職務発明(特許法35条)の要件と相当の利益を短答用に整理
弁理士試験短答式の特許法35条・職務発明のまとめ。職務発明の2つの要件、平成27年改正による使用者等への原始帰属(3項)、定めがない場合の通常実施権(1項)、職務発明以外の予約承継の無効(2項)、相当の利益と不合理性の判断(4項〜7項)、指針、実用新案・意匠への準用を整理します。
職務発明は、会社の従業者がした発明の権利を誰が持ち、会社が従業者に何を与えるかを定める制度です。短答の特許・実用新案20問では、35条の項ごとの要件を入れ替えた枝がよく作られます。平成27年改正で「特許を受ける権利を使用者等に原始的に帰属させる」仕組みが加わり、「相当の対価」が「相当の利益」に改められたため、改正前の知識のまま解くと誤ります。
結論から言うと、35条の枝は「職務発明に当たるか(1項の定義)」「権利は誰に帰属するか(あらかじめの定めがあれば3項で使用者等、なければ従業者等で、使用者等は1項の通常実施権)」「従業者等は何を受けるか(4項〜7項の相当の利益)」の3段で読みます。これに、職務発明以外の発明についての予約の無効(2項)と、実用新案法・意匠法への準用を加えれば、35条の枝は判断できます。
条文はe-Gov法令検索の特許法・実用新案法・意匠法の原文で、改正の経緯と指針は特許庁の資料で確認しています。
35条の全体像
35条は7項からなります。項ごとの役割を先に並べます。
| 項 | 内容 |
|---|---|
| 1項 | 職務発明の定義。職務発明について従業者等やその承継人が特許を受けたとき、使用者等は通常実施権を有する |
| 2項 | 職務発明でない発明について、あらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させる等の定めは無効 |
| 3項 | 職務発明について、あらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その権利は発生した時から使用者等に帰属する |
| 4項 | 取得させ・承継させ・専用実施権を設定したとき等に、従業者等は相当の金銭その他の経済上の利益(相当の利益)を受ける権利を有する |
| 5項 | 相当の利益を定める場合、協議・開示・意見の聴取の状況等を考慮して、不合理と認められるものであってはならない |
| 6項 | 経済産業大臣は、5項で考慮すべき状況等について指針を定め、公表する |
| 7項 | 定めがない場合や不合理とされた場合の相当の利益の内容の決め方 |
職務発明の定義(1項)
使用者等と従業者等
1項は、「使用者、法人、国又は地方公共団体」を「使用者等」、「従業者、法人の役員、国家公務員又は地方公務員」を「従業者等」と定義しています。法人の役員や公務員も従業者等に含まれます。「取締役がした発明は職務発明に当たらない」という枝は、この定義で誤りと判断できます。
2つの要件
職務発明は、従業者等がした発明のうち、次の2つを満たすものです。

- その性質上、当該使用者等の業務範囲に属すること
- その発明をするに至った行為が、その使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属すること
業務範囲に属していても職務に属さない発明は、職務発明ではありません。2つ目の要件は「過去の職務」も含みますが、「その使用者等における」職務に限られます。職務著作(著作権法15条)が作成時の職務上の作成を要件にしているのと対比されます。比較は「職務著作(著作権法15条)の要件」で整理しています。
権利の帰属(3項)と平成27年改正
平成27年改正の内容
特許庁は、平成27年7月10日に公布された「特許法等の一部を改正する法律」(平成27年法律第55号)が平成28年4月1日に施行されたこと、職務発明制度の改正内容が次の3点であることを説明しています。
- 権利帰属の不安定性への対応:特許を受ける権利が共有に係る場合の問題と二重譲渡問題を解決するため、契約等においてあらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その権利が発生時から使用者等に帰属する旨を規定
- 「相当の対価」を「相当の金銭その他の経済上の利益」(相当の利益)に変更し、金銭以外の経済上の利益も含まれるようにした
- 経済産業大臣が指針(ガイドライン)を定めて公表する旨を規定
出典:特許庁「職務発明制度の概要」(2017年7月27日更新)
3項:原始的に使用者等に帰属する場合
3項は、従業者等がした職務発明について、契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を受ける権利は、その発生した時から当該使用者等に帰属すると定めます。

