パリ条約優先権の主張手続(15条1項準用 特43条〜43条の3)ぱりじょうやくゆうせんけんのしゅちょうてつづき
パリ条約優先権の主張手続とは、意匠登録出願について特許法43条から43条の3までを15条1項で準用し、優先権を主張する旨の書面を「意匠登録出願と同時」に、優先権証明書類等を「意匠登録出願の日から3月以内」に特許庁長官へ提出させる仕組みです。優先期間は最初の出願の日から6月で、期間内に証明書類等を出さないと優先権の主張は効力を失います。
甲がX国で椅子の意匠を出願し、日本でも登録したいとします。X国の出願から日本の出願までの間に、他人が似た意匠を出願したり、甲自身が販売を始めたりしても、パリ条約の優先権を主張すればX国の出願日を基準に審査してもらえます。意匠法は手続を自前で書かず、15条1項で特許法43条から43条の3までを準用し、読み替えだけを定めています。主張は出願と同時、証明書類は出願日から3月以内という短い期限は、意匠の優先期間が6月しかなく、審査も早く始まるからです。

優先権を主張する旨の書面は意匠登録出願と同時に、優先権証明書類等は意匠登録出願の日から3月以内に提出し、出さなければ主張は効力を失います
15条1項は、特許法43条1項の「経済産業省令で定める期間内」を「意匠登録出願と同時」に、同条2項の「次の各号に掲げる日のうち最先の日から一年四月」を「意匠登録出願の日から三月」に読み替えて準用します。優先権を主張する旨と最初の出願をした同盟国の国名・出願の年月日を記載した書面を出願と同時に出し、同盟国の認証がある出願の年月日を記載した書面と出願の際の書類の謄本などの優先権証明書類等を出願日から3月以内に出します。3月以内に証明書類等を出さないと優先権の主張は効力を失います(特許法43条4項)。ただし、特許庁長官の通知を受けてから省令で定める期間内に出せば効力は失われません(同条6項から9項)。分割や変更をしたときは、もとの出願について提出された優先権の書面・書類は新たな出願と同時に提出されたものとみなされます(10条の2第3項・13条6項)。分割後の新たな出願について「優先権証明書を新たな意匠登録出願の日から六月以内に特許庁長官に提出しなければならない」という枝は誤りです(もとの出願の証明書が引き継がれ、期間も3月だからです)。

- 主張の書面優先権を主張する旨、最初の出願をした同盟国の国名、出願の年月日を記載し、意匠登録出願と同時に提出します(特許法43条1項の読み替え)
- 優先権証明書類等同盟国の認証がある出願の年月日を記載した書面と出願の際の書類の謄本などを、意匠登録出願の日から3月以内に提出します(同条2項の読み替え)
- 出願番号の書面最初の出願の番号を記載した書面を証明書類等とともに提出します(同条3項)
- 不提出の効果優先権の主張は効力を失いますが、長官の通知後の省令で定める期間内の提出で救済されます(同条4項・6項から9項)
優先期間は最初の出願の日から6月で、特許出願や実用新案登録出願を意匠登録出願に変更した場合も意匠の6月で判断します
パリ条約4条Cは、優先期間を特許及び実用新案は12月、意匠及び商標は6月と定めています。日本に出願するのが意匠登録出願であれば、第一国の出願が実用新案登録出願であっても、意匠の優先期間6月で判断します(パリ条約4条E(1))。第一国の出願が特許出願のときも同じ扱いです。第一国の実用新案登録出願から7月後にした日本の実用新案登録出願を意匠登録出願に変更しても、変更出願はもとの出願の時にしたものとみなされるだけで6月は過ぎているので、「出願Cにおいて優先権主張の効果が認められる」という枝は誤りです。優先権の効果が認められるのは、第一国出願の書類に現された意匠と要旨が同一の意匠です。組物の各構成物品に係る意匠が第一国にそれぞれ別の出願で同日に出願されていても、日本で組物の意匠の意匠登録出願をするときに「それらの出願を基礎としてパリ条約による優先権の主張を行うことができる」という枝は誤りです(組物の意匠は各構成物品の意匠と同一でなく、複数の出願を束ねる優先権は特許出願についてのパリ条約4条Fの扱いで、意匠には認められないからです)。
