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特許法の実施権|専用・通常・法定・裁定を短答用に整理

特許法・実用新案法 読了 約10分

弁理士試験短答式の特許法の実施権を条文で整理。専用実施権(77条)と通常実施権(78条)の移転・質権・登録、当然対抗(99条)、法定通常実施権(35条・79条・79条の2・80条・81条・82条・176条)、裁定実施権(83条・92条・93条)、仮専用実施権・仮通常実施権、商標の使用権との違いまで扱います。

実施権は、特許法の中で条文の数が多い分野の一つです。77条・78条の許諾による実施権に加え、職務発明や先使用などで法律上当然に生じる通常実施権、特許庁長官や経済産業大臣の裁定で設定される通常実施権があり、それぞれ移転の要件や対価の有無が違います。短答では、ある実施権の要件を別の実施権に移し替えた枝がよく作られます。

結論から言うと、実施権は「許諾による(77条・78条)」「法律の規定による(法定通常実施権)」「裁定による(83条・92条・93条)」の3系統に分け、登録については「専用実施権は登録が効力発生要件(98条1項2号)、通常実施権は登録なしで対抗できる(99条)」の対比を軸にすると整理がつきます。法定通常実施権は「誰が・いつまでに・何を知らずに」の要件と対価の有無を表で、裁定は「どの要件で・誰が裁定するか」を表で押さえれば、枝の大半は判断できます。

条文はe-Gov法令検索の特許法・実用新案法・意匠法・商標法の原文で確認しています。

実施権の3系統

実施権の3系統
実施権の3系統
系統 種類 根拠 発生のしかた
許諾 専用実施権 77条 設定行為+登録(98条1項2号)
許諾 通常実施権 78条 許諾(登録不要)
法律の規定 法定通常実施権 35条1項・79条・79条の2・80条・81条・82条・176条など 要件を満たせば当然に生じる
裁定 裁定通常実施権 83条・92条・93条 協議不成立→裁定

78条2項は、通常実施権者は「この法律の規定により又は設定行為で定めた範囲内において」業として特許発明を実施する権利を有するとしています。「この法律の規定により」の部分が、法定通常実施権と裁定通常実施権を受ける文言です。

専用実施権(77条)

77条1項は、特許権者はその特許権について専用実施権を設定できるとし、2項は、専用実施権者は設定行為で定めた範囲内において、業としてその特許発明の実施をする権利を専有すると定めます。

項目 内容 条文
効力の発生 設定は登録しなければ効力を生じない 98条1項2号
移転 実施の事業とともにする場合、特許権者の承諾を得た場合、相続その他の一般承継の場合に限る 77条3項
質権・通常実施権の許諾 特許権者の承諾を得た場合に限る 77条4項
共有 73条を準用(持分の譲渡・質権設定、実施権の設定・許諾に他の共有者の同意が必要) 77条5項
放棄 質権者又は77条4項の通常実施権者があるときは、その承諾が必要 97条2項

98条1項2号は、専用実施権の設定だけでなく、移転(相続その他の一般承継によるものを除く)、変更、消滅(混同又は特許権の消滅によるものを除く)、処分の制限も、登録しなければ効力を生じないとしています。一般承継による移転は登録なしで効力を生じ、遅滞なく特許庁長官に届け出ます(98条2項)。

専用実施権者は、差止請求(100条)と損害額の算定の規定(102条)の主語に、特許権者と並んで入っています。通常実施権者はどちらにも入っていません。損害賠償の規定は「特許法102条の損害額の推定」で整理しています。

専用実施権は設定行為で定めた範囲で実施を専有し、設定は登録しなければ効力を生じない
専用実施権は設定行為で定めた範囲で実施を専有し、設定は登録しなければ効力を生じない

通常実施権(78条)と当然対抗(99条)

78条1項は、特許権者はその特許権について他人に通常実施権を許諾できるとします。専用実施権と違い、同じ範囲に複数の通常実施権を許諾することが条文上排除されていません。

