訂正審判と訂正の請求の違い|126条・134条の2を短答用に整理
弁理士試験短答式の訂正審判(特許法126条)と訂正の請求(134条の2・120条の5)を比較。訂正の目的4つ、新規事項と実質拡張変更の禁止、独立特許要件が審判と請求で異なる点、請求項ごと・一群の請求項、無効審判係属中は訂正審判を請求できない時期的制限、審決の予告、承諾を要する者、128条の遡及効まで整理します。
特許権者が特許後に明細書・特許請求の範囲・図面を直す手段は2つあります。自ら請求する訂正審判(126条)と、無効審判や異議の申立ての中で行う訂正の請求(134条の2・120条の5)です。目的や要件はほぼ同じ条文を準用しているのに、「いつできるか」「独立特許要件がどの請求項にかかるか」が違い、短答はその差を突いてきます。
結論から言うと、訂正の枝は「目的(126条1項各号)」「要件(5項〜7項)」「時期(126条2項と134条の2第1項)」「単位(請求項ごと・一群の請求項)」の4つで、訂正審判と訂正の請求を並べて読むと整理できます。目的の4つと新規事項・実質拡張変更の禁止は共通です。違うのは、訂正審判は無効審判や異議が係属している間は請求できないこと、独立特許要件が訂正審判では減縮と誤記誤訳の訂正の全てに、無効審判中の訂正の請求では審判の請求がされていない請求項にだけかかることです。
条文はe-Gov法令検索の特許法原文で確認しています。審判制度全体は「特許法の審判の種類」で、異議の中の訂正の請求は「特許異議の申立て」で扱っているので、この記事では訂正審判と無効審判中の訂正の請求の対比を中心に深掘りします。
3つの訂正の場面
| 手段 | 条文 | 誰が、どの手続の中で | 時期 |
|---|---|---|---|
| 訂正審判 | 126条 | 特許権者が単独で請求する独立の審判 | 無効審判・異議が係属していない間。特許権の消滅後も可 |
| 訂正の請求(無効審判) | 134条の2 | 無効審判の被請求人(特許権者)が審判の中で請求 | 答弁書の提出期間など、指定された期間内に限る |
| 訂正の請求(異議) | 120条の5第2項 | 特許権者が異議の中で請求 | 取消理由通知で指定された期間内に限る |
条文:特許法126条、134条の2、120条の5(e-Gov法令検索)
いずれも結果は同じで、訂正を認める審決や決定が確定すると、訂正後の明細書等で出願・査定・設定登録がされたものとみなされます(128条。134条の2第9項と120条の5第9項で準用)。違うのは手続の入り口と時期です。
訂正の目的は4つ(126条1項)
訂正審判は、次のいずれかを目的とするものに限られます(126条1項ただし書)。

| 号 | 目的 | 典型例 |
|---|---|---|
| 1号 | 特許請求の範囲の減縮 | 構成要件を加えて権利範囲を狭くする |
| 2号 | 誤記又は誤訳の訂正 | 明らかな書き間違い、外国語書面出願の翻訳の誤り |
| 3号 | 明瞭でない記載の釈明 | 不明確な用語を明確にする |
| 4号 | 他の請求項の記載を引用する請求項の記載を、その請求項の記載を引用しないものとすること | 従属項を独立項の形に書き直す |
条文:特許法126条1項(e-Gov法令検索)
4号は平成23年改正で加わりました。従属項を独立形式に直すだけの訂正を、減縮や釈明に当たるかどうかの議論なしに認めるためです。無効審判中の訂正の請求(134条の2第1項各号)と異議中の訂正の請求(120条の5第2項各号)も、目的はこの4つで同じです。
目的から外れる訂正、たとえば特許請求の範囲を広げる訂正や、新しい請求項を追加する訂正は、どの手段でも認められません。
共通する要件(126条5項・6項)
新規事項の追加は禁止(5項)
訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしなければなりません。誤訳の訂正を目的とするときは、外国語書面に記載した事項の範囲内です。出願時の補正における17条の2第3項と同じ考え方で、出願当初になかった事項を訂正で持ち込むことはできません。補正の時期と範囲の制限は「特許法の補正の時期的制限」で整理しています。