優先権の効果で3条の2や先願は最初の出願日を基準に判断し、関連意匠の10年も最初の出願日で数えますが、存続期間の25年は日本の出願日で数えます
優先権の主張が適正なら、新規性・先願・3条の2の判断は第一国の出願日を基準にします。X国の出願Aの後、日本の出願Cの前にされた乙の出願Bは、出願Cの公報が発行されれば「意匠イに係る出願Cの意匠公報を根拠に意匠法第3条の2に基づいて拒絶される」という枝は正しいです。関連意匠の出願期限は10条1項のかっこ書により優先権の基礎となった最初の出願の日から10年で数えるので、X国のみを指定した国際登録出願に基づく優先権を主張した本意匠について、その国際登録出願の日から10年を経過する日前の出願なら「意匠イの関連意匠として、意匠ロについて、意匠登録を受けることができる」という枝は正しいです。一方、21条の存続期間にはそのようなかっこ書が無いので、意匠権は日本の意匠登録出願の日から25年で終わります。関連意匠の存続期間が「当該基礎意匠の第一国の出願日から25年をもって終了する」という枝は誤りです。優先権は第一国出願の後の行為による不利益を防ぐだけなので、第一国出願より前に自分で販売した公知は治りません。X国で新規性喪失の例外の適用を受けていても、日本の出願で4条3項の手続をしなければ「当該新製品の販売によっては新規性が喪失していないものとして取り扱われる」という枝は誤りです。優先権証明書の図面と要旨が異なる意匠を出願してしまった場合に、証明書に合わせて図面を直す補正は要旨の変更として却下されるので、「優先権証明書に記載の意匠に合わせただけであるため、この補正が却下されることはない」という枝は誤りです。参考図にだけ現れた意匠を分割した出願は適法な分割でなく出願日が遡らないので、6月の優先期間を過ぎていれば優先権の効果もありません。「出願Cは、出願Bの出願の時にしたものとはみなされず、出願Cに係る意匠については、優先権の主張の効果は認められず、新規性の喪失の例外も適用されない」という枝は正しいです。
国際意匠登録出願には43条1項の主張の書面と43条の2の救済が適用されず、43条2項から9項の優先権書類の手続だけがジュネーブ改正協定の優先権に準用されます
ハーグ協定のジュネーブ改正協定に基づく国際意匠登録出願では、優先権の主張は国際出願の際に協定6条(1)(a)に従って行うので、60条の10第1項は、15条1項で準用する特許法43条1項などの主張の手続と、43条の2のパリ条約の例による優先権主張(優先期間の経過後の救済)を適用しないと定めています。優先権を主張する旨の「書面を国際公表の日から所定の期間内に提出することができると意匠法に規定されている」という枝は誤りです(国際公表後の期間内に出せるのは優先権書類であって、主張の書面ではないからです)。「国際意匠登録出願についても準用される」という43条の2についての枝も誤りです。一方、60条の10第2項は、特許法43条2項から9項を、協定による優先権の主張をした者に準用し、「一年四月以内」を「経済産業省令で定める期間内」に読み替えます。優先権書類の不提出の通知とその後の提出による救済の6項・7項が「ジュネーブ改正協定の規定による優先権の主張をした者についても準用される」という枝は正しいです。

意匠法15条1項特許法第三十八条(共同出願)及び第四十三条から第四十三条の三まで(パリ条約による優先権主張の手続及びパリ条約の例による優先権主張)の規定は、意匠登録出願に準用する。この場合において、同法第四十三条第一項中「経済産業省令で定める期間内」とあるのは「意匠登録出願と同時」と、同条第二項中「次の各号に掲げる日のうち最先の日から一年四月」とあるのは「意匠登録出願の日から三月」と読み替えるものとする。
特許法43条4項第一項の規定による優先権の主張をした者が第二項に規定する期間内に優先権証明書類等を提出しないときは、当該優先権の主張は、その効力を失う。
パリ条約4条C(抜粋)C (1) A(1)に規定する優先期間は,特許及び実用新案については12箇月,意匠及び商標については6箇月とする。(2) 優先期間は,最初の出願の日から開始する。出願の日は,期間に算入しない。