項目 内容 条文
対抗力 発生後に特許権・専用実施権を取得した者に対しても効力を有する 99条
移転 実施の事業とともにする場合、特許権者(専用実施権についての通常実施権は特許権者及び専用実施権者)の承諾を得た場合、相続その他の一般承継の場合に限る。裁定による通常実施権を除く 94条1項
質権 特許権者(同上)の承諾を得た場合に限る。裁定による通常実施権を除く 94条2項
共有 73条1項を準用(持分の譲渡・質権設定に他の共有者の同意が必要) 94条6項
放棄 質権者があるときは、その承諾が必要 97条3項

99条は、「通常実施権は、その発生後にその特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権を取得した者に対しても、その効力を有する」と定めます。登録を要件にしていないので、これを当然対抗と呼びます。特許権が譲渡されても、通常実施権者は新しい特許権者に対して実施を続けられます。

99条の「通常実施権」には、許諾によるものだけでなく、法定通常実施権と裁定通常実施権も含まれます。条文に限定がないからです。

共有の特許権と実施権

特許権が共有のとき、各共有者は、契約で別段の定めをした場合を除き、他の共有者の同意を得ないで特許発明を実施できます(73条2項)。しかし、専用実施権の設定と通常実施権の許諾には、他の共有者の同意が必要です(73条3項)。「自ら実施するのは自由、他人に実施させるには同意が必要」という対比が枝になります。

専用実施権と通常実施権の比較
専用実施権と通常実施権の比較

法定通常実施権

法律の要件を満たすと、許諾がなくても通常実施権が生じる場面です。

意匠権の存続期間満了後、原意匠権者には対価の規定がなく、その意匠権の実施権者には相当の対価の規定がある
意匠権の存続期間満了後、原意匠権者には対価の規定がなく、その意匠権の実施権者には相当の対価の規定がある
条文 場面 実施権を有する者 主な要件 相当の対価
35条1項 職務発明 使用者等 従業者等の職務発明について特許を受けたとき等 規定なし
79条 先使用 出願の際現に日本国内で実施の事業又はその準備をしている者 特許出願に係る発明の内容を知らないで自ら発明し、又は知らないで発明した者から知得 規定なし
79条の2 移転の登録前の実施 74条1項の移転の登録の際現に特許権・実施権を有していた者 38条違反又は冒認に該当することを知らないで、移転の登録前に日本国内で実施の事業又はその準備 あり(2項)
80条 無効審判の請求登録前の実施(中用権) 原特許権者、専用実施権者・通常実施権者 無効審判の請求の登録前に、無効理由を知らないで日本国内で実施の事業又はその準備 あり(2項)
81条 意匠権の存続期間満了後 原意匠権者 特許出願の日前又は同日の意匠登録出願に係る意匠権が特許権と抵触し、存続期間が満了 規定なし
82条 意匠権の存続期間満了後 満了の際現に意匠権の専用実施権・通常実施権を有する者 81条と同じ抵触関係 あり(2項)
176条 再審により回復した特許権(後用権) 取消決定・審決の確定後、再審の請求の登録前に善意に日本国内で実施の事業又はその準備をしている者 善意 規定なし

対価の列は、条文に「相当の対価を受ける権利を有する」とあるかどうかです。81条(原意匠権者本人)には対価の規定がなく、82条(意匠権についての実施権者)にはある、という対比がよく問われます。80条は原特許権者本人にも対価の規定がかかる点で81条と違います。

先使用権(79条)の要件の詳細は「特許法の先使用権」で、職務発明(35条)は「職務発明」で扱っています。

範囲の書き方の違い

79条・79条の2・80条・176条は「その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において」通常実施権を有します。81条は「原意匠権の範囲内において」、82条は「原権利の範囲内において」です。事業の実施を要件とする類型と、元の権利を要件とする類型で書き分けられています。

裁定通常実施権(83条・92条・93条)

