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新規性喪失の例外(特許法30条)|1年・30日・証明書を整理

特許法・実用新案法 読了 約10分

弁理士試験短答式の特許法30条。新規性喪失の例外を、意に反する公開(1項)と自己の行為に起因する公開(2項)、平成30年改正の1年、書面と30日以内の証明書(3項・4項)、他人の出願との関係、優先権やPCTを使う場合の扱い、実用新案法11条・意匠法4条との比較で整理します。

新規性喪失の例外は、特許要件の中でも短答で繰り返し問われる規定です。条文は30条の4項だけですが、1項と2項で要件と手続が違い、期間は平成30年の改正で延びています。さらに、優先権や分割出願と組み合わせたときの「1年」の数え方、意匠法4条との違いまで広げた枝が作られます。

結論から言うと、30条の枝は「誰が公開したか(1項か2項か)」「いつまでに出願したか(1年)」「何を出したか(書面と証明書)」「何が救われないか」の4点で読むと判断が速くなります。特に最後の「何が救われないか」は見落とされがちです。30条が救うのは29条1項・2項の新規性・進歩性の判断だけで、出願日が遡るわけでも、他人の出願に勝てるわけでもありません。

条文はe-Gov法令検索の特許法・特許法施行規則・実用新案法・意匠法の原文で、運用は特許庁の審査基準と公表資料で確認しています。

30条の構造

30条2項の適用を受けるまでの流れ
30条2項の適用を受けるまでの流れ
項 内容
1項 特許を受ける権利を有する者の意に反して29条1項各号に該当するに至った発明は、該当するに至った日から1年以内にその者がした特許出願について、29条1項・2項の適用上、該当するに至らなかったものとみなす
2項 特許を受ける権利を有する者の行為に起因して29条1項各号に該当するに至った発明(特許・実用新案・意匠・商標の公報に掲載されたことによるものを除く)も、1年以内の出願について1項と同様とする
3項 2項の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を特許出願と同時に提出し、証明書を特許出願の日から30日以内に提出しなければならない
4項 責めに帰することができない理由により30日以内に証明書を提出できないときは、理由がなくなった日から14日(在外者は2月)以内で、期間の経過後6月以内に提出できる

効果の書き方は「同項及び同条第二項の規定の適用については、同条第一項各号のいずれかに該当するに至らなかつたものとみなす」です。対象は29条1項(新規性)と2項(進歩性)で、公開された発明はその出願の審査で引用発明になりません。

期間は1年(平成30年改正)

期間は、以前は6か月でした。特許庁によれば、平成30年5月30日に公布された改正法により30条の期間は6か月から1年に延長され、改正後の30条は平成30年6月9日に施行され、同日以降の出願に適用されます。ただし、平成29年12月8日までに公開された発明については、同日以降に出願しても改正後の30条は適用されません。この改正は期間を延ばすためのもので、その他の点に変更はないとされています。実用新案法も特許法を準用しているので、同じく1年に延長されています。

新規性喪失の例外の期間は平成30年改正で6か月から1年に延び、公開された日から数える
新規性喪失の例外の期間は平成30年改正で6か月から1年に延び、公開された日から数える

出典:特許庁「発明の新規性喪失の例外期間が6か月から1年に延長されます」、特許庁「発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手続について」(令和6年9月10日更新)

1年の起算点は、条文上「該当するに至つた日」、つまり公開された日です。終点は「その者がした特許出願」の日で、ここが優先権や分割と組み合わせたときに問題になります(後述)。

意に反する公開(1項)と自己の行為による公開(2項)

1項は手続がいらない

1項は、権利者の意に反して公開された場合です。3項の書面と証明書の提出は「前項の規定の適用を受けようとする者」、つまり2項についての手続なので、1項には出願時の手続がありません。

意に反する公開(1項)には出願時の書面や証明書の手続がなく、審査で意見書などにより説明する
意に反する公開(1項)には出願時の書面や証明書の手続がなく、審査で意見書などにより説明する

その代わり、審査で意に反する公開であることを主張する必要があります。審査基準は、出願人から提出された意見書・上申書等によって、発明が公開された日から1年以内に出願されたことと、権利者の意に反して発明が公開されたことが合理的に説明されているかを判断するとしています。意に反する例として、守秘義務が課されていたのに公開者が公開した場合や、権利者以外の者が窃盗・詐欺・強迫その他の不正の手段により公開した場合を挙げています。

2項は「行為に起因」、ただし公報掲載は除く

2項は、権利者の行為に起因して公開された場合です。学会発表、論文、ウェブサイト、展示会、販売などが典型で、権利者から依頼を受けた者が公開した場合も含みます。ただし、特許・実用新案・意匠・商標の公報に掲載されたことにより公開された場合は除かれます。自分の特許出願が出願公開された後に、同じ発明を改めて出願して30条を使うことはできません。

学会発表や展示会など自己の行為による公開は2項の対象だが、公報に掲載されたことによる公開は除かれる
学会発表や展示会など自己の行為による公開は2項の対象だが、公報に掲載されたことによる公開は除かれる

