冒認出願と特許権の移転請求(74条)|38条・123条・79条の2を整理
弁理士試験短答式の冒認出願と共同出願違反を整理。発明者主義(29条1項柱書)と38条、拒絶理由(49条2号・7号)、無効理由(123条1項2号・6号)と真の権利者に限られる請求人適格、平成23年改正で新設された74条の移転請求権と遡及効、冒認出願人等の法定通常実施権(79条の2)、先願の地位(39条6項)の変更まで扱います。
冒認出願は、発明者でも承継人でもない者がした特許出願です。共同出願違反は、特許を受ける権利が共有なのに、一部の共有者だけでした出願です。どちらも「特許を受ける権利のない者の出願」という点で共通し、拒絶理由・無効理由・移転請求・法定通常実施権と、条文が特許法の各所に散らばっています。平成23年改正で救済の仕組みが大きく変わったので、改正前の知識のままだと落とす枝が多い分野です。
結論から言うと、冒認・共同出願違反の枝は「誰が出願できるか(29条1項柱書・38条)」「審査と審判でどう扱われるか(49条・123条)」「真の権利者はどう取り戻すか(74条・79条の2)」の3段階で読むと整理できます。拒絶理由と無効理由になるのは改正前から同じですが、無効審判を請求できるのは特許を受ける権利を有する者に限られ、真の権利者は無効にする代わりに特許権の移転を請求でき、移転を受けると初めから自分のものだったことになります。
条文はe-Gov法令検索の特許法原文で確認しています。
発明者主義と共同出願(29条1項柱書・38条)
29条1項柱書は、「産業上利用することができる発明をした者は」特許を受けることができると定めます。特許を受ける権利は発明をした者に原始的に発生し(発明者主義)、譲渡によって移転できます(33条1項)。出願できるのは、発明者か、発明者から特許を受ける権利を承継した者です。
職務発明では、契約や勤務規則であらかじめ定めておけば、特許を受ける権利は発生した時から使用者等に帰属します(35条3項)。詳しくは「職務発明」で扱っています。
特許を受ける権利が共有のときは、各共有者は他の共有者と共同でなければ特許出願ができません(38条)。持分の譲渡にも他の共有者の同意が必要です(33条3項)。
| 類型 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 冒認出願 | 発明者でない者で、特許を受ける権利を承継しない者がした出願 | 29条1項柱書 |
| 共同出願違反 | 特許を受ける権利の共有者の一部だけでした出願 | 38条 |
条文:特許法29条1項、33条、38条(e-Gov法令検索)
審査では拒絶理由になる(49条)
| 類型 | 拒絶理由 |
|---|---|
| 冒認出願 | 49条7号「その特許出願人がその発明について特許を受ける権利を有していないとき」 |
| 共同出願違反 | 49条2号(38条の規定により特許をすることができないとき) |
条文:特許法49条2号・7号(e-Gov法令検索)

審査官は、出願人が特許を受ける権利を有していないことが分かれば拒絶します。ただし審査は書面で行われ、特許を受ける権利の帰属は当事者間の事情に左右されるので、審査の段階で冒認が発覚することは多くありません。だからこそ、特許になった後の無効審判と移転請求が重要になります。
なお、特許異議の申立ての理由には、冒認も共同出願違反も含まれていません(113条各号)。権利の帰属をめぐる争いは、公衆の監視に委ねる異議ではなく、真の権利者自身が動く手続に委ねる構造です。異議の理由の範囲は「特許異議の申立て」で確認できます。
無効理由と請求人適格(123条)
無効理由
| 類型 | 無効理由 |
|---|---|
| 共同出願違反 | 123条1項2号(38条違反) |
| 冒認出願 | 123条1項6号「その特許が発明者でない者であつてその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたとき」 |
条文:特許法123条1項2号・6号(e-Gov法令検索)
2号と6号には括弧書きがあり、74条1項の請求に基づいて特許を受ける権利を有する者に特許権の移転の登録があったときは除かれます。真の権利者に権利が戻れば、権利の帰属の瑕疵は治るという考え方です。
請求できるのは特許を受ける権利を有する者だけ
無効審判は利害関係人に限り請求できますが(123条2項本文)、38条違反と6号の冒認を理由とする無効審判は、その特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者に限り請求できます(同項ただし書)。