協議が成立しないときに、行政庁の裁定で通常実施権を設定する制度です。

不実施と利用・抵触の裁定は特許庁長官が、公共の利益のための裁定は経済産業大臣がする
不実施と利用・抵触の裁定は特許庁長官が、公共の利益のための裁定は経済産業大臣がする
条文 要件 協議を求める者 裁定をする者
83条 特許発明の実施が継続して3年以上日本国内において適当にされていない。ただし出願の日から4年を経過していないときは不可 実施をしようとする者 特許庁長官
92条 特許発明が72条(先願の他人の特許発明等を利用する場合、意匠権・商標権と抵触する場合)に該当する 特許権者又は専用実施権者 特許庁長官
93条 特許発明の実施が公共の利益のため特に必要である 実施をしようとする者 経済産業大臣

いずれも、まず特許権者又は専用実施権者(92条では72条の他人)に通常実施権の許諾について協議を求め、協議が成立せず又は協議をすることができないときに、裁定を請求します。

手続の共通部分

  • 請求書の副本を特許権者等その他その特許に関し登録した権利を有する者に送達し、答弁書の提出の機会を与える(84条)
  • その特許に関し通常実施権を有する者は、答弁書の提出期間内に限り意見を述べることができる(84条の2)
  • 審議会等の意見を聴かなければならない(85条1項)
  • 83条の裁定では、実施が適当にされていないことに正当な理由があるときは、設定すべき旨の裁定ができない(85条2項)
  • 裁定は文書で理由を付し、通常実施権の範囲と対価の額・支払の方法・時期を定める(86条)
  • 裁定の謄本の送達があったときは、裁定で定めるところにより当事者間に協議が成立したものとみなす(87条2項)
  • 支払の時期までに対価の支払又は供託をしないときは、裁定は効力を失う(89条)

対価の額に不服があるときは、裁定の謄本の送達があった日から6月以内に、訴えを提起して額の増減を求めます(183条)。行政不服審査法による審査請求では、対価についての不服を理由にできません(91条の2)。

92条の特則(クロスライセンス)

92条では協議を求められた72条の他人も、逆に通常実施権の許諾について協議を求めることができる
92条では協議を求められた72条の他人も、逆に通常実施権の許諾について協議を求めることができる

92条2項は、協議を求められた72条の他人が、協議を求めた特許権者等に対し、その者が許諾を受けて実施しようとする特許発明の範囲内で、逆に通常実施権の許諾について協議を求めることができるとします。4項は、その協議が成立しない場合、特許権者等が3項の裁定を請求したときに限り、72条の他人も答弁書の提出期間内に裁定を請求できるとしています。

裁定による通常実施権の移転

裁定通常実施権は、94条1項の一般的な移転の規定から外され、別に定められています。

  • 83条・93条の裁定による通常実施権は、実施の事業とともにする場合に限り移転できる(94条3項)
  • 92条3項の裁定による通常実施権は、通常実施権者の特許権等が実施の事業とともに移転したときはこれに従って移転し、事業と分離して移転したとき又は消滅したときは消滅する(94条4項)

「承諾があれば移転できる」「相続により移転する」を裁定通常実施権に当てはめる枝は誤りです。

仮専用実施権と仮通常実施権

出願中の段階でも、特許を受ける権利を有する者は、願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の範囲内で、仮専用実施権を設定し(34条の2第1項)、仮通常実施権を許諾できます(34条の3第1項)。設定登録があると、それぞれ専用実施権が設定され、通常実施権が許諾されたものとみなされます(34条の2第2項、34条の3第2項)。

出願中でも仮専用実施権と仮通常実施権を設けられ、設定登録があると本来の実施権になったものとみなされる
出願中でも仮専用実施権と仮通常実施権を設けられ、設定登録があると本来の実施権になったものとみなされる

登録の扱いは本来の実施権と同じ対比です。仮専用実施権の設定等は登録しなければ効力を生じず(34条の4第1項)、仮通常実施権は許諾後に特許を受ける権利等を取得した者に対しても効力を有します(34条の5)。

