特許の対象と例外・出願人への要求(27条・29条・30条)とっきょのたいしょうとれいがいしゅつがんにんへのようきゅう
特許の対象と例外・出願人への要求とは、TRIPS協定が、新規性、進歩性及び産業上の利用可能性のあるすべての技術分野の発明に特許を与えること(27条1)、公の秩序又は善良の風俗を守るための発明や治療方法・動植物を特許の対象から除外できること(27条2・3)、出願人に明確かつ十分な開示を要求し最良の形態や外国出願の情報を要求できること(29条)、特許の排他的権利に限定的な例外を定められること(30条)を加盟国に定めた一連の規定です。
ある国が「医薬品には特許を与えない」「外国で発明されたものは保護しない」と決めてしまえば、技術を持つ側はその国で製品を売る意欲を失います。TRIPS協定27条は、すべての技術分野の発明に特許を与え、発明地や技術分野で差別しないことを加盟国に求めつつ、公序良俗を守るための発明や治療方法・動植物については各国の判断で除外する余地を残しました。29条は出願人に求めてよい開示の程度を、30条は特許権に例外を設けるときの限度を定め、加盟国の特許法が守るべき共通の枠を作っています。

27条1は、新規性、進歩性及び産業上の利用可能性のあるすべての技術分野の発明に特許を与え、発明地・技術分野・輸入か国内生産かで差別しないことを求めます
27条1は、物であるか方法であるかを問わず、新規性、進歩性及び産業上の利用可能性のあるすべての技術分野の発明について特許が与えられること、そして発明地、技術分野及び物が輸入されたものであるか国内で生産されたものであるかについて差別することなく特許が与えられ特許権が享受されることを定めます。27条1の注は、「進歩性」及び「産業上の利用可能性」の用語を、それぞれ「自明のものではないこと」及び「有用性」と同一の意義を有するとみなすことができると定めるだけなので、「と同一の意義を有するとみなさなければならない」という枝は誤りです(米国法の用語との読み替えを認める規定であって、義務ではないからです)。差別の禁止は特許の節にだけ置かれていて、意匠の節(25条・26条)には創作地による差別を禁じる規定がないので、「創作地について差別することなく、意匠の保護が与えられ、及び意匠権が享受されることは規定されていない」という枝は正しいです。日本の特許法29条1項柱書が産業上利用することができる発明に特許を与え、同項各号と2項で新規性・進歩性を要求しているのは、この27条1に対応しています。
27条2は公の秩序又は善良の風俗を守るために商業的な実施を防止する必要がある発明の除外を認めますが、国内法令で禁止されていることだけを理由にはできません
27条2は、公の秩序又は善良の風俗を守ること(人、動物若しくは植物の生命若しくは健康を保護し又は環境に対する重大な損害を回避することを含む)を目的として、商業的な実施を自国の領域内において防止する必要がある発明を、特許の対象から除外することができると定めます。かっこ書で環境や生命・健康の保護が明記されているので、「環境に対する重大な損害を回避することは、ここでいう公の秩序又は善良の風俗を守ることに含まれない」という枝は誤りです。ただし書は、その除外が単に当該加盟国の国内法令によって当該実施が禁止されていることを理由として行われたものでないことを条件とします。法令で禁じれば何でも除外できるとすると、27条1の原則が空洞になるからです。除外できるのは商業的な実施を防止する「必要がある」発明に限られ、独占権を与えること自体が公序良俗に反するという理由では除外できません。日本の特許法32条は、公の秩序、善良の風俗又は公衆の衛生を害するおそれがある発明を不特許事由としており、この27条2の範囲で設けられた規定です。

