特許法167条の一事不再理|当事者・参加人と同一の事実・証拠を整理
弁理士試験短答式の一事不再理(特許法167条)を整理。対象は無効審判と延長登録無効審判の確定審決、拘束されるのは当事者及び参加人(平成23年改正で「何人も」から変更)、同一の事実及び同一の証拠の意味、確定審決の登録が要件でなくなった点、異議申立てに準用がないこと、意匠法52条・商標法56条の準用まで扱います。
一事不再理は、特許法167条のたった1か条です。条文は短いのに、短答では毎年のように枝が作られます。理由は、平成23年の改正で条文の主語と要件が大きく変わり、改正前の知識のまま覚えている受験生を落とす枝が作りやすいからです。「何人も」なのか「当事者及び参加人」なのか、「確定審決の登録」が要件なのか、どの審判に働くのかを正確に押さえておく必要があります。
結論から言うと、一事不再理の枝は「どの審判の、どの審決が確定したとき」「誰が」「何に基づいて」請求できなくなるのかの3点で読むと整理できます。対象は特許無効審判と延長登録無効審判の確定審決、拘束されるのは当事者及び参加人、禁止されるのは同一の事実及び同一の証拠に基づく請求です。第三者は拘束されず、異議の申立てには一事不再理の規定がありません。
条文はe-Gov法令検索の特許法原文で確認しています。審判制度全体の中での位置づけは「特許法の審判の種類」で扱っているので、この記事では167条だけを深掘りします。
167条の条文を3つに分ける
167条は、「特許無効審判又は延長登録無効審判の審決が確定したときは、当事者及び参加人は、同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない」と定めています。
| 要素 | 条文の文言 | 短答で差し替えられる部分 |
|---|---|---|
| いつ | 特許無効審判又は延長登録無効審判の審決が確定したとき | 拒絶査定不服審判・訂正審判の審決、異議の決定にすり替える。「確定審決の登録があったとき」にすり替える |
| 誰が | 当事者及び参加人 | 「何人も」「利害関係人」にすり替える |
| 何を | 同一の事実及び同一の証拠に基づく同じ審判の請求 | 「同一の事実又は同一の証拠」にすり替える。別の証拠を加えた請求も禁止されるとする |
条文:特許法167条(e-Gov法令検索)
対象は無効審判と延長登録無効審判だけ
一事不再理が働くのは、特許無効審判(123条)と延長登録無効審判(125条の2・125条の3)の審決が確定したときです。拒絶査定不服審判(121条)や訂正審判(126条)には167条の適用がありません。拒絶査定不服審判は出願人と特許庁の間の手続で、第三者との紛争を蒸し返す場面がないからです。

特許異議の申立て(113条)にも一事不再理はありません。120条の8第1項が審判の規定を準用していますが、その中に167条は含まれていません。維持決定が確定した後でも、申立人や第三者は同じ事実と証拠に基づいて無効審判を請求できます。異議の手続全体は「特許異議の申立て」で整理しています。
「審決が確定したとき」であって登録は要件でない
平成23年改正前の167条は、「確定審決の登録があったとき」を要件にしていました。改正で登録の要件が外れ、審決が確定した時点から一事不再理が働くことになりました。「確定審決の登録があるまでは、同一の事実及び同一の証拠に基づいて請求できる」とする枝は、現行法では誤りです。

実務上問題になるのは、請求が成り立たないとした審決(請求不成立の審決)が確定した場面です。無効審決が確定すれば特許権は初めからなかったものとみなされる(125条)ので、重ねて無効審判を請求する余地がそもそもなくなります。
「何人も」から「当事者及び参加人」へ
平成23年改正前の167条は、確定審決の登録後は「何人も」同一の事実及び同一の証拠に基づいて審判を請求できないとしていました。審判に関与しておらず、主張や立証の機会がなかった第三者まで拘束する規定でした。
改正後は、拘束されるのは「当事者及び参加人」です。審判に関与した者には蒸し返しを認めず、関与しなかった第三者には改めて争う道を残しています。
| 項目 | 平成23年改正前 | 現行法 |
|---|---|---|
| 拘束される者 | 何人も | 当事者及び参加人 |
| 要件となる時点 | 確定審決の登録があったとき | 審決が確定したとき |
| 第三者の同一事実・同一証拠による請求 | できない | できる |
条文:特許法167条(e-Gov法令検索)
当事者と参加人の範囲
当事者は、無効審判の請求人と被請求人(特許権者)です。参加人は、148条の参加をした者で、請求人として参加した者(148条1項)と、当事者の一方を補助するために参加した者(同条3項)の両方を含みます。