他の法との違い

法 専用の権利 通常の権利の対抗
特許法 専用実施権。設定は登録が効力要件 当然対抗(99条)
実用新案法 専用実施権(18条) 99条を準用(19条3項)
意匠法 専用実施権(27条)。基礎意匠・関連意匠は全てについて同一の者に同時に設定する場合に限る 99条を準用(28条3項)
商標法 専用使用権(30条)。4条2項の出願に係る商標権と地域団体商標については設定できない 登録したときに、その後に商標権等を取得した者に対して効力を生ずる(31条4項)

商標法だけは、通常使用権の対抗に登録が必要です。特許法の当然対抗をそのまま商標法に当てはめる枝に注意します。商標法の各論は「商標法の短答対策」で扱っています。

通常の実施権は登録なしで対抗できるが、商標法の通常使用権だけは登録しないと対抗できない
通常の実施権は登録なしで対抗できるが、商標法の通常使用権だけは登録しないと対抗できない

短答の枝ではこう問われる

本試験と同じ形の枝を、条文から書き起こしました(過去問そのものではありません)。

例題 特許法上の実施権に関し、正しいものの数はいくつか。

  • イ 専用実施権者は、特許権者の承諾を得なくても、相続その他の一般承継の場合には、その専用実施権を移転することができる。
  • ロ 通常実施権は、その登録をしたときに限り、その発生後にその特許権を取得した者に対しても、その効力を有する。
  • ハ 特許出願の日前の意匠登録出願に係る意匠権が当該特許権と抵触する場合において、その意匠権の存続期間が満了したときは、原意匠権者は、当該特許権について通常実施権を有するが、特許権者に相当の対価を支払わなければならない。
  • ニ 特許発明の実施が継続して3年以上日本国内において適当にされていない場合であっても、その特許発明に係る特許出願の日から4年を経過していないときは、通常実施権の許諾について協議を求めることができない。
  • ホ 特許発明の実施が公共の利益のため特に必要であるときの通常実施権の設定の裁定は、特許庁長官がする。

正しいのはイ・ニの2つです。ロは99条が登録を要件としていないので誤り、ハは81条に相当の対価の規定がない(対価の規定があるのは82条)ので誤り、ホは93条2項が経済産業大臣の裁定としているので誤りです。

学習の進め方

実施権は、表を3枚作ると定着します。1枚目は専用実施権と通常実施権の比較(効力発生・移転・質権・放棄・対抗)、2枚目は法定通常実施権の一覧(誰が・何を知らずに・範囲・対価)、3枚目は裁定の3種(要件・裁定者・移転)です。表の各マスに条文番号を書き込み、空欄になったマスの条文だけを読み返します。

2枚目の表は、先使用権(79条)と中用権(80条)の要件の違い、81条と82条の対価の有無を中心に、条文を並べて読むのが効率的です。特許法全体の中での位置付けは「特許法・実用新案法の学習法」を参照してください。

まとめ

  • 実施権は許諾(77条・78条)、法律の規定(法定通常実施権)、裁定(83条・92条・93条)の3系統
  • 専用実施権は設定行為の範囲で実施を専有し、設定・移転(一般承継を除く)等は登録が効力発生要件(98条1項2号)。移転は事業とともに・承諾・一般承継に限る
  • 通常実施権は登録なしで、発生後に特許権等を取得した者に対抗できる(99条)。商標法の通常使用権だけは登録が必要(31条4項)
  • 法定通常実施権は35条1項・79条・79条の2・80条・81条・82条・176条など。対価の規定は79条の2・80条・82条にあり、35条1項・79条・81条・176条にはない
  • 裁定は83条(不実施3年以上・出願から4年)と92条(利用・抵触)が特許庁長官、93条(公共の利益)が経済産業大臣。対価の不服は6月以内の訴え(183条)
  • 裁定通常実施権の移転は94条3項〜5項の特則による。仮専用実施権は登録が効力要件、仮通常実施権は当然対抗
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