特許権の内容・存続期間・取消し・方法特許の立証責任(28条・32〜34条)とっきょけんのないようそんぞくきかんとりけしほうほうとっきょのりっしょうせきにん
特許権の内容・存続期間・取消し・方法特許の立証責任とは、TRIPS協定が特許権者に与える排他的権利の中身(28条)、特許を取り消し又は消滅させる決定に対する司法上の審査の機会(32条)、出願日から20年が経過する前に終了してはならない保護期間(33条)、物を得るための方法の特許の侵害訴訟で同一の物が特許を受けた方法により得られたものと推定する立証責任の転換(34条)を定めた一連の規定です。
特許を取っても、その国で止められる行為が狭かったり、数年で権利が切れたり、役所の一存で取り消されたりしては、権利の値打ちが国ごとにばらばらになります。TRIPS協定28条は特許権者が止められる行為を物の特許と方法の特許に分けて列挙し、32条は取消しに裁判所の審査を保障し、33条は出願日から20年を下限とする保護期間を決め、34条は製法が見えない相手に対して特許権者が立証に困らないよう推定の仕組みを加盟国に求めました。日本の特許法2条3項・67条・104条は、この四つの条に対応しています。

28条1は、物の特許では生産・使用・販売の申出・販売・これらの目的の輸入を、方法の特許では方法の使用と少なくとも直接的に得られた物についての同じ行為を防止する権利を与えます
28条1(a)は、特許の対象が物である場合に、特許権者の承諾を得ていない第三者がその物を生産し、使用し、販売の申出をし、販売し又はこれらの目的で輸入することを防止する排他的権利を与えます。列挙に輸出は含まれていないので、輸出を防止する権利まで与える義務はありません。(b) は、特許の対象が方法である場合に、その方法の使用を防止する権利と、少なくとも当該方法により直接的に得られた物の使用、販売の申出、販売又はこれらを目的とする輸入を防止する権利を与えます。協定が義務づけるのは直接的に得られた物までなので、「当該方法により間接的に得られた物の使用、販売の申出若しくは販売又はこれらを目的とする輸入を防止する排他的権利を与えなければならない」という枝は誤りです。パリ条約5条の4が、製造方法の特許がある同盟国に物が輸入されたときに特許権者が輸入国で製造された物と同じ権利を享有すると定めるだけなのに対し、協定は方法により直接的に得られた物の使用、販売の申出、販売、輸入を防止する権利を具体的に書いています。意匠の26条1が防止できる行為として挙げるのは商業上の目的の製造、販売、輸入だけなので、意匠の権利者が「販売の申出をすることを防止する権利を有することは規定されていない」という枝は正しいです。(a) の輸入を防止する権利の注は、この権利が6条に従うことを確認しているので、協定が輸入防止権を与える規定を持っていても、紛争解決で消尽の問題を取り扱うためには用いられません。28条2は、特許権者が特許を譲渡し又は承継により移転し、実施許諾契約を締結する権利も有すると定めるので、特許権の移転を相続その他の一般承継の場合に限る国内法は許されません。
- 物の特許(28条1(a))生産・使用・販売の申出・販売・これらの目的での輸入を防止する権利です。輸出は列挙にありません
- 方法の特許(28条1(b))方法の使用の防止と、少なくとも直接的に得られた物の使用・販売の申出・販売・輸入の防止です。間接的に得られた物までは義務づけません
- 処分(28条2)譲渡、承継による移転、実施許諾契約を締結する権利です
- 意匠との違い(26条1)意匠の権利者が防止できるのは商業上の目的の製造・販売・輸入で、販売の申出は入っていません
32条は、特許を取り消し又は消滅させる決定について司法上の審査の機会を与えることを求め、行政上の審査では足りません
32条は、特許を取り消し又は特許権を消滅させる決定については司法上の審査の機会が与えられると定めます。行政機関の決定だけで特許を失わせることを許さず、裁判所で争う道を保障する趣旨なので、「司法上の審査の機会が与えられなければならない」という枝は正しく、行政上の審査だけでは協定の要求を満たしません。意匠の節(25条・26条)には32条に当たる規定がないので、「意匠の保護を取り消し又は意匠権を消滅させる決定については、司法上の審査の機会が与えられることは規定されていない」という枝は正しいです。日本では、特許無効審判の審決に対して知的財産高等裁判所への審決取消訴訟(178条)が用意されているのが、この32条への対応です。
33条は、保護期間が出願日から計算して20年の期間が経過する前に終了してはならないと定める下限の規定です
33条は、保護期間は出願日から計算して20年の期間が経過する前に終了してはならないと定めます。20年は下限であって上限ではないので、「出願日から計算して20年の期間が経過する前に終了してはならない」という枝は正しく、20年を超える期間を定めることは妨げられません。パリ条約には特許の保護期間の最低限度を定める規定がなく、協定で初めて下限が置かれました。日本の特許法67条1項は存続期間を出願の日から20年をもって終了すると定め、67条2項以下の延長登録で20年を超える保護を認めているので、33条に適合します。

