新規性喪失の例外(4条)しんきせいそうしつのれいがい
新規性喪失の例外とは、意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して(4条1項)、又はその者の行為に起因して(4条2項)3条1項1号・2号に該当するに至った意匠について、その日から1年以内にその者がした意匠登録出願では、3条1項・2項の適用上、公知に至らなかったものとみなす仕組みです。2項の適用には、出願と同時の書面と出願の日から30日以内の証明書が要ります(4条3項)。
新製品を展示会に出して反応を見てから出願したい、という場面はよくあります。しかし展示した時点で意匠は公然知られたものになり、3条1項で登録を受けられなくなります。そこで4条は、権利者の意に反して公開された場合と、権利者が自分で公開した場合に、公開の日から1年以内の出願なら公開がなかったものとみなします。自分で公開した場合だけ、出願と同時に適用を受ける旨の書面を出し、30日以内に証明書を出す手続が要るのは、審査官が公開の経緯を自分では確かめられないからです。

意に反する公知は手続なしで、自己の行為による公知は出願と同時の書面と30日以内の証明書で、公知の日から1年以内の出願に適用されます
4条1項は、意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して3条1項1号又は2号に該当するに至った意匠を対象にし、出願時の手続を要求しません。委託先への連絡の遅れで「意匠イが出願の3日前に自社ホームページ上で公開されていたことが発覚した」場合に、1項の適用で登録を受けられる場合があるという枝は正しく、乙が無断で掲載したことを甲が「乙が公開していることを知らなかったため」手続をしなかった場合でも登録を受けられる場合があるという枝も正しいです。4条2項は、権利者の行為に起因して公知になった意匠を対象にし、3項により、適用を受けようとする旨を記載した書面を意匠登録出願と同時に、証明書を出願の日から30日以内に特許庁長官に提出しなければなりません。期間はどちらも公知になった日から1年以内で、平成30年改正前は6月でした。平成29年度以前の枝にある6月は当時の期間です。

- 1項 意に反する公知出願時の手続は不要です。公知の日から1年以内の出願に適用されます
- 2項 自己の行為に起因する公知出願と同時に適用を受ける旨の書面、出願の日から30日以内に証明書を提出します。公知の日から1年以内の出願に適用されます
- 効果その出願に係る意匠について、3条1項及び2項の適用上、1号・2号に該当するに至らなかったものとみなします。先願(9条)や他人の出願には効きません
- 特許法との関係特許法30条3項と同じく、書面は出願と同時、証明書は出願の日から30日以内です。二以上の行為について最先の一の行為の証明書で足りるただし書は、意匠法4条3項にだけあります
書面は出願と同時でなければならず、4項の救済は証明書だけに、その責めに帰することができない理由に限って認められます
拒絶理由通知で自分の公開した意匠が引用されてから「その拒絶の理由に該当しない旨を意見書で主張すると共に」書面と証明書を提出して登録を受けられるという枝は誤りです。書面は出願と同時でなければならないからです。4条4項の救済は証明書の提出期間だけに認められるので、適用を受けようとする旨の書面を責めに帰することができない理由で「出願Aと同時に特許庁長官に提出することができなかった」場合に、理由がなくなった日に提出すれば適用を受けられるという枝は誤りです。証明書の救済も、その責めに帰することができない理由があるときに、理由がなくなった日から14日(在外者は2月)以内で期間経過後6月以内に限られるので、「正当な理由」があれば「その期間の経過後6月以内にその証明書を特許庁長官に提出することができる」という枝は誤りです。
対象は権利者の意に反し又は権利者の行為に起因して公知になった意匠で、公報掲載による公知と他人が独自に公開した意匠は対象外です
4条2項のかっこ書きは、発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報に掲載されたことにより公知になった意匠を除きます。公報への掲載は制度上必ず起こるもので、権利者が選んだ公開ではないからです。自分の実用新案登録出願の実用新案公報に意匠イが載った後に、類似する意匠ロの出願で「意匠イについて意匠法第4条2項の規定の適用を受けようとするための手続を行うことにより」拒絶されない場合があるという枝は誤りです。他人が独自に創作して公開した意匠は、権利者の意に反する公知でも権利者の行為に起因する公知でもないので対象外です。甲がパンフレットを配布した後に乙の独自創作の類似意匠が公開された場合、「そのパンフレットの配布からまだ1年を経過していないため」手続をすれば登録を受けられるという枝は誤りで、乙の公開した意匠が3条1項3号で引用されます。

