国内移行の手続(特184条の3〜5)こくないいこうのてつづき
国内移行の手続とは、国際出願日が認められ日本国を指定国に含む国際出願を国際出願日にされた特許出願とみなしたうえで(特許法184条の3)、出願人が優先日から2年6月の国内書面提出期間内に翻訳文(外国語特許出願の場合、184条の4)と国内書面(184条の5)を特許庁長官に提出し、手数料を納付して日本の審査を受けられる状態にする手続です。
英語で国際出願をした出願人が、日本でも特許を取ろうと決めたとします。日本の特許庁は英語のままでは審査できず、誰が出願人で発明者かという国内向けの情報も要ります。そこで出願人は、優先日から2年6月以内に日本語の翻訳文と国内書面を特許庁長官に提出し、手数料を納めます。これが国内移行の手続で、PCT22条が各指定官庁に求める写し・翻訳文・国内手数料の提出を、日本の特許法184条の3から184条の5が受けています。国際出願そのものは国際出願日にされた特許出願とみなされるので、日本での出願日は国際出願日のままです。

国際出願日が認められ日本国を指定国に含む国際出願は、その国際出願日にされた特許出願とみなされ、国際出願日における願書が36条1項の願書とみなされます
184条の3第1項は、PCT11条(1)若しくは(2)(b)又は14条(2)により国際出願日が認められた国際出願で、4条(1)(ii)の指定国に日本国を含むもの(特許出願に係るものに限ります)を、その国際出願日にされた特許出願とみなします。これが国際特許出願で、PCT11条(3)が国際出願に正規の国内出願の効果を認めていることを日本の法律に書き直したものです。国際出願日における願書は36条1項の願書とみなされ(184条の6第1項)、日本語特許出願の明細書・請求の範囲・図面・要約と、外国語特許出願のそれらの翻訳文が、願書に添付した明細書・特許請求の範囲・図面・要約書とみなされます(同条2項)。国内書面が願書になるわけではありません。国際特許出願には43条(パリ条約の優先権主張の手続)が適用されず(184条の3第2項)、優先権の主張は国際段階で願書に書いたものがそのまま効きます。
外国語特許出願の出願人は優先日から2年6月の国内書面提出期間内に翻訳文を提出しますが、満了前2月以内に国内書面を出したときは、その提出の日から2月の翻訳文提出特例期間内に提出できます
184条の4第1項は、外国語でされた国際特許出願(外国語特許出願)の出願人に、優先日から2年6月(国内書面提出期間)以内に、国際出願日における明細書・請求の範囲・図面(図面の中の説明に限ります)・要約の日本語による翻訳文を特許庁長官に提出させます。PCT22条(1)の30箇月をそのまま使った期間です。ただし書で、国内書面提出期間の満了前2月から満了の日までの間に184条の5第1項の国内書面を提出した外国語特許出願(その日以前に翻訳文を出したものを除きます)は、その書面の提出の日から2月(翻訳文提出特例期間)以内に翻訳文を提出できます。期限ぎりぎりに移行を決めた出願人に翻訳の時間を与えるための規定で、起算点は国内書面の提出日なので、「優先日から32月以内に明細書、請求の範囲、図面(図面の中の説明に限る。)及び要約の日本語による翻訳文を」提出しなければならないという枝は誤りです。PCT19条(1)の補正をしたときは、同条2項により国際出願日における請求の範囲の翻訳文に代えて補正後の請求の範囲の翻訳文を提出でき、同条6項により国内処理基準時の属する日までに更に提出することもできます。どちらも「できる」であって両方の提出は義務ではないので、「国際出願日における請求の範囲の日本語による翻訳文に加えて、当該補正後の請求の範囲の日本語による翻訳文についても提出しなければならない」という枝は誤りです。日本語でされた国際特許出願(日本語特許出願)には翻訳文がそもそも要りません。

- 国内書面提出期間優先日から2年6月です(184条の4第1項)。PCT22条(1)の30箇月と同じ長さです
- 翻訳文提出特例期間国内書面提出期間の満了前2月から満了の日までの間に国内書面を提出したときの、その提出の日から2月です(184条の4第1項ただし書)
- 翻訳文の対象国際出願日における明細書・請求の範囲・図面の中の説明・要約です。19条補正をしたときは補正後の請求の範囲の翻訳文に代えられます(同条2項)
- 国内書面出願人の氏名又は名称及び住所又は居所、発明者の氏名及び住所又は居所、国際出願番号その他の省令事項です(184条の5第1項)。日本語特許出願でも必要です
