侵害とみなす行為(38条)しんがいとみなすこうい
侵害とみなす行為とは、登録意匠又はこれに類似する意匠の実施そのものではないものの、侵害を誘発する蓋然性が高い予備的・幇助的な行為を、38条が意匠権又は専用実施権を侵害するものとみなす仕組みです。物品(1〜3号)・建築物(4〜6号)・画像(7〜9号)のそれぞれに、製造等にのみ用いる物品等の行為、美感の創出に不可欠な物品等を知りながら行う行為、譲渡等のための所持・所有・保有の三つが置かれています。
登録意匠のカメラを組み立てるための専用キットを売る業者は、カメラそのものを製造も販売もしていないので、2条2項の実施をしているとは言えません。しかし、そのキットを買った人は必ず登録意匠のカメラを組み立てるので、放っておくと意匠権は骨抜きになります。そこで38条は、こうした直接侵害に当たらない予備的・幇助的な行為のうち、侵害を誘発する蓋然性が高い一定のものを、意匠権又は専用実施権を侵害するものとみなします。みなされれば差止請求(37条)や損害賠償請求の対象になります。

38条は直接侵害に当たらない予備的・幇助的な行為のうち一定のものを侵害とみなし、物品・建築物・画像ごとに三つずつ九つの号を置いています
38条1項各号に掲げる行為は、当該意匠権又は専用実施権を侵害するものとみなされます。「直接侵害を誘発する蓋然性が極めて高い一定の行為」について侵害とみなす規定が意匠法にあるという枝は正しいです。令和元年改正で建築物と画像が意匠に加わり、38条も物品(1〜3号)・建築物(4〜6号)・画像(7〜9号)の三つの組に整理されました。各組の構成は同じで、第一に製造・建築・作成にのみ用いる物品等についての行為、第二に製造等に用いる物品等で美感の創出に不可欠なものを知りながら行う行為、第三に譲渡等のための所持・所有・保有です。平成18年改正前は「にのみ用いる物」の類型だけで、譲渡のための所持は侵害とみなされませんでした。
- 1号・4号・7号登録意匠又はこれに類似する意匠に係る物品の製造(建築物の建築、画像の作成)にのみ用いる物品・プログラム等・プログラム等記録媒体等について、業として製造、譲渡、貸渡し、輸入、譲渡若しくは貸渡しの申出、プログラム等の作成・電気通信回線を通じた提供・その申出をする行為です
- 2号・5号・8号製造(建築・作成)に用いる物品等のうち、登録意匠又はこれに類似する意匠の視覚を通じた美感の創出に不可欠なもの(日本国内において広く一般に流通しているものを除く)について、登録意匠又はこれに類似する意匠であること及び実施に用いられることを知りながら、業として同じ行為をすることです
- 3号・6号・9号登録意匠又はこれに類似する意匠に係る物品を業としての譲渡、貸渡し又は輸出のために所持する行為、建築物を業としての譲渡又は貸渡しのために所有する行為、画像を業としての電気通信回線を通じた提供のために保有する行為と画像記録媒体等を譲渡・貸渡し・輸出のために所持する行為です
1号の製造にのみ用いる物品等について侵害とみなされるのは製造・譲渡・貸渡し・輸入と譲渡・貸渡しの申出で、輸出と所持は入りません
1号イは、登録意匠又はこれに類似する意匠に係る物品の製造にのみ用いる物品又はプログラム等記録媒体等について、業として製造、譲渡、貸渡し若しくは輸入又は譲渡若しくは貸渡しの申出をする行為を掲げています。特許法101条1号と同じく輸出は入っていないので、専用組立てキットの製造は間接侵害になりますが、「専用組立てキット輸出行為も、意匠法上の間接侵害に当たる」という枝は誤りです。輸入は入っているので、「製品bのみに用いる部品cを業として輸入している場合」に甲が輸入の差止めを請求できるという枝は正しいです。対象は物品の「製造」にのみ用いるものなので、「物品の譲渡にのみ用いる物を業として生産する行為」が侵害とみなされるという枝は誤りです。製造にのみ用いるプログラム等が記録されていれば、「他の用途を有するプログラムも記録されている物を業として譲渡する行為」は侵害とみなされるという枝は正しいです。所持が侵害とみなされるのは3号の登録意匠に係る物品そのものに限られるので、「製造にのみ用いる物を譲受け、業としての譲渡のために所持する行為」が侵害とみなされるという枝は誤りです。

2号は製造に用いる物品等で美感の創出に不可欠なものを、登録意匠であること及び実施に用いられることを知りながら行う行為で、広く一般に流通しているものは除きます
「にのみ用いる」の要件は、他の用途が少しでもあれば外れてしまいます。そこで令和元年改正は、特許法101条2号にならい、製造に用いる物品等のうち登録意匠又はこれに類似する意匠の視覚を通じた美感の創出に不可欠なものについて、その意匠が登録意匠又はこれに類似する意匠であること及びその物品等がその意匠の実施に用いられることを知りながら、業として製造・譲渡等をする行為を2号に加えました。日本国内において広く一般に流通しているものは除かれます。製造に用いる物品は部品に限られないので、金型が「製造に用いられる道具にすぎないため」間接侵害に当たることはないという枝は誤りです。主観的要件は「知りながら」なので、甲が「過失によりこれらの事実を知らなかった場合には」間接侵害に当たらないという枝は正しいです。外観に現れない内部部品は、製造に欠かせなくても「意匠の外観に現れないため視覚を通じた美感を創出しないものであれば」2号に当たらないという枝は正しいです。専用品でもなく「日本国内において広く一般に流通しているものであっても」侵害とみなされる場合があるという枝は誤りです。2号の対象行為も1号と同じく輸出を含まず、3号の所持は登録意匠又はこれに類似する意匠に係る物品が対象なので、容器全体の意匠イとは非類似の蓋Xを知りながら業として輸出した乙に対し、甲は「意匠権侵害に基づく差止請求をすることができない」という枝は正しいです。

