弁理士試験AIブートラボ 弁理士AIブートラボ

不実施と強制実施権・特許の取消し(5条A・B)と特許の付随規定(5条の2〜5条の4)ふじっしときょうせいじっしけんとっきょのとりけしととっきょのふずいきてい

条約 第1章 パリ条約 短答で11枝

不実施と強制実施権・特許の取消しとは、特許権者が特許発明を実施しないなどの弊害を防ぐために、各同盟国が実施権の強制的設定について規定する立法措置をとることができ、それでは十分でない場合に限り特許の効力を失わせることを規定できるとするパリ条約5条Aの仕組みです。5条の2から5条の4は、料金納付の猶予期間、船舶・航空機・車両での使用、物の製造方法の特許の輸入物への効力という、特許に付随する決まりです。

特許を取った会社が、その国では発明を使わず、輸入した物だけを売って他社の製造を止めているとします。特許は発明の公開と引き換えに与えられるので、その国の産業に役立てないまま独占だけが続くのは困ります。そこで同盟国は、不実施のような弊害を防ぐために強制的に実施権を設定する法律を作ることができ、それでも足りない場合に限って特許そのものを取り消すことができます。ただし、特許権者を守るために、請求できる時期と取消しまでの猶予が条約で決められています。

特許庁の窓口の場面。先生が審査官役(札「審査官」)でカウンターの内側に座り、「強制実施権の設定の請求書:理由 不実施」と書かれた書類を手にしている。カウンターの外に男性が立ち(札「特許権者」)、吹き出し「私の特許が取り消されるのですか」。先

各同盟国は不実施などの弊害を防ぐために実施権の強制的設定を規定する立法措置をとることができますが、特許の効力を失わせることはそれでは十分でない場合に限られます

5条A(2)は、特許に基づく排他的権利の行使から生ずることがある弊害、例えば実施がされないことを防止するため、各同盟国が実施権の強制的設定について規定する立法措置を「とることができる」と定めます。立法は各国の選択であって義務ではありません。「立法措置をとることができる」という枝は正しいです。5条A(3)は、その弊害を防止するために実施権の強制的設定では十分でない場合に限り、特許の効力を失わせることについて規定できるとし、特許権の消滅又は特許の取消しのための手続は、実施権の最初の強制的設定の日から2年の期間が満了する前にはすることができないと定めます。まず強制実施権で弊害を解消させ、それでも変わらないときに初めて取消しに進ませる二段構えです。「2年の期間が満了する前には、することができない」という枝は正しく、「2年の期間が満了する前であってもすることができる」という枝は誤りです。5条A(1)は、特許権者がその特許を取得した国に、いずれかの同盟国で製造されたその特許に係る物を輸入しても特許は効力を失わないと定めます。輸入する物が非同盟国で製造された場合については、条約に規定がありません。

  • 強制実施権の立法各同盟国は立法措置をとることができます(5条A(2))。義務ではありません
  • 特許の効力を失わせる規定実施権の強制的設定では弊害の防止に十分でない場合に限り規定できます(5条A(3)前段)
  • 取消し・消滅の手続の時期実施権の最初の強制的設定の日から2年の期間が満了する前にはできません(5条A(3)後段)
  • 輸入と特許の効力いずれかの同盟国で製造された特許に係る物を輸入しても特許は効力を失いません(5条A(1))
  • 実用新案(1)から(4)までの規定は実用新案に準用されます(5条A(5))

不実施を理由とする強制実施権は出願の日から4年又は特許が与えられた日から3年の遅く満了する期間の満了前には請求できず、排他的なものにも単独での移転の対象にもなりません

5条A(4)は、実施がされず又は実施が十分でないことを理由とする実施権の強制的設定について、特許出願の日から4年の期間又は特許が与えられた日から3年の期間のうちいずれか遅く満了するものが満了する前には請求できないとし、特許権者がその不作為につきそれが正当であることを明らかにした場合には拒絶されると定めます。特許権者に実施の準備をする時間を保障し、正当な理由があれば不実施を責めないためです。「いずれか遅く満了するものが満了する前には、請求することができない」という枝は正しく、「正当であることを明らかにした場合には、拒絶される」という枝は正しいです。同じ項の後段は、強制的に設定された実施権は排他的なものであってはならず、企業又は営業の構成部分のうちその実施権の行使に係るものとともに移転する場合を除くほか、再実施権の許諾の形式によっても移転できないと定めます。強制実施権は公益のために特許権者の意思に反して設定されるものなので、特許権者自身の実施を妨げる排他的なものにはできず、実施権だけを切り離して売り買いすることも許されないからです。「当該実施権に基づく実施権の許諾の形式によっても、移転することができない」という枝は正しいです。日本では特許法83条の不実施の裁定がこの規定を受けており、「継続して3年以上」の不実施と出願の日から4年の経過を要件にしています。

横軸の時系列を中心にした図。先生が先生役(札「先生」)で横軸の上に立ち、指し棒で札を示している。横軸の左から順に札「特許出願の日」「特許が与えられた日」が立ち、「特許出願の日」から右へ伸びる線の先に札「4年」、「特許が与えられた日」から右へ