平成23年改正前は、冒認や共同出願違反の無効審判も何人も請求できました。改正で、権利の帰属に関わる無効理由は真の権利者だけが主張できることになりました。真の権利者が移転を望んでいるのに、第三者が無効にしてしまう事態を避けるためです。平成26年改正で無効審判全体の請求人が「利害関係人」に絞られましたが、冒認・共同出願違反についてはそれより厳しく、真の権利者に限られたままです。
短答では「冒認を理由とする特許無効審判は、利害関係人であれば請求できる」とする枝が典型で、誤りです。
真の権利者の救済:特許権の移転請求(74条)
改正前の問題
平成23年改正前の特許法には、真の権利者が冒認者の特許権を自分に移すための明文の規定がありませんでした。無効審判で冒認の特許を無効にしても、真の権利者が改めて出願すると、冒認出願の公開によって新規性を失っていたり、別の出願に先を越されたりして、権利を取れないことがありました。判例で一定の場合に移転登録手続の請求が認められていましたが、要件や範囲は明文化されていませんでした。
74条1項:移転を請求できる
74条1項は、特許が123条1項2号(38条違反に限る)又は6号に該当するときは、その特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、経済産業省令で定めるところにより、その特許権者に対し、当該特許権の移転を請求できると定めます。無効にして出願し直すのではなく、できあがった特許権をそのまま取り戻す道です。
74条2項:移転の効果は遡る
移転の登録があったときは、その特許権は初めから当該登録を受けた者に帰属していたものとみなされます。特許権だけでなく、65条1項の補償金請求権や、184条の10第1項の国際出願に係る補償金請求権も同様に扱われます。出願公開後の補償金請求権は「出願公開と補償金請求権」で整理しています。
74条3項:共有持分の移転は同意が不要
共有に係る特許権について移転を請求する場合、73条1項(持分の譲渡には他の共有者の同意が必要)は適用されません。共同出願違反で出願から外された共有者が、自分の持分を取り戻す場面で、違反した側の同意を要求しては意味がないからです。

| 項 | 内容 |
|---|---|
| 1項 | 真の権利者は、冒認・共同出願違反の特許権者に移転を請求できる |
| 2項 | 移転の登録により、特許権は初めから登録を受けた者に帰属していたものとみなす。補償金請求権も同じ |
| 3項 | 共有持分の移転請求には、他の共有者の同意(73条1項)は不要 |
条文:特許法74条(e-Gov法令検索)
無効審判との使い分け
真の権利者は、移転請求と無効審判のどちらも選べます。権利を自分のものにしたければ移転請求、権利そのものをなくしたければ無効審判です。移転の登録があれば、123条1項2号・6号の括弧書きにより、その特許はもはや冒認・共同出願違反を理由に無効にされません。
元の権利者を守る法定通常実施権(79条の2)
1項:移転登録前の善意の実施者
74条1項の請求に基づく移転の登録があった場合に、移転登録前に、その特許が冒認・共同出願違反に当たることを知らないで、日本国内でその発明の実施である事業をしている者、又はその準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内で、その特許権について通常実施権を有します。対象は、元の特許権者、元の専用実施権者、元の特許権や専用実施権についての通常実施権者です。
2項:対価の支払
この通常実施権を有する者は、特許権者に相当の対価を支払わなければなりません。先使用権(79条)が無償であるのと対照的です。先使用権との違いは「先使用権」で整理しています。

| 項目 | 先使用権(79条) | 冒認出願人等の通常実施権(79条の2) |
|---|---|---|
| 場面 | 他人の出願の際に、独自に発明して実施・準備 | 冒認特許の移転登録前に、善意で実施・準備 |
| 善意の要件 | 不要(知らないで発明をした等) | 冒認・共同出願違反であることを知らないこと |
| 対価 | 不要 | 相当の対価が必要 |
| 範囲 | 実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内 | 同じ |
条文:特許法79条、79条の2(e-Gov法令検索)
善意でなかった元の特許権者、つまり自分が冒認者であると知っていた者には、この通常実施権はありません。
先願の地位(39条6項)の変更
平成23年改正前の39条6項は、特許を受ける権利を有しない者がした特許出願は、先願の規定の適用については特許出願でなかったものとみなすとしていました。冒認出願には先願の地位がなく、後からされた第三者の出願がその発明について特許を受け得る状態でした。

