営業秘密の不正取得・使用・開示の類型(2条1項4〜10号・19条1項7号)えいぎょうひみつのふせいしゅとくしようかいじのるいけい
営業秘密の不正取得・使用・開示の類型とは、不正競争防止法2条1項4号から10号までが営業秘密に係る不正競争として定める七つの行為の型で、不正の手段による取得とその使用・開示(4号)、不正取得が介在した営業秘密の転得者の行為(5号・6号)、保有者から示された者の図利加害目的での使用・開示(7号)、不正開示行為の転得者の行為(8号・9号)、技術上の秘密の不正使用により生じた物の譲渡等(10号)です。
工場の製造方法を産業スパイが盗み出す場面、退職した従業員が顧客名簿を競合他社に売る場面、何も知らずにその名簿を買った会社が後で事情を知る場面では、関わる人の立場も知っている事情も違います。不正競争防止法は、営業秘密を誰がどう手に入れ、何を知っていたかに応じて、4号から10号までの七つの型に分けて不正競争を定めています。情報は一度出回ると取り戻せないので、最初に盗んだ者だけでなく、事情を知って受け取り使う者まで追いかけられるようにした仕組みです。

4号は窃取・詐欺・強迫その他の不正の手段による取得と、不正取得した営業秘密の使用・開示で、目的を要さず、取得だけで不正競争になります
4号は、窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(営業秘密不正取得行為)と、不正取得した営業秘密を使用し、又は開示する行為を不正競争とします。取得する行為そのものが不正競争なので、従業者を脅して開示を受けた場合に「当該営業秘密を使用しない限り、不正競争とならない」という枝は誤りです。目的は要件ではないので、「外国の政府機関を利する目的で営業秘密を窃取する行為は、不正競争とならない」という枝は誤りです。使用も単独で不正競争なので、強迫で聞き出した製造方法でスパイスを製造する行為は「そのスパイスを販売しない限り、不正競争とならない」という枝は誤りです。開示には秘密を保持しつつ特定の者に示すことを含むとかっこ書に明記されているので、不正取得した乙が「丙に秘密保持義務を課している限り、不正競争とならない」という枝は誤りで、このかっこ書は5号から9号までにも及ぶので、取引先として示された乙が秘密保持を条件に協力会社1社だけに共有した行為も「営業秘密の開示にはあたらない」という枝は誤りです。不正の手段は刑罰法規に触れるものに限らず、取得とは自己の管理下に置くことで、会話を聞いて記憶することも含みます。アクセス権限のある従業員でも、退職後に使う意図を隠して「業務に利用すると偽って個別承諾を得た上で当該営業秘密を複製し、私物の記録媒体に保存して持ち出した」行為は詐欺による取得として「営業秘密不正取得行為に該当し得る」という枝は正しいです。
2条1項4号〜10号の型
| 号 | 誰が | 何をすると不正競争か |
|---|---|---|
| 4号 | 不正の手段で取得した者 | 取得すること。取得した営業秘密を使用・開示すること(目的は不要です) |
| 5号 | 不正取得の介在を知り、又は重大な過失で知らずに取得した転得者 | 取得すること。使用・開示すること |
| 6号 | 取得した後に不正取得の介在を知り、又は重大な過失で知らないでいる転得者 | 使用・開示すること |
| 7号 | 保有者から営業秘密を示された者 | 不正の利益を得る目的又は保有者に損害を加える目的で使用・開示すること |
| 8号 | 不正開示行為であること又はその介在を知り、又は重大な過失で知らずに取得した転得者 | 取得すること。使用・開示すること |
| 9号 | 取得した後に不正開示行為があったこと又はその介在を知り、又は重大な過失で知らないでいる転得者 | 使用・開示すること |
| 10号 | 技術上の秘密の不正使用により生じた物を扱う者 | その物を譲渡・引渡し・展示・輸出・輸入・電気通信回線を通じて提供すること(譲受時に善意無重過失の譲受人を除きます) |
5号・6号は不正取得が介在した営業秘密の転得者で、取得の時に知っていたか(5号)、取得した後に知ったか(6号)で分かれます
5号は、その営業秘密について営業秘密不正取得行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得する行為と、その使用・開示です。「介在した」で足りるので、直接の相手方が不正取得者でなくても、伝達の過程に不正取得があり、それについて悪意又は重過失で取得すれば該当します。「その営業秘密の取得が不正競争に該当することがある」という枝は正しいです。反対に、取得の時に善意無重過失なら5号には当たらないので、窃取されたUSBメモリと知らず重大な過失もなく譲り受ける行為は「不正競争には該当しない」という枝は正しいです。6号は、取得した後に不正取得の介在を知って、又は重大な過失により知らないで、その営業秘密を使用・開示する行為です。取得時に知らなくても、後で知ってから使えば6号に当たるので、取得する時点で知らなかったのであれば「その後、甲が当該営業秘密を使用したとしても、不正競争とならない」という枝は誤りです(ただし、後で述べる19条1項7号の適用除外に当たる場合は別です)。