ポイントは3つです。
- 職務発明に限る。職務発明でない発明には3項は働かず、2項でその種の定めは無効になる
- あらかじめの定めが必要。定めがなければ、特許を受ける権利は発明をした従業者等に帰属する
- 発明者は従業者等のまま。使用者等に帰属するのは特許を受ける権利であり、願書には発明者の氏名を記載する(36条1項2号)
改正前は、特許を受ける権利はいったん従業者等に発生し、使用者等は承継によって取得していました。その場合、特許出願前の承継は出願しなければ第三者に対抗できない(34条1項)ため、従業者等が第三者にも譲渡すると問題が生じました。3項は、発生の時から使用者等に帰属させることで、この問題が起きない仕組みにしたものです。
定めがない場合と、予約承継
あらかじめ使用者等に取得させる定めがない場合、特許を受ける権利は従業者等に帰属します。改正前の制度では、契約や勤務規則で特許を受ける権利の承継をあらかじめ定めること(予約承継)が許容されていると理解されていました。この定めと3項の関係について、特許庁の改正解説は、特許法上「取得」の概念には「承継」が含まれているため、改正法の施行前に契約等であらかじめ特許を受ける権利を使用者等が承継する旨を定めている場合にも、3項の要件を満たしているものと考えられるとしています。同じ解説は、4項前段を「使用者等に特許を受ける権利を取得させ」と規定することで、3項が適用される場合にも従業者等が相当の利益を受ける権利を有することとした、と説明しています。
出典:特許庁「平成27年度法改正解説 職務発明制度の見直し」(「職務発明制度の概要」ページ掲載)
あらかじめの定めがなく、従業者等(又はその承継人)が自ら特許を受けたときは、使用者等は1項により通常実施権を有します。
職務発明以外の予約の無効(2項)
2項は、従業者等がした発明については、その発明が職務発明である場合を除き、あらかじめ、使用者等に特許を受ける権利を取得させ、使用者等に特許権を承継させ、又は使用者等のため仮専用実施権若しくは専用実施権を設定することを定めた契約、勤務規則その他の定めの条項は、無効とすると定めます。

無効になるのは「あらかじめ」の定めで、列挙されているのは次の4つです。
- 特許を受ける権利を取得させる定め
- 特許権を承継させる定め
- 仮専用実施権を設定する定め
- 専用実施権を設定する定め
通常実施権の許諾は列挙されていません。また、発明が完成した後に個別に契約して譲り受けることは、「あらかじめ」の定めではないので2項の対象外です。「職務発明でない発明について、あらかじめ使用者等に通常実施権を許諾する旨の勤務規則の定めは無効である」という枝は、条文の列挙に照らして判断します。
使用者等の通常実施権(1項)
1項は、使用者等は、従業者等が職務発明について特許を受けたとき、又は職務発明について特許を受ける権利を承継した者がその発明について特許を受けたときは、その特許権について通常実施権を有すると定めます。
- 従業者等から特許を受ける権利を譲り受けた第三者が特許を受けた場合も、使用者等は通常実施権を有する
- 1項には相当の対価を支払う旨の規定がなく、使用者等は対価を支払わずに実施できる
- 通常実施権なので、登録がなくても、その後に特許権等を取得した者に対抗できる(99条)
法定通常実施権の一覧と対価の有無は「特許法の実施権」で比較しています。
相当の利益(4項〜7項)
4項:相当の利益を受ける場面
4項は、従業者等が、契約、勤務規則その他の定めにより、職務発明について次のいずれかをしたときに、相当の金銭その他の経済上の利益を受ける権利を有すると定めます。

- 使用者等に特許を受ける権利を取得させたとき(3項の原始帰属を含む)
- 使用者等に特許権を承継させたとき
- 使用者等のため専用実施権を設定したとき
- 使用者等のため仮専用実施権を設定した場合に、34条の2第2項により専用実施権が設定されたものとみなされたとき
通常実施権を許諾した場合は挙がっていません。使用者等が1項の通常実施権で実施する場合も、4項の対象ではありません。
5項:不合理であってはならない
5項は、契約、勤務規則その他の定めにおいて相当の利益について定める場合には、相当の利益の内容を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された基準の開示の状況、相当の利益の内容の決定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより相当の利益を与えることが不合理であると認められるものであってはならないと定めます。
考慮される手続は「協議」「開示」「意見の聴取」の3つが例示されています。相当の利益の額そのものを法律が決めるのではなく、手続を中心に不合理かどうかを判断する作りです。
6項:指針
6項に基づく指針は、平成28年4月22日に経済産業省告示として公表されました。特許庁の資料によれば、指針は、5項の不合理性の判断は同項に例示する手続の状況が適正か否かがまず検討され、それらの手続が適正であると認められる限りは、使用者等と従業者等があらかじめ定めた契約、勤務規則その他の定めが尊重されるという原則を示しています。

