パリ条約の総則(1条・12条・19条)ぱりじょうやくのそうそく
パリ条約の総則とは、この条約が適用される国が工業所有権の保護のための同盟を形成することと、工業所有権の保護の対象・工業所有権の語の範囲・特許の種類を定める1条、各同盟国が工業所有権に関する特別の部局と中央資料館の設置を約束する12条、同盟国が相互間で特別の取極を行う権利を留保する19条をまとめた呼び名です。
ぶどう酒の産地の名前や、他人の商品とまぎらわしい表示をやめさせる仕組みは、登録される権利ではありません。それでもパリ条約1条は、これらを工業所有権の保護の対象に含め、工業所有権という語を最も広く読むと決めています。あとの条が「工業所有権」と書くたびにこの定義が効くので、1条を取り違えると2条の内国民待遇の範囲も取り違えます。12条と19条は、各国が特許庁にあたる部局を置くことと、条約に反しない別の取極を結べることを定めた同盟国どうしの約束です。

1条は同盟の形成と保護の対象を定め、原産地表示や不正競争の防止まで工業所有権の保護に含めます
1条(1)は、この条約が適用される国が工業所有権の保護のための同盟を形成すると定めます。1条(2)は保護の対象を列挙し、特許、実用新案、意匠、商標、サービス・マーク、商号、原産地表示又は原産地名称に加えて、不正競争の防止もその中に入れています。登録を伴わない原産地表示や不正競争の防止まで入れたのは、商業上の信用を守る仕組みを同じ条約でまとめて扱うためです。この列挙は2条(1)の内国民待遇が及ぶ範囲でもあるので、内国民待遇の保護が特許や商標などに限られ、原産地表示と不正競争の防止については「他の同盟国が自国民に対してそれらの保護を与えている場合においてのみ」同一の保護を与えるという枝は誤りです(1条(2)が対象に含めており、2条(1)は相互主義を条件にしていないからです)。
- 同盟の形成(1条(1))この条約が適用される国は工業所有権の保護のための同盟を形成します
- 保護の対象(1条(2))特許、実用新案、意匠、商標、サービス・マーク、商号、原産地表示又は原産地名称及び不正競争の防止です
- 語の範囲(1条(3))工業所有権の語は最も広義に解釈し、農業・採取産業の分野と製造した又は天然のすべての産品についても用います
- 特許の種類(1条(4))輸入特許、改良特許、追加特許等の同盟国の法令によって認められる各種の特許が含まれます
工業所有権の語は最も広義に解釈し、農業・採取産業や天然の産品にも用いますが、それは語の範囲であって産品を保護する義務ではありません
1条(3)は、工業所有権の語を最も広義に解釈するものとし、本来の工業及び商業だけでなく、農業及び採取産業の分野並びに製造した又は天然のすべての産品についても用いると定めます。かっこ書には、ぶどう酒、穀物、たばこの葉、果実、家畜、鉱物、鉱水、ビール、花、穀粉という例が並びます。工業という言葉を狭く読んで、農産物の原産地名称やぶどう酒の商標が条約の外に置かれないようにするための定めです。条文どおりに「この条約が適用される国は、工業所有権の保護のための同盟を形成する」と結ぶ枝は正しいです。一方で、この項は語の意味を広げる定めであり、産品そのものを保護する義務を各国に課すものではありません。同盟国が天然の産品についても「工業所有権によって保護をする義務を負う」という枝は誤りです。

特許には輸入特許・改良特許・追加特許など、同盟国の法令によって認められる各種の特許が含まれます
1条(4)は、特許には輸入特許、改良特許、追加特許等の同盟国の法令によって認められる各種の特許が含まれると定めます。国によって特許の名前や仕組みが違っても、条約の特許に関する規定(4条の優先権、4条の2の特許独立、5条Aの不実施の措置など)が等しく及ぶようにするためです。日本の特許法にはこれらの名前の特許はありませんが、条約の読み方としては含まれるので、「改良特許は、パリ条約にいう特許には含まれない」という枝は誤りです。なお、特許協力条約2条の「特許」の定義は発明者証や実用証まで含む別の定義なので、パリ条約1条(4)と混ぜないようにします。
12条で各同盟国は工業所有権の特別の部局と中央資料館の設置を約束し、その部局は定期的な公報を発行します
12条(1)は、各同盟国が、工業所有権に関する特別の部局並びに特許、実用新案、意匠及び商標を公衆に知らせるための中央資料館を設置することを約束すると定めます。日本では特許庁がこの部局にあたります。優先権や内国民待遇が働くには、各国に出願を受け付けて権利を公示する機関が無ければならないからです。設置は「約束する」と書かれた同盟国の義務なので、各同盟国は「中央資料館を設置することを、要しない」という枝は誤りです。12条(2)は、この部局が定期的な公報を発行し、特許権者の氏名及びその特許発明の簡単な表示と、登録された商標の複製を規則的に公示することを定めます。

