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損害額の推定・過失の推定と特許法の準用(39〜41条)そんがいがくのすいていかしつのすいていととっきょほうのじゅんよう

意匠 第6章 侵害と救済 短答で13枝

損害額の推定とは、意匠権者又は専用実施権者が故意又は過失により侵害した者に損害賠償を請求する場合に、譲渡数量に単位数量当たりの利益を乗じた額(39条1項)、侵害者が受けた利益の額(2項)、実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額(3項)を損害の額とできる仕組みです。過失の推定とは、他人の意匠権又は専用実施権を侵害した者に過失があったものと推定する40条の規定で、秘密意匠の侵害は除かれます。41条は具体的態様の明示義務から信用回復の措置までの特許法の規定を意匠権の侵害に準用します。

そっくりな容器を売られた意匠権者が損害賠償を求めても、侵害が無ければ自分がいくつ売れていたかの証明は難しく、相手の過失の証明も容易ではありません。そこで39条は、譲渡数量に単位数量当たりの利益を乗じた額、侵害者の利益の額、実施料相当額を損害の額とできる三つの計算方法を置き、40条は侵害者の過失を推定します。登録意匠は意匠公報で公示されているので、調べれば分かったはずだという考え方で、公報に載らない秘密意匠では推定が働きません。41条は無効の抗弁や信用回復の措置など特許法の規定を準用します。

裁判所の法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判官」)で壇上に座り、手元に「損害の額(39条)」と書かれた書面を広げている。書面には三段の札が並ぶ。「1項:譲渡数量×単位数量当たりの利益(実施相応数量まで)」「2項:侵害者の利益の額と推定」「3

39条1項は譲渡数量に単位数量当たりの利益を乗じますが、実施相応数量を超える部分と特定数量は実施料相当額で合算します

39条1項1号は、意匠権者又は専用実施権者が侵害の行為がなければ販売することができた物品の単位数量当たりの利益の額に、侵害者が譲渡した物品の数量(譲渡数量)のうち権利者の実施の能力に応じた数量(実施相応数量)を超えない部分を乗じた額を損害の額とします。権利者が販売することができないとする事情があるときは、その事情に相当する数量(特定数量)を控除します。実施の能力は算定で考慮されるので、「甲の意匠イの実施能力が損害額の算定において考慮されることはない」という枝は誤りで、「譲渡数量が甲の実施の能力に応じた数量を超えるとしても」譲渡数量の全部を乗じた額を損害の額とできるという枝も誤りです。令和元年改正で2号が加わり、実施相応数量を超える数量又は特定数量については、実施許諾をし得たと認められない場合を除き、その数量に応じた実施料相当額を1号の額に合算できます。「実施の能力に相応する数量を超えた部分に応じた金銭の額については」損害の額に含めることはできないという枝は誤りです。

  • 1項1号単位数量当たりの利益の額に、譲渡数量のうち実施相応数量を超えない部分(特定数量を控除)を乗じた額です
  • 1項2号実施相応数量を超える数量又は特定数量に応じた、登録意匠の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額です(実施許諾をし得たと認められない場合を除きます)
  • 2項侵害者が侵害の行為により受けている利益の額を、権利者が受けた損害の額と推定します
  • 3項登録意匠又はこれに類似する意匠の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額を、損害の額として請求できます
  • 4項・5項実施料相当額の認定では侵害があったことを前提とした合意の対価を考慮でき、3項の額を超える請求も妨げられず、故意又は重大な過失が無ければ賠償額を定めるについて参酌できます

2項は侵害者の利益の額を損害の額と推定し、3項の実施料相当額は最低限の賠償で、これを超える請求も妨げられません

39条2項は、侵害者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額を権利者が受けた損害の額と推定します。推定されるのは利益であって売上げではないので、「物品の販売総額が甲の受けた損害額であると推定される」という枝は誤りです。3項は、登録意匠又はこれに類似する意匠の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額を損害の額として請求できるとし、4項は侵害があったことを前提として合意をするとしたならば得ることとなる対価を考慮できるとしています。5項により3項の額を超える損害の賠償の請求も妨げられず、「乙に故意又は重大な過失がなかったときは」裁判所が賠償の額を定めるについて参酌できるという枝は正しいです。請求の主体は意匠権者又は専用実施権者と並んで書かれているので、専用実施権者が「単独で、乙の行為に対する実施料相当額を」損害の額として賠償請求することはできないという枝は誤りです。損害賠償請求権は存続期間中の侵害で既に発生した債権なので、意匠権が「存続期間満了後であっても」存続期間中の行為による損害の賠償を請求できる場合があるという枝は正しいです。

40条は侵害者の過失を推定しますが、秘密意匠の侵害は除かれ、推定なので反証で覆すことができます

登録意匠は意匠公報に願書と図面の内容が掲載されて公示されているので、40条は、他人の意匠権又は専用実施権を侵害した者はその侵害の行為について過失があったものと推定します。推定なので侵害者は反証で覆すことができ、「過失があったものとみなされる」という枝は誤りです。ただし書により、14条1項の請求で秘密にすることを請求した意匠に係る意匠権又は専用実施権の侵害については推定されません。秘密期間中は意匠の内容が公報に載らず、第三者が調べようが無いからです。秘密意匠の秘密期間中の侵害について「甲の意匠権を侵害した行為について乙の過失が推定される」という枝は誤りです。この場合でも権利者が過失を立証すれば損害賠償を請求できます。特許法103条も同じ過失の推定を置いていますが、秘密意匠に当たる除外は意匠法だけにあります。

弁理士事務所の相談室の場面。先生が弁理士役(札「弁理士」)で机に座り、向かいに男性(札「秘密意匠の意匠権者」)が座っている。机の上に左右二冊の冊子。左は「意匠公報(図面あり)」で「過失を推定(40条本文)」の札、右は「意匠公報(秘密意匠:図