27条3は治療方法と微生物以外の動植物の除外を認めますが、植物の品種は特許か効果的な特別の制度かその組合せで保護しなければなりません
27条3は、(a) 人又は動物の治療のための診断方法、治療方法及び外科的方法と、(b) 微生物以外の動植物並びに非生物学的方法及び微生物学的方法以外の動植物の生産のための本質的に生物学的な方法を、特許の対象から除外することができると定めます。除外は加盟国の選択なので、「人又は動物の治療のための診断方法、治療方法及び外科的方法を特許の対象から除外することはできない」という枝は誤りで、(a) は人だけでなく動物の治療のための方法も対象です。(b) も同じく「できる」規定なので、「動物の生産のための本質的に生物学的な方法を特許の対象から除外することはできない」という枝は誤りです。一方、(b) の後段は、植物の品種の保護については特許若しくは効果的な特別の制度又はこれらの組合せによって定めることを加盟国に義務づけます。そこで空欄補充で植物の品種を保護する手段を「特許若しくは効果的な特別の制度又はこれらの組合せ」とした枝は正しいです。日本では、人の治療方法は産業上利用することができる発明に当たらないとして29条1項柱書で拒絶し、植物の品種は種苗法という特別の制度で保護しています。
- 27条2公の秩序又は善良の風俗を守るために商業的な実施を防止する必要がある発明を除外できます。生命・健康の保護と環境への重大な損害の回避を含み、国内法令で禁止されているだけでは足りません
- 27条3(a)人又は動物の治療のための診断方法、治療方法及び外科的方法を除外できます
- 27条3(b)微生物以外の動植物と、非生物学的方法・微生物学的方法以外の本質的に生物学的な方法を除外できます。植物の品種は特許か効果的な特別の制度かその組合せで保護する義務があります
29条は、明確かつ十分な開示を出願人に要求することを義務とし、発明者が知っている最良の形態と外国出願の情報は要求することができるにとどめます
29条1の第1文は、加盟国が特許出願人に対し、その発明をその技術分野の専門家が実施することができる程度に明確かつ十分に開示することを要求すると定める義務規定です。「その技術分野の専門家が実施することができる程度に明確かつ十分に開示することを要求する」という枝は正しいです。第2文は、出願日又は優先権が主張される場合には当該優先権に係る出願の日において、発明者が知っている当該発明を実施するための最良の形態を示すことを要求することができると定める任意規定です。空欄補充では、開示の程度は「明確かつ十分に」、開示は「要求する」、知っている主体は「発明者」、対象は「最良の形態」、提示は「要求することができる」の組合せが正しく、「明瞭に」「最善の形態」「特許出願人」に置き換えた枝はいずれも誤りです。29条2は、外国における出願及び特許の付与に関する情報を提供することを要求することができると定めるので、「外国における出願及び特許の付与に関する情報を提供することを要求することができる」という枝は正しく、要求は義務ではありません。日本の特許法36条4項1号の実施可能要件は第1文に対応し、最良の形態の開示は要求していません。
- 明確かつ十分な開示(29条1第1文)専門家が実施できる程度の開示を出願人に要求します。加盟国の義務です
- 最良の形態(29条1第2文)出願日又は優先日に発明者が知っている最良の形態の提示を要求することができます。任意です
- 外国出願の情報(29条2)外国における出願及び特許の付与に関する情報の提供を要求することができます。任意です
30条は、第三者の正当な利益を考慮して排他的権利に限定的な例外を定めることを認め、意匠にも26条2に同じ例外があります
30条は、加盟国が第三者の正当な利益を考慮し、特許により与えられる排他的権利について限定的な例外を定めることができると定め、特許の通常の実施を不当に妨げず、かつ、特許権者の正当な利益を不当に害さないことを条件とします。試験研究のための実施や先使用のような例外を各国が置けるようにしつつ、三つの条件で歯止めをかける規定です。空欄補充では「正当な利益」「排他的権利」「限定的な」「不当に」が入り、「独占的権利」「合理的な」「不合理に」「公正な利益」に置き換えた枝は誤りです。意匠についても26条2が、第三者の正当な利益を考慮して意匠の保護について限定的な例外を定めることができると同じ構造で定めているので、「意匠の保護について限定的な例外を定めることができることは規定されていない」という枝は誤りです。日本の特許法69条(試験又は研究のためにする実施など)は、この30条の範囲で定められた例外です。

TRIPS協定27条)を目的として,商業的な実施を自国の領域内において防止する必要がある発明を特許の対象から除外することができる。ただし,その除外が,単に当該加盟国の国内法令によって当該実施が禁止されていることを理由として行われたものでないことを条件とする。加盟国は,また,次のものを特許の対象から除外することができる。(a) 人又は動物の治療のための診断方法,治療方法及び外科的方法
(b) 微生物以外の動植物並びに非生物学的方法及び微生物学的方法以外の動植物の生産のための本質的に生物学的な方法。
TRIPS協定30条加盟国は,第三者の正当な利益を考慮し,特許により与えられる排他的権利について限定的な例外を定めることができる。ただし,特許の通常の実施を不当に妨げず,かつ,特許権者の正当な利益を不当に害さないことを条件とする。
試験ではこう問われる
- 27条1の注は進歩性・産業上の利用可能性を自明でないこと・有用性と同一の意義を有すると「みなすことができる」。「みなさなければならない」という枝は誤り
- 発明地・技術分野・輸入か国内生産かによる差別の禁止は特許の規定で、意匠には創作地による差別禁止の規定がない
- 27条2の公序良俗には生命・健康の保護と環境への重大な損害の回避を「含む」。「含まれない」という枝は誤り。単に国内法令で実施が禁止されていることを理由にはできない
- 27条3の除外は「できる」。「診断方法、治療方法及び外科的方法を特許の対象から除外することはできない」という枝は誤り。人だけでなく動物の治療方法も除外できる
- 植物の品種は「特許若しくは効果的な特別の制度又はこれらの組合せ」で保護する義務。保護を義務づけられていないという枝は誤り
- 29条1は明確かつ十分な開示を「要求する」(義務)、発明者が知っている最良の形態は「要求することができる」(任意)。主体を特許出願人、程度を明瞭に、と変えた枝は誤り
- 29条2の外国出願の情報は「要求することができる」。「要求しなければならない」という枝は誤り
- 30条は第三者の「正当な利益」を考慮し「排他的権利」に「限定的な」例外、通常の実施を「不当に」妨げず正当な利益を「不当に」害さない。意匠にも26条2に同じ例外がある
この用語が問われた枝
加盟国は、特許の対象に関し、「進歩性」及び「産業上の利用可能性」の用語を、それぞれ「自明のものではないこと」及び「有用性」と同一の意義を有するとみなさなければならない。
一定の条件の下で発明地について差別することなく、特許が与えられ、及び特許権が享受されることが規定されている。しかし、一定の条件の下で創作地について差別することなく、意匠の保護が与えられ、及び意匠権が享受されることは規定されていない。
加盟国は、公の秩序又は善良の風俗を守ることを目的として、商業的な実施を自国の領域内において防止する必要がある発明を特許の対象から除外することができるが、人、動物若しくは植物の生命若しくは健康を保護し又は環境に対する重大な損害を回避することは、ここでいう公の秩序又は善良の風俗を守ることに含まれない。
加盟国は、人又は動物の治療のための診断方法、治療方法及び外科的方法を特許の対象から除外することはできない。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。