- 手数料195条2項の手数料を国内書面提出期間内に納付します(184条の5第2項5号)
明細書と請求の範囲の翻訳文(明細書等翻訳文)を期間内に提出しないと国際特許出願は取り下げられたものとみなされますが、図面の中の説明や要約の翻訳文の不提出では取下げになりません
184条の4第3項は、国内書面提出期間(翻訳文提出特例期間が適用される出願ではその期間)内に、明細書の翻訳文及び請求の範囲の翻訳文(あわせて明細書等翻訳文といいます)の提出がなかったときに、その国際特許出願を取り下げられたものとみなします。発明の内容と権利範囲を日本語で示す書面がなければ審査のしようがないからです。取下げ擬制の対象はこの二つに限られるので、「図面の中に説明があるのに当該説明の翻訳文の提出がなかったときは、その国際特許出願は取り下げられたものとみなされる」という枝は誤りです。要約の翻訳文を出さないときは、184条の5第2項4号により特許庁長官が補正を命じ、応じなければ同条3項で却下できるだけで、「特許庁長官が自ら翻訳文を作成しなければならない」という枝は誤りです。国際出願日における請求の範囲の翻訳文を出さなくても、19条補正後の請求の範囲の翻訳文をそれに代えて出していれば、取下げにはなりません。取り下げられたものとみなされた出願人は、184条の4第4項により、経済産業省令で定める期間内に限り明細書等翻訳文と図面・要約の翻訳文を提出でき、提出された翻訳文は国内書面提出期間が満了する時に提出されたものとみなされます(同条5項)。この救済は、故意に期間内に提出しなかったと認められる場合には使えません。令和5年改正の前は「正当な理由」があることが要件だったので、それ以前の枝は現行法の文言で読み替えてください。

国内書面には出願人と発明者の氏名・住所と国際出願番号を書き、日本語特許出願でも外国語特許出願でも国内書面提出期間内に提出しますが、発明の名称は記載事項ではありません
184条の5第1項は、国際特許出願の出願人に、国内書面提出期間内に、出願人の氏名又は名称及び住所又は居所、発明者の氏名及び住所又は居所、国際出願番号その他の経済産業省令で定める事項を記載した書面を特許庁長官に提出させます。国際出願の願書には発明者の氏名を書かない国もあり、日本で特許を受けるのに必要な情報を補わせるためです。日本語特許出願にも必要なので、翻訳文の要らない日本語特許出願でも国内書面と手数料だけは出すことになります。「発明者の氏名及び住所又は居所を記載した書面を特許庁長官に提出しなければならない」という枝は正しいです。発明の名称は国際出願の願書で既に示されているため記載事項に入っておらず、「発明の名称、発明者の氏名及び住所又は居所並びに国際出願番号の全てを記載した書面」を提出しなければならないという枝は誤りです。国内書面を期間内に出さないとき、方式に違反するとき、要約の翻訳文や手数料を期間内に出さないときは、特許庁長官が相当の期間を指定して補正を命じ、応じなければ国際特許出願を却下できます(同条2項・3項)。
国内処理基準時は国内書面提出期間が満了する時ですが、期間内に出願人が出願審査の請求をすればその時になり、審査請求や特許管理人の要否はこの時を境に変わります
184条の4第6項は、国内書面提出期間が満了する時、又は期間内に出願人が出願審査の請求をするときはその請求の時を、国内処理基準時と定めます。PCT23条(1)は指定官庁が22条の期間満了前に処理・審査を行うことを禁じ、(2)で出願人の明示の請求があればいつでも行えるとしているので、日本では出願人自身の出願審査の請求を明示の請求として扱い、その時から国内の処理に入ります。184条の17により、出願人は日本語特許出願なら国内書面、外国語特許出願なら翻訳文と国内書面を提出し、手数料を納付した後でなければ出願審査の請求ができません。「書面の提出と所定の手数料を納付した後でなければ」出願審査の請求ができないという枝は正しいです。出願人以外の者は国内書面提出期間(翻訳文提出特例期間が適用されるときはその期間)の経過後でなければ請求できません。在外者の出願人は184条の11第1項により国内処理基準時までは特許管理人によらないで手続ができるので、日本国内に住所又は居所を有しない出願人であっても「特許管理人によらず、出願審査の請求の手続をすることができる場合がある」という枝は正しいです。期間内に出願審査の請求をすればその時が国内処理基準時になり、以後は特許管理人が要るので、「出願審査の請求をした後であっても、国内書面提出期間内であれば、特許管理人によらないで手続をすることができる」という枝は誤りです。補正の時期(184条の12)や国内公表(184条の9)もこの国内処理基準時や国内書面提出期間を基準にします。
