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補正の却下と前置審査(53条・162〜164条)ほせいのきゃっかとぜんちしんさ

特許・実用新案 第4章 審査・補正・出願公開 短答で53枝

補正の却下とは、最後の拒絶理由通知の後などにした明細書等の補正が17条の2第3項から6項までに違反するときに、審査官が決定をもってその補正を退ける53条の手続です。前置審査とは、拒絶査定不服審判の請求と同時に明細書等の補正があったときに、審判に先立って特許庁長官が審査官にその請求を審査させる162条から164条までの手続です。

最後の拒絶理由通知を受けた出願人が、直すつもりで出願時に無かった内容まで足してしまったとします。これを拒絶の理由にしてまた通知すると審査が終わらないので、53条はその補正を決定で却下し、補正前の内容で審査を進めます。一方、拒絶査定を受けて審判を請求するときに補正をすると、直した内容なら特許できるかもしれません。それを審判官の合議にかける前にもとの審査官がもう一度見るのが前置審査で、特許にできるなら拒絶査定を取り消して特許査定をし、できなければ査定をせずに特許庁長官に報告して審判に戻します。

特許庁の審査室の場面。先生が審査官役(札「審査官」)で机に座り、左手に「拒絶査定不服審判の請求書」、右手に「手続補正書(請求と同時)」と書かれた二枚の紙を持っている。向かいに出願人の男性(札「請求人」)が立ち、吹き出し「審判を請求するので、

53条の却下は最後の拒絶理由通知後・50条の2の通知後・審判請求時の補正が17条の2第3項から6項までに違反するときに限られ、却下した後は補正前の内容で審査を続けます

53条1項は、17条の2第1項1号(拒絶理由通知と併せて50条の2の通知をした場合に限ります)又は3号の場合にした明細書、特許請求の範囲又は図面の補正が、同条3項から6項までに違反していると特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認められたときは、審査官は決定をもってその補正を却下しなければならないと定めます。拒絶査定不服審判では159条1項で53条が準用され、審判請求と同時の補正(1項4号)も対象になります。最初の拒絶理由通知の後の補正はここに入らないので、3項・4項に違反していれば49条1号の拒絶理由として改めて通知されます。却下は補正をなかったことにする処分で、違反を理由に出願を拒絶するのではありません。独立特許要件にのみ違反するときに「その補正後の特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない」という枝は誤りです。却下できるのは3項から6項までの違反だけで、4項から6項までは特許請求の範囲の補正の要件なので、最後の拒絶理由通知の後に「明細書のみについて補正するとともに意見書を提出した」場合に、3項を満たしているなら、拒絶の理由が解消しなくても補正は却下されず、その枝は誤りです。請求項の削除のみを目的とする補正は5項1号で認められ、独立特許要件も課されないので、拒絶の理由が解消しなければ「この補正は却下されず、拒絶をすべき旨の査定がされる」という枝は正しいです。

特許庁の審査室の場面。先生が審査官役(札「審査官」)で机に座り、「補正の却下の決定(53条)」と書かれた紙に判を押している。机の上に「手続補正書:最後の拒絶理由通知の後」と書かれた紙と、その脇に「補正前の明細書等」と書かれた書類の束。向かい

補正の却下の要点

  • 対象になる補正最後の拒絶理由通知の指定期間内の補正、50条の2の通知を併せて受けた最初の拒絶理由通知の指定期間内の補正、審判請求と同時の補正です
  • 却下の理由17条の2第3項(新規事項)、4項(特別な技術的特徴の変更)、5項(目的制限)、6項(独立特許要件)の違反に限られます
  • 時期特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認められたときです
  • 方式文書で理由を付した決定です(53条2項)
  • 却下の後補正前の明細書等で審査を続け、拒絶の理由が残れば拒絶査定をします。その拒絶査定には50条の拒絶理由通知を要しません(50条ただし書)
  • 対象外の補正最初の拒絶理由通知の後の補正は却下されず、3項・4項違反は49条1号の拒絶理由になります

却下の決定には独立の不服申立てがなく、拒絶査定不服審判の中で争います

53条3項は、却下の決定に対しては不服を申し立てることができないと定め、ただし書で拒絶査定不服審判を請求した場合における審判ではこの限りでないとします。却下の決定だけを取り出して争わせると手続が二重になるので、拒絶査定とまとめて審判で判断させるためです。行政不服審査法の審査請求も同じ理由で閉ざされているので、却下の決定に不服がある場合に「行政不服審査法の規定による審査請求をすることができる」という枝は誤りです。審判で却下が不当と判断されれば、その補正があったものとして審理されます。