7号は保有者から示された者が図利加害目的で使用・開示する行為で、守秘義務の契約は要りませんが、目的のない漏えいや転職の勧誘は当たりません
7号は、営業秘密保有者からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為です。従業員、下請企業、ライセンシーのように正当に示された者は取得自体に問題がないので、使用・開示に図利加害目的がある場合だけを不正競争にしています。秘密保持を約して製造方法の提供を受けた受託者が「その営業秘密を流用して委託者の競合他社のために当該製品を製造販売することは、不正競争となる」という枝は正しいです。要件は示されたことと目的だけなので、「契約上の明示的な秘密保持義務を負っていない場合であっても」図利加害目的で使用・開示すれば「営業秘密に係る不正競争に該当し得る」という枝は正しいです。利益を得る主体は行為者自身に限らないので、「第三者に不正の利益を得させる目的でその営業秘密を開示する行為は、不正競争に該当することはない」という枝は誤りです。反対に目的がなければ7号に当たらないので、秘密保持契約に基づき開示を受けた従業員が目的なく開示した場合に「乙の開示行為は不正競争となる」という枝は誤りです(契約違反の問題は別です)。自宅で残業する意図で書面を持ち帰る行為も「不正競争とならない」という枝は正しいです。営業秘密の取得・使用・開示でない行為はどの号にも当たらないので、営業秘密を管理する立場の競業他社の社長を「引き抜き、自社の役員として採用する行為は、営業秘密に係る不正競争となる」という枝は誤りです。

8号・9号は不正開示行為の転得者で、不正開示行為には図利加害目的の開示のほか秘密を守る法律上の義務に違反する開示も含まれます
営業秘密不正開示行為は、7号の図利加害目的での開示と、秘密を守る法律上の義務に違反して営業秘密を開示する行為の二つです(8号のかっこ書)。8号は、不正開示行為であること若しくはその介在を知って、若しくは重大な過失により知らないで取得する行為と、その使用・開示です。秘密保持契約に違反する開示と知りながら取得した丙の「取得行為は不正競争となる」という枝は正しいです。開示者に図利加害目的がなくても守秘義務違反の開示なら不正開示行為なので、目的のない開示を受けた者の取得が「不正競争に該当することはない」という枝は誤りです。取得時に善意無重過失なら8号に当たらず、使用の時点でも知らなければ9号にも当たらないので、守秘義務違反を「重過失なく知らないまま当該顧客名簿を使用する行為は、不正競争となる」という枝は誤りです。9号は、取得した後に不正開示行為があったこと若しくはその介在を知って、又は重大な過失により知らないで使用・開示する行為なので、「重大な過失により知らないで、その取得した営業秘密を使用する行為は、営業秘密に係る不正競争に該当する」という枝は正しいです。
10号は技術上の秘密の不正使用により生じた物の譲渡等で、譲り受けた時に善意無重過失だった譲受人の譲渡等は除かれます
平成27年改正で加わった10号は、4号から9号までの行為のうち技術上の秘密を使用する行為(不正使用行為)により生じた物を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為を不正競争とします。盗んだ製法で作った製品が流通する段階まで止められるようにした規定です。ただし、その物を譲り受けた時に不正使用行為により生じた物と知らず、かつ知らないことにつき重大な過失がない者の譲渡等は除かれます。善意無重過失で購入した丙の「丁への譲渡行為は、不正競争となる」という枝は誤りです。営業上の秘密の不正使用により生じた物は10号の対象ではありません。
取引によって善意無重過失で取得した者が権原の範囲内で使用・開示する行為は適用除外で、後から不正を知っても差止めできません