実質上の拡張・変更は禁止(6項)
訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはなりません。形式的には減縮に見えても、発明の対象が入れ替わるような訂正は許されません。
5項と6項は、134条の2第9項と120条の5第9項で訂正の請求にも準用されています。ここは3つの手段で差がありません。
独立特許要件は手段で違う(126条7項)
126条7項は、1号(減縮)又は2号(誤記・誤訳の訂正)を目的とする訂正について、訂正後の請求項に記載された発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないと定めます。これが独立特許要件です。3号と4号の訂正にはかかりません。
| 手段 | 独立特許要件がかかる請求項 |
|---|---|
| 訂正審判 | 1号・2号の訂正をする全ての請求項 |
| 訂正の請求(無効審判) | 無効審判の請求がされていない請求項に係る1号・2号の訂正(134条の2第9項の読替え) |
| 訂正の請求(異議) | 異議の申立てがされていない請求項に係る1号・2号の訂正(120条の5第9項の読替え) |
条文:特許法126条7項、134条の2第9項、120条の5第9項(e-Gov法令検索)
無効審判や異議の対象になっている請求項は、その手続の中で特許性が審理されます。訂正の段階で重ねて独立特許要件を課すと判断が二重になるため、対象外の請求項にだけかける仕組みです。
短答では「無効審判における訂正の請求では、全ての請求項について独立特許要件が課される」や、逆に「訂正審判では独立特許要件は課されない」という枝で誤りを作ります。
時期の違い:訂正審判は係属中にできない(126条2項)
無効審判・異議の係属中は請求できない
126条2項は、特許異議の申立て又は特許無効審判が特許庁に係属した時から、その決定又は審決が確定するまでの間は、訂正審判を請求できないとします。請求項ごとに申立てや請求がされた場合は、その全ての決定又は審決が確定するまでです。
係属中に訂正したい特許権者は、訂正審判ではなく、その手続の中で訂正の請求をします。訂正の手段を一本化し、同じ特許について審判と訂正審判が並行する事態を避ける規定です。

審決取消訴訟の段階でも請求できない
平成23年改正前は、無効審決に対する審決取消訴訟を提起した後に訂正審判を請求し、審決が取り消されてまた無効審判に戻るという往復が繰り返されていました。改正で、審決取消訴訟の提起後も訂正審判を請求できないことになり、代わりに審決の予告(164条の2)が設けられました。
審決の予告(164条の2)
審判長は、無効審判の審理を終結する前に、無効審決をしようとするときなど一定の場合に、審決の予告をします。被請求人は、予告を受けて指定された期間内に訂正の請求ができます(134条の2第1項)。審決の前に訂正の機会を確実に与えることで、審決取消訴訟後の訂正審判をなくしています。
特許権の消滅後も請求できる(126条8項)
訂正審判は、特許権の消滅後も請求できます。過去の侵害に対する損害賠償請求などで、特許の有効性が争われる余地が残るためです。ただし、特許が取消決定で取り消され、又は無効審判で無効にされた後は請求できません。
無効審判中の訂正の請求ができる時期(134条の2第1項)
訂正の請求は、いつでもできるわけではなく、次の期間内に限られます。

- 審判請求書の副本の送達を受けて答弁書を提出できる期間(134条1項)
- 請求書の補正があった場合に答弁書を提出できる期間(134条2項)
- 審決取消判決の確定後に審理が再開された場合の指定期間(134条の3)
- 職権で審理した理由について意見を述べる期間(153条2項)
- 審決の予告を受けた後の指定期間(164条の2第2項)
条文:特許法134条の2第1項(e-Gov法令検索)
指定された期間の外で訂正したいときは、改めて機会が与えられない限り請求できません。「無効審判の係属中であれば、被請求人はいつでも訂正を請求できる」という枝は誤りです。
訂正の請求があると、審判長は請求書と訂正した明細書等の副本を請求人に送達し、請求人には弁駁の機会があります。同じ審判事件で再び訂正の請求をしたときは、先の訂正の請求は取り下げられたものとみなされます(134条の2第6項)。訂正の請求の取下げは、訂正した明細書等について補正ができる期間内に限られ、請求項ごとにした場合は全ての請求を取り下げなければなりません(同条7項)。
請求の単位:請求項ごと・一群の請求項
請求項ごとに請求できる(126条3項)
2以上の請求項に係る特許請求の範囲の訂正は、請求項ごとに請求できます。ただし、一群の請求項があるときは、その一群の請求項ごとに請求しなければなりません。一群の請求項とは、ある請求項の訂正が他の請求項の記載に連動する関係にある請求項のまとまりで、引用関係にある請求項が典型です。