前置審査は審判請求と同時に明細書等の補正があったときに特許庁長官が審査官に審査させる手続で、長官に裁量はありません

162条は、特許庁長官は、拒絶査定不服審判の請求があった場合において、その請求と同時にその請求に係る特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正があったときは、審査官にその請求を審査させなければならないと定めます。補正で拒絶の理由が解消しているなら、審判官の合議より審査官が見る方が早いからです。条文どおり「審査官にその請求を審査させなければならない」という枝は正しいです。要件は請求と同時の明細書等の補正だけなので、「その請求と同時に実験成績証明書の提出があったときは」補正がなくても前置審査に付されるという枝は誤りで、要約書のみの補正でも前置審査には付されません。反対に、図面のみの補正や発明の名称だけの補正でも、明細書等の補正である以上は付されます。長官に審査させない裁量はないので、図面のみの補正について「当該補正が軽微なものである場合、特許庁長官は、審査官にその請求を審査させないものとすることができる」という枝は誤りです。審査官を指定する制度もなく(指定があるのは137条の審判官です)、「その請求を審査させるに際し、審査官を指定しなければならない」という枝は誤りです。拒絶査定をした審査官に限る定めもありません。

特許庁の長官室の場面。先生が特許庁長官役(札「特許庁長官」)で机に座り、「拒絶査定不服審判の請求書」と「手続補正書:図面のみ」と書かれた二枚の紙を見ている。机の端に「審査官へ」と書かれた回送箱。向かいに職員の男性(札「職員」)が立ち、吹き出

前置審査には審査官の除斥と53条・54条が準用されますが、原査定に関与した審査官は除斥されず、忌避もできません

163条1項は、48条(審査官の除斥)、53条(補正の却下)、54条(審査の中止)を前置審査に準用します。48条が準用する139条からは、不服を申し立てられた査定に審査官として関与したという6号が(7号とともに)除かれているので、原査定をした審査官が前置審査をしても除斥されません。もとの審査官が自分の査定を見直すことが前置審査の趣旨だからです。したがって、原査定に関与した審査官が「当該査定に関与したことを原因として、前置審査の職務の執行から除斥される場合がある」という枝は誤りです。当事者の代理人であったときなど139条1号から5号までの除斥の原因があれば除斥されます。141条の忌避は審判官の制度で審査官には準用されていないので、前置審査をする審査官について「審査の公正を妨げるべき事情があるときは、これを忌避することができる」という枝は誤りです。

前置審査の審査官が却下できるのは審判請求と同時の補正だけで、特許査定をする場合を除いて却下の決定をせずに結果を長官に報告します

163条1項の読替えで、前置審査で53条1項により却下できる補正は、審判請求と同時の補正(17条の2第1項4号)と、前置審査で改めて受けた最後の拒絶理由通知(50条の2の通知を併せて受けた拒絶理由通知を含みます)に対する補正に限られ、拒絶査定不服審判の請求前にした補正は除かれます。審判請求前の補正は原査定の審査で判断済みで、その当否は審判で争うべきものだからです。審判の請求前にした補正が新規事項を含むと「前置審査において認められたときは、審査官は、決定をもってその補正を却下しなければならない」という枝は誤りです。さらに164条2項は、特許をすべき旨の査定をする場合を除き、審査官は53条1項の却下の決定をしてはならないとし、3項は、査定をすることなく審査の結果を特許庁長官に報告しなければならないとします。前置審査は審判の前さばきなので、特許できないときの判断は審判官に委ねるためです。前置審査で通知した最後の拒絶理由通知に対する補正が新規事項を含んでいても、特許査定をしないなら「決定をもって当該補正を却下した上で、審査の結果を特許庁長官に報告しなければならない」という枝は誤りです。163条2項で50条と50条の2が準用されるので、査定の理由と異なる拒絶の理由を発見したときは請求人に通知して意見書の機会を与えることができ、応答がなく特許査定ができないときは「拒絶をすべき旨の査定をすることなくその審査の結果を特許庁長官に報告しなければならない」という枝は正しいです。50条の2が「前置審査には準用されない」という枝は誤りです。

特許庁の審査室の場面。先生が審査官役(札「審査官」)で机に座り、二つに分かれた道の看板を前にしている。左の道の札「特許をすべき旨の査定 → 拒絶査定を取り消す(164条1項)」、右の道の札「査定をせずに特許庁長官に報告(164条3項)」。右