意匠法60条の10第1項国際意匠登録出願については、第十五条第一項において読み替えて準用する特許法第四十三条(同項において準用する同法第四十三条の二第二項(第十五条第一項において準用する同法第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)及び第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)並びに第十五条第一項において準用する同法第四十三条の二第一項(第十五条第一項において準用する同法第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)及び第四十三条の三第二項の規定は、適用しない。
試験ではこう問われる
- 主張の書面は意匠登録出願と同時、優先権証明書類等は意匠登録出願の日から3月以内(特許の1年4月ではない)。出さなければ主張は効力を失うが、長官の通知後の提出で救済される
- 分割・変更ではもとの出願の優先権の書面・書類が新出願と同時に提出されたものとみなされる。「優先権証明書を新たな意匠登録出願の日から六月以内に特許庁長官に提出しなければならない」という枝は誤り
- 優先期間は意匠では6月。特許出願・実用新案登録出願から変更した意匠登録出願も6月で判断するので、7月後の変更には優先権の効果が無い
- 別々に第一国出願した構成物品を束ねて組物の意匠で優先権を主張することはできない
- 優先権が適正なら3条の2・先願は第一国の出願日が基準。関連意匠の10年も最初の出願日から数えるが、存続期間の25年は日本の出願日から
- 第一国出願前の自己の販売による公知は優先権では治らず、日本で4条3項の手続が要る。優先権証明書に合わせる補正でも要旨変更なら却下される
- 参考図のみの意匠を分割した出願は遡及せず、優先期間を過ぎていれば優先権の効果も無い
- 国際意匠登録出願には43条1項の主張の書面と43条の2の救済が適用されない。43条2項から9項の優先権書類の手続は協定の優先権に準用される(60条の10)
この用語が問われた枝
意匠登録出願人が、パリ条約の規定により優先権を主張している二以上の意匠を包含する意匠登録出願について、意匠登録出願の一部を一又は二以上の新たな意匠登録出願とした場合において、新たな意匠登録出願についてパリ条約の規定により優先権を主張したときは、優先権証明書を新たな意匠登録出願の日から六月以内に特許庁長官に提出しなければならない。
甲は、令和5年3月1日にパリ条約の同盟国に正規かつ最先の実用新案登録出願Aを行い、出願Aに基づく優先権を主張して令和5年 10 月1日に日本国に実用新案登録出願Bをした。甲が実用新案登録出願Bを意匠登録出願Cに変更した場合、出願Cにおいて優先権主張の効果が認められる。
甲は、令和4年1月1日にパリ条約の同盟国のX国へ、意匠イについて、正規かつ最先の意匠登録出願Aをした。乙は、令和4年2月1日に意匠ロに類似する意匠ハについて意匠登録出願Bを日本国にした。甲は、令和4年2月3日に意匠イに係る出願Aを基礎とするパリ条約による優先権の主張を伴う意匠登録出願Cを日本国に行い、出願Cについて意匠公報が発行された。この場合、意匠ハに係る出願Bは、意匠イに係る出願Cの意匠公報を根拠に意匠法第3条の2に基づいて拒絶される。
日本国民である甲は、意匠イについて、外国であるX国のみを指定締約国としてハーグ協定のジュネーブ改正協定に基づく国際登録出願をし、当該出願は不備なく受理され、国際登録され、国際公表された。その後、甲は、意匠イについて、当該国際登録出願に基づくパリ条約の優先権の主張を伴う意匠登録出願を日本国特許庁にしたところ、意匠イについて意匠登録を受けた。その後、甲は、意匠イに類似する意匠ロについて、意匠イを本意匠として、当該国際登録出願の出願日から 10 年を経過する日前までに意匠登録出願をした。この場合、意匠イの関連意匠として、意匠ロについて、意匠登録を受けることができる。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。