意匠の保護は不実施によっても物品の輸入によっても失われず、権利の存在を認めさせるために特許や登録の記号・表示を産品に付することも要求できません

5条Bは、意匠の保護は、その意匠の実施をしないことにより又は保護される意匠に係る物品を輸入することによっては失われないと定めます。意匠は特許のような技術の実施を国に根付かせる要請が弱いので、特許の5条Aのような強制実施権や取消しの仕組みは置かれていません。「意匠の実施をしないことにより当該意匠の保護を失わせることができる」という枝は誤りです。また、強制実施権の立法は特許についてさえ「できる」にとどまるので、意匠について「立法措置をとらなければならない」という枝は誤りです。5条Dは、権利の存在を認めさせるためには、特許の記号若しくは表示又は実用新案、商標若しくは意匠の登録の記号若しくは表示を産品に付することを要しないと定めます。禁じられるのは権利の存在を認めさせるための表示の要求だけなので、損害賠償の請求のような権利行使のために表示を要求することまで条約は禁じていません。権利行使のための表示の要求までできないと読むのは誤りです。

料金納付には少なくとも6箇月の猶予期間が認められ、一時的に又は偶発的に入った船舶・航空機・車両での使用は侵害になりません

5条の2(1)は、工業所有権の存続のために定められる料金の納付について少なくとも6箇月の猶予期間を認めると定め、国内法令が割増料金を納付すべきことを定めている場合には、それが納付されることを条件とします。「少なくとも」なので、国内法令で6箇月より長い猶予期間を定めることはできます。同条(2)は、料金の不納により効力を失った特許の回復について同盟国が定めることができるとし、回復の仕組みは国内法令に委ねています。日本では特許法112条の追納と112条の2の回復がこれに当たります。5条の3は、他の同盟国の船舶が一時的に又は偶発的に領水に入った場合に、その船舶の船体及び機械、船具、装備その他の附属物に関する特許発明をその船舶内で専らその船舶の必要のために使用すること、他の同盟国の航空機又は車両が一時的に又は偶発的に入った場合にその航空機若しくは車両又はその附属物の構造又は機能に関する特許発明を使用することは、特許権者の権利を侵害するものとは認められないと定めます。国境を越える交通手段に各国の特許が及ぶと国際交通が止まってしまうからです。航空機又は車両が「一時的であるか否かに関わらず」入った場合に侵害にならないという枝は誤りです。日本では特許法69条2項1号がこれを受けています。

港の岸壁の場面。先生が税関職員役(札「税関」)で岸壁に立ち、停泊中の外国船(船体に札「同盟国Yの船舶」)を指している。船の機械の部分に札「X国の特許の対象である発明」。向かいに男性(札「X国の特許権者」)が立ち、吹き出し「私の特許発明が船の

物の製造方法の特許が取得されている同盟国に輸入された物について、特許権者は国内で製造された物と同一の権利を享有します

5条の4は、ある物の製造方法について特許が取得されている同盟国にその物が輸入された場合には、特許権者は、輸入国で製造された物に関してその特許に基づきその国の法令によって与えられるすべての権利を、その輸入物に関して享有すると定めます。方法の特許は国外で実施されると追えないので、その方法で作った物が入ってきたときに、国内で作った物と同じ扱いができるようにしたものです。与える権利の中身は各国の法令次第で、国内法令が方法特許の効力を国内製造物の販売に及ぼしているなら、輸入物の販売にも及びます。「同盟国Xに輸入された物を、乙が同盟国Xで販売しているとき、甲の前記特許権は乙の販売行為についても及ぶ」という枝は正しいです。「その輸入物に関して享有する」という枝は正しいです。日本の特許法2条3項3号は、方法の発明の実施に「その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入」を含めてこの規定に応えています。TRIPS協定28条1項(b)は、方法特許の権利として、その方法により少なくとも直接的に得られた物の使用・販売・輸入を防止する権利を具体的に定めています。

パリ条約5条A

A (1) 特許は,特許権者がその特許を取得した国にいずれかの同盟国で製造されたその特許に係る物を輸入する場合にも,効力を失わない。
(2) 各同盟国は,特許に基づく排他的権利の行使から生ずることがある弊害,例えば,実施がされないことを防止するため,実施権の強制的設定について規定する立法措置をとることができる。
(3) (2)に規定する弊害を防止するために実施権の強制的設定では十分でない場合に限り,特許の効力を失わせることについて規定することができる。特許権の消滅又は特許の取消しのための手続は,実施権の最初の強制的設定の日から2年の期間が満了する前には,することができない。
(4) 実施権の強制的設定は,実施されず又は実施が十分でないことを理由としては,特許出願の日から4年の期間又は特許が与えられた日から3年の期間のうちいずれか遅く満了するものが満了する前には,請求することができないものとし,また,特許権者がその不作為につきそれが正当であることを明らかにした場合には,拒絶される。強制的に設定された実施権は,排他的なものであつてはならないものとし,また,企業又は営業の構成部分のうち当該実施権の行使に係るものとともに移転する場合を除くほか,当該実施権に基づく実施権の許諾の形式によつても,移転することができない。
(5) (1)から(4)までの規定は,実用新案に準用する。

