先願(9条)せんがん
先願とは、同一又は類似の意匠について二以上の意匠登録出願があったときに、異なった日なら最先の意匠登録出願人のみが、同日なら出願人の協議により定めた一の出願人のみが意匠登録を受けることができるとする9条の仕組みです。協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、いずれも登録を受けることができません。
同じ形の椅子を甲と乙が別々に考え、どちらも特許庁に出願したとします。意匠権は一つの意匠を一人に独占させる権利なので、二人に与えるわけにはいきません。9条は、先に出願した人だけに登録を与え、同じ日なら話し合いで一人に決めさせると定めています。意匠権の効力は登録意匠に類似する意匠にまで及ぶので(23条)、同一の意匠だけでなく類似の意匠についても先願で切らないと、似た意匠の権利が二人に並び立って効力がぶつかってしまいます。だから特許法39条と違い、意匠の先願は「同一又は類似の意匠」を対象にしています。

異なった日の出願は最先の意匠登録出願人のみが登録を受け、後願の意匠そのものが先願の意匠と同一又は類似のときに限って拒絶されます
9条1項は、同一又は類似の意匠について異なった日に二以上の意匠登録出願があったときは、最先の意匠登録出願人のみがその意匠について意匠登録を受けることができると定めています。比べるのは後願の意匠そのものと先願の意匠です。先願イの類似範囲に、後願ロには類似しないがロに類似する意匠が含まれているだけなら、ロ自体はイと非類似なので、「後願意匠ロが登録されることはない」という枝は誤りです。先願は出願人が同一でも働きます。自分の先願イに類似するロをそのまま出願すれば9条1項で拒絶されるので、「出願人が同一であれば、先願意匠イの存在を理由として、意匠ロに係る出願が拒絶されることはない」という枝は誤りです。同一人の類似する意匠を登録するには、ロを10条1項の関連意匠として出願する必要があり、関連意匠として登録されるときは9条1項・2項の規定にかかわらず登録され、本意匠と関連意匠や関連意匠相互の間には9条が適用されません(10条1項・7項)。平成30年度のこの枝が出た当時は本意匠の公報発行前までしか関連意匠を出願できませんでしたが、令和元年改正で本意匠の出願の日から10年を経過する日前まで出願できるようになりました。
同日の出願は協議で定めた一の出願人のみが登録を受け、協議の対象は意匠そのものが同一又は類似の出願に限られます
9条2項は、同一又は類似の意匠について同日に二以上の意匠登録出願があったときは、意匠登録出願人の協議により定めた一の意匠登録出願人のみが意匠登録を受けることができ、協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、いずれも登録を受けることができないと定めています。特許庁長官は相当の期間を指定して協議をしてその結果を届け出るべき旨を命じなければならず(4項)、指定した期間内に届出がないときは協議が成立しなかったものとみなすことができます(5項)。みなすかどうかは長官の裁量なので、何らの手続もしなかった両出願について「特許庁長官は、当該両出願について協議が成立しなかったものとみなすことができる」という枝は正しく、「指定期間内に協議の結果を届け出ないときは、当該協議が成立しなかったものとみなされる」という枝は誤りです。協議の対象になるのは、同日の出願の意匠同士が同一又は類似の場合です。イとロが類似しないなら、イの類似範囲にロに類似する意匠が含まれていても「甲と乙が意匠法第9条第4項の規定に基づく協議指令を受ける場合はない」という枝は正しく、「必ず、出願Aは意匠法第9条第2項に規定する協議の対象となる」という枝は誤りです。2項は出願人が同一か別人かを区別しないので、同日の類似する出願は「出願人の異同にかかわらず意匠法に規定される協議の対象となる」という枝は正しく、甲のイ・ロと乙のハが互いに類似する同日出願なら「これら全ての出願について、意匠法第9条第2項の協議の対象となる」という枝も正しいです。自分の同日出願同士なら、一方を他方の関連意匠にすれば協議をせずに両方とも登録を受けられます。

