特許法の補正の時期的制限|17条の2まとめとシフト・目的外補正
特許法17条の2の補正の時期的制限を短答用にまとめます。1項各号の時期、最初と最後の拒絶理由通知で変わる制限、新規事項の判断基準、シフト補正と目的外補正の判断、違反したときの拒絶理由・補正却下・無効理由の違い、53条の却下への不服申立てと前置審査まで整理します。
補正は、短答式の特許・実用新案20問の中で繰り返し問われる論点です。条文は17条の2という1か条にまとまっていますが、項と号が入り組んでいるため、枝を読んだときに「いまどの項の話をされているのか」が即座に出てこないと正誤を判断できません。
結論から言うと、補正の枝は「いつ(時期)」「何を(対象)」「どこまで(内容)」の3軸に分けて読むと迷わなくなります。時期は17条の2第1項の本文と各号、対象は明細書・特許請求の範囲・図面かそれ以外か、内容は同条3項から6項までの制限です。枝がこの3軸のどれを問うているかを見分けられれば、条文の記憶が完全でなくても正誤をかなり絞り込めます。
この記事では、時期的制限の全体像、段階ごとに積み上がる内容の制限、違反したときの効果、審判と前置審査での扱い、短答で狙われる型の順に整理します。条文はe-Gov法令検索の特許法原文で確認しています。
補正を3軸に分ける
まず「対象」から押さえます。補正の一般則は17条で、手続をした者は事件が特許庁に係属している場合に限り補正ができます。ただし、願書に添付した明細書・特許請求の範囲・図面などについては、17条の2から17条の5までの規定によらなければ補正できないと17条が明記しています。

| 対象 | 根拠条文 |
|---|---|
| 手続一般 | 17条(事件が特許庁に係属している場合に限る) |
| 明細書・特許請求の範囲・図面 | 17条の2 |
| 要約書 | 17条の3(経済産業省令で定める期間内に限る) |
| 優先権主張に係る書面 | 17条の4(経済産業省令で定める期間内に限る) |
短答では「要約書は拒絶理由通知に対する応答時に補正できるか」といった形で、対象の取り違えを誘う枝が出ます。要約書は17条の2の枠組みの外にあり、期間の定め方が違います。この1点だけでも、対象を分ける意味があります。
時期的制限の全体像
17条の2第1項の本文は、特許をすべき旨の査定の謄本の送達前であれば補正ができると定めています。つまり、拒絶理由通知を受けるまでは時期の制限は緩やかです。ところが同項ただし書は、50条の規定による通知(拒絶理由通知)を受けた後は、次に掲げる場合に限り補正ができるとして、場面を4つに限定します。
| 場面 | 根拠 | いつまで | 加わる内容の制限 |
|---|---|---|---|
| 拒絶理由通知の前 | 1項本文 | 特許をすべき旨の査定の謄本の送達前 | 新規事項の追加禁止(3項) |
| 最初の拒絶理由通知の後 | 1項1号 | 50条により指定された期間内 | +シフト補正の禁止(4項) |
| 48条の7の通知の後 | 1項2号 | 同条により指定された期間内 | +シフト補正の禁止(4項) |
| 最後の拒絶理由通知の後 | 1項3号 | 最後に受けた通知に係る指定期間内 | +目的の制限(5項)ほか |
| 拒絶査定不服審判の請求 | 1項4号 | その審判の請求と同時 | +目的の制限(5項)ほか |
1項2号の48条の7は、先行技術文献情報の開示要件(36条4項2号)を満たしていないと認めるときに、審査官がその旨を通知して意見書提出の機会を与える規定です。拒絶理由通知そのものではないため、独立した号として置かれています。
1項3号の条文は「拒絶理由通知を受けた後更に拒絶理由通知を受けた場合において、最後に受けた拒絶理由通知に係る」期間内と書かれています。実務で言う「最後の拒絶理由通知」は、特許庁の審査基準によれば、原則として最初の拒絶理由通知に対する応答時の補正によって通知することが必要になった拒絶理由のみを通知するものです。逆に、2回目以降の通知であっても、1回目の審査で指摘すべきだった拒絶理由を含むときは、原則として最初の拒絶理由通知として扱われます。
出典:特許庁「特許・実用新案審査基準」第Ⅰ部第2章第3節
なお、1項1号の括弧書きは「拒絶理由通知」を50条の規定による通知と定義し、そこには159条2項や163条2項で50条が準用される場合も含まれるとしています。審判や前置審査で受ける拒絶理由通知も、条文上は同じ「拒絶理由通知」です。
