特許法102条の損害額の推定|1項〜3項と103条を整理
弁理士試験短答式の特許法102条を条文から整理。1項の譲渡数量による算定と令和元年改正の2号(実施相応数量を超える部分のライセンス料相当額)、2項の侵害者利益の推定、3項・4項・5項、103条の過失の推定、105条の書類提出と査証、104条の3の無効の抗弁、実用新案・意匠・商標との違いまで扱います。
特許権侵害の損害賠償は、短答式の特許・実用新案20問で「権利行使」の分野として問われます。根拠そのものは民法709条ですが、特許法は102条で損害の額の計算方法を、103条で過失の推定を、104条の2以下で立証を助ける手続を置いています。条文ごとに「推定する」「とすることができる」「請求することができる」と書き方が違い、枝はその書き分けを入れ替えて作られます。
結論から言うと、102条は「1項=侵害品の譲渡数量から計算する」「2項=侵害者の利益を損害と推定する」「3項=実施料相当額を最低限として請求できる」の3本立てで、令和元年改正により1項2号と4項が加わったと押さえると整理がつきます。そこに、侵害者の過失を推定する103条と、特許だけにある査証(105条の2以下)、侵害訴訟で無効を主張できる104条の3を足せば、この分野の枝はほぼ判断できます。
条文はe-Gov法令検索の特許法・実用新案法・意匠法・商標法・民法の原文で確認しています。差止めや間接侵害(100条・101条)は扱わず、損害賠償に絞ります。間接侵害は「特許法の間接侵害」で整理しています。
損害賠償の請求を支える条文の全体像
特許権者が侵害者に損害賠償を求めるとき、請求権の根拠は民法709条(故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う)です。特許法は請求権そのものを新しく作っているのではなく、709条の要件のうち立証が難しい部分を軽くする規定を置いています。
| 709条の要件 | 立証を助ける特許法の規定 | 働き方 |
|---|---|---|
| 故意又は過失 | 103条 | 過失があったものと推定する |
| 損害の額 | 102条1項〜5項 | 計算方法を法定し、推定や最低額を定める |
| 侵害の事実 | 104条・104条の2・105条・105条の2以下 | 生産方法の推定、具体的態様の明示、書類提出、査証 |
| 損害額の立証が極めて困難な場合 | 105条の3 | 裁判所が相当な損害額を認定できる |
102条の各項は、いずれも「特許権者又は専用実施権者」が主語です。通常実施権者は102条の主語に入っていません。
102条1項:侵害品の譲渡数量から計算する
1項は、侵害者が「侵害の行為を組成した物を譲渡したとき」に使える算定方法です。次の1号と2号の合計額を、特許権者等が受けた損害の額と「することができる」と定めています。
1号:実施相応数量を超えない部分
1号の額は、次の掛け算です。
- 特許権者等が、侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額
- ×侵害者が譲渡した物の数量(譲渡数量)のうち、特許権者等の実施の能力に応じた数量(実施相応数量)を超えない部分
ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事情があるときは、その事情に相当する数量(特定数量)を控除します。侵害がなくても特許権者が売れなかったといえる分を差し引く仕組みで、条文は「事情」の中身を例示していません。
2号:実施相応数量を超える部分と特定数量(令和元年改正)
1号だけだと、特許権者の実施能力を超える数量や、特定数量として控除された数量については賠償が認められません。2号はこの部分について、特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額、つまりライセンス料相当額を加えることを認めています。

ただし括弧書きで、特許権者等が専用実施権の設定や通常実施権の許諾を「し得たと認められない場合」は除かれます。ライセンスをしたとみなす規定なので、ライセンスをし得なかった場合には加算しないという組立てです。
改正概要は、この改正を「侵害者が得た利益のうち、特許権者の生産能力等を超えるとして賠償が否定されていた部分について、侵害者にライセンスしたとみなして、損害賠償を請求できることとする」と説明しています。
出典:経済産業省「特許法等の一部を改正する法律の概要」(令和元年5月。特許庁「特許法等の一部を改正する法律(令和元年5月17日法律第3号)」ページ掲載、同ページ2019年11月5日更新)
改正後の102条(1項2号と4項を含む)は令和2年4月1日に施行されました。特許庁の上記ページは施行日を「一部の規定を除き、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日」と記載するにとどまるため、日付はe-Gov法令検索の特許法の改正履歴(令和元年法律第3号による改正の施行日)で確認しています。
| 数量の区分 | 算定 | 根拠 |
|---|---|---|
| 実施相応数量までで、特定数量を除いた部分 | 単位数量当たりの利益の額×数量 | 1項1号 |
| 実施相応数量を超える部分 | ライセンス料相当額 | 1項2号 |
| 特定数量 | ライセンス料相当額 | 1項2号 |
| ライセンスをし得たと認められない場合 | 2号の額は加算しない | 1項2号括弧書き |
102条2項:侵害者の利益を損害と推定する
2項は、侵害者が「その侵害の行為により利益を受けているとき」は、その利益の額を特許権者等が受けた損害の額と推定すると定めます。1項と違い、「譲渡したとき」という限定がありません。

