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利用・抵触と裁定(26条・31〜33条)りよう・ていしょくとさいてい

意匠 第5章 意匠権の効力・実施権 短答で6枝

利用・抵触とは、意匠権者等の登録意匠(又はこれに類似する意匠)が、その意匠登録出願の日前の出願に係る他人の登録意匠若しくはこれに類似する意匠、特許発明若しくは登録実用新案を利用するものであるとき、又は意匠権のうちその登録意匠(又はこれに類似する意匠)に係る部分が出願の日前の出願に係る他人の特許権、実用新案権若しくは商標権(類似する意匠については他人の意匠権も)若しくは出願の日前に生じた他人の著作権と抵触するときに、業としてその実施をすることができないという関係です(26条)。裁定とは、この場合に意匠権者又は専用実施権者が他人に通常実施権の許諾の協議を求め、協議が成立しないときに特許庁長官に通常実施権の設定を求める手続です(33条)。

乙が「自転車」の意匠を登録できても、そのハンドル部分が先に登録された甲の「自転車用ハンドル」の意匠をそのまま取り込んでいれば、乙が自転車を作ると甲のハンドルの意匠も実施することになります。登録を受けたからといって他人の先の権利を踏んでよいわけではないので、意匠法は、先の出願に係る他人の意匠・特許・実用新案を利用し、又は他人の特許権・商標権・著作権などと抵触する登録意匠は、業として実施できないと定めます。実施したければ相手の許諾を得るか、裁定で通常実施権を設定してもらいます。

自転車工場の場面。先生が先生役(札「先生」)で組立ラインの脇に立っている。ラインの上に「乙の登録意匠:自転車」の札が付いた自転車があり、そのハンドルの部分に「甲の登録意匠:自転車用ハンドル(先の出願)」の札が付いている。工場長の男性(札「乙

出願の日前の出願に係る他人の登録意匠等を利用し、又は他人の特許権等や出願の日前に生じた著作権と抵触する登録意匠は、業として実施できません

26条1項は、意匠権者、専用実施権者又は通常実施権者は、その登録意匠がその意匠登録出願の日前の出願に係る他人の登録意匠若しくはこれに類似する意匠、特許発明若しくは登録実用新案を利用するものであるとき、又はその意匠権のうち登録意匠に係る部分がその意匠登録出願の日前の出願に係る他人の特許権、実用新案権若しくは商標権若しくはその意匠登録出願の日前に生じた他人の著作権と抵触するときは、業としてその登録意匠の実施をすることができないと定めます。2項は登録意匠に類似する意匠について同じことを定め、こちらでは他人の意匠権との抵触も含みます。意匠ロが甲の意匠イを利用するものである場合に乙は「意匠ロに係る学習机を製造、譲渡することはできない」という枝は正しく、意匠ロに類似する意匠ハに係る部分が甲の意匠権と抵触する場合に乙は「意匠ハに係る学習机を製造、譲渡することはできない」という枝も正しいです。利用される側は他人の登録意匠に類似する意匠でもよいので、甲の登録意匠イが乙の登録意匠ロに類似する意匠を利用するものである場合に甲は「乙の許諾なく、業としてイの実施をすることができない」という枝は正しいです。著作権は無方式で発生し登録は要件ではないので、出願の日前に生じた他人の著作権と抵触する場合は、その著作権が登録されていなくても実施できません。

  • 利用の相手出願の日前の出願に係る他人の登録意匠若しくはこれに類似する意匠、特許発明、登録実用新案です
  • 抵触の相手出願の日前の出願に係る他人の特許権・実用新案権・商標権(類似する意匠については他人の意匠権も)と、出願の日前に生じた他人の著作権です。著作権に登録は要りません
  • 制限される人意匠権者だけでなく専用実施権者・通常実施権者も同じです
  • 制限される行為業としての実施です。登録そのものや専用実施権の設定は妨げられません