参加を申請したが拒否された者は参加人ではないので、拘束されません。また、確定審決の当事者から特許権を譲り受けた者や、請求人の関係会社など、形式上の当事者でない者は、条文の文言上は拘束の対象に入りません。短答の枝では「無効審判の請求人の関連会社は、同一の事実及び同一の証拠に基づいて請求できない」のように、文言から外れた者を拘束する形で誤りを作ります。
「同一の事実及び同一の証拠」の意味
事実と証拠の両方が同一であることが必要
条文は「同一の事実及び同一の証拠」としています。「及び」なので、事実と証拠の両方が同一であるときに初めて請求が禁止されます。

- 同一の事実とは、無効理由を根拠づける具体的な事実のことです。たとえば「ある刊行物に記載された発明と同一であるから新規性がない」という主張の、その刊行物に基づく新規性欠如という事実です
- 同一の証拠とは、その事実を証明するための証拠方法のことです。同じ刊行物、同じ実験報告書などが典型です
同じ新規性欠如の無効理由でも、別の刊行物を証拠にすれば「同一の証拠」ではなく、請求は妨げられません。逆に、同じ刊行物を使っても、新規性欠如ではなく進歩性欠如を主張するなら「同一の事実」ではありません。
実質的に同一かどうかで判断する
証拠の同一性は、形式的に同じ文書かどうかだけでは決まりません。確定審決で判断された証拠に、判断に影響を与えない程度の資料を付け加えただけの請求は、実質的に同一の証拠に基づくものとして一事不再理に触れると考えられています。一方で、新たな主要な証拠を加え、確定審決の判断の前提を変えるような請求であれば、同一の証拠に基づくものとはいえません。
どこまでが「実質的に同一」かは事案ごとの判断になるため、短答では「及び」の読み方と、別証拠・別事実なら請求できるという原則の方が問われます。
一事不再理に触れる請求の扱い
同一の事実及び同一の証拠に基づいて当事者や参加人が再び無効審判を請求した場合、その請求は不適法なものとして扱われます。審判請求が不適法で補正できないときは、被請求人に答弁書を提出する機会を与えないで、審決をもって却下できます(135条)。本案に入って「無効理由がない」と判断するのではなく、入口で退ける構造です。

一事不再理は、審判の請求ができないという効果であって、無効理由自体を消すものではありません。拘束されない第三者が同じ事実と証拠で請求すれば、改めて審理されます。
審決取消訴訟との関係
審決が確定するまでは働かない
一事不再理は「審決が確定したとき」に働きます。審決に対して審決取消訴訟(178条)が提起されている間は、審決は確定していません。訴えの提起期間(審決の謄本の送達があった日から30日。178条3項)が経過するか、訴訟で請求が棄却されて判決が確定したときに、審決が確定します。
請求不成立の審決を取り消す判決が確定したときは、審判官は改めて審理を行い、審決をします(181条2項)。この場合、元の審決は取り消されているので確定審決ではなく、一事不再理の問題は生じません。
取消判決の拘束力とは別の制度
審決取消判決が確定すると、特許庁はその判決の判断に拘束されます(行政事件訴訟法33条1項)。これは裁判所の判決が行政庁を拘束する効力で、当事者と参加人の再請求を禁止する一事不再理とは別の制度です。短答で「審決取消判決が確定したときは、一事不再理により特許庁は同じ判断をすることができない」のように2つを混ぜた枝が出たら、根拠の違いに注意します。
審決の確定の単位(167条の2)
平成23年改正で167条の2が新設され、審決は審判事件ごとに確定すること、請求項ごとに無効審判が請求された場合には請求項ごとに確定することが定められました。一群の請求項ごとに訂正の請求がされたときは、その一群の請求項ごとに確定します。