内容の制限は段階ごとに積み上がる
時期が後になるほど、補正の内容に課される制限が増えます。この積み上がりの構造が、17条の2の設計そのものです。
新規事項の追加禁止(3項)
1項の規定により明細書・特許請求の範囲・図面を補正するときは、願書に最初に添付した明細書・特許請求の範囲・図面に記載した事項の範囲内でしなければなりません(誤訳訂正書を提出してする場合を除く)。これは1項本文の補正にも各号の補正にも等しくかかる、最も基本的な制限です。「拒絶理由通知の前だから何でも足せる」という枝は誤りになります。

新規事項かどうかの判断基準
審査基準は、「当初明細書等に記載した事項」を、当業者が当初明細書等の全ての記載を総合して導く技術的事項と定義し、補正がこれとの関係で新たな技術的事項を導入するかで判断します(知財高裁平成20年5月30日大合議判決「ソルダーレジスト」を参考として引用)。文言が一致するかではありません。
出典:特許庁「特許・実用新案審査基準」第Ⅳ部第2章
短答の枝で使う判断の型は次の3つです。
- 明示的に記載された事項への補正は、新たな技術的事項を導入しないので許される
- 記載から自明な事項への補正も許される。ただし、当業者が出願時の技術常識に照らして「記載されているのと同然」と理解する事項である必要があり、補正した技術が周知技術・慣用技術であるというだけでは自明とはいえない
- 除くクレーム(請求項の記載を残したまま一部だけを除外する補正)も、新たな技術的事項を導入しない場合は許される。引用発明と偶然重なる部分だけを除く補正などが典型
シフト補正の禁止(4項)
1項各号に掲げる場合、つまり拒絶理由通知を受けた後に特許請求の範囲を補正するときは、補正前に受けた拒絶理由通知で判断が示された発明と、補正後の特許請求の範囲に記載される事項により特定される発明とが、37条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するようにしなければなりません。審査の対象を別の発明に乗り換える補正を封じる規定です。拒絶理由通知の前の補正には、この制限はかかりません。

審査基準は、判断が示された全ての発明と補正後の全ての発明を一の願書で出願したと仮定し、37条を満たすかで判断します。「判断が示された発明」は新規性・進歩性・29条の2・39条の審査がされた発明で、拒絶理由が見つからなかった発明も含みます。
出典:特許庁「特許・実用新案審査基準」第Ⅳ部第3章
シフト補正の禁止は拒絶理由(49条1号)ですが、無効理由ではありません(123条1項1号は17条の2第3項だけを挙げる)。分割出願をすべきだったという手続上の不備にとどまるから、というのが審査基準の説明です。別の発明の審査を受ける正規の手段は44条の分割出願です(「分割出願の要件」参照)。
目的の制限(5項)
5項は、1項1号・3号・4号の場合において特許請求の範囲についてする補正を、次の4つを目的とするものに限ります。

- 1号 36条5項に規定する請求項の削除
- 2号 特許請求の範囲の減縮(発明を特定するために必要な事項を限定するもので、補正の前後で産業上の利用分野および解決しようとする課題が同一であるものに限る)
- 3号 誤記の訂正
- 4号 明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る)
ここで落としやすいのが柱書の括弧書きです。1項1号の場合、すなわち最初の拒絶理由通知の後であっても、拒絶理由通知と併せて50条の2の規定による通知を受けたときは、この目的の制限がかかります。50条の2の通知は、その拒絶の理由が、44条2項により当該出願と同時にされたこととなっている他の特許出願についての拒絶理由通知に係る理由と同一である旨を併せて知らせるものです。分割出願が絡む枝で繰り返し問われます。
また、1項2号(48条の7の通知の後)は5項の柱書に挙がっていません。目的の制限はかからないという点が、そのまま枝になります。
限定的減縮に当たる補正、当たらない補正
審査基準は、5項2号の減縮に3要件を求めます。①特許請求の範囲を減縮すること、②補正前の発明特定事項を限定すること、③補正の前後で産業上の利用分野と解決しようとする課題が同一であること、です。
| ①の減縮に当たる例 | ①の減縮に当たらない例 |
|---|---|
| 択一的記載の要素を削除する | 直列的に記載された発明特定事項の一部を削除する |