類似する意匠に係る部分だけが抵触するときは登録意匠の実施はでき、同日の出願に係る権利は対象になりません

1項が制限するのは登録意匠の実施で、2項が制限するのは登録意匠に類似する意匠の実施です。意匠権のうち登録意匠に類似する意匠に係る部分だけが先願の他人の意匠権と抵触するときは、2項でその類似する意匠の実施が制限されるだけで、登録意匠そのものの実施は1項の対象になりません。自己の意匠権のうち「登録意匠に類似する意匠に係る部分のみ」が乙の意匠権と抵触する場合に、乙の許諾を得ずに「自己の登録意匠を業として実施することができる」という枝は正しいです。また、条文はいずれも「出願の日前」の出願に係る他人の権利を相手にしているので、同日の出願に係る権利とは利用・抵触の関係に立ちません。登録意匠に係る部分が「意匠登録出願の日と同日の出願に係る他人の特許権と抵触するときは、業としてその登録意匠の実施をすることができない」という枝は誤りで、同日の出願に係る甲の登録意匠イと乙の登録意匠ロの双方に類似する意匠ハを甲が実施するために「乙の許諾を得なければならない」という枝も誤りです。同日の出願どうしは9条2項の協議で一方しか登録されないか、互いに非類似で登録されるので、後は互いの効力の範囲の問題として処理されます。

特許事務所の相談室の場面。先生が弁理士役(札「弁理士」)で机に座り、脇に大きな板が立っている。板には2つの円が描かれ、左の大きな円に「乙の意匠権:登録意匠ロ+これに類似する意匠」、その円の外側の縁の一部だけが右の円「甲の意匠権(先の出願)」

利用は登録意匠の外観に現れる関係で、内部の制御回路のような特許発明は利用に当たらず、実施が制限されるだけで専用実施権の設定は妨げられません

利用とは、自分の登録意匠を実施すると必ず他人の登録意匠や特許発明をそのまま実施することになる関係をいいます。意匠は物品等の外観の創作なので、登録意匠が特許発明を利用するといえるのは、その外観を実施することが特許発明の実施を含む場合です。実施品の電気炊飯器に組み込まれた制御回路が他人の特許発明を使っていても、それは意匠の外観とは関係のない製品の内部の話で、登録意匠が特許発明を利用するものではありません。そこで、制御回路が他人の特許発明を利用するものであるとき登録意匠の実施のための通常実施権の許諾について「特許庁長官に対して裁定を請求することができる」という枝は誤りです。26条が制限するのは業としての実施だけで、権利の処分は自由なので、登録意匠イが乙の特許発明ロを利用するものである場合でも甲は「乙の許諾を得ることなく、イに係る意匠権についての専用実施権の設定をすることができる」という枝は正しいです。