改正で、この除外は削除されました。冒認出願にも先願の地位が認められます。真の権利者が74条で特許権を取り戻せる以上、冒認出願を先願として扱わないと、その間に第三者が同じ発明で特許を取れてしまい、取り戻した権利が無意味になるからです。
| 項目 | 平成23年改正前 | 現行法 |
|---|---|---|
| 冒認出願の先願の地位 | なし | あり |
| 冒認を理由とする無効審判の請求人 | 何人も | 特許を受ける権利を有する者に限る |
| 真の権利者の移転請求 | 明文なし | 74条で明文化 |
| 善意の元特許権者等の実施権 | 明文なし | 79条の2で法定通常実施権 |
条文:特許法39条、74条、79条の2、123条(e-Gov法令検索)
先願の判断全体は「拡大先願」でも扱っています。29条の2との関係では、冒認出願も「他の特許出願」として後願排除の効果を持ち得る点が、改正後は39条と整合しています。
実用新案法・意匠法・商標法との比較
実用新案法と意匠法にも、特許法74条と同じ趣旨の移転請求の規定があります(実用新案法17条の2、意匠法26条の2)。考案や意匠も、創作者に権利が発生する制度だからです。

商標法には移転請求の規定がありません。商標は創作ではなく選択の対象で、冒認という概念が特許のようには成り立たないためです。ただし、他人の周知商標を不正の目的で出願した場合などは4条1項各号の不登録事由で対応します。四法で条文の有無を対照しておくと、「商標法にも特許法74条に相当する規定がある」という枝に惑わされません。対照の方法は「条文の覚え方」を参照してください。
短答の枝ではこう問われる
本試験と同じ形の枝を、条文から書き起こしました(過去問そのものではありません)。
例題 冒認出願及び共同出願違反に関し、正しいものはどれか。
- イ 特許が発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたことを理由とする特許無効審判は、利害関係人であれば請求することができる。
- ロ 特許を受ける権利を有する者は、冒認出願に対してされた特許について、特許権者に対し、その特許権の移転を請求することができ、移転の登録があったときは、その特許権は初めから当該登録を受けた者に帰属していたものとみなされる。
- ハ 共有に係る特許権について第74条第1項の請求に基づき持分の移転を受けるには、他の共有者の同意を得なければならない。
- ニ 第74条第1項の請求に基づく移転の登録の際、冒認であることを知らないで日本国内においてその発明の実施である事業をしていた元の特許権者は、無償で通常実施権を有する。
- ホ 特許を受ける権利を有しない者がした特許出願は、第39条の先願の規定の適用については、特許出願でなかったものとみなされる。
正しいのはロです。イは123条2項ただし書により特許を受ける権利を有する者に限られるので誤り、ハは74条3項が73条1項を適用しないとしているので誤り、ニは79条の2第2項により相当の対価が必要なので誤り、ホは平成23年改正で削除された規定なので誤りです。
学習の進め方
この分野は、1つの事実(特許を受ける権利のない者の出願)が、審査・審判・権利の移転・実施権のそれぞれでどう扱われるかを追う横断的なテーマです。49条2号・7号、123条1項2号・6号と2項ただし書、74条、79条の2、39条6項を四法対照の特許法の欄に書き出し、矢印でつないで1枚にまとめると、改正の全体像が見えます。
次に、平成23年改正の前後の表を白紙に再現します。改正前の規定を「誤りの枝」として問う出題が続いているので、何がどう変わったかを言葉で説明できるようにしておきます。特許法全体の中での優先順位は「特許法・実用新案法の学習法」を参照してください。
まとめ
- 特許を受ける権利は発明者に発生し(29条1項柱書)、共有なら共同でなければ出願できない(38条)
- 冒認出願は49条7号、共同出願違反は49条2号の拒絶理由。異議の理由にはならない
- 無効理由は123条1項6号(冒認)と2号(38条違反)。この理由による無効審判は特許を受ける権利を有する者に限り請求できる(123条2項ただし書)
- 真の権利者は74条1項で特許権の移転を請求でき、移転の登録により初めから自分に帰属していたものとみなされる(2項)。共有持分の移転に他の共有者の同意は不要(3項)
- 移転登録前に善意で実施・準備していた元の特許権者等は、相当の対価を支払って通常実施権を持つ(79条の2)
- 平成23年改正で冒認出願にも先願の地位が認められた。実用新案法・意匠法には同趣旨の移転請求があり、商標法にはない
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