「推定する」なので、侵害者が反対の事実を立証すれば推定は覆ります。1項の「とすることができる」、3項の「請求することができる」と書き方が違う点は、条文の文言そのものとして押さえます。短答では「2項により、侵害者が受けた利益の額は特許権者が受けた損害の額とみなされる」と、推定をみなしに差し替える枝が作れます。
102条3項・4項:実施料相当額と、その考慮事情
3項は、特許権者等は、侵害者に対し、特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額として請求できると定めます。自ら実施していなくても、ライセンスをしていれば得られたはずの額は請求できるという意味で、損害額の最低限を保障する規定です。
4項は令和元年改正で加わった規定で、1項2号と3項のライセンス料相当額を認定するに当たり、裁判所は、特許権の侵害があったことを前提として特許権者等と侵害者との間で合意をするとしたならば特許権者等が得ることとなる対価を考慮することができる、と定めます。通常のライセンス交渉で決まる料率ではなく、侵害を前提にした交渉で決まる額を考慮できるということです。4項は「考慮することができる」であり、考慮しなければならないとは書かれていません。
102条5項:3項を超える請求と軽過失の参酌
5項前段は、3項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げないとします。3項の額は上限ではなく下限です。

5項後段は、その場合に、侵害者に故意又は重大な過失がなかったときは、裁判所は損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができるとします。軽過失にとどまる侵害者については、3項の額を超える部分の算定で事情を考慮できるという規定です。「軽過失の侵害者に対しては3項の額を下回る額しか認められない」という枝は、5項が3項を「超える」請求の場面の規定であることを見落としています。
| 項 | 文言 | 性質 |
|---|---|---|
| 1項 | 合計額を損害の額と「することができる」 | 算定方法の法定 |
| 2項 | 利益の額を損害の額と「推定する」 | 推定(覆りうる) |
| 3項 | 実施料相当額を損害の額として「請求することができる」 | 最低限の保障 |
| 4項 | 侵害を前提とした合意の対価を「考慮することができる」 | 1項2号・3項の認定の考慮事情 |
| 5項 | 3項を超える請求を妨げない。軽過失は「参酌することができる」 | 3項が下限であることの確認 |
103条:過失の推定
103条は、他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があったものと推定すると定めます。709条の「過失」を特許権者が立証する必要はなく、侵害者の側が過失のなかったことを立証しなければなりません。
この推定は、他の3法で扱いが分かれます。

| 法 | 過失の推定 | 条文 |
|---|---|---|
| 特許法 | あり | 103条 |
| 実用新案法 | なし | 30条は特許法103条を準用していない |
| 意匠法 | あり。ただし秘密意匠に係る意匠権等の侵害は除く | 40条 |
| 商標法 | あり | 39条で特許法103条を準用 |
実用新案法30条が準用しているのは、特許法104条の2から105条までと、105条の2の11から106条までです。103条は範囲に入っていません。実用新案権は無審査で登録されるので、権利者の側に技術評価書を提示した警告(実用新案法29条の2)が求められ、侵害者の過失は推定されない、という組立てになっています。実用新案法の特有の規定は「実用新案法と特許法の違い」でまとめています。
意匠法40条ただし書は、14条1項により秘密にすることを請求した意匠に係る意匠権又は専用実施権の侵害については推定しないとしています。秘密意匠は、指定した秘密期間の経過後まで意匠公報に図面等の内容が掲載されません(20条4項)。
立証を助ける手続(105条・査証・105条の3)
105条の書類提出命令
105条1項は、侵害訴訟で、裁判所は当事者の申立てにより、当事者に対し、侵害行為を立証するため又は侵害の行為による損害の計算をするため必要な書類又は電磁的記録の提出を命ずることができるとします。ただし、所持者に提出を拒む正当な理由があるときは除かれます。2項は、正当な理由の有無などを判断するため、裁判所が書類の提示をさせることができ、その場合は何人も提示された書類の開示を求めることができないと定めます(いわゆるインカメラ手続)。
105条の2以下の査証(令和元年改正)
105条の2第1項は、裁判所は当事者の申立てにより、相手方が所持し又は管理する書類等について、確認、作動、計測、実験その他の措置による証拠の収集が必要であると認められる場合に、次のいずれも満たすときは、相手方の意見を聴いて、査証人に査証を命ずることができるとします。
- 特許権又は専用実施権を相手方が侵害したことを疑うに足りる相当な理由があること
- 申立人が自ら又は他の手段によっては、当該証拠の収集を行うことができないと見込まれること
ただし書で、証拠の収集に要すべき時間や相手方の負担が不相当なものとなるなど相当でないと認めるときは、命じないことができます。査証人は裁判所が指定し(105条の2の2第2項)、相手方の工場等に立ち入り、質問や書類等の提示を求めることができます(105条の2の4第2項)。相手方が正当な理由なく応じないときは、裁判所は立証されるべき事実に関する申立人の主張を真実と認めることができます(105条の2の5)。
査証は特許法だけの制度です。実用新案法30条、意匠法41条、商標法39条のいずれも、105条の2から105条の2の10までを準用していません。
105条の3:相当な損害額の認定