一事不再理も、確定した単位で働きます。複数の請求項について無効審判が請求され、一部の請求項について先に審決が確定したときは、その請求項に係る審決についてだけ167条の効果が生じます。訂正の請求と一群の請求項の扱いは「特許法の審判の種類」の訂正の項目も参照してください。
他の法律への準用
| 法律 | 条文 | 対象となる審判 |
|---|---|---|
| 実用新案法 | 41条(特許法167条を準用) | 実用新案登録無効審判 |
| 意匠法 | 52条(特許法167条を準用) | 意匠登録無効審判 |
| 商標法 | 56条1項(特許法167条を準用) | 商標登録無効審判、不使用取消審判などの取消審判 |
条文:実用新案法41条、意匠法52条、商標法56条1項(e-Gov法令検索)
商標法では、無効審判だけでなく、50条の不使用取消審判や51条・53条の取消審判にも準用されます。意匠法と商標法の準用は、特許法の条文を読み替えて適用する形なので、拘束されるのが当事者及び参加人である点、同一の事実及び同一の証拠である点は共通です。
四法対照でこの条文を並べると、特許法167条の改正が他の三法にもそのまま反映されていることが確認できます。準用の読み方は「条文の覚え方」で扱っています。
短答の枝ではこう問われる
本試験と同じ形の枝を、条文から書き起こしました(過去問そのものではありません)。
例題 一事不再理に関し、正しいものはどれか。
- イ 特許無効審判の審決が確定したときは、何人も、同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない。
- ロ 特許無効審判の審決が確定したときは、当事者及び参加人は、同一の事実又は同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない。
- ハ 拒絶査定不服審判の審決が確定したときは、当事者は、同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない。
- ニ 特許無効審判の審決が確定したときは、当事者及び参加人は、確定審決の登録がされる前であっても、同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない。
- ホ 特許を維持すべき旨の決定が確定したときは、特許異議申立人は、同一の事実及び同一の証拠に基づいて特許無効審判を請求することができない。
正しいのはニです。イは拘束されるのが「当事者及び参加人」なので誤り、ロは「同一の事実及び同一の証拠」なので誤り、ハは拒絶査定不服審判に167条の適用がないので誤り、ホは異議の決定に一事不再理がないので誤りです。ニは、現行法が審決の確定を要件とし、登録を要件としていないので正しい枝です。
学習の進め方
167条は、改正前の条文との対比で覚えると定着します。「何人も→当事者及び参加人」「確定審決の登録→審決の確定」の2つの変更を、改正の理由(審判に関与しなかった者の手続保障)とセットで押さえます。
次に、167条が適用される審判とされない審判を分けます。無効審判と延長登録無効審判には適用あり、拒絶査定不服審判・訂正審判・異議の申立てには適用なし、という線引きを白紙に書けるようにします。最後に、意匠法52条と商標法56条1項の準用を四法対照で確認します。
審判全体の学習順序は「特許法・実用新案法の学習法」を、過去問の回し方は「短答式の過去問の使い方」を参照してください。
まとめ
- 167条の一事不再理は、特許無効審判と延長登録無効審判の審決が確定したときに働く。拒絶査定不服審判・訂正審判・異議の申立てには適用がない
- 拘束されるのは当事者及び参加人。平成23年改正で「何人も」から変わり、第三者は同じ事実と証拠で請求できる
- 要件は審決の確定であって、確定審決の登録ではない
- 禁止されるのは「同一の事実及び同一の証拠」に基づく請求。別の証拠や別の無効理由なら請求できる
- 一事不再理に触れる請求は不適法として却下され得る(135条)。審決取消判決の拘束力(行政事件訴訟法33条)とは別の制度
- 実用新案法41条、意匠法52条、商標法56条1項で準用される
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