34条は、物を得るための方法の特許の侵害訴訟で、新規性のある物か、相当の可能性と妥当な努力の少なくとも一方の場合に、反証のない限り特許を受けた方法で得られたものと推定することを求めます
34条1は、28条1(b)の権利の侵害に関する民事上の手続において、特許の対象が物を得るための方法である場合に、司法当局が被申立人に対し、同一の物を得る方法が特許を受けた方法と異なることを立証するよう命ずる権限を有すると定めます。相手の工場の中の製法は特許権者には見えないので、立証の負担を相手に移す仕組みです。命ずる主体は司法当局なので、「税関当局は、被申立人に対し、同一の物を得る方法が特許を受けた方法と異なることを立証することを命ずる権限を有する」という枝は誤りです。そのうえで加盟国は、(a) 特許を受けた方法によって得られた物が新規性のあるものである場合、(b) 同一の物が特許を受けた方法によって生産された相当の可能性があり、かつ、特許権者が妥当な努力により実際に使用された方法を確定できなかった場合の少なくとも一方において、特許権者の承諾を得ないで生産された同一の物を、反証のない限り、特許を受けた方法によって得られたものと推定することを定めます。「同一の物が特許を受けた方法によって生産された相当の可能性があり、かつ、特許権者が妥当な努力により実際に使用された方法を確定できなかったときには」推定を定めなければならないという枝は正しく、(a) の要件を「産業上の利用可能性のあるものであるときには」とした枝は誤りです(要件は新規性だからです)。推定は反証で覆せるものであり、「みなす」規定ではありません。34条2は、(a) の条件か (b) の条件のいずれか一方が満たされる場合に限って立証責任を被申立人に負わせることを認め、34条3は、反証の提示に際して製造上及び営業上の秘密の保護に関する被申立人の正当な利益を考慮すると定めるので、「製造上及び営業上の秘密の保護に関する被申立人の利益を考慮することを要しない」という枝は誤りです。日本の特許法104条は (a) に当たる生産方法の推定を置いています。

TRIPS協定28条1特許は,特許権者に次の排他的権利を与える。
(a) 特許の対象が物である場合には,特許権者の承諾を得ていない第三者による当該物の生産,使用,販売の申出若しくは販売又はこれらを目的とする輸入を防止する権利(注)
(注)
輸入を防止する権利は,物品の使用,販売,輸入その他の頒布に関してこの協定に基づいて与えられる他のすべての権利と同様に第6条の規定に従う。
(b) 特許の対象が方法である場合には,特許権者の承諾を得ていない第三者による当該方法の使用を防止し及び当該方法により少なくとも直接的に得られた物の使用,販売の申出若しくは販売又はこれらを目的とする輸入を防止する権利
TRIPS協定33条保護期間は,出願日から計算して20年の期間が経過する前に終了してはならない。
試験ではこう問われる
- 物の特許の権利は生産・使用・販売の申出・販売・これらの目的の輸入まで。輸出を防止する権利まで与える義務はない
- 方法の特許は「少なくとも直接的に得られた物」。「間接的に得られた物」まで防止する権利を与えなければならないという枝は誤り
- 輸入防止権の注は6条に従う。28条2により譲渡・承継による移転・実施許諾契約の締結ができ、相続等に限る定めは許されない
- 32条は司法上の審査の機会。「司法上又は行政上の審査」という枝は誤り。意匠には同様の規定がない
- 33条は出願日から20年が「経過する前に終了してはならない」。20年で終了させなければならないわけではない。パリ条約には保護期間の最低限度の規定がない
- 34条1の立証を命ずるのは「司法当局」。税関当局という枝は誤り
- 推定の要件は (a) 得られた物が新規性のあるもの、(b) 相当の可能性と妥当な努力でも確定できないこと、の少なくとも一方。産業上の利用可能性という枝は誤り。「みなす」ではなく反証のない限りの推定
- 反証の提示では製造上及び営業上の秘密の保護に関する被申立人の正当な利益を考慮する(34条3)
この用語が問われた枝
特許の対象が方法である場合には、特許権者に、当該方法により間接的に得られた物の使用、販売の申出若しくは販売又はこれらを目的とする輸入を防止する排他的権利を与えなければならない。
特許は、排他的権利として、特許の対象が物である場合に、特許権者に特許権者の承諾を得ていない第三者による当該物の販売の申出を防止する権利を与えることが規定されている。しかし、保護されている意匠の権利者は、その承諾を得ていない第三者が、保護されている意匠の複製又は実質的に複製である意匠を用いており又は含んでいる製品を商業上の目的で販売の申出をすることを防止する権利を有することは規定されていない。
特許を取り消し又は特許権を消滅させる決定については、司法上の審査の機会が与えられることが規定されている。しかし、意匠の保護を取り消し又は意匠権を消滅させる決定については、司法上の審査の機会が与えられることは規定されていない。
特許の保護期間は、出願日から計算して20年の期間が経過する前に終了してはならない。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。