パリ条約5条の2

工業所有権の存続のために定められる料金の納付については,少なくとも6箇月の猶予期間が認められる。ただし,国内法令が割増料金を納付すべきことを定めている場合には,それが納付されることを条件とする。
同盟国は,料金の不納により効力を失つた特許の回復について定めることができる。

パリ条約5条の3

次のことは,各同盟国において,特許権者の権利を侵害するものとは認められない。
1. 当該同盟国の領水に他の同盟国の船舶が一時的に又は偶発的に入つた場合に,その船舶の船体及び機械,船具,装備その他の附属物に関する当該特許権者の特許の対象である発明をその船舶内で専らその船舶の必要のために使用すること。
2. 当該同盟国に他の同盟国の航空機又は車両が一時的に又は偶発的に入つた場合に,その航空機若しくは車両又はその附属物の構造又は機能に関する当該特許権者の特許の対象である発明を使用すること。

試験ではこう問われる

  1. 強制実施権の立法措置は「とることができる」。意匠について「立法措置をとらなければならない」という枝は誤り
  2. 特許の効力を失わせる規定は実施権の強制的設定では十分でない場合に限る。取消しの手続は最初の強制的設定の日から2年の満了前はできず、「2年の期間が満了する前であってもすることができる」という枝は誤り
  3. 不実施を理由とする請求は出願の日から4年又は特許が与えられた日から3年の遅く満了する期間の満了前は不可。正当であることを明らかにすれば拒絶される
  4. 強制実施権は排他的なものであってはならず、企業又は営業の構成部分とともにする場合を除き再実施権の形式でも移転できない
  5. 意匠の保護は不実施でも物品の輸入でも失われない(5条B)。「意匠の実施をしないことにより当該意匠の保護を失わせることができる」という枝は誤り
  6. 5条Dが禁じるのは権利の存在を認めさせるための表示の要求だけ。権利行使のための要求までは禁じていない
  7. 料金納付の猶予期間は「少なくとも6箇月」。6箇月より長く定めることはできる
  8. 船舶・航空機・車両は「一時的に又は偶発的に」入った場合だけ。「一時的であるか否かに関わらず」という枝は誤り。方法特許は輸入物に国内製造物と同一の権利が及ぶ(5条の4)

この用語が問われた枝

平成28年度 問47 枝イ正しい

各同盟国は、特許に基づく排他的権利の行使から生ずることがある弊害、例えば、実施がされないことを防止するため、実施権の強制的設定について規定する立法措置をとることができる。

平成28年度 問47 枝ロ正しい

実施権の強制的設定は、実施がされず又は実施が十分でないことを理由としては、特許出願の日から4年の期間又は特許が与えられた日から3年の期間のうちいずれか遅く満了するものが満了する前には、請求することができないものとし、また、特許権者がその不作為につきそれが正当であることを明らかにした場合には、拒絶される。

平成28年度 問47 枝ハ正しい

各同盟国は、特許に基づく排他的権利の行使から生ずることがある弊害を防止するために実施権の強制的設定では十分でない場合に限り、特許の効力を失わせることについて規定することができるが、特許権の消滅又は特許の取消しのための手続は、実施権の最初の強制的設定の日から2年の期間が満了する前には、することができない。

平成28年度 問47 枝ニ正しい

不実施又は不十分な実施を理由として強制的に設定された実施権は、排他的なものであってはならないものとし、また、企業又は営業の構成部分のうち当該実施権の行使にかかるものとともに移転する場合を除くほか、当該実施権に基づく実施権の許諾の形式によっても、移転することができない。

枝ごとの解説と条文は肢別演習で読めます。

条約を肢別演習で解く

この用語で問われた枝を、解説つきでそのまま解けます。

関連する用語

パリ条約

パリ条約の総則(1条・12条・19条)

パリ条約の総則とは、この条約が適用される国が工業所有権の保護のための同盟を形成することと、工業所有権の保護の対象・...
TRIPS協定

特許権の内容・存続期間・取消し・方法特許の立証責任(28条・32〜34条)

特許権の内容・存続期間・取消し・方法特許の立証責任とは、TRIPS協定が特許権者に与える排他的権利の中身(28条)...
TRIPS協定

強制実施権(他の使用 31条)と医薬品輸出の特例(31条の2・附属書)

強制実施権(他の使用)とは、TRIPS協定31条が、加盟国の国内法令で特許権者の許諾を得ていない特許の対象の使用(...
パリ条約

特許独立の原則(4条の2)と発明者掲載権・販売制限(4条の3・4条の4)

特許独立の原則とは、同盟国の国民が各同盟国において出願した特許は、他の国(同盟国であるか否かを問わない。)において...
パリ条約

商標に関するその他の規定(5条C・D、6条、6条の4、6条の6、7条、7条の2、8条)

商標に関するその他の規定とは、パリ条約が商標について置いている、不使用による登録の失効の条件(5条C)、登録の条件...