TRIPS協定の基本原則(1〜8条)とりっぷすきょうていのきほんげんそく
TRIPS協定の基本原則とは、世界貿易機関の加盟国が知的所有権の保護について守る最低基準の性格(1条)、パリ条約1条から12条まで及び19条の遵守(2条)、自国民に与える待遇よりも不利でない待遇を他の加盟国の国民に与える内国民待遇(3条)、他の国の国民に与える利益等を他のすべての加盟国の国民に即時かつ無条件に与える最恵国待遇(4条)、紛争解決で消尽の問題を扱わないとする6条、目的と原則を述べる7条・8条をまとめた呼び名です。
日本の会社が外国で特許を取ろうとしたとき、その国が自国の会社だけを手厚く守り、外国企業には短い保護期間しか認めないとしたら、貿易は公平になりません。TRIPS協定は、世界貿易機関の加盟国が知的所有権の保護について最低限そろえる基準を決め、その上で、自国民と同じ扱い(内国民待遇)と、どこかの国に与えた有利な扱いを他のすべての加盟国にも広げる扱い(最恵国待遇)を約束させる協定です。パリ条約が内国民待遇までだったのに対し、TRIPS協定は最恵国待遇と保護の最低基準まで踏み込んだところに特徴があります。

TRIPS協定は保護の最低基準を定める協定で、加盟国はより広範な保護を国内法令で実施できますが、その義務は負いません
1条1は、加盟国がこの協定の規定を実施すること、この協定の規定に反しないことを条件として、この協定において要求される保護よりも広範な保護を国内法令において実施することができるがその義務を負わないこと、実施の方法は各国の法制度と慣行の範囲内で自由に決められることを定めます。協定は上限ではなく下限を決める仕組みです。1条3は、協定の待遇を他の加盟国の国民に与えることを定め、その国民の範囲はパリ条約・ベルヌ条約・ローマ条約・集積回路条約の保護の適格性の基準で決めます。2条1は、この協定の第2部から第4部までの規定について、パリ条約(1967年)の1条から12条まで及び19条を遵守することを定めます。世界貿易機関の加盟国はパリ条約の同盟国でなくてもパリ条約の実体規定を守ることになり、パリ条約の上に協定の義務を積む構造になっています。パリ条約が義務づけていないサービス・マークの優先権(62条3)や特許の保護期間の最低限度(33条)が協定で加わっているのも、この構造の現れです。
- 1条1協定の規定を実施する義務と、協定より広範な保護を国内法令で実施する自由(義務ではない)です
- 1条3協定の待遇を与える相手は他の加盟国の国民で、パリ条約・ベルヌ条約・ローマ条約・集積回路条約の適格性の基準で決めます
- 2条1第2部から第4部までについてパリ条約1条から12条まで及び19条を遵守します
- 2条2第1部から第4部までの規定は、パリ条約等に基づく加盟国相互の既存の義務を免れさせません
内国民待遇は、自国民に与える待遇よりも不利でない待遇を他の加盟国の国民に与える義務で、既存の条約の例外を除きます
3条1は、各加盟国が知的所有権の保護に関し、自国民に与える待遇よりも不利でない待遇を他の加盟国の国民に与えると定めます。基準は「不利でない」なので、外国人を自国民より手厚く扱うことは禁じられていません。「他の加盟国の国民に与える待遇よりも有利な待遇を自国民に与える」という枝は誤りで(自国民を有利に扱うことこそ内国民待遇に反するからです)、「自国民に与える待遇よりも有利な待遇を他の加盟国の国民に与えてはならない」という枝も誤りです(協定は下限を決めるだけで、上乗せは妨げないからです)。この義務は、パリ条約・ベルヌ条約・ローマ条約・集積回路条約に既に規定する例外を除いて働き、3条2は、司法上及び行政上の手続(送達のための住所の選定や代理人の選任を含む)について、協定に反しない法令の遵守を確保するために必要で、貿易の偽装された制限とならない場合に限って例外を使えるとします。そのため内国民待遇の義務は例外なく働くわけではありません。3条の注は、3条及び4条の「保護」には知的所有権の取得可能性、取得、範囲、維持及び行使に関する事項と、この協定で特に取り扱われる知的所有権の使用に関する事項を含むと定めます。日本では特許法25条が外国人の権利の享有を定め、3号の「条約に別段の定めがある場合」にこの内国民待遇が当たるので、日本に住所も居所も持たない外国人について「甲が、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定の加盟国の国民である場合」に工業所有権を取得できるという枝は正しいです。

