優先権の効果と複合優先・部分優先(4条B・F・H)ゆうせんけんのこうかとふくごうゆうせんぶぶんゆうせん
優先権の効果とは、優先期間中にされた後の出願が、その間に行われた他の出願、発明の公表又は実施、意匠に係る物品の販売、商標の使用等によって不利な取扱いを受けず、これらの行為が第三者のいかなる権利又は使用の権能をも生じさせないというパリ条約4条Bの定めです。複合優先とは2以上の出願に基づく優先権を一つの出願で主張することで、部分優先とは基礎の出願に含まれていなかった構成部分を含む出願で優先権を主張することをいい、4条Fはいずれも発明の単一性がある場合に限り否認や拒絶の理由にできないと定めます。
日本で最初の出願をした後、学会で発明を発表し、その半年後にドイツへ出願したとします。ドイツの出願日で新規性を見れば、自分の発表で新規性を失っているはずです。パリ条約4条Bは、優先期間中にされた後の出願を、その間の他人の出願や発明の公表・実施によって不利に扱わないと定め、最初の出願の日に出したのと同じ土俵に乗せます。4条Fと4条Hは、複数の出願をまとめて基礎にしたり、最初の出願に無かった部分を足したり、請求の範囲に書いていなかった部分を主張したりしたときに、優先権をどこまで認めるかの線引きです。

優先期間中にされた後の出願は、その間の他の出願・公表・実施・販売・使用によって不利な取扱いを受けず、これらの行為は第三者の権利を生じさせません
4条Bは、優先期間の満了前に他の同盟国においてされた後の出願が、その間に行われた行為、例えば他の出願、当該発明の公表又は実施、当該意匠に係る物品の販売、当該商標の使用等によって不利な取扱いを受けないものとし、これらの行為が第三者のいかなる権利又は使用の権能をも生じさせないと定めます。後の出願の新規性・進歩性・先後願は最初の出願の日を基準に判断され、優先期間中に始めた第三者の実施は先使用権のような権利を生じさせません。「不利な取扱いを受けないものとし、また、当該行為は、第三者のいかなる権利又は使用の権能をも生じさせない」という枝は正しいです。誰の行為かは問わないので、出願Aと出願Bの間に「出願人自身による当該発明イの公表又は実施がある場合には、パリ条約上、不利な取扱いを受けることがある」という枝は誤りです。4条Bの末尾は、最初の出願の日前に第三者が取得した権利について各同盟国の国内法令の定めるところによるとします。これは最初の出願の日より前の第三者の権利(日本なら先使用権)がどうなるかを各国に委ねる定めであって、第三者の権利があるからといって最初の出願が優先権を生じさせなくなるわけではありません。
複合優先と部分優先を理由に優先権を否認し又は拒絶することはできませんが、それは当該同盟国の法令上発明の単一性がある場合に限られます
4条Fは、いずれの同盟国も、特許出願人が2以上の優先権(2以上の国においてされた出願に基づくものを含む。)を主張することを理由として、又は優先権を主張して行った特許出願が優先権の主張の基礎となる出願に含まれていなかった構成部分を含むことを理由として、当該優先権を否認し、又は当該特許出願について拒絶の処分をすることができないと定め、ただし書で当該同盟国の法令上発明の単一性がある場合に限るとします。複数の改良を一つの出願にまとめる実務を認めつつ、単一性の無い出願まで受け入れさせないための線引きです。したがって、条文どおりに「ただし、当該同盟国の法令上発明の単一性がある場合に限る」と結ぶ枝は正しく、「当該同盟国の法令上発明の単一性があるか否かにかかわらず」否認や拒絶ができないという枝は誤りです。基礎の出願に無かった構成部分を含むことは、単一性がある限り、否認や拒絶の理由になりません。

基礎の出願に含まれていなかった構成部分については、後の出願が通常の条件に従って優先権を生じさせます
4条Fの後段は、優先権の主張の基礎となる出願に含まれていなかった構成部分については、通常の条件に従い、後の出願が優先権を生じさせると定めます。優先権の効果は基礎の出願に含まれていた構成部分にしか及ばないので、新しく加えた構成部分はその後の出願(パリ条約の優先権を主張した出願)が最初の出願となり、そこから新たな優先期間が始まるという意味です。構成部分ごとに基準日が分かれるのが部分優先の要点で、出願Aを基礎に出願Bをした事例で、出願Bの請求の範囲に「出願Aの出願書類の全体により明らかにされた発明の構成部分以外の発明の構成部分が含まれることとなる場合は、当該構成部分については、優先権の主張の効果は認められない」という枝は正しく、含まれていなかった構成部分について「先の出願が優先権を生じさせる」と書く枝は誤りです。後の出願が基礎の出願に含まれていなかった構成部分のみからなる場合は、優先権の効果が及ぶ共通の構成部分が一つも無いので、その出願の優先権は否認され得ます。
- 優先権の効果が及ぶ構成部分基礎の出願に含まれていた構成部分です。最初の出願の日を基準に新規性等を判断します
- 新たに加えた構成部分後の出願が優先権を生じさせます。基準日はその後の出願の日です
- 複合優先2以上の出願(異なる国のものを含む)に基づく優先権を一つの出願で主張できます
- 限界当該同盟国の法令上発明の単一性がある場合に限ります
構成部分が最初の出願の請求の範囲に無くても、出願書類の全体により明らかにされていれば優先権を否認できません
4条Hは、優先権の主張に係る発明の構成部分が最初の出願において請求の範囲内のものとして記載されていないことを理由としては否認できないと定め、ただし書で最初の出願に係る出願書類の全体により当該構成部分が明らかにされている場合に限るとします。最初の出願の時点では請求の範囲が固まっていないことが多く、明細書や図面に書いてあれば発明は開示されているからです。条文どおりに「最初の出願に係る出願書類の全体により当該構成部分が明らかにされている場合に限る」と結ぶ枝と、先の出願の「出願書類の全体により当該構成部分が明らかにされていれば足り、請求の範囲に記載されている必要はない」という枝は正しいです。一方で、「明らかにされていない場合であっても、否認することができない」という枝は誤りです。出願書類の全体により明らかにされていれば、請求の範囲に無いことを理由に否認することはできません。請求の範囲に記載されていれば、当然に出願書類の全体により明らかにされています。