明細書・図面の訂正と請求項(126条4項)
明細書又は図面の訂正をする場合で、その訂正に関係する請求項が2以上あるときは、関係する全ての請求項について請求しなければなりません。明細書の一部を直すと複数の請求項の解釈に影響するため、一部の請求項だけを対象にして明細書を直すことは認められていません。
無効審判中の訂正の請求も同じ単位で、無効審判が請求項ごとに請求されたときは請求項ごとに訂正を請求しなければなりません(134条の2第2項・3項)。審決も請求項ごと、一群の請求項ごとに確定します(167条の2)。
承諾を要する者(127条)
特許権者は、専用実施権者又は質権者があるときは、これらの者の承諾を得た場合に限り、訂正審判を請求できます。令和3年改正の前は、35条1項・77条4項・78条1項の通常実施権者の承諾も必要でしたが、改正でこれらの通常実施権者は外れました。訂正は権利範囲を狭める方向にしか働かないので、通常実施権者の利益を害するおそれが小さいという理由です。

127条は134条の2第9項と120条の5第9項で訂正の請求にも準用されています。改正前の知識で「職務発明の通常実施権者の承諾が必要」とする枝は誤りです。実施権者の種類は「特許法の実施権」で整理しています。
訂正の効果(128条)
訂正をすべき旨の審決が確定したときは、その訂正後の明細書、特許請求の範囲又は図面により、特許出願、出願公開、特許をすべき旨の査定又は審決及び特許権の設定の登録がされたものとみなされます。訂正の効果は出願の時に遡ります。
訂正が126条1項ただし書、5項から7項までの要件に違反していたときは、それ自体が無効理由になります(123条1項8号)。訂正の請求による訂正についても同じで、134条の2第9項と120条の5第9項で準用された要件の違反が無効理由です。
実用新案法との違い
実用新案法には訂正審判がありません。訂正は14条の2で、実用新案技術評価書の最初の請求の謄本送達から2月など限られた時期に、原則1回だけできます。無効審判の中での訂正の請求もありません。審査を経ない権利なので、訂正の機会を絞って第三者の監視負担を減らしている構造です。詳しくは「実用新案法と特許法の違い」を参照してください。
短答の枝ではこう問われる
本試験と同じ形の枝を、条文から書き起こしました(過去問そのものではありません)。
例題 訂正審判及び訂正の請求に関し、正しいものの数はいくつか。
- イ 特許権者は、特許無効審判が特許庁に係属している間であっても、その審判の対象となっていない請求項については、訂正審判を請求することができる。
- ロ 特許無効審判における訂正の請求において、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正は、無効審判の請求がされていない請求項に係るものに限り、訂正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。
- ハ 明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正審判の請求は、訂正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなくても認められ得る。
- ニ 特許権者は、専用実施権者があるときは、その承諾を得なければ訂正審判を請求することができない。
- ホ 訂正審判は、特許権が存続期間の満了により消滅した後は、請求することができない。
正しいのはロ・ハ・ニの3つです。イは126条2項が無効審判の係属中は訂正審判を請求できないとしていて、対象外の請求項についての例外もないので誤り、ホは126条8項が特許権の消滅後の請求を認めているので誤りです。
学習の進め方
まず126条を1項から8項まで通して読み、目的・要件・時期・単位・消滅後の順に項の役割を把握します。次に134条の2を読み、1項各号の時期と、9項でどの項を準用しどこを読み替えているかを確認します。独立特許要件の読替えは条文で直接見ておくと忘れません。
そのうえで、訂正審判・無効審判中の訂正の請求・異議中の訂正の請求の3列の表を白紙に書き、時期・独立特許要件・承諾の行を埋められるようにします。訂正の取下げの時期と、先の請求のみなし取下げは、個数問題で混ぜられやすい細部です。過去問での確認方法は「短答式の過去問の使い方」を参照してください。
まとめ
- 訂正の手段は、訂正審判(126条)、無効審判中の訂正の請求(134条の2)、異議中の訂正の請求(120条の5)の3つ。目的は減縮・誤記誤訳の訂正・釈明・引用関係の解消の4つで共通
- 新規事項の追加禁止(5項)と実質上の拡張・変更の禁止(6項)は3つの手段に共通
- 独立特許要件(7項)は減縮と誤記誤訳の訂正にだけかかる。訂正審判では全ての請求項、訂正の請求では審判の請求や異議の申立てがされていない請求項にだけかかる
- 訂正審判は無効審判・異議の係属中は請求できない(126条2項)。係属中は訂正の請求で対応し、審決の前には審決の予告で訂正の機会が与えられる
- 訂正の請求は答弁書提出期間や審決の予告後など指定期間内に限る。再度の請求で先の請求はみなし取下げ
- 承諾が必要なのは専用実施権者と質権者(127条)。令和3年改正で通常実施権者は外れた
- 訂正審決が確定すると効果は出願時に遡る(128条)。要件違反の訂正は無効理由(123条1項8号)
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