- 異なった日最先の意匠登録出願人のみが意匠登録を受けることができます(9条1項)
- 同日出願人の協議により定めた一の出願人のみが登録を受け、協議が成立せず又は協議をすることができないときはいずれも登録を受けられません(9条2項)
- 協議指令特許庁長官は相当の期間を指定して協議をしてその結果を届け出るべき旨を命じなければなりません(9条4項)
- 届出がないとき特許庁長官は協議が成立しなかったものとみなすことができます(9条5項)
- 関連意匠本意匠と関連意匠、関連意匠相互には9条1項・2項を適用しません(10条1項・7項)
放棄・取下げ・却下や拒絶の確定で出願は初めからなかったものとみなされますが、協議不成立による拒絶の確定だけは先願の地位が残ります
9条3項は、意匠登録出願が放棄され、取り下げられ、若しくは却下されたとき、又は拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したときは、その出願は9条1項・2項の適用については初めからなかったものとみなすと定めています。先願イの出願が放棄されれば先願の地位は失われるので、「意匠イに係る出願が放棄された場合であっても、意匠ロが登録されることはない」という枝は誤りです。協議指令を受けて出願Aを放棄しロを登録した後に、「意匠イのみに類似する意匠ハについて意匠登録出願をしても、意匠ハについて意匠登録を受けることはできない」という枝も誤りです(Aは初めからなかったものとみなされ、ハは登録されたロには類似しないからです)。補正の却下の決定の後に17条の3第1項の新たな出願をするともとの出願は取り下げたものとみなされるので(17条の3第2項)、もとの出願Aのイを根拠に「出願Aに係る意匠イを根拠として、出願Cは意匠法第9条第1項の規定により拒絶されることがある」という枝は誤りです。国際意匠登録出願も、基礎とした国際登録が消滅すれば取り下げられたものとみなされるので(60条の14第1項)、消滅した国際意匠登録出願Bを先願として「出願Bの後願として意匠法第9条第1項により拒絶される」という枝は誤りです。これに対し、3項ただし書は、同日出願の協議が成立しなかったこと(9条2項後段)により拒絶が確定した出願については、初めからなかったものとはみなさないと定めています。どちらも登録されなかったからといって、後から出願し直した者に登録を与えると、同日に出願した者の方が不利になるからです。協議不成立で両出願の拒絶が確定した後に出願された「その後に出願された意匠イに類似する意匠ハが登録されることはない」という枝は正しく、甲が自分で出し直したイに類似するハについて「意匠ハについて意匠登録を受けることができる」という枝は誤りです。協議不成立で拒絶が確定した出願は66条3項で意匠公報にも掲載されるので、3条の2の先の出願にもなります。

国際意匠登録出願は国際登録の日にされた出願とみなされ、分割・変更の出願はもとの出願の時にしたものとみなされて先後願を判断します
ハーグ協定のジュネーブ改正協定に基づく国際意匠登録出願は、60条の6第1項により国際登録の日にされた意匠登録出願とみなされるので、先後願の判断も国際出願の日ではなく国際登録の日で行います。国際登録の日と同日に乙が類似する意匠を出願していれば同日出願として協議の対象になり、「協議をしてその結果を届け出るべき旨を命じられない」という枝は誤りです。二以上の意匠を包含する国際出願は意匠ごとにされた出願とみなされるので(60条の6第2項)、それらが互いに類似すれば同じ出願人の同日出願として協議を命じられることがあります。分割出願と変更出願はもとの出願の時にしたものとみなされるので(10条の2第2項・13条6項)、もとの出願と同日の出願として扱われます。組物の意匠は組物全体として一意匠なので、その構成物品の単体の意匠とは非類似として扱われ、9条の先後願の関係には立ちません。
意匠法9条と特許法39条
| 項目 | 意匠法9条 | 特許法39条 |
|---|---|---|
| 対象 | 同一又は類似の意匠です | 同一の発明(実用新案の考案を含む)です |
