい甲にとって、登録と同時に意匠公報で図面が公開されるのは困ります。発売前に他社に真似され、流行を先取りされるからです。14条の秘密意匠は、設定登録の日から3年以内の期間を指定して、その間は図面などの内容を公報に載せない仕組みです。ただし、内容が公開されない権利で第三者をいきなり差し止めるのは酷なので、差止請求の前に特許庁長官の証明を受けた書面で警告することを求め、過失の推定も外しています。

秘密にできる期間は意匠権の設定の登録の日から3年以内で、意匠公報の発行の日からではありません
14条1項は、意匠登録出願人が意匠権の設定の登録の日から3年以内の期間を指定して、その期間その意匠を秘密にすることを請求できると定めています。起算点は設定の登録の日です。「意匠公報の発行の日から3年以内の期間を指定して」請求できるという枝は誤りです。関連意匠についても、その関連意匠の意匠権の設定の登録の日から数え、本意匠の設定登録の日からではありません。期間の上限が3年なのは、意匠は流行に左右されやすく、公開を長く遅らせると第三者の調査の負担が大きくなるためです。
請求は出願と同時又は第1年分の登録料の納付と同時に限られ、請求できるのは意匠登録出願人だけで、出願ごとに請求します
14条2項は、出願人の氏名等と秘密にすることを請求する期間を記載した書面を、意匠登録出願と同時に、又は42条1項の第1年分の登録料の納付と同時に特許庁長官に提出させます。時期はこの二つだけです。「出願と同時でなければ、その出願に係る意匠を秘密にすることを請求できない」という枝は誤りです(第1年分の登録料の納付と同時にも請求できるからです)。出願後、登録料の納付時までいつでも請求できるわけでもありません。3年の期間を指定するときでも「3年分の登録料の納付と同時に」出す必要はなく、第1年分の納付と同時で足ります。請求の主体は意匠登録出願人なので、利害関係人として登録料を納付できる者でも出願人でなければ請求できません。「登録料を納付することができる者であっても、第1年分の登録料の納付と同時に意匠登録出願に係る意匠を秘密にすることを請求することができない場合がある」という枝は正しいです。請求は出願ごとに行うので、本意匠だけ、関連意匠だけの請求もでき、分割では秘密請求の書面は新たな出願に引き継がれません。秘密の請求に追加の登録料は要りません。

期間の延長・短縮は意匠登録出願人又は意匠権者が設定登録の後でも請求できますが、合計で設定登録の日から3年を超えることはできません
14条3項は、意匠登録出願人又は意匠権者が、秘密にすることを請求した期間の延長又は短縮を請求できると定めています。意匠権者が主体に入っているので、「意匠権の設定登録後は、秘密にすることを請求した期間を延長することを請求することはできない」という枝は誤りです。短縮も同じく設定登録後にできます。延長しても1項の上限は動かないので、すでに3年を指定した者が「秘密の期間が残り1年を切った時点で、秘密の期間を1年間延長することを請求できる」という枝は誤りです(延長すれば設定登録の日から3年を超えるからです)。専用実施権者は延長・短縮を請求できません。
秘密の期間中の意匠公報には願書・図面等の内容が載らず、期間の経過後に遅滞なく掲載され、3条の2のただし書は図面を載せない最初の公報の発行日で切れます
設定登録があると20条3項の事項を意匠公報に掲載しますが、秘密意匠については4号の「願書及び願書に添付した図面、写真、ひな形又は見本の内容」を、指定した期間の経過後遅滞なく掲載します(20条4項)。期間中の公報には意匠権者、出願の番号・年月日、登録番号・設定登録の年月日は載りますが、意匠に係る物品は願書の内容なので載りません。期間中の公報に「願書に記載された意匠に係る物品が掲載される」という枝は誤りです。期間中に登録料の不納で意匠権が消滅しても、4号の事項は期間の経過後に掲載されるので、「掲げる事項が掲載された意匠公報は発行されない」という枝は誤りです。3条の2との関係では、秘密意匠も期間の経過後に図面等が公報に掲載されるので先の意匠登録出願になります。同一出願人の後願を救うただし書の基準は、先願が掲載された公報のうち20条4項で図面等が掲載されたものを除いた公報、つまり図面を載せない最初の公報の発行の日です。その発行日の後は、図面等を載せた公報の発行前でも、先願の意匠の一部と類似する後願は「同一出願人による出願であっても、意匠法第3条の2の規定により拒絶される」という枝は正しいです。