105条の3は、損害が生じたことが認められる場合で、損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができるとします。前提は「損害が生じたことが認められる」ことで、損害の発生そのものを認定する規定ではありません。
104条の3:侵害訴訟での無効の主張
104条の3第1項は、侵害訴訟で、特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるとき(延長登録が延長登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときも同じ)は、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができないと定めます。無効審決の確定を待たずに、侵害訴訟の中で無効理由を主張できるということです。
2項は、この攻撃防御方法が審理を不当に遅延させることを目的として提出されたと認められるときは、裁判所は申立てにより又は職権で却下の決定ができるとします。3項は、123条2項(無効審判を請求できる者の制限)は、無効審判を請求できる者以外の者が1項の主張をすることを妨げないとします。冒認を理由とする無効審判は特許を受ける権利を有する者に限られますが、侵害訴訟の被告は、その立場になくても104条の3の主張ができます。

104条の3は実用新案法30条、意匠法41条で準用され、商標法39条では1項と2項が準用されています。無効審判そのものの請求人や時期は「特許法の審判の種類」で整理しています。
実用新案・意匠・商標との比較
102条に当たる規定は4法すべてにあり、令和元年改正の1項2号型と4項型も4法に入っています(実用新案法29条、意匠法39条、商標法38条)。違いは次の点です。
| 項目 | 特許 | 実用新案 | 意匠 | 商標 |
|---|---|---|---|---|
| 102条型の算定 | 102条 | 29条 | 39条 | 38条 |
| 過失の推定 | 103条 | なし | 40条(秘密意匠を除く) | 39条で準用 |
| 査証 | 105条の2以下 | 準用なし | 準用なし | 準用なし |
| 独自の規定 | ― | 29条の2の警告、29条の3の責任 | 39条3項は類似する意匠の実施も含む | 38条5項の取得・維持費用相当額 |
商標法38条5項は、侵害が指定商品又は指定役務についての登録商標(社会通念上同一と認められる商標を含む)の使用によるものであるときは、商標権の取得及び維持に通常要する費用に相当する額を損害の額とすることができると定めています。特許法にはない規定です。
短答の枝ではこう問われる
本試験と同じ形の枝を、条文から書き起こしました(過去問そのものではありません)。
例題 特許権の侵害に関し、正しいものの数はいくつか。
- イ 特許権者が、侵害者に対し、侵害の行為により侵害者が受けた利益の額を損害の額として賠償を請求する場合、その利益の額は特許権者が受けた損害の額とみなされる。
- ロ 102条1項の規定により損害の額を算定する場合、侵害者の譲渡数量のうち特許権者の実施の能力に応じた数量を超える数量については、特許権者が通常実施権の許諾をし得たと認められない場合を除き、実施料相当額を損害の額に加えることができる。
- ハ 102条3項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。
- ニ 他人の実用新案権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があったものと推定される。
- ホ 特許権侵害訴訟の被告は、特許を受ける権利を有する者でなければ、特許が冒認出願に対してされたことを理由として104条の3第1項の主張をすることはできない。
正しいのはロ・ハの2つです。イは102条2項が「推定する」としているので誤り、ニは実用新案法30条が特許法103条を準用していないので誤り、ホは104条の3第3項が123条2項の制限を及ぼさないとしているので誤りです。
学習の進め方
102条は、各項の述語を一覧にして覚えるのが近道です。1項「することができる」、2項「推定する」、3項「請求することができる」、4項「考慮することができる」、5項「妨げない」「参酌することができる」。この6つの述語を言えるようになれば、推定とみなし、下限と上限を入れ替える枝は落としません。
次に、103条と査証について「4法のどこにあるか」の表を自分で作り直します。準用条文(実用新案法30条、意匠法41条、商標法39条)を開き、特許法の何条から何条までが挙がっているかを確かめると、実用新案に過失の推定がないこと、査証が特許だけであることを条文で確認できます。
出願公開後の補償金請求権(65条)は、102条・103条を準用していません。損害賠償との違いは「出願公開と補償金請求権」で扱っています。特許法全体の中での位置付けは「特許法・実用新案法の学習法」を参照してください。
まとめ
- 損害賠償の根拠は民法709条。特許法は102条で額、103条で過失、105条以下で立証を助ける
- 102条1項は侵害品を譲渡した場合の算定。1号は実施相応数量までの逸失利益、2号(令和元年改正)は超える部分と特定数量のライセンス料相当額。ライセンスをし得たと認められない場合は2号を加えない
- 2項は侵害者の利益を損害と「推定する」。3項は実施料相当額を請求でき、5項により3項の額は下限。4項は侵害を前提とした合意の対価を考慮できる
- 103条の過失の推定は特許・意匠(秘密意匠を除く)・商標にあり、実用新案にはない
- 査証(105条の2以下)は特許法だけ。相当な理由と補充性が要件で、拒むと申立人の主張を真実と認めることができる
- 104条の3により侵害訴訟で無効を主張でき、無効審判の請求人適格(123条2項)は問われない
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