審査基準は、公開後1年以内に特許を受ける権利を承継した者が出願した場合も、1項・2項が適用されるとしています。

出典:特許庁「特許・実用新案審査基準」第Ⅲ部第2章第5節(現行の同節は令和2年12月改訂のもの。令和8年9月26日確認)

手続は書面と30日以内の証明書

書面は出願と同時、証明書は30日以内

3項は、2項の適用を受けたい旨を記載した書面を特許出願と「同時に」提出し、証明書を特許出願の日から30日以内に提出することを求めています。書面は、願書にその旨を記載すれば提出を省略できます(施行規則27条の4第1項)。出願後に「やはり30条を使いたい」と書面を追加することはできない点が、優先権主張書面(出願後も一定期間は追加できる)との違いです。

2項の適用を受けるには、書面を特許出願と同時に、証明書を出願の日から30日以内に提出する
2項の適用を受けるには、書面を特許出願と同時に、証明書を出願の日から30日以内に提出する

4項の救済は、責めに帰することができない理由がある場合に限られ、理由がなくなった日から14日(在外者は2月)以内、かつ30日の経過後6月以内です。

公開が複数あるとき

権利者が同じ発明を何度も公開した場合、2項の適用を受けるためには、原則としてそれぞれの公開について証明書が必要です。審査基準は、証明書に基づいて2項の適用が認められた発明と同一又は同一とみなせること、その公開と密接に関連する公開か権利者側でない者による公開であること、その公開以降の公開であること、の3つをすべて満たすと証明された場合には、証明書がなくても適用を受けられるとしています。例として、同じ学会の巡回講演の2回目以降、出版社サイトへの先行掲載と雑誌掲載、同じ取引先への複数回の納品、記者会見とその新聞掲載などが挙げられています。

出典:特許庁「特許・実用新案審査基準」第Ⅲ部第2章第5節

後で見るとおり、意匠法ではこの点が条文で緩和されており、特許法との違いとして出題されます。

30条で救われないもの

出願日は遡らない

30条は、公開された発明を新規性・進歩性の判断で引用しないという効果だけを持ちます。出願日が公開日に遡るわけではありません。したがって、公開から出願までの間に生じた他の事情は、30条では消えません。

他人の出願には勝てない

公開から自分の出願までの間に、他人が同じ発明を特許出願していた場合を考えます。30条が「適用しない」とするのは29条1項・2項だけで、39条(先願)と29条の2(拡大先願)は対象外です。そのため、他人の先行出願との関係は、通常どおり出願日の先後で判断されます。

30条が救うのは29条1項・2項だけで、他人の先行出願との関係は出願日の先後で判断される
30条が救うのは29条1項・2項だけで、他人の先行出願との関係は出願日の先後で判断される

同じく、公開から出願までの間に、他人が独自に同じ発明を公開した場合も、その公開は「権利者の意に反して」でも「権利者の行為に起因して」でもないので、30条の対象になりません。「30条の適用を受ければ、公開日から出願日までの間に公知となった発明は、すべて引用されない」とする枝は誤りです。

設例で確かめる

次の3つの設例で、30条が効く場面と効かない場面を分けてみます。いずれも、甲が発明Aの特許を受ける権利を有し、学会で発明Aを発表したとします。

設例 30条2項の適用 理由
甲が発表から10か月後に出願し、出願と同時に書面、出願から20日後に証明書を提出した 受けられる 1年以内の出願、3項の手続も期間内
甲が発表から10か月後に出願したが、書面を出願の2週間後に提出した 受けられない 書面は特許出願と「同時に」提出しなければならない(4項の救済は証明書だけが対象)
甲の発表の3か月後に、乙が独自に完成した発明Aを出願し、その後甲が出願した 甲の発表は引用されないが、乙の出願との関係は残る 30条は29条1項・2項だけに効き、39条・29条の2の判断は出願日の先後による

3つ目の設例では、乙の出願も甲の発表より後なので、乙の発明Aは甲の発表によって新規性を失っています。それでも、甲の出願の審査で乙の出願がどう扱われるかは、30条とは別に39条・29条の2の要件で判断することになります。30条だけで結論を出そうとしないことが、この種の枝を解くコツです。

優先権・分割・PCTと組み合わせたとき

「公開の日から1年以内に出願したか」を判断する出願日は、出願の種類で変わります。審査基準は次のように扱うとしています。

公開から1年以内かを判断する日は、国内優先権なら原則として優先日、パリ優先権なら日本への出願日になる
公開から1年以内かを判断する日は、国内優先権なら原則として優先日、パリ優先権なら日本への出願日になる
出願の種類 1年以内かを判断する日
国内優先権の主張を伴う出願(先の出願に記載された発明) 優先日。ただし先の出願で証明書が提出されていない場合は後の出願の日
パリ条約による優先権の主張を伴う出願 我が国への出願日
分割出願・変更出願・実用新案登録に基づく特許出願 原出願の出願日。ただし原出願で証明書が提出されていない場合は現実の出願日

