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職務著作とは?著作権法15条の5要件と特許法35条の職務発明との違い

著作権法・不正競争防止法 読了 約10分

弁理士試験短答式の職務著作(著作権法15条)のまとめ。法人等の発意・業務に従事する者・職務上の作成・法人名義での公表(プログラムは不要)・別段の定めの5要件、法人等が著作者人格権まで持つ効果、53条の保護期間、特許法35条の職務発明との違いを表で整理します。

職務著作は、短答式の著作権・不正競争防止法10問のなかで「著作者は誰か」を問う枝の定番です。条文は15条の2項だけですが、要件が5つあり、しかもプログラムの著作物だけ要件が1つ少ないという作りになっています。さらに、特許法35条の職務発明と名前が似ているため、職務発明の知識を持ち込んで誤る受験生が少なくありません。

結論から言うと、職務著作の枝は「5つの要件がそろっているか(プログラムは法人名義の公表が不要)」「そろえば法人等が著作者になり、著作権だけでなく著作者人格権も最初から法人等が持つ」「保護期間は死亡時ではなく公表時が基準(53条)」の3段で読むと整理できます。職務発明との違いは「誰が創作者として扱われるか」の一点から出てきます。職務発明では発明者はあくまで従業者で、使用者は特許を受ける権利を取得する立場にとどまります。

この記事では、15条の要件を1つずつ確認し、効果と保護期間、映画の著作物との関係、職務発明との比較、短答で狙われる型の順に整理します。条文はe-Gov法令検索の著作権法・特許法の原文(著作権法は令和8年6月24日施行分までを反映した現行条文)で確認しています。科目全体の優先順位は「著作権法・不正競争防止法の短答対策」で扱っています。

職務著作の条文(15条1項・2項)

著作権法は、著作物を創作する者を著作者とし(2条1項2号)、著作者が著作者人格権と著作権を享有すると定めています(17条1項)。つまり原則は「実際に作った個人が著作者」です。15条はこの原則の例外で、一定の要件を満たすと、実際に作った従業者ではなく、法人等が著作者になります。

15条1項は、プログラム以外の著作物について次のように定めます。

法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。

15条2項は、プログラムの著作物について、1項から「その法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」を除いた形で同じことを定めています。

要件 1項(プログラム以外) 2項(プログラム)
法人等の発意に基づくこと 必要 必要
法人等の業務に従事する者が作成すること 必要 必要
職務上作成すること 必要 必要
法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの 必要 不要
作成の時の契約・勤務規則その他に別段の定めがないこと 必要 必要
職務著作の5要件と、プログラムの著作物の違い
職務著作の5要件と、プログラムの著作物の違い

要件を1つずつ読む

法人等の発意に基づくこと

「法人等」は「法人その他使用者」です。法人に限らず、個人事業主のような使用者も含まれます。また2条6項により、法人格を有しない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものも「法人」に含まれます。

職務著作になるには、その著作物を作るという意思決定が法人等の側から出ていることが必要
職務著作になるには、その著作物を作るという意思決定が法人等の側から出ていることが必要

「発意に基づき」とは、その著作物を作ろうという意思決定が法人等の側から出ていることを指します。上司の指示や業務命令で作成したものが典型です。従業者が自分の思いつきで勝手に作ったものは、この要件を欠く方向に働きます。

法人等の業務に従事する者が作成すること

作成するのは「その法人等の業務に従事する者」です。雇用関係にある従業者が典型ですが、条文は「雇用する者」とは書いていません。短答では、この文言をそのまま覚えておけば足ります。「雇用契約を締結している者に限られる」と言い切る枝には注意が必要です。

職務上作成すること

「職務上作成する」とは、その者の職務として作成することです。業務時間外に自宅で趣味として書いた小説は、たとえ従業者が作ったものでも、職務上の作成ではありません。

ここで特許法35条との違いが1つ出ます。職務発明は「その使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明」とされ、過去の職務も含みます。15条は「職務上作成する著作物」であり、作成の時点での職務が基準です。

法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの

1項の著作物は、法人等が自己の著作の名義の下に公表するものでなければなりません。会社名で発行するパンフレットや報告書が典型です。反対に、従業者個人の氏名を著作者として表示して公表するものは、この要件を満たしません。

プログラム以外は法人等の名義で公表するものであることが必要だが、プログラムの著作物にはこの要件がない
プログラム以外は法人等の名義で公表するものであることが必要だが、プログラムの著作物にはこの要件がない

条文は「公表するもの」と書いており、「公表したもの」とは書いていません。「法人等の名義で公表したものに限る」と過去形に言い換えた枝は、条文の文言とずれています。

プログラムの著作物(2項)には、この要件がありません。 業務用のプログラムは社内で使うだけで公表されないことが多く、公表されても作成者の名義を表示しないのが普通だからです。社内システムのプログラムを従業者が職務上作成すれば、公表の有無や名義に関係なく、法人等が著作者になり得ます。