19条1項7号は、取引によって営業秘密を取得した者で、取得した時に不正開示行為であること又は不正取得行為・不正開示行為の介在を知らず、かつ知らないことにつき重大な過失がない者が、その取引によって取得した権原の範囲内で営業秘密を使用し、又は開示する行為について、差止め・損害賠償・罰則の規定(3条から15条まで、21条及び22条)を適用しないと定めます。取引で対価を払って正当に取得した者の地位を守らないと、営業秘密の取引が安心してできなくなるからです。後で不正を知った後の使用は6号や9号に当たりますが、この除外に当たれば差止めできません。窃取された営業秘密を善意無重過失で九州地方のみで使用する条件で開示された丙が、後に知っても「九州地方で使用している限り、丙の使用行為は、不正競争とならない」という枝は正しいです。この枝の「不正競争とならない」は、丙の使用が6号の不正競争に当たったうえで3条から15条まで、21条及び22条の適用が除外されるという意味で読みます。平成29年度の出題当時は19条1項6号でしたが、令和5年改正(令和6年4月1日施行)で商標法4条4項の場合に対応する3号が加わり、現行法では7号に繰り下がっています。取得後に不正取得の介在を知った場合に「それ以降その営業秘密を使用する行為は常に不正競争防止法上の規制の対象となる」という枝は誤りで、契約で正当に取得した第三者が後に事情を知っても「当該契約に基づく権原の範囲内での使用であっても」差止請求の対象となり得るという枝は誤りです。なお、営業秘密を使用する行為に対する差止請求権は、継続する行為について保有者が事実と行為者を知った時から3年、行為の開始から20年で時効消滅し(15条1項)、時効消滅後の使用により生じた物の譲渡等も適用除外です(19条1項8号)。

不正競争防止法2条1項4号窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(以下「営業秘密不正取得行為」という。)又は営業秘密不正取得行為により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為(秘密を保持しつつ特定の者に示すことを含む。次号から第九号まで、第十九条第一項第七号、第二十一条及び附則第四条第一号において同じ。)
不正競争防止法2条1項7号営業秘密を保有する事業者(以下「営業秘密保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為
不正競争防止法19条1項7号第二条第一項第四号から第九号までに掲げる不正競争取引によって営業秘密を取得した者(その取得した時にその営業秘密について営業秘密不正開示行為であること又はその営業秘密について営業秘密不正取得行為若しくは営業秘密不正開示行為が介在したことを知らず、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者に限る。)がその取引によって取得した権原の範囲内においてその営業秘密を使用し、又は開示する行為
試験ではこう問われる
- 4号は取得だけで不正競争。「使用しない限り、不正競争とならない」という枝は誤り。目的は要らず、外国政府を利する目的でも該当
- 不正取得した営業秘密の使用は販売しなくても不正競争。開示は秘密を保持しつつ示すことを含むので、秘密保持義務を課した開示や1社だけへの共有も開示
- アクセス権限があっても、偽って承諾を得た複製・持出しは詐欺による不正取得になり得る
- 5号は取得時の悪意重過失、6号は取得後の悪意重過失。善意無重過失で譲り受ける行為は不正競争でないが、後で知ってから使えば6号
- 7号は図利加害目的が要件で、守秘義務契約は不要。第三者に利益を得させる目的も含む。目的のない開示、残業のための持ち帰り、不注意の漏えい、転職の勧誘や引き抜きは当たらない
- 不正開示行為は図利加害目的の開示と守秘義務違反の開示。8号は取得時、9号は取得後の悪意重過失。重過失なく知らないままの使用は不正競争でない
- 10号は技術上の秘密の不正使用により生じた物の譲渡等(平成27年追加)。善意無重過失の譲受人の譲渡は除く
- 取引による善意無重過失の取得者の権原の範囲内の使用・開示は適用除外(19条1項7号。旧6号)。後から知っても「常に」規制されるという枝は誤り
この用語が問われた枝
他社の営業秘密を入手する目的で、その営業秘密を熟知した従業者を脅し、当該営業秘密の開示を受けた場合でも、当該営業秘密を使用しない限り、不正競争とならない。
外国の政府機関を利する目的で営業秘密を窃取する行為は、不正競争とならない。
乙が、甲社の従業員を強迫して製造方法Aを聞き出し、その方法を使ってスパイスを製造する行為は、そのスパイスを販売しない限り、不正競争とならない。
乙が、甲社の従業員を強迫して、製造方法Aを聞き出した。乙がその情報を丙に開示する行為は、丙に秘密保持義務を課している限り、不正競争とならない。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。