その他の分野と協定の運用(9〜14条・39条・40条・62〜73条)そのたのぶんやときょうていのうんよう
その他の分野と協定の運用とは、TRIPS協定のうち、著作権及び関連する権利(9〜14条)、開示されていない情報の保護(39条)、契約による実施許諾等における反競争的行為の規制(40条)、知的所有権の取得及び維持の手続(62条)、透明性と紛争解決(63条・64条)、経過措置・後発開発途上加盟国・技術協力(65〜67条)、貿易関連知的所有権理事会・国際協力・既存の対象・安全保障のための例外(68〜73条)をまとめた呼び名です。
TRIPS協定は特許・商標・意匠だけの協定ではありません。著作権、営業秘密、ライセンス契約の独占禁止、権利を取るときの手続、各国の法令の公表、途上国への猶予、協定を見張る理事会まで、一つの協定に収めています。弁理士試験では主役にはなりませんが、「コンピュータ・プログラムは文学的著作物」「著作権に方式を要求してはならない」「安全保障上の情報は出さなくてよい」のように、条文の言い回しがそのまま枝になって出るので、どの条が何を「義務」とし何を「できる」としているかを押さえておきます。

著作権ではベルヌ条約1条から21条までを遵守し、コンピュータ・プログラムを文学的著作物として保護し、編集物の保護は素材自体に及ばず、貸与権と三段階テストと関連する権利を定めます
9条1は、ベルヌ条約(1971年)の1条から21条まで及び附属書の遵守を求めますが、6条の2の著作者人格権に基づく権利についてはこの協定上の権利義務を持たないとします。9条2は、著作権の保護が表現に及び、思想、手続、運用方法又は数学的概念自体には及ばないと確認します。10条1はコンピュータ・プログラムをソース・コードかオブジェクト・コードかを問わずベルヌ条約の文学的著作物として保護します。10条2は、素材の選択又は配列によって知的創作物となる編集物を保護しますが、その保護は素材自体には及ばず、素材自体の著作権を害しないとします。11条は、少なくともコンピュータ・プログラムと映画の著作物について、著作者とその承継人に原作品又は複製物の公衆への商業的貸与を許諾し又は禁止する権利を与えますが、映画の著作物については、貸与が排他的複製権を著しく侵害するような広範な複製をもたらしていない限り義務を免除され、プログラムについてはプログラム自体が貸与の本質的な対象でない場合には適用しません。そこで映画の著作物については、貸与が広範な複製をもたらすものでない限り、貸与を許諾し又は禁止する権利を与える義務を免除されます。12条は、自然人の生存期間以外を基礎に保護期間を計算する著作物(写真と応用美術を除く)について、公表の年の終わりから少なくとも50年とします。13条は排他的権利の制限又は例外を、著作物の通常の利用を妨げず、権利者の正当な利益を不当に害しない特別な場合に限定します。14条は、実演家に固定されていない実演の固定とその複製、生の実演の無線放送と公衆への伝達を防止する可能性を、レコード製作者にレコードの直接又は間接の複製を許諾し又は禁止する権利を、放送機関に放送の固定・複製・再放送・テレビ放送の公衆への伝達を禁止する権利を与え、実演家とレコード製作者の保護期間は固定又は実演の年の終わりから少なくとも50年、放送機関は少なくとも20年とします。
- 9条ベルヌ条約1条から21条まで及び附属書の遵守です。6条の2の著作者人格権は除き、保護は表現に及び思想等には及びません
- 10条・11条コンピュータ・プログラムは文学的著作物、編集物の保護は素材自体に及びません。プログラムと映画の商業的貸与権(映画は広範な複製をもたらさなければ免除)です
- 12条・13条自然人の生存期間以外を基礎とする保護期間は少なくとも50年、制限・例外は通常の利用を妨げず正当な利益を不当に害しない特別な場合に限ります
- 14条実演家は固定と複製の防止、レコード製作者は複製の許諾・禁止権、放送機関は固定・複製・再放送の禁止権で、期間は50年・50年・20年です
39条は開示されていない情報を不正競争の防止として保護し、新規化学物質を利用する医薬品等の非開示の試験データを不公正な商業的使用から保護する義務を定め、40条は反競争的な実施許諾慣行の規制と協議を定めます