最恵国待遇は、他の国の国民に与えた利益を他のすべての加盟国の国民に即時かつ無条件に与える義務で、除外は4条(a)から(d)と5条の手続です
4条は、知的所有権の保護に関し加盟国が他の国の国民に与える利益、特典、特権又は免除を、他のすべての加盟国の国民に対し即時かつ無条件に与えると定めます。相手は「他の国」の国民なので、加盟国でない国に与えた利益も他のすべての加盟国に広がります。加盟国Xが加盟国Zの国民に自国民より有利な特典を与えれば、加盟国Yの国民にも同じ特典を即時かつ無条件に与えなければならず、合理的な条件を付けて与えることは「無条件」に反します。除外されるのは、(a) 一般的な性格を有し、かつ、知的所有権の保護に特に限定されない司法共助又は法の執行に関する国際協定に基づく利益等、(b) ベルヌ条約・ローマ条約の規定に従って内国民待遇ではなく他の国で与えられる待遇を基準とすることが認められているもの(相互主義)、(c) この協定に定めのない実演家・レコード製作者・放送機関の権利、(d) 世界貿易機関協定の効力発生前に効力を生じた知的所有権の保護に関する国際協定に基づく利益等(貿易関連知的所有権理事会に通報され、恣意的又は不当な差別とならないもの)の四つです。(a) は、知的財産に特化した協定の利益なら均てんさせる趣旨なので、要件を裏返した「一般的な性格を有さず、かつ、知的所有権の保護に特に限定される司法共助又は法の執行に関する国際協定」に基づく利益が除外されるという枝は誤りです。5条は、世界知的所有権機関の主催の下で締結された多数国間協定に定める知的所有権の取得又は維持の手続に3条・4条の義務を適用しないと定めます。そこで「TRIPS協定が除外するもの又は適用しないと規定する手続を除くほか、他のすべての加盟国の国民に対し即時かつ無条件に与えられる」という枝は正しいです。パリ条約は内国民待遇を定めるだけで最恵国待遇まで定めておらず、最恵国待遇は協定で加わった義務です。

- 比べる相手内国民待遇(3条)は自国民に与える待遇と比べ、最恵国待遇(4条)は他の国の国民に与えた利益・特典・特権・免除と比べます
- 与える水準内国民待遇は不利でない待遇(上乗せは自由)で、最恵国待遇は即時かつ無条件に同じ利益です
- 除外内国民待遇はパリ条約等に既に規定する例外と3条2の手続の例外、最恵国待遇は4条(a)から(d)と5条の多数国間協定の手続です
- パリ条約内国民待遇は2条に同じ原則がありますが、最恵国待遇の規定はありません
6条は、協定に係る紛争解決では3条・4条を除くほか消尽の問題を取り扱わないと定めるので、消尽の扱いは各加盟国に委ねられます
特許製品を一度売った後に権利が尽きるのか(消尽)、他国で売られた物の輸入を止められるのかは、交渉で合意に至らなかった論点です。そこで6条は、この協定に係る紛争解決においては、3条及び4条の規定を除くほか、この協定のいかなる規定も知的所有権の消尽に関する問題を取り扱うために用いてはならないと定めました。各加盟国が国内消尽か国際消尽かを自由に選び、その選択を協定違反として争えないようにする趣旨です。「TRIPS協定第3条及び第4条の規定を除くほか、TRIPS協定のいかなる規定も、知的所有権の消尽に関する問題を取り扱うために用いてはならない」という枝は正しいです。ただし、この規定は紛争解決の場面に限られ、3条・4条は除かれています。消尽の扱いが自国民と外国人で差別的なら内国民待遇や最恵国待遇の問題として争えるので、「知的所有権の消尽に関する問題を取り扱うためには適用されない」と言い切る枝は誤りで、消尽の問題がいかなる場合も紛争解決手続の対象にならないわけではありません。28条1(a)の輸入を防止する権利の注も、この権利が6条に従うことを確認しています。
7条は協定の目的、8条は公衆の健康や権利の濫用防止のために加盟国がとれる措置を、協定に適合する限りで認めます