19条は条約の規定に抵触しない限り、同盟国が相互間で特別の取極を行う権利を留保します
19条は、同盟国がこの条約の規定に抵触しない限り、別に相互間で工業所有権の保護に関する特別の取極を行う権利を留保すると定めます。特許協力条約やマドリッド協定の議定書のような条約は、この19条の特別の取極として、パリ条約の枠の中で結ばれています。19条が定めるのは取極を行う権利の留保までで、取極の利益を取極に加わっていない同盟国の国民に広げることまでは求めていません。この点は、加盟国間の利益を他の加盟国の国民にも与える最恵国待遇をTRIPS協定4条が定めているのと対照的で、パリ条約には最恵国待遇の定めがありません。
パリ条約1条この条約が適用される国は,工業所有権の保護のための同盟を形成する。
工業所有権の保護は,特許,実用新案,意匠,商標,サービス・マーク,商号,原産地表示又は原産地名称及び不正競争の防止に関するものとする。
工業所有権の語は,最も広義に解釈するものとし,本来の工業及び商業のみならず,農業及び採取産業の分野並びに製造した又は天然のすべての産品(例えば,ぶどう酒,穀物,たばこの葉,果実,家畜,鉱物,鉱水,ビール,花,穀粉)についても用いられる。
特許には,輸入特許,改良特許,追加特許等の同盟国の法令によつて認められる各種の特許が含まれる。
パリ条約12条各同盟国は,工業所有権に関する特別の部局並びに特許,実用新案,意匠及び商標を公衆に知らせるための中央資料館を設置することを約束する。
(1)の部局は,定期的な公報を発行し,次に掲げるものを規則的に公示する。
(a) 特許権者の氏名及びその特許発明の簡単な表示
(b) 登録された商標の複製
パリ条約19条同盟国は,この条約の規定に抵触しない限り,別に相互間で工業所有権の保護に関する特別の取極を行う権利を留保する。
試験ではこう問われる
- 工業所有権の保護の対象には原産地表示又は原産地名称と不正競争の防止が含まれる(1条(2))。内国民待遇がこれらに及ぶのは「他の同盟国が自国民に対してそれらの保護を与えている場合においてのみ」という枝は誤り
- 工業所有権の語は最も広義に解釈し、農業・採取産業の分野と天然の産品にも用いる(1条(3))。ぶどう酒や家畜のような天然の産品についても用いる
- 1条(3)は語の範囲の定めで、天然の産品を「工業所有権によって保護をする義務を負う」という枝は誤り
- 特許には輸入特許・改良特許・追加特許等が含まれる(1条(4))。「改良特許は、パリ条約にいう特許には含まれない」は誤り
- 各同盟国は特別の部局と中央資料館の設置を約束する(12条(1))。「中央資料館を設置することを、要しない」は誤り。部局は定期的な公報を発行する(12条(2))
- 同盟国は条約に抵触しない限り相互間で特別の取極を行う権利を留保する(19条)。取極の利益を取極に加わっていない同盟国の国民にも与える定めはない
この用語が問われた枝
パリ条約における工業所有権の語は、最も広義に解釈するものとし、本来の工業及び商業のみならず、農業及び採取産業の分野並びに製造した又は天然のすべての産品(例えば、ぶどう酒、穀物、たばこの葉、果実、家畜、鉱物、鉱水、ビール、花、穀粉)についても用いられ、この条約が適用される国は、工業所有権の保護のための同盟を形成する。
いわゆる内国民待遇の原則による保護は、特許、実用新案、意匠、商標、サービス・マーク及び商号に限られ、原産地表示又は原産地名称及び不正競争の防止に関するものについては、同盟国は、他の同盟国が自国民に対してそれらの保護を与えている場合においてのみ、他の同盟国の国民に対して自国民と同一の保護を与える。
改良特許は、パリ条約にいう特許には含まれない。
各同盟国は、特許、実用新案、意匠及び商標を公衆に知らせるための中央資料館を設置することを、要しない。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。