作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがないこと

上の要件がそろっていても、作成の時における契約、勤務規則その他に「従業者を著作者とする」といった別段の定めがあれば、法人等は著作者になりません。基準時は「作成の時」です。作成した後に契約で「著作者を法人とする」と定めても、15条の効果は生じません。

別段の定めは作成の時が基準なので、作成した後に契約しても職務著作の効果は変わらない
別段の定めは作成の時が基準なので、作成した後に契約しても職務著作の効果は変わらない

この要件は、職務発明と向きが逆になっている点に注意します。職務著作は「別段の定めがない限り法人等が著作者」なので、何も定めていなければ法人等が著作者です。これに対し、職務発明で使用者等が最初から特許を受ける権利を持つには、契約や勤務規則であらかじめ使用者等に取得させることを定めておく必要があります(特許法35条3項)。

職務著作の効果

法人等が著作者になり、著作者人格権も持つ

15条の要件を満たすと、著作者は法人等です。著作者は著作者人格権と著作権を享有するので(17条1項)、法人等は著作権だけでなく、公表権・氏名表示権・同一性保持権という著作者人格権も最初から持ちます。

ここが短答で最も狙われる点です。「職務著作の場合、著作権は法人等に帰属するが、著作者人格権は実際に作成した従業者に残る」という枝は誤りです。15条は著作権の帰属ではなく著作者そのものを法人等とする規定だからです。著作者人格権は一身専属で譲渡できない(59条)ので、仮に従業者が著作者であれば、法人等が著作権の譲渡を受けても、著作者人格権は従業者に残ります。著作者人格権の内容は「著作者人格権の3つの権利と例外」で整理しています。

職務著作では法人等が著作者になるので、著作権だけでなく著作者人格権も最初から法人等が持つ
職務著作では法人等が著作者になるので、著作権だけでなく著作者人格権も最初から法人等が持つ

また、17条2項により、著作者人格権と著作権の享有には方式の履行を要しません。職務著作について登録や届出をしなくても、要件を満たせば法人等が著作者です。

保護期間は公表後70年(53条)

著作権の保護期間は、原則として著作者の死後70年です(51条2項)。しかし法人等には「死亡」がないので、53条が別の基準を置いています。

法人等が著作者の著作物の保護期間は、死亡ではなく公表を基準に70年で、翌年から数える
法人等が著作者の著作物の保護期間は、死亡ではなく公表を基準に70年で、翌年から数える
  • 53条1項:法人その他の団体が著作の名義を有する著作物の著作権は、その著作物の公表後70年(創作後70年以内に公表されなかったときは、創作後70年)を経過するまで存続する
  • 53条3項:15条2項により法人その他の団体が著作者である著作物(名義の要件がないプログラム)は、団体名義の著作物に当たらないものでも、当該団体が著作の名義を有するものとみなして1項を適用する

プログラムは法人名義で公表されないことも多いので、3項がなければ53条1項の「団体が著作の名義を有する著作物」に当たらない場合が出てきます。3項は、そうしたプログラムにも公表後70年の基準を当てはめるための規定です。

期間の計算は57条により、公表された日又は創作された日の属する年の翌年から起算します。たとえば令和8年中に公表した法人名義の著作物は、令和9年1月1日から数えて70年を経過するまで存続します。

なお53条2項は、団体名義の著作物の著作者である個人が、期間内に実名又は周知の変名を著作者名として表示して公表したときは1項を適用しないと定めています。これは著作者が個人である団体名義の著作物の話で、法人等が著作者となる職務著作とは場面が違います。

映画の著作物との関係(16条・29条)

映画の著作物の著作者は、原則として、制作・監督・演出・撮影・美術等を担当して全体的形成に創作的に寄与した者です(16条本文)。ただし16条ただし書は「前条の規定の適用がある場合は、この限りでない」としており、15条の職務著作が優先します。映画会社の従業者が職務上制作し、会社名義で公表する映画は、会社が著作者です。

職務著作に当たる映画は15条が優先し、16条・29条ではなく会社そのものが著作者になる
職務著作に当たる映画は15条が優先し、16条・29条ではなく会社そのものが著作者になる

29条1項(映画製作者への著作権の帰属)は、括弧書きで「第十五条第一項、次項又は第三項の規定の適用を受けるもの」を除いています。職務著作に当たる映画は、29条ではなく15条で処理されます。16条・29条の場合は著作者は監督等のままで著作権だけが映画製作者に移るのに対し、15条の場合は著作者そのものが法人等になる、という違いが枝になります。