優先権の基礎にできるのは最初の出願なので、基礎の出願がさらに先の出願の優先権を主張していた構成部分には効果が及びません
優先権は最初の出願から12箇月(意匠・商標は6箇月)の優先期間で切れる仕組みで、出願を基礎に次の出願、その出願を基礎にまた次の出願とつないで期間を延ばすことはできません。4条C(2)が優先期間を最初の出願の日から開始させ、4条C(4)が同一の対象について後の出願を最初の出願とみなす場合を厳しく限っているのはそのためです。出願Bが先の出願Cの優先権を主張していて、出願Aが出願Bを基礎にするとき、出願Cに既に記載されていた構成部分については出願Bが最初の出願ではないので、出願Aにその構成部分についての優先権の利益は認められません。出願Bで初めて加わった構成部分については、4条Fの後段により出願Bが優先権を生じさせます。同じ理由で、公開された出願Aの一部を分割した出願Bのみを基礎に出願Cをした事例で、「出願Aの出願書類の全体により明らかにされた発明の構成部分については優先権の主張の効果は認められない」という枝は正しいです。日本の国内優先権(特許法41条)も同じ考え方で、先の出願がさらに優先権の主張を伴う場合の累積を41条2項で除いています。
パリ条約4条BB すなわち,A(1)に規定する期間の満了前に他の同盟国においてされた後の出願は,その間に行われた行為,例えば,他の出願,当該発明の公表又は実施,当該意匠に係る物品の販売,当該商標の使用等によつて不利な取扱いを受けないものとし,また,これらの行為は,第三者のいかなる権利又は使用の権能をも生じさせない。優先権の基礎となる最初の出願の日前に第三者が取得した権利に関しては,各同盟国の国内法令の定めるところによる。
パリ条約4条FF いずれの同盟国も,特許出願人が2以上の優先権(2以上の国においてされた出願に基づくものを含む。)を主張することを理由として,又は優先権を主張して行つた特許出願が優先権の主張の基礎となる出願に含まれていなかつた構成部分を含むことを理由として,当該優先権を否認し,又は当該特許出願について拒絶の処分をすることができない。ただし,当該同盟国の法令上発明の単一性がある場合に限る。
優先権の主張の基礎となる出願に含まれていなかつた構成部分については,通常の条件に従い,後の出願が優先権を生じさせる。
パリ条約4条HH 優先権は,発明の構成部分で当該優先権の主張に係るものが最初の出願において請求の範囲内のものとして記載されていないことを理由としては,否認することができない。ただし,最初の出願に係る出願書類の全体により当該構成部分が明らかにされている場合に限る。
試験ではこう問われる
- 優先期間中の他の出願・公表・実施・販売・使用によって後の出願は不利な取扱いを受けず、第三者の権利や使用の権能も生じない(4条B)。出願人自身の公表でも「不利な取扱いを受けることがある」は誤り
- 最初の出願の日前に第三者が取得した権利は国内法令による(4条Bの末尾)。それで最初の出願の優先権が生じなくなるわけではない
- 複合優先・部分優先を理由に否認・拒絶できないのは「発明の単一性がある場合に限る」(4条F)。単一性があるか否かにかかわらず、は誤り
- 基礎の出願に含まれていなかった構成部分は「後の出願」が優先権を生じさせる。「先の出願が」は誤り。含まれていなかった構成部分のみからなる出願は否認され得る
- 請求の範囲に無くても出願書類の全体により明らかなら否認できない(4条H)。明らかにされていない場合であっても否認できない、は誤り
- 基礎の出願がさらに先の出願の優先権を主張している構成部分には効果が及ばない(最初の出願だけが基礎になる)
この用語が問われた枝
優先権の期間の満了前に他の同盟国においてされた後の出願は、その間に行われた行為によって不利な取扱いを受けないものとし、また、当該行為は、第三者のいかなる権利又は使用の権能をも生じさせない。
パリ条約の同盟国Xの国民である出願人が同盟国Xに出願した発明イに係る特許出願Aを基礎として、パリ条約に規定される優先期間の満了前に他の同盟国Yに出願人が出願した発明イに係る後の特許出願Bは、出願Aの出願日から出願Bの出願日の間に行われた出願人自身による当該発明イの公表又は実施がある場合には、パリ条約上、不利な取扱いを受けることがある。
いずれの同盟国も、特許出願人が2以上の優先権(2以上の国においてされた出願に基づくものを含む。)を主張することを理由として、又は優先権を主張して行った特許出願が優先権の主張の基礎となる出願に含まれていなかった構成部分を含むことを理由として、当該優先権を否認し、又は当該特許出願について拒絶の処分をすることができない。ただし、当該同盟国の法令上発明の単一性がある場合に限る。
いずれの同盟国も、特許出願人が2以上の優先権を主張することを理由として、又は優先権を主張して行った特許出願が優先権の主張の基礎となる出願に含まれていなかった構成部分を含むことを理由として、当該同盟国の法令上発明の単一性があるか否かにかかわらず、当該優先権を否認し、又は当該特許出願について拒絶の処分をすることができない。
枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。
この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。