39条1は、パリ条約10条の2の不正競争からの保護を確保する過程で、開示されていない情報と政府に提出されたデータを保護することを求めます。39条2は、秘密であること、秘密であることにより商業的価値があること、秘密として保持するための合理的な措置がとられていることを満たす情報について、公正な商慣習に反する方法で開示・取得・使用されることを防止する可能性を自然人及び法人に与えるもので、日本の不正競争防止法2条6項の営業秘密の三要件に対応します。39条3は、新規性のある化学物質を利用する医薬品又は農業用の化学品の販売の承認の条件として、作成に相当の努力を要する開示されていない試験データその他のデータの提出を要求する場合に、そのデータを不公正な商業的使用から保護し、公衆の保護に必要な場合等を除き開示からも保護することを求めるので、「作成のために相当の努力を必要とする開示されていない試験データその他のデータの提出を要求する場合には、不公正な商業的使用から当該データを保護する」という枝は正しいです。40条1は、競争を制限する実施許諾の慣行や条件が貿易と技術移転に悪影響を及ぼし得ることを確認し、40条2は、この協定のいかなる規定も、特定の場合に関連する市場の競争に悪影響を及ぼす知的所有権の濫用となる実施許諾の慣行や条件(排他的なグラント・バック、有効性を争うことの禁止、強制的な一括実施許諾など)を国内法令で特定することを妨げず、協定に適合する適当な措置をとれるとします。「関連する市場における競争に悪影響を及ぼすような知的所有権の濫用となることのあるものを自国の国内法令において特定することを妨げるものではない」という枝は正しいです。40条3は、自国の国民又は居住者である権利者が他の加盟国の法令に違反する慣行を行っていると信ずる理由がある加盟国からの要請に応じて協議に入り情報を提供することを、40条4は、自国の国民又は居住者が他の加盟国でこの節の対象事項の法令違反を申し立てられて手続に服している加盟国が、要請に基づき40条3と同じ条件で協議の機会を与えられることを定めるので、「要請に基づき、所定の条件に基づいて当該他の加盟国と協議を行う機会を与えられる」という枝は正しいです。

62条は、著作権を除く知的所有権の取得・維持に合理的な手続及び方式を要求でき、登録・付与の手続を合理的な期間内に行い、パリ条約4条をサービス・マークに準用し、最終的な行政上の決定を司法上又は準司法上の審査に服させます
62条1は、第2部の第2節から第6節まで(商標、地理的表示、意匠、特許、集積回路の回路配置)の知的所有権の取得又は維持の条件として、協定に反しない合理的な手続及び方式に従うことを要求することができると定めます。第1節の著作権及び関連する権利は含まれておらず、ベルヌ条約の無方式主義が維持されます。そこで地理的表示や集積回路の回路配置についてはこの要求ができますが、著作権及び関連する権利について取得又は維持の条件として合理的な手続及び方式を要求することはできません。62条2は、権利の取得に登録又は付与が必要な場合に、取得のための実体的な条件が満たされることを条件として、保護期間が不当に短縮されないよう登録又は付与の手続を合理的な期間内に行うことを確保させます。条件は「実体的な条件」であり、「手続的な条件」と置き換えると条文と合いません。62条3は、パリ条約(1967年)4条をサービス・マークについて準用すると定めるので、「パリ条約第4条の規定は、サービス・マークについて準用する」という枝は正しいです(パリ条約自体はサービス・マークの優先権を義務づけていないので、協定で加わった義務です)。62条4は、取得・維持の手続と、異議申立て・取消し・無効のような当事者間手続に41条2・3の一般原則を適用し、62条5は、これらの手続の最終的な行政上の決定を司法上又は準司法上の審査に服させますが、不成功に終わった異議申立てや行政上の取消しについては、その理由が無効手続の対象となり得る限り審査の機会を与える義務を負いません。

63条の透明性、64条の紛争解決、65条から67条までの経過措置と技術協力、68条の理事会、69条の国際協力、70条の既存の対象、73条の安全保障のための例外が協定の運用を支えます
63条1は、知的所有権の取得可能性、範囲、取得、行使及び濫用の防止に関する法令、最終的な司法上の決定及び一般に適用される行政上の決定を自国語で公表し、公表が実際的でないときは公に利用可能にすること、加盟国政府間の協定も公表することを求めます。63条2はその法令を貿易関連知的所有権理事会に通報すること、63条3は他の加盟国からの書面による要請に応じてこれらの情報を提供できるよう準備することを定めるので、「知的所有権の取得可能性、範囲、取得、行使及び濫用の防止に関する加盟国が実施する法令、最終的な司法上の決定及び一般に適用される行政上の決定の情報を提供することができるように準備する」という枝は正しいです。63条4は、法の執行を妨げ、公共の利益に反し、特定の企業の正当な商業上の利益を害する秘密の情報の開示までは要求しません。64条は、協定に係る協議と紛争解決に、紛争解決了解により詳細化された1994年のガットの22条及び23条を適用します。65条は、協定の適用を世界貿易機関協定の効力発生から一般に1年、開発途上加盟国はさらに4年(3条・4条・5条を除く)、物質特許を新たに導入する技術分野についてはさらに5年猶予し、66条は後発開発途上加盟国に10年の猶予と理事会による延長を認め、先進加盟国に技術移転の奨励を求めます。67条は要請に基づく先進加盟国の技術的・資金的協力です。