| 発明特定事項を直列的に付加する | 択一的記載の要素を付加する |
| 上位概念から下位概念へ変更する | 請求項の数を増やす(引用形式の分割などを除く) |
出典:特許庁「特許・実用新案審査基準」第Ⅳ部第4章
注意したいのは②です。「限定する」補正とは、発明特定事項を概念的に下位のものにする補正と、選択肢の一部を削除する補正です。直列的な付加は①には当たっても、既存の発明特定事項を限定せず新たな事項を足すだけなら②を欠きます。また、新規性や進歩性の拒絶理由を解消するための補正は4号の釈明に当たりません。5項違反も無効理由にはなりません。
独立特許要件(6項)
6項は、126条7項の規定を5項2号の場合に準用します。つまり、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正をしたときは、補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものでなければなりません。請求項の削除・誤記の訂正・明りようでない記載の釈明には、この要件はかかりません。審査基準上、判断の対象は限定的減縮をした請求項だけで、29条・29条の2・32条・36条4項1号・6項1号〜3号・39条1項〜4項で判断します。
違反したときの効果
制限に違反した補正がどうなるかは、時期によって変わります。ここが最も混同されるところです。
| 違反した規定 | 最初の拒絶理由通知の後 | 最後の拒絶理由通知の後 |
|---|---|---|
| 新規事項の追加(3項) | 拒絶理由(49条1号) | 補正の却下(53条1項) |
| シフト補正(4項) | 拒絶理由(49条1号) | 補正の却下(53条1項) |
| 目的の制限(5項) | 制限が及ばない | 補正の却下(53条1項) |
| 独立特許要件(6項) | 制限が及ばない | 補正の却下(53条1項) |
53条1項は、17条の2第1項1号または3号に掲げる場合において、補正が同条3項から6項までの規定に違反していると特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認められたときは、審査官は決定をもってその補正を却下しなければならないと定めます。1号の場合については、拒絶の理由の通知と併せて50条の2の規定による通知をした場合に限るという括弧書きが付いています。したがって、50条の2の通知がない通常の最初の拒絶理由通知の後の補正は、却下されません。
却下の決定は文書で行い、理由を付さなければなりません(53条2項)。この決定に対しては不服を申し立てることができませんが、拒絶査定不服審判を請求した場合の審判では争えます(53条3項)。また50条のただし書は、1号または3号の場合に53条1項の却下の決定をするときは、意見書提出の機会を与えなくてよいとしています。
新規事項を追加する補正は、拒絶理由(49条1号)であると同時に、無効理由でもあります。123条1項1号は、17条の2第3項の要件を満たしていない補正をした特許出願(外国語書面出願を除く)に対して特許がされたときを無効理由としています。一方、目的の制限(5項)や独立特許要件(6項)の違反は49条1号に挙がっておらず、無効理由にもなりません。却下で処理される制限と、拒絶・無効に結びつく制限を分けて覚えます。
却下の決定を受けた後の流れ
審査官は補正を却下したうえで、補正前の明細書等に基づいて審査をし(審査基準第Ⅳ部第1章)、拒絶理由が残っていれば拒絶査定に進みます。却下の決定そのものには不服を申し立てられないので、拒絶査定の謄本の送達日から3月以内に拒絶査定不服審判を請求し(121条1項)、審判の中で却下の当否を争います(53条3項ただし書)。審判請求と同時に改めて補正することもでき、その補正は1項4号の制限を受けます。審判の種類と期間の全体像は「特許法の審判の種類一覧」で整理しています。
審判と前置審査での扱い
拒絶査定不服審判の請求と同時に明細書等の補正があったときは、特許庁長官は審査官にその請求を審査させなければなりません(162条)。これが前置審査です。

163条1項は、前置審査に53条を準用します。準用にあたり、17条の2第1項1号・3号・4号の場合が対象となり、1号・3号の場合については拒絶査定不服審判の請求前にした補正を除くという読み替えが入ります。163条2項は50条と50条の2を、3項は51条と52条を準用します。