特許庁長官は、意匠権者の承諾、審査・審判・再審・訴訟の当事者又は参加人の請求、裁判所の請求、利害関係人の請求のいずれかがあれば秘密の意匠を示さなければなりません
14条4項は、特許庁長官が秘密にすることを請求した意匠を意匠権者以外の者に示さなければならない場合を四つ挙げています。意匠権者の承諾を得たとき(1号)、その意匠又は同一・類似の意匠に関する審査、審判、再審又は訴訟の当事者又は参加人から請求があったとき(2号)、裁判所から請求があったとき(3号)、利害関係人が意匠権者の氏名等と登録番号を記載した書面を提出して請求したとき(4号)です。各号は独立の事由なので、2号から4号の場合に意匠権者の承諾は要りません。「裁判所から請求があったときであっても」「その意匠権者の承諾を得なければ、裁判所に示すことができない」という枝は誤りです。「訴訟の参加人から請求があった場合、意匠権者の承諾を得られなければ、その意匠を当該参加人に示すことができない」という枝も誤りです。秘密意匠に関する書類の閲覧等の請求を長官が認めるときは、提出者にその旨と理由を通知します(63条2項)。
差止請求は特許庁長官の証明を受けた書面を提示して警告した後に限られ、損害賠償請求に警告は要らず、過失の推定は働かず、国際意匠登録出願では秘密意匠を請求できません
37条3項は、秘密意匠の意匠権者又は専用実施権者が、20条3項各号の事項を記載した書面で特許庁長官の証明を受けたものを提示して警告した後でなければ差止請求をできないとします。内容を知る手段の無い第三者を、警告なしに差し止めるのは不当だからです。この制限は差止請求だけで、損害賠償請求にはありません。「警告した後でなければ、損害賠償を請求することができない旨が意匠法に規定されている」という枝は誤りです。証明書面で警告し、「その後も乙が乙物品の製造販売を継続するときは、甲は、乙に対し、差止及び損害賠償請求をすることができる」という枝は正しいです。40条ただし書により秘密意匠の侵害には過失の推定が働かず、秘密の期間の経過後も図面等が公報に掲載される日より前の実施には推定が及びません。期間経過から掲載日までを含む「全期間にわたる当該販売行為について、乙に過失があったことが意匠法上推定される」という枝は誤りです。ハーグ協定のジュネーブ改正協定に基づく国際意匠登録出願では、国際公表が前提なので14条は適用されず(60条の9)、「国際意匠登録出願の出願人は、その意匠を我が国における秘密意匠」とすることを請求できないという枝は正しいです。

- 差止請求(37条3項)特許庁長官の証明を受けた20条3項各号の事項を記載した書面を提示して警告した後に限ります
- 損害賠償請求警告は要りませんが、40条ただし書で過失の推定が働かないので故意・過失を立証します
- 過失の推定が働かない範囲秘密の期間の経過後も、図面等が意匠公報に掲載される日より前の実施には推定が及びません
- 国際意匠登録出願14条が適用されず、秘密意匠を請求できません(60条の9)
意匠法14条1項意匠登録出願人は、意匠権の設定の登録の日から三年以内の期間を指定して、その期間その意匠を秘密にすることを請求することができる。
意匠法14条2項前項の規定による請求をしようとする者は、次に掲げる事項を記載した書面を意匠登録出願と同時に、又は第四十二条第一項の規定による第一年分の登録料の納付と同時に特許庁長官に提出しなければならない。
一 意匠登録出願人の氏名又は名称及び住所又は居所
二 秘密にすることを請求する期間
意匠法20条4項第十四条第一項の規定により秘密にすることを請求した意匠に関する前項第四号に掲げる事項は、同項の規定にかかわらず、第十四条第一項の規定により指定した期間の経過後遅滞なく掲載するものとする。
意匠法37条3項第十四条第一項の規定により秘密にすることを請求した意匠に係る意匠権者又は専用実施権者は、その意匠に関し第二十条第三項各号に掲げる事項を記載した書面であつて特許庁長官の証明を受けたものを提示して警告した後でなければ、第一項の規定による請求をすることができない。
意匠法40条他人の意匠権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する。ただし、第十四条第一項の規定により秘密にすることを請求した意匠に係る意匠権又は専用実施権の侵害については、この限りでない。
試験ではこう問われる
- 期間は意匠権の設定の登録の日から3年以内。意匠公報の発行の日からという枝は誤り。関連意匠も自分の設定登録日から
- 請求は出願と同時か第1年分の登録料の納付と同時だけ。「出願と同時でなければ」「いつでも」「3年分の登録料と同時」はいずれも誤り。主体は出願人で、登録料を納付できる利害関係人は不可
- 延長・短縮は出願人又は意匠権者が設定登録後もできるが、合計で3年を超えられない。専用実施権者は不可
- 期間中の公報に図面等と意匠に係る物品は載らない。期間経過後に遅滞なく掲載され、期間中に意匠権が消滅しても掲載される
- 3条の2のただし書の基準は図面を載せない最初の公報の発行日。その後は同一人でも図面掲載公報の発行前に出した後願は拒絶される
- 長官が示すのは意匠権者の承諾・当事者又は参加人の請求・裁判所の請求・利害関係人の請求のいずれか。裁判所や参加人の請求に承諾は不要
- 差止請求は長官の証明を受けた書面での警告後に限る。損害賠償請求に警告は不要。過失の推定は働かず、期間経過後も図面掲載前の実施には及ばない
- 国際意匠登録出願では秘密意匠を請求できない(60条の9)。秘密請求は出願ごとで、本意匠・関連意匠で別々にでき、分割後の出願には引き継がれない
この用語が問われた枝
意匠登録出願人は、意匠公報の発行の日から3年以内の期間を指定して、その期間その意匠を秘密にすることを請求することができる。
意匠登録出願人は、出願と同時でなければ、その出願に係る意匠を秘密にすることを請求できない。
甲は、意匠登録出願について意匠登録をすべき旨の査定を受けた。甲が、3年間の期間を指定して意匠登録出願の意匠を秘密にすることを請求する場合、3年分の登録料の納付と同時に、意匠登録出願人の氏名又は名称及び住所又は居所並びに秘密にすることを請求する期間を記載した書面を特許庁長官に提出しなければならない。
登録料を納付することができる者であっても、第1年分の登録料の納付と同時に意匠登録出願に係る意匠を秘密にすることを請求することができない場合がある。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。