68条は、貿易関連知的所有権理事会が協定の実施、特に加盟国の義務の遵守を監視し、加盟国に協議の機会を与え、紛争解決手続で加盟国が要請する援助を提供し、任務の遂行に当たって適当と認める者と協議し情報の提供を求めることができると定めます。「加盟国のTRIPS協定に基づく義務の遵守を監視し、及び加盟国に対し、知的所有権の貿易関連の側面に関する事項について協議の機会を与える」という枝と、「その任務を遂行するに当たって、適当と認める者と協議し、情報の提供を求めることができる」という枝は正しいです。69条は侵害物品の国際貿易を排除するための相互の協力と税関当局間の情報交換の促進、70条は協定の適用日前の行為には義務が生じないこと、適用日に保護されているか保護の基準を満たす既存の対象には義務が生じること、公有に帰した対象の保護を回復する義務がないことを定めます。73条は、協定のいかなる規定も、開示が自国の安全保障上の重大な利益に反すると加盟国が認める情報の提供を要求すること、安全保障上の重大な利益の保護に必要と認める措置や国際連合憲章上の義務に基づく行動を妨げることを定めるものと解してはならないとするので、「自国の安全保障上の重大な利益に反するとその加盟国が認める情報の提供を要求することをも定めるものと解釈される」という枝は誤りです。
- 63条 透明性法令・最終的な司法上の決定・一般に適用される行政上の決定の公表、理事会への通報、書面の要請に応じた情報提供の準備です。秘密の情報の開示は要求しません
- 64条 紛争解決1994年のガット22条・23条と紛争解決了解を適用します
- 65条〜67条 経過措置一般に1年、開発途上加盟国はさらに4年(3条・4条・5条を除く)、後発開発途上加盟国は10年と延長、先進加盟国の技術協力です
- 68条 理事会実施と義務の遵守の監視、協議の機会、紛争解決の援助、適当と認める者との協議と情報提供の要求です
- 69条・70条侵害物品の貿易排除のための協力と税関当局間の情報交換、適用日前の行為には義務なし、既存の対象には義務あり、公有に帰した対象の回復義務なしです
- 73条 安全保障安全保障上の重大な利益に反する情報の提供を要求するものと解してはならず、必要な措置を妨げません
TRIPS協定9条1加盟国は,1971年のベルヌ条約の第1条から第21条まで及び附属書の規定を遵守する。ただし,加盟国は,同条約第6条の2の規定に基づいて与えられる権利又はこれから派生する権利については,この協定に基づく権利又は義務を有さない。
試験ではこう問われる
- 9条はベルヌ条約1条から21条までを遵守するが6条の2の著作者人格権は除く。コンピュータ・プログラムは文学的著作物として保護する(10条1)
- 編集物の保護は素材自体に及ばず、素材自体の著作権を害しない(10条2)
- 貸与権はコンピュータ・プログラムと映画の著作物。映画は広範な複製をもたらさなければ義務を免除される(11条)。制限・例外は三段階テスト(13条)。レコード製作者は直接又は間接の複製の許諾・禁止権(14条2)
- 39条3は新規性のある化学物質を利用する医薬品・農業用化学品の非開示の試験データを不公正な商業的使用から保護する義務
- 40条2は反競争的な実施許諾の慣行・条件を国内法令で特定することを妨げない。40条3・4は要請に基づく協議の機会
- 62条1の合理的な手続・方式の要求は第2節から第6節まで。著作権について要求できるという枝は誤り。登録・付与は合理的な期間内に(62条2、「実体的な条件」)。パリ条約4条はサービス・マークに準用(62条3)
- 63条3は書面の要請に応じた法令・決定の情報提供の準備。68条の理事会は遵守の監視・協議の機会・適当と認める者との協議と情報提供の要求
- 73条は安全保障上の重大な利益に反する情報の提供を要求するものと「解してはならない」。要求すると解釈されるという枝は誤り
この用語が問われた枝
加盟国は、新規性のある化学物質を利用する医薬品又は農業用の化学品の販売の承認の条件として、作成のために相当の努力を必要とする開示されていない試験データその他のデータの提出を要求する場合には、不公正な商業的使用から当該データを保護する。
TRIPS協定のいかなる規定も、加盟国が、実施許諾等における行為又は条件であって、特定の場合において、関連する市場における競争に悪影響を及ぼすような知的所有権の濫用となることのあるものを自国の国内法令において特定することを妨げるものではない。
加盟国は、自国の国民又は居住者がTRIPS協定第8節(契約による実施許諾等における反競争的行為の規制)の規定の対象とする事項に関する他の加盟国の法令に違反すると申し立てられて手続に服している場合には、要請に基づき、所定の条件に基づいて当該他の加盟国と協議を行う機会を与えられる。
パリ条約第4条の規定は、サービス・マークについて準用する。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。