ただし、前置審査の審査官が却下の決定をできるのは、特許査定をする場合に限られます(164条2項)。それ以外は査定をせずに結果を長官に報告し(164条3項)、補正を却下するかは審判で判断されます。「前置審査で補正を却下し拒絶査定を維持する」という枝は誤りです。
前置審査で特許査定に至らなかった場合、手続は審判に戻ります。159条1項も同じく53条を準用し、1項1号・3号・4号の場合を対象としたうえで、1号・3号の場合は審判の請求前にした補正を除く読み替えを置いています。159条2項は50条と50条の2の準用です。要するに、審判の請求と同時にした補正(1項4号)は、審判段階で却下の対象になるということです。
短答で狙われる型
枝の作られ方には、いくつか決まった型があります。特許法全体の学習の進め方は「特許法・実用新案法の学習法」で扱っていますが、補正に関しては次の型を意識して読むだけで正答率が変わります。

「最初」か「最後」か。拒絶理由通知の種類を入れ替えて、目的の制限や却下の有無を誤らせる型です。枝を読んだら、まず通知が最初か最後かに印を付けます。
指定期間「内」か。1号・3号はいずれも指定された期間内であることが要件です。期間の経過後に提出した補正書は、時期の要件を欠きます。
審判請求「と同時」か。4号は「その審判の請求と同時にするとき」です。審判請求の後に別途提出する形では要件を満たしません。
外国語書面出願。2項は、外国語書面出願の出願人が誤訳の訂正を目的として補正をするときは、その理由を記載した誤訳訂正書を提出しなければならないと定めます。3項の新規事項の判断基準が、誤訳訂正書による場合とそれ以外で異なる点も合わせて押さえます。
要約書と実用新案法。要約書の補正は17条の3で、経済産業省令で定める期間内に限られます。実用新案法は無審査登録のため拒絶理由通知の場面がなく、明細書等の補正は2条の2で経済産業省令に定める期間の経過後はできないとされ、新規事項の追加禁止は同条2項に置かれています。時期の決め方が特許法とまったく違うことだけ押さえれば足ります(両法の違いは「実用新案法と特許法の違い」参照)。
学習の進め方
補正は、条文を頭から読むより、時系列の表を1枚作って、そこに項と号を書き込む方が定着します。出願、拒絶理由通知、応答、最後の拒絶理由通知、拒絶査定、審判請求という横軸を引き、各段階の上に「できる時期の根拠(1項の何号か)」、下に「かかる制限(3項から6項までのどれか)」を書きます。この1枚が、補正の枝を読むときの参照先になります。
演習では、時期と内容を分けて判断する癖をつけます。枝を読んだら、まず「この補正は時期の要件を満たすか」を判断し、次に「内容の制限に違反していないか」を判断し、最後に「違反しているなら却下か拒絶理由か」を確認します。3段階に分けると、どこで間違えたのかが記録に残り、復習の対象が具体的になります。枝単位での記録の付け方は「短答式の過去問は肢別で回す」で整理しています。
特許法は20問と配点が大きく、ここで貯金を作れるかどうかが総合点を左右します。科目別の目標点の考え方は「短答式の合格基準と科目別足切りの攻略法」を参照してください。
まとめ
- 補正は「時期」「対象」「内容」の3軸で読む。時期は17条の2第1項、内容は同条3項から6項まで
- 特許をすべき旨の査定の謄本の送達前は原則として補正できるが、拒絶理由通知を受けた後は1項各号の場面に限られる
- 新規事項の追加禁止(3項)は常に、シフト補正の禁止(4項)は拒絶理由通知の後に、目的の制限(5項)と独立特許要件(6項)は1項1号・3号・4号の場合にかかる
- 最初の拒絶理由通知でも、50条の2の通知を併せて受けたときは目的の制限と53条の却下の対象になる
- 新規事項の追加は拒絶理由(49条1号)かつ無効理由(123条1項1号)。目的の制限や独立特許要件の違反は却下(53条)で処理される
- 審判の請求と同時にした補正は、前置審査(163条1項)と審判(159条1項)で53条が準用され、却下の対象になる。ただし前置審査で却下できるのは特許査定をするときだけ(164条2項)
- 新規事項は当初明細書等から導かれる技術的事項との関係で判断する。シフト補正・目的外補正は無効理由にならない
補正と並んで時期の制限が問われる分割出願や優先権も、同じ時系列の表の上に置くと整理できます。特許法全体の組み立て方は「特許法・実用新案法の学習法」で扱っています。
特許・実用新案の肢別演習を一覧で一気に○×。解説と条文がその場で開きます。