裁定は意匠権者・専用実施権者が他人の意匠権・特許権・実用新案権に対して請求でき、商標権・著作権や不実施は対象外で、相手方も裁定を請求できます

33条1項は、意匠権者又は専用実施権者は、その登録意匠又はこれに類似する意匠が26条の場合に該当するときは、26条の他人に対し、その登録意匠又はこれに類似する意匠の実施をするための通常実施権又は特許権若しくは実用新案権についての通常実施権の許諾について協議を求めることができると定め、協議が成立せず又は協議をすることができないときは特許庁長官の裁定を請求できます(3項)。協議と裁定の相手は意匠権者・特許権者・実用新案権者に限られ、商標権と著作権は含まれません。商標には意匠法の裁定に当たる制度がなく、著作権は人格的な利益にも関わるからです。乙の商標権と抵触する場合に「乙に対し商標権についての通常使用権の許諾について協議を求めることができる」という枝は誤りです。請求できるのは意匠権者又は専用実施権者だけで、通常実施権者は26条で実施を制限されても裁定を請求できません。意匠ロの通常実施権者である丙が「意匠イについて通常実施権の設定をすべき旨の裁定を請求することができる」という枝は誤りです。意匠法の裁定は利用・抵触の場合の33条だけで、特許法83条のような不実施の場合の裁定や93条のような公共の利益のための裁定はないので、甲の意匠イの不実施を理由に「意匠イについて通常実施権の設定をすべき旨の裁定を請求することができる」という枝は誤りです。協議を求められた他人は、相手が許諾を受けて実施しようとする登録意匠又は類似する意匠の範囲内で、自分にも通常実施権を許諾するよう協議を求めることができ(2項)、3項の裁定の請求があったときは答弁書の提出期間内に限り裁定を請求できます(4項)。特許庁長官は、通常実施権の設定が他人又は意匠権者・専用実施権者の利益を不当に害するときは設定すべき旨の裁定をできません(5項)。裁定の手続には特許法84条、84条の2、85条1項、86条から91条の2までが準用され(7項)、裁定で通常実施権の設定を受けた者が適当に実施をしないときは、特許庁長官は利害関係人の請求により又は「職権で裁定を取り消すことができる」という枝は正しいです(特許法90条1項の準用)。

特許庁の裁定の審理室の場面。先生が特許庁長官役(札「特許庁長官」)で机に座り、「裁定請求書:通常実施権の設定(33条3項)」と書かれた書類を手にしている。机の前に男性2人が向かい合って立ち、左の男性(札「意匠権者 乙」)の吹き出し「甲の意匠
  • 請求できる人意匠権者又は専用実施権者です(33条1項・3項)。通常実施権者は請求できません
  • 相手方26条の他人のうち意匠権者・特許権者・実用新案権者です。商標権者・著作権者は相手になりません
  • 相手方の裁定協議を求められた他人は同じ範囲で協議を求めることができ、裁定の請求があれば答弁書の提出期間内に限り裁定を請求できます(2項・4項)
  • 裁定できない場合通常実施権の設定が相手の利益を不当に害するときです(5項)。不実施や公共の利益を理由とする裁定は意匠法にありません
  • 取消し設定を受けた者が適当に実施をしないときなどは、利害関係人の請求又は職権で取り消せます(特許法90条の準用)

先願の権利の存続期間が満了したときは、原権利者と実施権者が後願の意匠権について通常実施権を持ち、同日出願も含まれ、協議や裁定は要りません

31条1項は、意匠登録出願の日前又はこれと同日の意匠登録出願に係る意匠権のうち登録意匠に類似する意匠に係る部分がその意匠登録出願に係る意匠権と抵触する場合に、その意匠権の存続期間が満了したときは、原意匠権者は原意匠権の範囲内において当該意匠権又はその存続期間の満了の際現に存する専用実施権について通常実施権を有すると定めます。2項でこれを出願の日前又は同日の出願に係る特許権・実用新案権が意匠権と抵触して満了した場合に準用します。先の権利者はそれまで自由に実施できていたので、権利が満了した途端に後願の意匠権に止められるのは酷だからです。26条と違って「同日」の出願も含まれ、甲の特許権Aと乙の意匠権Bが同日の出願で抵触し特許権Aの存続期間が満了したときに甲は「特許権Aの範囲内において、意匠権Bについて通常実施権を有する」という枝は正しいです。これは法律上当然に生じる通常実施権なので、原意匠権者乙が存続期間の満了後も意匠ハを実施するために「甲に対し協議を求めて通常実施権の許諾を得なければならない」という枝は誤りです。32条は、満了した意匠権についての専用実施権者や通常実施権者にも同じく原権利の範囲内で通常実施権を認め、この場合は意匠権者又は専用実施権者が相当の対価を受ける権利を持ちます(3項)。特許法72条は特許権者側から見た同じ利用・抵触の規定で、商標法29条は商標権者が他人の意匠権等と抵触するときの規定です。