| 同日の協議不成立 | いずれも登録を受けられず、その出願は先願の地位を残します(3項ただし書) | いずれも特許を受けられず、その出願は先願の地位を残します(5項ただし書) |
| 届出がないとき | 特許庁長官は協議が成立しなかったものとみなすことができます(5項) | 特許庁長官は協議が成立しなかったものとみなすことができます(7項) |
| 同一人の類似出願 | 関連意匠として出願すれば9条にかかわらず登録されます(10条1項) | 同一の発明でなければ39条の問題になりません |
意匠法9条1項同一又は類似の意匠について異なつた日に二以上の意匠登録出願があつたときは、最先の意匠登録出願人のみがその意匠について意匠登録を受けることができる。
意匠法9条2項同一又は類似の意匠について同日に二以上の意匠登録出願があつたときは、意匠登録出願人の協議により定めた一の意匠登録出願人のみがその意匠について意匠登録を受けることができる。協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、いずれも、その意匠について意匠登録を受けることができない。
意匠法9条3項意匠登録出願が放棄され、取り下げられ、若しくは却下されたとき、又は意匠登録出願について拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したときは、その意匠登録出願は、前二項の規定の適用については、初めからなかつたものとみなす。ただし、その意匠登録出願について前項後段の規定に該当することにより拒絶をすべき旨の査定又は審決が確定したときは、この限りでない。
意匠法9条5項特許庁長官は、前項の規定により指定した期間内に同項の規定による届出がないときは、第二項の協議が成立しなかつたものとみなすことができる。
試験ではこう問われる
- 先願は「同一又は類似の意匠」で切る。後願の意匠そのものが先願と非類似なら、類似範囲が重なっていても拒絶されず、協議の対象にもならない
- 出願人が同一でも9条は働く。同一人の類似意匠を登録するには関連意匠として出願する(本意匠の出願日から10年以内)
- 同日出願の協議は出願人の異同にかかわらず対象になり、甲の2出願と乙の1出願が互いに類似すれば全部が対象
- 届出がないときは長官が不成立と「みなすことができる」。当然にみなされるという枝は誤り
- 放棄・取下げ・却下・拒絶確定の出願は初めからなかったものとみなされる。協議指令後に一方を放棄すれば、その意匠にのみ類似する後願は拒絶されない
- 協議不成立による拒絶確定だけは先願の地位が残り、後から出し直した類似意匠は登録されない。この出願は66条3項で公報にも載る
- 補正却下後の新出願でもとの出願は取下げ擬制、国際登録の消滅で国際意匠登録出願も取下げ擬制。いずれも先願にならない
- 国際意匠登録出願の出願日は国際登録の日。その日と同日の国内出願とは協議の対象になる
この用語が問われた枝
先願の登録意匠イの類似範囲に、他人が出願した後願意匠ロ又は意匠ロに類似する意匠が含まれる場合、後願意匠ロが登録されることはない。なお、いずれの出願も意匠法第9条(先願)以外の拒絶の理由はないものとする。
意匠イに係る意匠登録出願Aと意匠ロに係る意匠登録出願Bとが同日の出願であって、意匠法第9条第2項に規定する協議が成立せず、出願A、B共に拒絶をすべき旨の査定が確定した場合、その後に出願された意匠イに類似する意匠ハが登録されることはない。
意匠イに係る意匠登録出願Aの意匠イの類似範囲に、他人が出願Aと同日に出願した意匠ロ又は意匠ロに類似する意匠が含まれる場合、必ず、出願Aは意匠法第9条第2項に規定する協議の対象となる。なお、いずれの出願も意匠法第9条(先願)以外の拒絶の理由はないものとする。
先願意匠イの類似範囲に、他人が出願した後願意匠ロが含まれる場合、意匠イに係る出願が放棄された場合であっても、意匠ロが登録されることはない。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。