7条は、知的所有権の保護及び行使が技術の革新の促進と技術の移転及び普及に資し、技術的知識の生産者と使用者の相互の利益となり、社会的・経済的福祉と権利・義務の均衡に資する態様で行われるべきことを目的として掲げます。8条1は、加盟国が国内法令の制定又は改正に当たり、公衆の健康及び栄養を保護し、社会経済的及び技術的発展に極めて重要な分野における公共の利益を促進するために必要な措置を、これらの措置がこの協定に適合する限りにおいてとることができると定めます。8条2は、権利者による知的所有権の濫用の防止や、貿易を不当に制限し若しくは技術の国際的移転に悪影響を及ぼす慣行の利用の防止のために必要とされる適当な措置を、同じく協定に適合する限りで認めます。いずれも「協定に適合する限りにおいて」が条件なので、協定の義務を外す根拠にはなりません。「公衆の健康及び栄養を保護し並びに社会経済的及び技術的発展に極めて重要な分野における公共の利益を促進するために必要な措置」をとることができるという枝は正しく、「権利者による知的所有権の濫用の防止又は貿易を不当に制限し若しくは技術の国際的移転に悪影響を及ぼす慣行の利用の防止のために必要とされる適当な措置」をとることができるという枝も正しいです。8条1の考え方は、医薬品の強制実施許諾を広げた31条の2と附属書に続いています。
TRIPS協定2条1加盟国は,第2部,第3部及び第4部の規定について,1967年のパリ条約の第1条から第12条まで及び第19条の規定を遵守する。
TRIPS協定3条1各加盟国は,知的所有権の保護(注)に関し,自国民に与える待遇よりも不利でない待遇を他の加盟国の国民に与える。ただし,1967年のパリ条約,1971年のベルヌ条約,ローマ条約及び集積回路についての知的所有権に関する条約に既に規定する例外については,この限りでない。実演家,レコード製作者及び放送機関については,そのような義務は,この協定に規定する権利についてのみ適用する。ベルヌ条約第6条及びローマ条約第16条(1)(b)の規定を用いる加盟国は,貿易関連知的所有権理事会に対し,これらの規定に定めるような通告を行う。
(注)
第3条及び第4条に規定する「保護」には,知的所有権の取得可能性,取得,範囲,維持及び行使に関する事項並びにこの協定において特に取り扱われる知的所有権の使用に関する事項を含む。
TRIPS協定4条知的所有権の保護に関し,加盟国が他の国の国民に与える利益,特典,特権又は免除は,他のすべての加盟国の国民に対し即時かつ無条件に与えられる。
試験ではこう問われる
- 協定は最低基準で、要求される保護よりも広範な保護を国内法令で実施することができるが、その義務は負わない(1条1)
- 内国民待遇は「不利でない待遇」。「他の加盟国の国民に与える待遇よりも有利な待遇を自国民に与える」という枝も、「自国民に与える待遇よりも有利な待遇を他の加盟国の国民に与えてはならない」という枝も誤り
- 内国民待遇にはパリ条約等に既に規定する例外と3条2の手続の例外があるので、「例外なく」という枝は誤り。「保護」には取得・維持だけでなく行使も含む(3条注)
- 最恵国待遇は「即時かつ無条件」。合理的な条件を付けて与えるのでは足りない(4条)
- 最恵国待遇から除外されるのは「一般的な性格を有し、かつ、知的所有権の保護に特に限定されない」司法共助・法執行の協定に基づく利益。要件を逆にした枝は誤り(4条(a))。WIPO主催の多数国間協定の取得・維持手続には3条・4条を適用しない(5条)
- 6条は紛争解決に限り、3条・4条を除くほか消尽の問題を扱わない。「いかなる規定も」「いかなる場合も対象にならない」と広げた枝は誤り
- 8条の措置は「協定に適合する限りにおいて」とることができる。公衆の健康・栄養の保護(8条1)と権利の濫用・貿易制限慣行の防止(8条2)
- 日本に住所のない外国人でもTRIPS協定の加盟国の国民なら特許法25条3号で工業所有権を取得できる
この用語が問われた枝
各加盟国は、他の条約に既に規定する例外を除くほか、知的所有権の保護に関し、他の加盟国の国民に与える待遇よりも有利な待遇を自国民に与える。
一般的な性格を有さず、かつ、知的所有権の保護に特に限定される司法共助又は法の執行に関する国際協定に基づいて、加盟国が与える利益、特典、特権又は免除は、最恵国待遇を与える義務から除外される。
知的所有権の保護に関し、加盟国が他の国の国民に与える利益、特典、特権又は免除は、TRIPS協定が除外するもの又は適用しないと規定する手続を除くほか、他のすべての加盟国の国民に対し即時かつ無条件に与えられる。
TRIPS協定に係る紛争解決においては、TRIPS協定第3条及び第4条の規定を除くほか、TRIPS協定のいかなる規定も、知的所有権の消尽に関する問題を取り扱うために用いてはならない。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。