職務発明(特許法35条)との比較

職務著作と職務発明は、どちらも「従業者が職務として生み出した成果を使用者側にどう帰属させるか」という規定ですが、組み立ては大きく違います。

項目 職務著作(著作権法15条) 職務発明(特許法35条)
創作者として扱われる者 法人等(著作者そのもの) 従業者等(発明者は自然人のまま)
対象の範囲 法人等の発意・職務上の作成 使用者等の業務範囲に属し、従業者等の現在又は過去の職務に属する発明
名義の要件 法人等の名義で公表するもの(プログラムは不要) なし
権利が使用者側に来る条件 作成時に別段の定めがなければ当然に法人等 契約・勤務規則等であらかじめ定めたとき、特許を受ける権利は発生時から使用者等に帰属(35条3項)
定めがない場合 法人等が著作者 特許を受ける権利は従業者等。使用者等は特許権について通常実施権(35条1項)
人格的な権利 著作者人格権も法人等 願書には発明者の氏名を記載(36条1項2号)
従業者への見返り 規定なし 相当の金銭その他の経済上の利益を受ける権利(35条4項)
職務著作と職務発明の比較
職務著作と職務発明の比較

特に次の3点が入れ替えの対象になります。

  1. 定めの向き。職務著作は「定めがなければ法人等」、職務発明は「定めがなければ従業者等」。職務発明で使用者等に特許を受ける権利を原始的に帰属させるには、あらかじめの定めが必要です
  2. 見返りの有無。特許法35条4項の「相当の利益」に当たる規定は、著作権法15条にはありません。「職務著作の場合、従業者は相当の利益を受ける権利を有する」という枝は誤りです
  3. 職務の範囲。職務発明は過去の職務に属する発明も含みますが、職務著作は作成時の職務上の作成です

特許法35条の要件と、相当の利益の決め方(5項〜7項)は「職務発明(特許法35条)の要件と相当の利益」で詳しく扱っています。

短答の枝ではこう問われる

本試験と同じ形の枝を、条文から書き起こしました(過去問そのものではありません)。

例題 職務著作に関し、正しいものはどれか。

  • イ 法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作権は、法人等に帰属するが、著作者人格権は当該著作物を作成した従業者が有する。
  • ロ 法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物は、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものでなければ、その法人等が著作者となることはない。
  • ハ 職務著作の要件を満たす著作物であっても、作成後に締結した契約において従業者を著作者とする旨を定めれば、その従業者が著作者となる。
  • ニ 15条2項の規定により法人が著作者であるプログラムの著作物の著作権は、当該法人が著作の名義を有するものとみなして、その公表後70年(創作後70年以内に公表されなかったときは、創作後70年)を経過するまでの間、存続する。
  • ホ 職務著作に該当する著作物を作成した従業者は、法人等から相当の金銭その他の経済上の利益を受ける権利を有する。

正解はニです(53条1項・3項)。イは15条により著作者そのものが法人等になるので、著作者人格権も法人等が持ちます。ロは15条2項に名義の要件がありません。ハは別段の定めの基準時が「作成の時」です。ホの相当の利益は特許法35条4項の規定で、著作権法15条にはありません。

このほか、次のような入れ替えも出ます。

  • 「職務著作の保護期間は、作成した従業者の死後70年」→ 誤り。53条1項により公表後70年
  • 「映画の著作物は、16条により常に監督等が著作者となる」→ 誤り。16条ただし書により15条の適用があれば法人等
  • 「職務著作に該当するためには、法人等への登録が必要」→ 誤り。17条2項により方式の履行を要しない

個数問題で出されたときは、枝ごとに「どの要件の話か」を先に特定すると迷いません。手順は「短答の個数問題の解き方」で整理しています。

学習の進め方

職務著作は条文が短いので、15条1項を一度声に出して読み、5つの要件に線を引くところから始めます。そのうえで、2項との違い(名義の要件の有無)と、53条1項・3項の保護期間をセットで覚えます。

次に、特許法35条を横に置いて比較表を自分で書きます。特に「定めがない場合に誰に帰属するか」と「相当の利益の有無」は、両方の条文を読んでいれば迷いません。特許法の学習で35条を読むときに、著作権法15条を余白に書き込んでおくと、2つの科目の知識が同時に定着します。

著作物の利用側の論点である権利制限規定は「著作権法の権利制限規定一覧」で扱っています。

まとめ

  • 職務著作(15条)の要件は、法人等の発意、業務に従事する者、職務上の作成、法人等の名義での公表、作成時に別段の定めがないこと
  • プログラムの著作物(15条2項)は、法人等の名義で公表するという要件が不要
  • 要件を満たすと法人等が著作者になり、著作権だけでなく著作者人格権も法人等が持つ
  • 別段の定めの基準時は「作成の時」。作成後の契約では変わらない
  • 保護期間は公表後70年(創作後70年以内に公表されなければ創作後70年)。プログラムは53条3項で同じ扱い。翌年起算(57条)
  • 映画の著作物は、16条ただし書・29条1項括弧書により15条が優先する
  • 職務発明(特許法35条)は発明者が従業者のままで、使用者等への原始帰属にはあらかじめの定めが必要。相当の利益の規定は職務著作にはない

法域別の足切りとこの科目の目標点は「短答式の合格基準と科目別足切り」で確認してください。

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