41条が準用する特許法の規定には無効の抗弁や信用回復の措置が含まれ、無効の抗弁は無効審判の請求なしに主張できて効力は当事者間にとどまります

41条は、特許法104条の2から105条まで(具体的態様の明示義務、権利行使の制限、主張の制限、書類の提出等)、105条の2の12から105条の6まで(損害計算のための鑑定、相当な損害額の認定、秘密保持命令など)及び106条(信用回復の措置)を意匠権又は専用実施権の侵害に準用します。特許法104条の3の無効の抗弁は訴訟の中で主張すれば足りるので、「意匠登録無効審判の請求をする必要はない」という枝は正しいです。抗弁が認められてもその訴訟の相手方に権利を行使できなくなるだけで、意匠登録を対世的に無効にするのは無効審決の確定(49条)だけなので、請求棄却の判決が確定した後は「第三者である丙に対して、意匠イに係る意匠権を行使できない」という枝は誤りです。抗弁の理由は無効審判により無効にされるべき理由に限られ、組物の統一性(8条)は拒絶理由であって無効理由ではないので、「組物全体として統一がないことを理由として」無効の抗弁を主張できるという枝は誤りです。準用の範囲に査証(特許法105条の2から105条の2の10まで)は入っていないので、「査証人に対する査証の命令が発令される可能性がある」という枝は誤りです。信用回復の措置は故意又は過失により侵害して業務上の信用を害した者に命じられるので、侵害が「故意及び過失なく行われた場合であっても」命じられる可能性があるという枝は誤りです。損害の賠償に代え、又は損害の賠償とともに請求できるので、損害賠償を請求した場合は「重ねて信用回復の措置を請求することはできない」という枝も誤りです。

裁判所の法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判官」)で壇上に座っている。被告席の男性(札「被告(侵害者)」)が「無効の抗弁:この意匠登録は無効審判により無効にされるべきもの」と書かれた書面を掲げている。原告席の男性(札「意匠権者」)の吹き出し
意匠法39条2項

意匠権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の意匠権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、意匠権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。

意匠法40条

他人の意匠権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する。ただし、第十四条第一項の規定により秘密にすることを請求した意匠に係る意匠権又は専用実施権の侵害については、この限りでない。

意匠法41条

特許法第百四条の二から第百五条まで(具体的態様の明示義務、特許権者等の権利行使の制限、主張の制限及び書類の提出等)、第百五条の二の十二から第百五条の六まで(損害計算のための鑑定、相当な損害額の認定、秘密保持命令、秘密保持命令の取消し及び訴訟記録の閲覧等の請求の通知等)及び第百六条(信用回復の措置)の規定は、意匠権又は専用実施権の侵害に準用する。

試験ではこう問われる

  1. 39条1項1号は譲渡数量のうち実施相応数量を超えない部分に単位数量当たりの利益を乗じる。「実施能力が損害額の算定において考慮されることはない」という枝は誤り
  2. 実施相応数量を超える部分と特定数量は2号の実施料相当額で合算できる(令和元年改正)。「超えた部分に応じた金銭の額については」含められないという枝は誤り
  3. 2項の推定対象は侵害者の利益の額であって販売総額ではない。3項の実施料相当額を超える請求も妨げられず、故意又は重大な過失が無ければ賠償額の参酌ができる
  4. 専用実施権者は単独で39条の損害賠償を請求できる。意匠権の存続期間満了後も、存続期間中の侵害による損害は請求できる
  5. 40条は過失の「推定」で「みなす」ではない。秘密意匠の侵害には推定が働かないが、過失を立証すれば賠償請求できる
  6. 無効の抗弁(41条準用 特104条の3)は無効審判の請求なしに主張でき、効力は当事者間にとどまる。組物の統一性(8条)や一意匠一出願(7条)の違反は無効理由でないので抗弁にならない
  7. 41条の準用に査証(特105条の2〜105条の2の10)は無い。信用回復の措置は故意・過失が要件で、損害賠償とともに請求できる

この用語が問われた枝

令和5年度 問24 枝ロ誤り

甲が自らに生じた損害額として意匠法第 39 条第1項に基づき計算した場合、甲が乙による侵害行為がなければ販売することができた物品の単位数量当たりの利益の額に、乙が販売した物品の数量を乗じた額が甲の受けた損害額であると推定され、甲の意匠イの実施能力が損害額の算定において考慮されることはない。

令和6年度 問25 枝ニ誤り

甲が、乙に対し、意匠法第 39 条第1項第1号の規定に基づき、甲物品の単位数量当たりの利益の額に乙が乙物品を譲渡した数量を乗じて得た額を、自己が受けた損害の額として損害賠償請求をする場合、当該乙物品の譲渡数量が甲の実施の能力に応じた数量を超えるとしても、同号の規定により、当該乙物品の譲渡数量を乗じて得た額を損害の額とすることができる。

令和8年度 問23 枝ハ誤り

甲は、乙に対し、甲物品の単位数量当たりの利益の額に乙が乙物品を譲渡した数量を乗じて得た額を、自己が受けた損害の額として損害賠償請求をした。乙の製造する乙物品の譲渡数量は、甲の実施の能力に相応する数量を超えていた。このとき、甲の実施の能力に相応する数量を超えた部分に応じた金銭の額については、損害の額に含めることはできない。

令和5年度 問24 枝ハ誤り

甲が自らに生じた損害額として意匠法第 39 条第2項に基づき計算した場合、意匠ロに係る物品の販売総額が甲の受けた損害額であると推定される。

枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。

意匠を肢別演習で解く

この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。

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