特許法184条の3第1項千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約(以下この章において「条約」という。)第十一条(1)若しくは(2)(b)又は第十四条(2)の規定に基づく国際出願日が認められた国際出願であつて、条約第四条(1)(ii)の指定国に日本国を含むもの(特許出願に係るものに限る。)は、その国際出願日にされた特許出願とみなす。
特許法184条の4第1項外国語でされた国際特許出願(以下「外国語特許出願」という。)の出願人は、条約第二条(xi)の優先日(以下「優先日」という。)から二年六月(以下「国内書面提出期間」という。)以内に、前条第一項に規定する国際出願日(以下「国際出願日」という。)における条約第三条(2)に規定する明細書、請求の範囲、図面(図面の中の説明に限る。以下この条において同じ。)及び要約の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならない。ただし、国内書面提出期間の満了前二月から満了の日までの間に次条第一項に規定する書面を提出した外国語特許出願(当該書面の提出の日以前に当該翻訳文を提出したものを除く。)にあつては、当該書面の提出の日から二月(以下「翻訳文提出特例期間」という。)以内に、当該翻訳文を提出することができる。
特許法184条の4第3項国内書面提出期間(第一項ただし書の外国語特許出願にあつては、翻訳文提出特例期間。以下この条において同じ。)内に第一項に規定する明細書の翻訳文及び前二項に規定する請求の範囲の翻訳文(以下「明細書等翻訳文」という。)の提出がなかつたときは、その国際特許出願は、取り下げられたものとみなす。
試験ではこう問われる
- 国際出願日が認められ日本国を指定国に含む国際出願は、国際出願日にされた特許出願とみなされる(184条の3第1項)。願書とみなされるのは国際出願日における願書で、国内書面ではない(184条の6第1項)
- 翻訳文の期限は優先日から2年6月の国内書面提出期間。満了前2月から満了の日までに国内書面を出せば提出日から2月の翻訳文提出特例期間。「優先日から32月以内に」と固定する枝は誤り
- 19条補正をした外国語特許出願は、出願時の請求の範囲の翻訳文に代えて補正後の翻訳文を提出できる。両方の提出を義務とする枝は誤り(184条の4第2項・6項)
- 取下げ擬制は明細書と請求の範囲の翻訳文(明細書等翻訳文)の不提出のみ(184条の4第3項)。図面の中の説明の翻訳文の不提出では取り下げられたものとみなされない。要約の翻訳文は補正命令と却下で、「特許庁長官が自ら翻訳文を作成」ではない
- 取下げ擬制後の救済は省令期間内で、故意に提出しなかった場合は不可(184条の4第4項)。令和5年改正前の「正当な理由」の枝は旧法
- 国内書面の記載事項は出願人・発明者の氏名と住所、国際出願番号など。発明の名称は含まない(184条の5第1項)。日本語特許出願にも国内書面と手数料は必要
- 出願人の出願審査の請求は国内書面(外国語特許出願は翻訳文も)と手数料の後。出願人以外は国内書面提出期間の経過後(184条の17)
- 国内処理基準時は国内書面提出期間の満了時、期間内に出願審査の請求をすればその時(184条の4第6項)。在外者は国内処理基準時までは特許管理人によらないで手続できるが、審査請求後は期間内でも特許管理人が要る
この用語が問われた枝
外国語特許出願の出願人は、特許協力条約第19条(1)の規定に基づく補正をしたときは、国内書面提出期間内に、国際出願日における請求の範囲の日本語による翻訳文に加えて、当該補正後の請求の範囲の日本語による翻訳文についても提出しなければならない。
外国語でされた国際特許出願について、図面の中に説明があるのに当該説明の翻訳文の提出がなかったときは、その国際特許出願は取り下げられたものとみなされる。
外国語特許出願については、出願人が要約の日本語による翻訳文を国内書面提出期間内に提出しない場合であって、補正命令に応答しなかったときは、特許庁長官が自ら翻訳文を作成しなければならない。
国際特許出願の出願人は、国内書面提出期間内に、出願人の氏名又は名称及び住所又は居所、発明の名称、発明者の氏名及び住所又は居所並びに国際出願番号の全てを記載した書面を特許庁長官に提出しなければならない。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。