指針は、金銭以外の相当の利益の例として、使用者等負担による留学の機会の付与、ストックオプションの付与、金銭的処遇の向上を伴う昇進又は昇格、法令及び就業規則所定の日数・期間を超える有給休暇の付与、職務発明に係る特許権についての専用実施権の設定又は通常実施権の許諾を挙げています。一方、表彰状のように相手方の名誉を表するだけのものは、経済的価値を有すると評価できないので含まれず、また、職務発明をしたことを理由とせずに与えられた利益は相当の利益の付与に当たらないとしています。
指針は、職務考案(実用新案法11条3項)と職務創作意匠(意匠法15条3項)にも準用されます。
出典:特許庁「特許法第35条第6項の指針(ガイドライン)」(2016年4月22日更新)、同「特許法第35条第6項に基づく発明を奨励するための相当の金銭その他の経済上の利益について定める場合に考慮すべき使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況等に関する指針」(平成28年経済産業省告示第131号)
7項:定めがない場合・不合理な場合
7項は、相当の利益についての定めがない場合、又はその定めたところにより相当の利益を与えることが5項により不合理であると認められる場合には、相当の利益の内容は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額、その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めなければならないとしています。
改正の経緯
特許庁の資料は、職務発明制度の変遷を次のように説明しています。短答では、現行法と改正前の文言を取り違えた枝に注意します。
| 改正 | 主な内容 |
|---|---|
| 昭和34年法 | 特許を受ける権利は原始的に発明者である従業者に帰属し、使用者への承継に際して相当の対価の支払を受ける権利が従業者にある |
| 平成16年改正(平成16年法律第79号) | 契約等で対価を定めた場合、対価が決定されて支払われるまでの全過程を総合的に評価して不合理と認められるものであってはならないとした |
| 平成27年改正(平成27年法律第55号) | 使用者等への原始帰属(3項)、「相当の利益」への変更、指針の策定(6項) |
出典:特許庁「職務発明制度の概要」(2017年7月27日更新)
平成16年改正は平成17年4月1日から施行され、改正後の規定は施行後にした承継等に係る対価に適用されています(同法附則2条1項)。
実用新案法・意匠法への準用
実用新案法11条3項は「特許法第三十五条(仮専用実施権に係る部分を除く。)」を、従業者、法人の役員又は国家公務員若しくは地方公務員がした考案に準用します。意匠法15条3項も同じ形で、意匠の創作に準用しています。

実用新案法と意匠法には、特許法34条の2のような、登録を受ける権利に基づいて仮専用実施権を設定する規定がありません。そのため、職務考案・職務創作意匠でも原始帰属・通常実施権・相当の利益の仕組みは同じですが、4項のうち仮専用実施権の設定に関する部分は準用されません。実用新案法と特許法の制度の違いは「実用新案と特許の違い」で一覧にしています。
短答の枝ではこう問われる
本試験と同じ形の枝を、条文から書き起こしました(過去問そのものではありません)。
例題 特許法35条に関し、正しいものの数はいくつか。
- イ 従業者等がした職務発明について、勤務規則においてあらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を受ける権利は、その発生した時から当該使用者等に帰属する。
- ロ 従業者等がした発明であって職務発明でないものについて、あらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めた勤務規則の条項は、使用者等の業務範囲に属する発明に限り、有効である。
- ハ 職務発明について従業者等から特許を受ける権利を承継した第三者がその発明について特許を受けたときは、使用者等は、その特許権について通常実施権を有する。
- ニ 従業者等は、契約により職務発明について使用者等に通常実施権を許諾したときは、相当の金銭その他の経済上の利益を受ける権利を有する。
- ホ 法人の役員がした発明は、その法人の業務範囲に属し、かつ、その役員の職務に属するものであっても、職務発明に当たらない。
正しいのはイ・ハの2つです。イは3項の原始帰属どおり、ハは1項の「特許を受ける権利を承継した者がその発明について特許を受けたとき」に当たるので正しい。ロは2項が職務発明以外の予約を一律に無効としているので誤り。ニは4項が通常実施権の許諾を挙げていないので誤り。ホは1項が法人の役員を従業者等に含めているので誤りです。
学習の進め方
35条は、7つの項を「定義(1項前段)」「帰属(2項・3項)」「使用者等の実施権(1項後段)」「見返り(4項〜7項)」の4つに振り分けて読むと整理できます。そのうえで、4項が挙げる4つの場面と、2項が無効とする4つの定めを並べ、「通常実施権の許諾はどちらにも入っていない」ことを確認します。
改正の経緯は、「相当の対価」「相当の利益」という文言の違いと、平成27年改正で3項・6項が加わったことを押さえれば足ります。職務著作との比較は、帰属の向き(定めがなければ法人等か、従業者等か)と見返りの規定の有無の2点が枝になります。特許法全体の中での位置付けは「特許法・実用新案法の学習法」を参照してください。
まとめ
- 職務発明は、使用者等の業務範囲に属し、かつその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明。役員・公務員も従業者等に含まれる
- あらかじめ使用者等に取得させる定めがあれば、特許を受ける権利は発生時から使用者等に帰属する(3項、平成27年改正・平成28年4月1日施行)
- 定めがなければ権利は従業者等に帰属し、従業者等やその承継人が特許を受けると、使用者等は無償の通常実施権を有する(1項)
- 職務発明以外の発明について、あらかじめ権利を取得させ・承継させ・仮専用実施権や専用実施権を設定する定めは無効(2項)
- 相当の利益は、取得させ・承継させ・専用実施権を設定したとき等に生じる(4項)。通常実施権の許諾は対象外
- 定めによる相当の利益は、協議・開示・意見の聴取の状況等を考慮して不合理であってはならず(5項)、指針が手続の考え方と金銭以外の利益の例を示す(6項)
- 実用新案法11条3項・意匠法15条3項が、仮専用実施権に係る部分を除いて35条を準用する
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