意匠法26条1項

意匠権者、専用実施権者又は通常実施権者は、その登録意匠がその意匠登録出願の日前の出願に係る他人の登録意匠若しくはこれに類似する意匠、特許発明若しくは登録実用新案を利用するものであるとき、又はその意匠権のうち登録意匠に係る部分がその意匠登録出願の日前の出願に係る他人の特許権、実用新案権若しくは商標権若しくはその意匠登録出願の日前に生じた他人の著作権と抵触するときは、業としてその登録意匠の実施をすることができない。

意匠法33条1項

意匠権者又は専用実施権者は、その登録意匠又はこれに類似する意匠が第二十六条に規定する場合に該当するときは、同条の他人に対しその登録意匠又はこれに類似する意匠の実施をするための通常実施権又は特許権若しくは実用新案権についての通常実施権の許諾について協議を求めることができる。

意匠法31条1項

意匠登録出願の日前又はこれと同日の意匠登録出願に係る意匠権のうち登録意匠に類似する意匠に係る部分がその意匠登録出願に係る意匠権と抵触する場合において、その意匠権の存続期間が満了したときは、その原意匠権者は、原意匠権の範囲内において、当該意匠権又はその意匠権の存続期間の満了の際現に存する専用実施権について通常実施権を有する。

試験ではこう問われる

  1. 登録意匠が先願の他人の登録意匠(類似する意匠を含む)・特許発明・登録実用新案を利用するときは業として実施できない(26条1項)。類似する意匠についても同じで、他人の意匠権との抵触も入る(2項)
  2. 類似する意匠に係る部分のみが抵触するときは、登録意匠そのものは実施できる。「登録意匠に類似する意匠に係る部分のみ」の枝は登録意匠の実施可で正しい
  3. 相手は「出願の日前」の権利。同日の出願に係る特許権・意匠権とは利用・抵触の関係にならない
  4. 著作権は出願の日前に生じていれば足り、登録されていなくても抵触する
  5. 利用は外観に現れる関係。内部の制御回路が他人の特許発明でも登録意匠が利用するとはいえず、裁定は請求できない。26条は実施を制限するだけで専用実施権の設定に許諾は不要
  6. 裁定を請求できるのは意匠権者・専用実施権者だけで、相手は意匠権・特許権・実用新案権だけ。商標権者への協議、通常実施権者の請求、不実施を理由とする裁定はいずれも誤り
  7. 裁定で通常実施権の設定を受けた者が適当に実施しないときは職権で取り消せる(特90条準用)。不当に害するときは裁定できない
  8. 先願の権利が存続期間満了すると原権利者等は後願の意匠権について法定の通常実施権を持つ(31条・32条)。同日出願も含み、協議・裁定は不要。実施権者が持つ場合は対価あり

この用語が問われた枝

令和8年度 問30 枝ロ正しい

意匠ロが、甲の意匠イを利用するものである場合、乙は、意匠ロに係る学習机を製造、譲渡することはできない。

令和8年度 問30 枝ハ正しい

意匠ロに係る意匠権のうち意匠ロに類似する意匠ハに係る部分が、甲の意匠イに係る意匠権と抵触するものである場合、乙は、意匠ハに係る学習机を製造、譲渡することはできない。

平成28年度 問30 枝ニ誤り

物品「電気炊飯器」に係る意匠の意匠権者は、その実施品である電気炊飯器に組み込まれた制御回路が意匠登録出願前の出願に係る他人の特許発明を利用するものであるとき、その登録意匠の実施をするための通常実施権の許諾について、一定の条件の下、特許庁長官に対して裁定を請求することができる。

令和元年度 問30 枝ハ誤り

甲は、「自転車用ハンドル」の意匠イについて意匠権を有している。乙は、そのハンドルを用いた「自転車」の意匠ロについて意匠権の設定の登録を受けた。その後、乙は、丙に、意匠ロについての通常実施権を設定した。この場合、丙は、特許庁長官に対し、意匠イについて通常実施権の設定をすべき旨の裁定を請求することができる。

枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。

意匠を肢別演習で解く

この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。

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