出典:特許庁「特許・実用新案審査基準」第Ⅲ部第2章第5節

国内優先権で優先日まで遡るのは、41条2項が30条1項・2項を列挙しているからです。パリ条約による優先権は、日本の30条の1年を第一国出願の日まで遡らせません。外国で先に出願し、その前に公開していた場合、日本での1年は日本への出願日で判断されます。国内優先権とパリ優先権の効果の違いは「国内優先権とパリ優先権の違い」で整理しています。

パリ条約4条Bが後の出願を不利な取扱いから守るのは、最初の出願の後、優先期間中に行われた行為です。最初の出願より前の公開は、パリ条約の優先権では救われません。外国で権利を取る場合に出願前の公開がどう扱われるかは、日本の30条ではなく、それぞれの国の法令によります。

分割出願については、44条2項ただし書が30条3項の適用を遡及の対象から外し、44条4項がもとの出願について提出した書面・証明書を新たな出願と同時に提出したものとみなしています(「特許法の分割出願の要件」参照)。

国際特許出願(PCT)では、184条の14により、書面と証明書を30条3項にかかわらず、国内処理基準時の属する日後経済産業省令で定める期間内に提出できます。その期間は施行規則38条の6の3で30日です。

実用新案法・意匠法との比較

特許法30条と意匠法4条の違い
特許法30条と意匠法4条の違い

実用新案法11条1項は特許法30条を準用しているので、要件・期間・手続は特許と同じです。意匠法は4条に独自の規定を置いています。

項目 特許法30条 意匠法4条
救われる規定 29条1項・2項(新規性・進歩性) 3条1項・2項(新規性・創作非容易性)
対象となる公開 29条1項各号(公知・公用・刊行物等) 3条1項1号・2号(公知・刊行物等)
期間 1年 1年
公報掲載の除外 あり あり
書面・証明書 書面は出願と同時、証明書は30日以内 同じ
複数の公開 原則として各公開ごとに証明書(審査基準で一部緩和) 最先の日に行われた一の行為について証明すれば足りる(4条3項ただし書)

意匠法4条3項ただし書は、同一又は類似の意匠について権利者の2以上の行為があったときは、証明書の提出は、そのうち最先の日に行われたものの一の行為についてすれば足りるとしています。特許庁によれば、この緩和は令和5年に公布された改正法によるもので、令和6年1月1日以後の意匠登録出願に適用されます。

出典:特許庁「意匠の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手続について」(令和6年3月28日更新)

特許法30条にはこのただし書がありません。「特許出願についても、最先の公開について証明書を提出すれば、その後の公開にも30条2項が適用される」とする枝は、条文上の根拠がない点で誤りと判断します。意匠法の他の特有の規定は「意匠法の短答対策」で扱っています。

短答で狙われる型

期間の数字。1年(公開から出願まで)、30日(出願から証明書まで)、14日・2月・6月(4項の救済)です。「6か月以内」と改正前の数字で書いた枝は誤りです。

1項と2項の手続の混同。「意に反して公開された場合も、出願と同時に書面を提出しなければ30条の適用を受けられない」は誤りです。3項の手続は2項だけに課されます。

公報の除外。「自己の特許出願の出願公開により公知となった発明について、1年以内に出願すれば30条2項の適用を受けられる」は誤りです。

効果の範囲。30条は29条1項・2項に限られ、39条・29条の2の判断や出願日には影響しません。

優先権との組合せ。パリ条約による優先権の主張を伴う出願で、1年を第一国出願の日で判断する枝は誤りです。

意匠法との入れ替え。最先の一の行為の証明で足りるのは意匠法4条3項ただし書です。

学習の進め方

30条は、条文4項を読んだうえで、この記事の「救われないもの」と「組み合わせたとき」の2つの節を自分の言葉で説明できるかを確認します。条文の文言では、1項の「意に反して」と2項の「行為に起因して」、2項の括弧書き、3項の「同時に」と「三十日以内」に線を引きます。意匠法4条を隣に並べ、3項ただし書の有無を確かめれば、比較の枝にも対応できます。

間違えた枝は「期間」「1項と2項」「効果の範囲」「組合せ」「意匠との比較」のどれで落としたかを記録しておくと、次に読み返す場所が決まります。枝単位の記録と復習の回し方は「短答式の過去問は肢別で回す」で整理しています。

まとめ

  • 30条1項は意に反する公開、2項は権利者の行為に起因する公開(公報掲載は除く)。どちらも公開から1年以内の出願が必要
  • 期間は平成30年改正で6か月から1年になり、平成30年6月9日以降の出願に適用(平成29年12月8日までの公開は対象外)
  • 2項の適用には、書面を出願と同時に、証明書を出願から30日以内に提出する。1項には出願時の手続はない
  • 効果は29条1項・2項の適用だけ。出願日は遡らず、他人の先行出願(39条・29条の2)や他人の独自の公開は救われない
  • 1年の判断は、国内優先権なら優先日(先の出願で証明書を出した場合)、パリ優先権なら日本への出願日
  • 実用新案法は11条1項で準用。意匠法4条は3項ただし書で、最先の一の行為の証明で足りる(令和6年1月1日以後の出願)
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