3号・6号・9号は譲渡等のための所持・所有・保有そのものを侵害とみなすので、実際に売る前でも差止請求の対象になります
3号は、登録意匠又はこれに類似する意匠に係る物品を業としての譲渡、貸渡し又は輸出のために所持する行為です。譲渡や輸出は2条2項1号の実施ですが、その手前の所持の段階で止められるようにしています。輸出して海外で販売するために倉庫に保管している場合に「当該保管行為の差止めを求めることはできない」という枝は誤りです。6号は建築物を業としての譲渡又は貸渡しのために所有する行為で、「転売目的で譲り受けたが、現在も転売先が見つからず所有している」行為は転売前でも間接侵害に当たるので、当たらないという枝は誤りです。9号は画像を業としての電気通信回線を通じた提供のために保有する行為と、画像記録媒体等を譲渡・貸渡し・輸出のために所持する行為で、画像を「電気通信回線を通じた提供のために保有している」だけで侵害とみなされるので、提供に至っていないから当たらないという枝は誤りです。

侵害とみなす行為の罰則は5年以下の拘禁刑又は500万円以下の罰金で、直接侵害の10年以下より軽くなっています
69条は意匠権又は専用実施権を侵害した者を10年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科しますが、38条の行為をした者はかっこ書で除かれ、69条の2で5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又はその併科とされています。譲渡のために所持する行為を行った者は「5年以下の懲役若しくは5百万円以下の罰金」に処されるという平成25年度の枝は正しいですが、令和4年改正で懲役は拘禁刑に改められています。特許法101条には画像や建築物に当たる類型が無く、意匠法固有の構成です。
意匠法38条1号登録意匠又はこれに類似する意匠に係る物品の製造にのみ用いる物品又はプログラム等若しくはプログラム等記録媒体等について業として行う次のいずれかに該当する行為
イ 当該製造にのみ用いる物品又はプログラム等記録媒体等の製造、譲渡、貸渡し若しくは輸入又は譲渡若しくは貸渡しの申出をする行為
ロ 当該製造にのみ用いるプログラム等の作成又は電気通信回線を通じた提供若しくはその申出をする行為
意匠法38条2号登録意匠又はこれに類似する意匠に係る物品の製造に用いる物品又はプログラム等若しくはプログラム等記録媒体等(これらが日本国内において広く一般に流通しているものである場合を除く。)であつて当該登録意匠又はこれに類似する意匠の視覚を通じた美感の創出に不可欠なものにつき、その意匠が登録意匠又はこれに類似する意匠であること及びその物品又はプログラム等若しくはプログラム等記録媒体等がその意匠の実施に用いられることを知りながら、業として行う次のいずれかに該当する行為
意匠法38条3号登録意匠又はこれに類似する意匠に係る物品を業としての譲渡、貸渡し又は輸出のために所持する行為
試験ではこう問われる
- 38条は物品(1〜3号)・建築物(4〜6号)・画像(7〜9号)の三組で、各組に「にのみ用いる」類型、美感の創出に不可欠なものを知りながら行う類型、所持・所有・保有の類型がある
- 1号の対象行為は製造・譲渡・貸渡し・輸入・譲渡若しくは貸渡しの申出で、輸出は無い。「専用組立てキット輸出行為も、意匠法上の間接侵害に当たる」という枝は誤り。輸入はある
- 対象は物品の「製造」にのみ用いるもの。「物品の譲渡にのみ用いる物を業として生産する行為」は侵害とみなされない。製造にのみ用いるプログラムに他用途のプログラムが同居していても記録媒体の譲渡は侵害とみなされる
- のみ品の所持は侵害とみなされない。「製造にのみ用いる物を譲受け、業としての譲渡のために所持する行為」という枝は誤り。所持が問題になるのは登録意匠に係る物品そのもの(3号)
- 2号は製造に用いる物品等で美感の創出に不可欠なもの。金型のような道具も入り、外観に現れない内部部品は入らない。広く一般に流通しているものは除外。主観は「知りながら」で、過失では足りない
- 3号の所持、6号の所有、9号の保有はそれ自体が侵害とみなされる。輸出のための倉庫での保管、転売先が見つからない建築物の所有、提供のための画像の保有は差止請求の対象になる
- 罰則は69条の2で5年以下の拘禁刑又は500万円以下の罰金(直接侵害は69条で10年以下・1000万円以下)。令和4年改正前の枝では「懲役」と書かれている
この用語が問われた枝
乙の行為が意匠イに係る意匠権を直接に侵害することにはならない場合であっても、侵害の予備的又は幇助的行為のうち、直接侵害を誘発する蓋然性が極めて高い一定の行為については意匠権の侵害とみなされる旨の規定が意匠法に設けられている。
甲は、「カメラ」の登録意匠イと類似の意匠ロを組み立てるためだけに使用される専用組立てキットを製造し海外に輸出した。この時、甲の専用組立てキット製造行為のみならず、専用組立てキット輸出行為も、意匠法上の間接侵害に当たる。
乙の取引先である丙が、製品bのみに用いる部品cを業として輸入している場合、甲は、丙に対して、意匠権Aに基づき、部品cの輸入の差止めを請求することができる。
甲は、「カメラ」の登録意匠イと類似の意匠ロに係る「カメラ」の美感の創出に不可欠な金型を製造している。このとき、甲が製造している金型は、「カメラ」を構成する部品ではなく、「カメラ」の製造に用いられる道具にすぎないため、甲の当該金型の製造行為が意匠法上の間接侵害に当たることはない。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。