前置審査で特許査定をするときは原査定を取り消し、その特許査定の謄本の送達後30日以内の分割はできません

164条1項により、前置審査で特許をすべき旨の査定をするときは、審判の請求に係る拒絶をすべき旨の査定を取り消さなければなりません。163条3項で51条と52条が準用され、特許査定は文書で理由を付して行い、謄本が送達されます。この特許査定は審査官の査定で審決ではないので、審判は請求の対象を失って終わります。44条1項2号は特許査定の謄本の送達から30日以内の分割を認めますが、かっこ書で163条3項で準用する51条の特許査定と160条1項の審決で差し戻された審査での特許査定を除いています。前置審査で特許査定を受けた出願について、拒絶査定の謄本の送達から3月を過ぎた後に「特許をすべき旨の査定の謄本の送達があった日から30日以内であれば、その特許出願は、出願の分割をすることができる」という枝は誤りです。拒絶査定の後に分割の機会は既にあったので、前置審査の特許査定で改めて分割の期間を与える必要がないからです。

特許法53条

第十七条の二第一項第一号又は第三号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあつては、拒絶の理由の通知と併せて第五十条の二の規定による通知をした場合に限る。)において、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面についてした補正が第十七条の二第三項から第六項までの規定に違反しているものと特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認められたときは、審査官は、決定をもつてその補正を却下しなければならない。
2 前項の規定による却下の決定は、文書をもつて行い、かつ、理由を付さなければならない。
3 第一項の規定による却下の決定に対しては、不服を申し立てることができない。ただし、拒絶査定不服審判を請求した場合における審判においては、この限りでない。

特許法162条

特許庁長官は、拒絶査定不服審判の請求があつた場合において、その請求と同時にその請求に係る特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正があつたときは、審査官にその請求を審査させなければならない。

特許法164条

審査官は、第百六十二条の規定による審査において特許をすべき旨の査定をするときは、審判の請求に係る拒絶をすべき旨の査定を取り消さなければならない。
2 審査官は、前項に規定する場合を除き、前条第一項において準用する第五十三条第一項の規定による却下の決定をしてはならない。
3 審査官は、第一項に規定する場合を除き、当該審判の請求について査定をすることなくその審査の結果を特許庁長官に報告しなければならない。

試験ではこう問われる

  1. 却下の対象は最後の拒絶理由通知後・50条の2の通知後・審判請求時の補正だけ。最初の拒絶理由通知後の補正は却下されず、3項・4項違反は49条1号の拒絶理由
  2. 5項・6項違反は却下であって拒絶査定の理由ではない。独立特許要件違反を理由に「拒絶をすべき旨の査定をしなければならない」という枝は誤り
  3. 明細書のみの補正は3項を満たせば却下されない。請求項の削除のみの補正は却下されず、拒絶理由が残れば拒絶査定
  4. 却下の決定に独立の不服申立てはなく、行政不服審査法の審査請求もできない。拒絶査定不服審判の中で争う
  5. 前置審査は請求と同時の明細書・特許請求の範囲・図面の補正があれば必ず行われる。実験成績証明書や要約書だけでは付されず、図面のみ・軽微でも長官に裁量はない。審査官を指定する制度はない
  6. 原査定に関与した審査官は除斥されず(139条6号は準用から除外)、審査官の忌避はない
  7. 前置審査で却下できるのは審判請求と同時の補正だけ。審判請求前の補正は却下できない。特許査定をしない場合は却下も拒絶査定もせずに長官に報告する
  8. 査定と異なる拒絶理由は通知でき、50条の2も準用される。前置審査の特許査定は原査定を取り消す審査官の査定で、その謄本の送達後30日の分割はできない(44条1項2号かっこ書)

この用語が問われた枝

平成28年度 問8 枝ハ誤り

最後の拒絶理由通知に対してした特許請求の範囲についての補正が、当該補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件にのみ違反するとき、審査官は、そのことを理由として、その補正後の特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。

令和元年度 問3 枝ハ誤り

出願人は、最後の拒絶理由通知において指定された期間内に、明細書のみについて補正するとともに意見書を提出した。これに対し、当該補正が特許法第17条の2第3項の要件(いわゆる新規事項の追加の禁止)を満たしているものの、当該補正及び意見書によって最後の拒絶理由通知に係る拒絶の理由が解消されていないと審査官が認めた場合、この補正は却下される。

令和元年度 問3 枝ニ正しい

出願人は、特許法第29条第2項のいわゆる進歩性の規定に違反することのみを理由とする最後の拒絶理由通知を受け、指定された期間内に請求項の削除のみを目的とする補正をするとともに意見書を提出した。これに対し、当該補正及び意見書によって最後の拒絶理由通知に係る拒絶の理由が解消されていないと審査官が認めた場合、この補正は却下されず、拒絶をすべき旨の査定がされる。

令和6年度 問9 枝ロ誤り

最後の拒絶理由通知において指定された期間内に特許出願人が行った特許請求の範囲の補正が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないという理由により補正の却下の決定がなされるとともに、特許出願に対して拒絶をすべき旨の査定がなされた。この補正の却下の決定に不服がある場合に、行政不服審査法の規定による審査請求をすることができる。

枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。

特許・実用新案を肢別演習で解く

この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。

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