承継人の出願にも適用され、公開した意匠と出願した意匠が同一である必要はなく、二以上の行為は最先の一の行為の証明書で足ります
4条2項は「その者がした意匠登録出願」と定めますが、甲が展示会で公開した後に乙に意匠登録を受ける権利を譲渡し、乙が承継の事実を証明書に記載して出願した場合、「甲が展示会で意匠イを公開した事実を理由に」拒絶されることはないという枝は正しいです。適用を受けた意匠は3条1項3号を含めて公知でないものとみなされるので、公開した意匠イと出願した意匠が同一である必要はなく、「意匠イから模様及び色彩を除いた形状のみの意匠ロ」を出願しても、イについて手続をすればイの公開を理由に3号で拒絶されることはないという枝は正しいです。同一又は類似の意匠について権利者の二以上の行為があったときは、現行の4条3項ただし書により、最先の日に行われた一の行為についての証明書で足ります。令和元年度の枝では、類似する意匠イと意匠ロを公開してイだけ証明書を出した場合に「出願Aは、意匠ロの存在を理由に」3号で拒絶されるとされていますが、これは当時ただし書がなく公開した意匠ごとに証明書が要ったためで、現行法ではイの公開がロより先なら証明書は足ります。
分割・変更では書面は新出願と同時に提出したものとみなされ、国際意匠登録出願は国際公表後に提出でき、パリ条約の優先権では治癒しません
10条の2第3項(変更には13条6項で準用)により、もとの出願について提出された書面又は書類で新たな出願について4条3項により提出しなければならないものは、新たな出願と同時に提出されたものとみなされます。分割で旨の書面を「新たな意匠登録出願と同時に提出しなければ」適用を受けられないという枝は誤りで、変更で「当該変更に係る意匠登録出願と同時に特許庁長官に提出されたものとみなされる」という枝は正しいです。特許出願から変更した出願はもとの出願の時にしたものとみなされるので、特許出願の後の販売による公開は変更後の出願の新規性を害さず、手続をしなければ「甲自らの販売を理由とする」拒絶を回避できないという枝は誤りです。国際意匠登録出願では、60条の7により、書面と証明書を「国際公表後、経済産業省令で定める期間内に日本国の特許庁長官に提出することができる」という枝は正しいです。パリ条約の優先権は第一国出願の後の行為による不利益を防ぐだけなので、第一国出願前の自己の販売について日本で手続をしなくても「当該新製品の販売によっては新規性が喪失していないものとして取り扱われる」という枝は誤りです。関連意匠では、本意匠と同一又は類似の自己の公知意匠は10条2項・8項で公知でないものとみなされるので、4条の手続は要りません。
意匠法4条1項意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至つた意匠は、その該当するに至つた日から一年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同項及び同条第二項の規定の適用については、同条第一項第一号又は第二号に該当するに至らなかつたものとみなす。
意匠法4条2項意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至つた意匠(発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報に掲載されたことにより同項第一号又は第二号に該当するに至つたものを除く。)も、その該当するに至つた日から一年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同項及び同条第二項の規定の適用については、前項と同様とする。
意匠法4条3項前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を意匠登録出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至つた意匠が前項の規定の適用を受けることができる意匠であることを証明する書面(以下この条及び第六十条の七において「証明書」という。)を意匠登録出願の日から三十日以内に特許庁長官に提出しなければならない。ただし、同一又は類似の意匠について第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至る起因となつた意匠登録を受ける権利を有する者の二以上の行為があつたときは、その証明書の提出は、当該二以上の行為のうち、最先の日に行われたものの一の行為についてすれば足りる。
試験ではこう問われる
- 意に反する公知(1項)は出願時の手続不要。委託先の誤公開や他人の無断掲載を知らずに出願しても登録を受けられる場合がある
- 自己の行為による公知(2項)は出願と同時の書面と30日以内の証明書。拒絶理由通知の後に「意見書で主張すると共に」書面を出す枝は誤り
- 4項の救済は証明書だけで、責めに帰することができない理由に限る。旨の書面を後から出す枝、「正当な理由」で足りるとする枝は誤り
- 期間は公知の日から1年。平成30年改正前の6月は旧法
- 公報掲載による公知は対象外。実用新案公報に載った意匠について手続をしても拒絶される
- 他人が独自に公開した類似意匠は対象外。「パンフレットの配布からまだ1年を経過していないため」手続をすれば登録できるという枝は誤り
- 承継人の出願にも適用され、公開意匠と出願意匠が同一である必要はない。二以上の行為は現行法では最先の一の行為の証明書で足りる
- 分割・変更では書面は新出願と同時に出したものとみなされる。国際意匠登録出願は国際公表後の省令期間内に提出できる。パリ優先権では第一国出願前の公開は治癒しない
この用語が問われた枝
甲は、新製品を開発し、その意匠イに係る意匠登録出願をした。ところが、その出願の4月後、意匠イが出願の3日前に自社ホームページ上で公開されていたことが発覚した。これは、甲の社内での出願時期についての連絡が遅れたことから、ホームページの管理を委託している会社へ、意匠イの公開時期の調整指示が伝わらなかったことが原因であった。この場合、このホームページ上の公開の事実について意匠法第4条第1項の規定の適用を受けることによって、意匠イについて意匠登録を受けることができる場合がある。
甲が単独で創作した意匠イについて意匠登録出願をした。意匠登録を受ける権利を有さない乙は、甲の了承なく、インターネット上の乙のウェブサイトに意匠イの写真を、その出願前に掲載していた。甲は、乙が公開していることを知らなかったため、意匠登録出願の際、新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるために必要な手続をしなかった。この場合であっても、意匠イについて、意匠登録を受けることができる場合がある。
甲は、展示会で自ら創作した意匠イを公開したところ、好評であったことから意匠登録出願Aを行った。その後、新規性がないことを理由とする拒絶理由が通知されたところ、拒絶の理由として引用されたのは、自ら公開した意匠イであった。出願Aは、意匠イの公開後3月しか経っていなかったため、甲は、新規性の喪失の例外の適用を受けることができ、その拒絶の理由に該当しない旨を意見書で主張すると共に、新規性の喪失の例外の適用を受けようとする旨を記載した書面及び証明書を提出することで、意匠登録を受けることができる。
令和5年4月1日に、甲は展示会に出品することで意匠イを公知とした。令和5年5月1日に、甲は意匠イに類似する意匠ロについて意匠登録出願Aをした。甲は、意匠法第4条第3項に規定される「意匠法第4条第2項の適用を受けようとする旨を記載した書面」を、甲の責めに帰することができない理由により、出願Aと同時に特許庁長官に提出することができなかった。その理由がなくなった令和5年5月 10 日に、甲は、同書面を特許庁長官に提出すれば、意匠イについて意匠法第4条第2項の適用を受けることができる。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。